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見積を出したときは、たしかに利益が乗っていたはずでした。それなのに、その現場が完工して、協力会社への支払いも材料費もすべて締まってみると、思ったほど粗利が残っていない。工務店やリフォーム会社、専門工事会社でよく見かける光景です。
しかし、この原因を「見積が甘かった」で片づけてしまうと、次も同じことが起こりかねません。見積は利益計画の出発点にすぎず、そのあと現場が動いている最中に、予算どおりに進んでいるかを確かめられているかどうかが、最終的な利益を左右するのです。
この記事では、現場ごとの利益が完工するまで見えないという構造を整理したうえで、見積・実行予算・発注・実績原価をつないで利益を施工中に守れるようにした建設会社の事例を紹介します。
【本記事の要点】
- 利益は見積を出した時点ではなく、現場ごとの実行予算と実績原価を突き合わせられているかで決まる
- 実行予算と実績がつながっていない現場では、追加変更工事の請求漏れ、協力会社への発注の未集計、材料値上がりの見落としという形で利益が削れていく
- 見積と実行予算は別物として持ち、発注・請求を現場に紐づけて初めて、途中で利益を守れる
- 原価管理システムを選ぶ前に、1現場を1つの収支の単位として扱う運用(現場コード、原価科目の区分、追加変更工事の記録ルール)を整える
「見積のときは黒字だったのに」がなぜ起きるのか
建設業のDX(デジタルトランスフォーメーション)というと、現場写真の管理や施工管理アプリの話が中心になりがちです。しかし、多くの工務店・リフォーム会社にとって、もっと切実なのは「この現場、結局いくら儲かったのか」が完工するまで分からないことではないでしょうか。
京都府福知山市で新築・リフォームを手がける有限会社立石設計(従業員21〜50名、年間約50棟)は、ANDPAD導入前の状態をこう振り返っています。
「完工して、支出と入金が締まった段階でないと、どのくらいの粗利を得られたのかがわからない」
工事管理や受発注のシステムを部分的には使っていたものの、それぞれに二重入力が必要で、協力会社への発注は表計算ソフトを紙で郵送し、経理担当者は郵送されてくる請求書の受取と発送に追われていたのです。
確かに見積の段階では、材料費も外注費もおおよその見当がつきます。問題は、その見積が「現場で使ってよい金額の上限」として現場責任者と共有されず、実際にいくら使ったかも工事の途中では集計されないことです。結果として、利益は完工後に「知る」ものになり、施工中に「守る」ものにはなりません。
出典・参照:
実行予算がない現場で、利益はどこで削れていくか
実行予算と実績がつながっていない現場では、利益は一気に失われるのではなく、いくつかの場面で少しずつ削れていきます。ここでは、その典型的な削れ方を整理します。
まず、追加・変更工事の請求漏れです。「ここも一緒にやっておいて」という施主の要望を現場で口約束で引き受け、書面化が後回しになります。工事は先に終わり、請求のタイミングを逃す。追加でかかった材料費や手間だけが原価に乗り、売上には反映されません。
次に、協力会社への発注が現場ごとに集計されないことです。複数の現場を並行して回していると、協力会社への支払いは月まとめになりがちです。それを現場別に割り振る仕組みがないと、どの現場で外注費がいくらかかったのかが分からず、赤字の現場が他の現場の利益に紛れて見えなくなります。
3つ目に、材料の値上がりへの気付きの遅れです。見積を作ったときの単価のまま発注しているつもりでも、実際の仕入れ単価は上がっている。実行予算と実績を突き合わせていないと、このズレは請求書がすべて届いてから、つまり完工後に初めて表面化します。
4つ目に、複数現場の予算管理がExcelでバラバラになることです。現場ごとに別のシートで実行予算を組み、実績も別々に入力していると、全体を横断して「今どの現場が予算を超えそうか」を見る場所がありません。
これらは、現場監督だけが注意していれば防げる問題ではありません。現場監督は施工の進行と安全を優先するのが仕事であり、原価の入力は後回しになりがちです。追加工事も現場の口頭で決まり、書面は後追いになります。ここは仕組みでカバーすべき部分なのです。
実行予算を「回る仕組み」にした建設会社の実例
見積・実行予算・発注・実績原価をつなぐと、現場の採算はどう見えるようになるのか。先述の立石設計が、まさにこの流れを1つにつないだ会社です。
同社では2022年から、ANDPADの引合粗利管理・受発注・チャットを使い、見積から実行予算、発注、請求までを1つの流れで管理する方法に変えました。その結果、現場ごとの粗利を完工前から把握できるようになりました。
実行予算が着工前に固まるため設計変更への対応もしやすくなり、「ここまでなら粗利を確保できる、といった判断もしやすくなり、よりよい家づくりに取り組める」と同社は話しています。また、請求処理もANDPAD上で完結し、経理担当者が郵送されてくる紙の請求書に追われる状況は解消されました。
立石設計の成果がそのまま自社で再現できるとは限りませんが、大事なのは、「見積・実行予算・発注・実績が1つにつながって初めて、現場が動いている最中に利益を守れる」という運用の設計です。立石設計が具体的に整えたのは、次の2つでした。
見積と実行予算は、別物として持つ
立石設計がまず分けたのは、見積と実行予算です。見積は取引先へ提示する金額であり、実行予算は現場で使ってよい金額の上限です。この2つを分けて持ち、実行予算を現場責任者と共有することが出発点になりました。
見積がそのまま実行予算になっている状態では、予備費や社内の利益目標が現場で意識されません。仮に見積金額まで使ってよいと現場が受け取れば、想定外の出費が出た時点で赤字が確定してしまうでしょう。実行予算は見積から一定の利益と予備費を差し引いた「使ってよい上限」として設定し、現場と共有することが重要なのです。
発注・請求を、現場に紐づける
もう1つは、協力会社への発注・支払いを、現場ごとに集計できる形にすることです。立石設計では、それまで表計算ソフトを紙で郵送していた協力会社への発注をANDPAD上へ移し、発注から請求までを現場に紐づけました。
月まとめの支払いを現場別に割り振れないと、どの現場でいくら外注費がかかったかが分かりません。発注の時点で現場コードを付け、支払いまでその紐づけを保つことで、現場ごとの外注費が実行予算に対してどうなっているかを追えるようになります。
出典・参照:
成果を裏づけるもう1つの事例:誠勝建設
同じ形は、専門工事の会社でも成り立ちます。神奈川県横浜市泉区で型枠工事を手がける誠勝建設株式会社(従業員101人以上)は、規模の小さい事業者ではありませんが、導入前はExcel帳票での管理に入力ミスが多く、工事単位から経営全体までの見える化ができていませんでした。
しかし、原価管理システムにExcel帳票を置き換えたことで、入力ミスなく集計できるようになり、実行予算を社員全員で確認できるようになりました。
現場では、その日に入った職人を、スマートフォンからその場で記録するだけで、事務所に戻って集計し直す必要はありません。本社では、その記録から外注労務費が自動で計算され、仕訳データをそのまま会計システムへ渡せるため、経理が数字を入力し直さずにすみます。
使うシステムは違っても、現場の記録と本社の集計を1本につなぎ、見積・実行予算・発注・実績を1つの流れにするという形は、立石設計と共通しています。
出典・参照:
システムを入れる前に、「1現場=1収支」の器をつくる
ここまでを踏まえると、まず着手すべきなのは原価管理システムの選定ではなく、1つの現場を1つの収支の単位として扱う運用の整備だということがお分かりでしょう。この「1現場=1収支」の器を作るための4つのポイントを整理します。
| 整えること | やること | 放置すると起きること |
|---|---|---|
| 現場コード・工事番号 | 1現場に1つのコードを見積の段階で採番し、見積・発注・請求・支払いのすべてに同じコードを付ける | あとから現場ごとに費用を集計できない |
| 原価科目の区分 | 材料費・外注費・労務費・経費の4区分をそろえ、どの費用をどの科目に入れるかの判断を統一する | 予定と実績を科目別に比べられない |
| 追加変更工事の記録ルール | 口頭で決めた追加工事も当日中に書面化し、実行予算と請求予定に反映する | 請求漏れと原価の付け漏れが起きる |
| 月次の予算対実績チェック | 完工を待たず月に一度、進行中の各現場について実行予算に対する実績の進捗を確認する | 予算を超えそうな現場に、超える前に気づけない |
これらを整えたうえで、原価管理システムの検討に進みます。中小の建設会社では、現場監督が入力に割ける時間、スマホ入力のしやすさ、既存の会計ソフトとの連携が現実的な判断材料になります。最初から全項目を精緻に管理しようとすると、現場が入力しきれず形骸化します。
なお、現場監督の写真・日報・移動の削減や、職人手配における判断の考え方については、それぞれ次の記事で整理しています。
まとめ:実行予算は、利益を「あとで知る」から「途中で守る」に変える
工務店・リフォーム会社・専門工事会社の利益は、見積の精度だけで決まるものではありません。見積を出したあと、現場が動いている最中に、実行予算に対して実績がどうなっているかを追えているかどうかが、完工時に残る粗利を左右します。
立石設計や誠勝建設の事例が示しているのは、見積・実行予算・発注・実績を1つにつなぎ、実行予算を関係者で共有するという運用の形です。
まずは、直近で完工した現場を1つ取り上げてみてください。そして、見積のときの予定原価と、実際にかかった原価を、材料費・外注費・労務費・経費の科目別に並べる。そのうえで、差が最も大きい科目はどこかを特定することが、次の現場で先に手を打つべき場所なのです。
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
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