DX（デジタルトランスフォーメーション／以下：DX）による業務効率化は、現代ビジネスにおいて必須の課題です。
旧態依然の方法で行われている業務を、デジタル技術の力を借りて効率化させることは、企業活動としての生産性を上げ、新たな価値を生み出すことにも繋がるでしょう。
そんな「改善を求められる業務」の1つに挙げられるのが、「会議」です。
業務に関わる人々の意識を統一し、情報を共有するために行われる会議は、ビジネスにおいては欠かすことができません。
その一方、時間とリソースを大きく消費する業務であり、近年では改善を求められる分野の1つとなっています。
会議の効率化のために注目され始めているのが、急激な進化を遂げたAI（人工知能）ツールの活用です。
例えば、自動の議事録作成や言語翻訳など、AIテクノロジーを応用した会議ツールの進化は目覚ましく、効率的で生産性の高い会議運営を実現するための大きなカギとなっています。
「AIの活用」と「会議の効率化」という2つの視点が結びつくことで、そこに新たな可能性が生まれ、ビジネス環境全体が劇的に改善されることが期待できるのです。
本記事では、AIが創る会議のDXについて、具体的な導入事例や活用方法をご紹介し、その可能性と課題について深ぼりしてまいります。
目次
AIが創る会議のDX
AI技術の進化により、これまでの会議のあり方は、根本的に変わります。
会議の進行だけでなく、議論の促進、議事録の作成、重要なポイントの抽出、そして意思決定の支援など、AIは会議のあらゆる場面で貢献します。
その結果、組織全体の意思決定プロセスがより効率的かつ公正になり、高品質な決定が迅速に行えるようになるでしょう。
更には、ビジネスの意思決定だけでなく、組織全体の業務プロセスの変革に繋げることができれば、組織全体の業績は大幅に向上し、企業の競争力を高めることも期待できます。
AIがもたらす変化は、私たちが仕事をどのように捉え、行うかという点においても新たな規範を作り出し、会議のあり方に限らず、ビジネス環境全体を大きく変える可能性をも含んでいるのです。
では、具体的にはAIをどのように活用すれば、会議の効率化が図れるのでしょう。
ここでは、既に多くの企業で導入が始まっているAI会議ツールの活用法を3つご紹介します。
AI技術による自動議事録作成
会議の記録を残すうえで欠かせない議事録。従来は、担当者が会議中にメモを取ったり音声録音の文字に起こしたりという作業を経て作成していました。
場合によってはその議事録を関係者に回覧して、確認をとる手順を踏む必要があり、議事録を完成させるためには多くの手間と時間が掛かっていました。
しかし、AIアシスタントを用いた議事録作成ツールを活用することで、会議の状況は大きく変わります。
自動議事録作成ツールを利用すれば、自動的に発言を文字に起こしてくれるため、メモ取り係は不要になり、参加者全員は議論に集中できるようになります。
ツールによっては、AIが発言者の声を識別し、人物ごとに発言を記録する機能を搭載したものもありますので、誰の発言かも把握することが可能です。そうしたツールを使用すれば、会議後の混乱や誤解を防ぐこともできるでしょう。
また、事前に設定したキーワードを会議中に拾ってタグ付けするツールなどもあるため、上手に活用すれば、会議における重要な宿題となりうる案件を自動で「タスク」としてラベル付けすることもできます。
自動議事録作成ツールとプロジェクト管理ツールのスケジュール機能などを連携させておけば、自動で作られた議事録をもとに、タスクの担当者や期限などを簡単に整理し、予定日が近づいたらタスクの実行を促すリマインドを自動で行うなどの利用法も考えられます。
つまり、自動議事録作成ツールは、単なる議事録作成の効率化に留まらず、さらなる付加価値を生み出す可能性も秘めているのです。
AI技術による会議中の言語翻訳機能の活用
ビジネスのグローバル化が進む中、ビジネスパーソンが母語以外の言語を習得することは、国境を超えたビジネスを展開する上で重要です。
特に、オンライン会議システムの普及により、離れた場所にいる相手とも気軽にコミュニケーションが取れるようになったことを受けて、ビジネスのグローバル化は加速しています。
それに伴い、様々な言語を話す相手とリアルタイムでやり取りをする機会も増加しており、語学スキルの重要性は増しているのです。
しかし、ビジネスパーソンの誰もが他言語を話せるわけではありません。また、通訳や翻訳には専門的な知識が必要なためコストもかかります。
更に、質を担保して通訳をするためには、どうしても会話に時差が生じるため、円滑にコミュニケーションを取ることは難しくなるでしょう。
この問題を解決するのが、AI技術による言語翻訳機能です。
AIによる自動翻訳や通訳は、1つの言語から別の言語に即時変換が可能なため、グローバルなビジネスコミュニケーションの可能性を大幅に広げました。
相手の言葉がリアルタイムでわかることにより、言葉が通じない相手とのコミュニケーションは飛躍的に促進されます。
商談などの場面はもちろん、異なる言語を話すスタッフが同じプロジェクトを協働して実施する場合においても、言語翻訳機能は優れた力を発揮します。
円滑にコミュニケーションを取れることで、チーム内の信頼関係を築く助けとなり、特に多国籍のメンバーからなるチームにおいては重要な役割を担うでしょう。
AIによる翻訳機能の進化を背景に、仮想空間であるメタバースなどを利用したコミュニケーションの向上も期待されています。
メタバース上で開催される会議では、アバター化した参加者が自分の言語で話すと、即座に各参加者が登録した言語に翻訳されるため、コミュニケーションの障壁を大幅に低減させることができるのです。
仮想空間という場において、異なる言語を話す参加者同士でもスムーズな意思疎通が可能になれば、今後の技術の進歩により、より自由でオープンな会議形態での応用も期待できるでしょう。
AI技術による会議の効果測定
会議の効果を測定し「見える化」することは、会議の品質を向上させ、意思決定の精度を高めるために重要なプロセスです。
しかし、会議の効果の測定には主観的な要素が多く含まれるため、定量的な評価が難しいという課題がありました。
これを解決するのが、AI技術を活用した会議の効果測定です。
例えば、会議中に頻繁に使用されるキーワードを分析し、その成果やパフォーマンスとの関連性を分析し、重要なポイントを自動的に書き出す機能も搭載したツールを用いれば、会議後のフォローアップは容易になるでしょう。
さらには、発言者の音声から「感情」を推し量り、その場の雰囲気を数値化できるツールまで登場しています。
- 各メンバーの話す時間の割合
- 話すスピード
- 声の高低
これらの話し方の要素をAIが自動解析し、商談成約率の高いメンバーやファシリテーション、1on1の上手なメンバーの話し方を可視化します。
これは、参加者1人ひとりが会議にどれだけ積極的に関与しているかやその関与が会議全体の生産性にどのように影響しているかを理解する上で有用なデータとなるでしょう。
また、AIは会議後のフィードバックや評価を自動的に集計し、その結果を視覚的に示すだけではなく、具体的なアクションプランの提案を行うことが可能です。
会議ごとに改善策を提案することで、会議の質が徐々に向上することが期待され、会議全体の生産性も向上するでしょう。
こうしたAIツールを活用することで、会議ははっきりと「見える化」されます。そして、見える化され生産性向上に寄与することができるようになった会議は、経営への戦略的な応用も可能となってくるのです。
AIで会議をDXする3つのポイント
効率的な会議を実現するためには、単に技術を導入するだけではなく、その技術を活用する組織文化の醸成が欠かせません。
AIが生み出す可能性を最大限に引き出すためには、組織全体がその価値を理解し、日々の業務に取り入れることが不可欠でしょう。
ここでは、AI技術による効率的な会議を実現するために必要な3つのポイントについて解説します。
- 従業員のデジタルリテラシーを高める
- リーダーシップと経営者による動機づけ
- 会議の改善と進化を繰り返す
1. 従業員のデジタルリテラシーを高める
AIやオンライン会議ツールなど、現代の最新技術を適切に活用するためには、ツールを理解し、効率的に使いこなす能力が求められます。
この能力は、「デジタルリテラシー」と呼ばれ、現代のビジネスにおいては必須のスキルです。
会議のDXを実現するためのデジタルリテラシーとしては、AIがデータを分析し予測する仕組みの基礎的な理解、オンライン会議ツールを使ったコミュニケーション方法、さらにはデジタル資料の作成と共有の方法などが含まれます。
より効率的・効果的なDXを進めるためには、最新技術のトレンドを把握する情報力、リサーチ力も欠かせません。
デジタルリテラシーは、プロジェクトに関わる社員だけに求められるスキルではなく、全ての従業員が身につけていることが理想的です。
現時点でそれが実現できていない場合は、従業員がデジタルリテラシーを高めるための研修や教育を行う組織作りが必要となるでしょう。
例えば、実践的なワークショップやセミナーを定期的に開催し、従業員が自分の業務にどのように新しい技術を適用できるかを具体的に学ぶ機会を提供することなどが挙げられます。
また、各自のスキルレベルに応じてパーソナライズされた学習プログラムを提供することも、デジタルリテラシーの向上に寄与するでしょう。
大事なのは、従業員1人ひとりが新たな知識を習得し、そのスキルを実際の業務に活用することができるようになることです。
そのためには、単に仕組みづくりをするだけに留まらず、企業全体で「学んで活かす」という意欲的な姿勢を生み出す企業文化の醸成が必要となってくるでしょう。
2. リーダーシップと経営者による動機づけ
組織全体で、「AIや新技術を積極的に取り入れて活用しよう」と意識して動くためには、なによりもその方針が共有されている必要があります。
そのためには、経営陣がこれらの技術の重要性を理解し、その理解を組織のビジョンや戦略として明確に表すことが欠かせません。
経営陣がAIの導入とその利用を推進する明確なメッセージを伝えることにより、従業員も新たな技術を受け入れ、学び、実践するための強い動機づけを得られるでしょう。
これはリーダーシップを発揮して、新技術の価値とその組織への影響を理解し共有することを意味します。
AIを活用した成功事例やその効果を具体的に示すことで、従業員たちの理解を深め、業務に新技術を取り入れる意欲を高められるでしょう。
さらに、リーダー自身がAIや新技術を積極的に活用して共有することにより、他のメンバーもそれに倣って取り入れやすくなります。
新技術の具体的な使い方やその効果を実感することができれば、それに従ってモチベーションは大きく上昇するでしょう。
このような「見せるリーダーシップ」は、組織全体のテクノロジーへの適応力を促進するのです。
3. 会議の改善と進化を繰り返す
AIの力を利用して会議の改善と進化を行うためには、そのプロセスを定期的に見直し、必要な改善を繰り返し行うことが必須です。
前章で解説したように、AIによる会議測定ツールを使用すれば、様々なデータを収集・分析し、それらのデータをもとに改善の提案を行うことができるでしょう。
フィードバックや測定データをもとに、会議の強みと弱みを明確に把握し、改善点を見つけ出して進化を続けていくことで、会議に限らず組織全体の業務プロセスにも適用できるのです。
- AIを用いて会議のプロセスを可視化
- 問題点を特定
- 解決策を提案
- 実行
- 結果を分析
- 次へ活かす
この一連の流れを繰り返すことで会議は効率化し、業務プロセス全体を最適化することができれば、組織のDXが実現できるのです。
まとめ～AIを活用した会議のDXによる効率的な組織運営
AIによる会議のDXは、企業の業務効率を一段と引き上げる新たな可能性を秘めています。
今回、一例として紹介した革新的なAIテクノロジーなどは、日々の会議を効率的かつ有意義なものへと進化させ得る技術です。
しかし、その成功には組織文化の醸成が不可欠であり、次の3つのポイントが重要です。
- 従業員のデジタルリテラシー向上
- リーダーシップと経営者の動機づけ
- 会議の改善と進化のサイクル
会議のDXにおけるAIの活用は組織運営を効率化し、情報共有を円滑にするための強力な道具です。
そして、それは今日のビジネス環境における企業の競争力を高める1つのカギとも言えるでしょう。
貴社におかれましても、AIという「手段」の先にある組織の変革を目指してみてください。
