「DXの課題は誰の課題か」アドラー心理学で考える、抱え込みすぎるリーダーの組織運用術

公開日 : 

抱え込みが招く5つの長期的リスク

抱え込みが招く5つの長期的リスク

DX担当者が他者の課題までを抱え込み、作業の代行を続けると、短期的には物事が進むでしょう。しかし、長期的には次のリスクが顕在化します。

  • 担当者にしか運用できない新しい属人化が生まれる
  • 現場責任者が運用を管理する機会を失う
  • 経営者が難しい判断を先送りできてしまう
  • 利用者が自分で試行錯誤する機会を失う
  • 担当者が疲弊し、不在時に取り組みが止まる

たとえば、新しい日報システムを導入した場合を考えます。担当者はツールを選び、設定し、操作方法を説明し、問題対応まで担えます。一方、社員が毎日入力することは利用者の課題であり、未入力を部門としてどう扱うかは現場責任者の課題です。さらに、紙の日報をいつ廃止するかは経営層または業務責任者の課題なのです。

この大前提を脇において、担当者が未入力分を代わりに入力し、紙とデジタルの二重運用を無期限に支え、利用しない社員へ個別催促を続ければ、その場の混乱は抑えられるかもしれません。しかし、それではいつまでたっても組織としての責任分担は改善せず、担当者の負荷だけが積み上がってしまうでしょう。

出典・参照:

課題を分けるための判断軸と組織運用チェックリスト

ここまでの整理を踏まえ、実務で使える判断軸と組織運用の確認項目を示します。個別の停滞課題ごとに、この2ステップを回してみてください。

「誰が最終的に引き受けるのか」で分類する

課題を分ける基準はシンプルです。まずは、自社でネックとなっている課題に対し、最終的に誰が引き受けるのかを問いかけてみましょう。そのうえで、課題を次の3分類に整理します。

分類内容具体例
自分が判断し実行すべき課題担当者の判断・作業で完結するツール比較資料の作成、マニュアル整備
相手が判断すべきだが自分が支援できる課題判断者は別だが、情報提供や支援は担当者が担う現場責任者の運用ルール策定、利用者の操作習得
経営層や現場責任者へ返すべき課題担当者では決められない責任分担上の判断旧帳票の廃止判断、投資継続の可否

この表は「自分がやる」と「相手に任せる」の二択ではなく、間に「支援できる領域」を置くのが特徴です。分離は突き放しではなく、支援の範囲を明確にする作業だと捉えてください。

判断・期限・支援範囲を言語化する

「誰の課題か」を決めただけでは組織は動きません。次の6点を言葉にして関係者へ共有します。

  • 誰が判断者なのか
  • 何をいつまでに決めるのか
  • 判断に必要な情報を誰が用意するのか
  • 担当者はどこまで支援するのか
  • 判断されなかった場合に、どの業務が止まるのか
  • 問題が起きた場合、誰へ報告するのか

たとえば「現場が使ってくれない」という曖昧な悩みは、「操作面の支援はDX担当が行う」「部門内で利用を徹底するかは部門責任者が来月末までに判断する」「紙運用の廃止は次回経営会議で決める」という形へ変換できます。ここまで書き出せれば、担当者が抱え続ける必要はなくなります。

明日からできる3つの行動:停滞課題を書き出して分ける

最後に、読者が今週から着手できる行動を3つ挙げます。抱え込みは一気に手放そうとすると失敗しやすいため、1つの停滞課題から始めるのが現実的です。

  1. いま止まっているDX施策のうち、最も気がかりな課題を1つ、紙かメモに書き出す
  2. その課題を「自分が実行」「相手が判断+自分が支援」「経営・現場責任者へ返す」の3つに分けて書き直す
  3. 「誰に」「何を」「いつまでに」判断してもらうかを1文で言語化し、次の打ち合わせや報告メールで伝える

ここで注意したいのは、返し方です。「これは自分の仕事ではないので判断してください」と伝えるのは悪手です。代わりに、「A案とB案を比較しました。判断が指定日までに出ないと、翌月の運用開始に間に合いません」と、判断材料と期限をセットで渡してみてください。

これはアドラー心理学における「勇気づけ」(相手が自ら判断できるよう支援する関わり)の姿勢にも通じます。命令ではなく、判断の材料と場を用意することが、リーダーの役割です。

出典・参照:

まとめ:DXリーダーの仕事は「抱えること」ではなく「分けること」

本記事では、抱え込みすぎるDX推進担当者に向けて、アドラー心理学の「課題の分離」を組織運用へ応用する視点を整理しました。要点は次のとおりです。

  • DX担当者へ業務が集中するのは構造的な問題であり、責任感の強さがさらに抱え込みを加速させる
  • 「課題の分離」は責任放棄ではなく、相手が自分の課題に向き合える環境を整えるための思考法
  • DX推進の課題はDX担当者・経営者・現場責任者・利用者の4主体で整理し、代行と支援を区別する
  • 停滞課題ごとに「誰が判断者か」「いつまでに」「判断されないと何が止まるか」を言語化する

DXが進まないとき、貴社のDXリーダーがさらに頑張ることが解決策とは限りません。重要なのは、課題を誰が引き受けるべき問題なのかを分け、それぞれが責任を引き受けられる組織をつくることも、DX推進で外せないポイントです。

抱え込みを緩めることは、無責任ではなく、組織を動かすための次の一手なのです。このことを踏まえて、貴社のDXをさらに先へと進めてくだされば幸いです。

DXportal®編集部

執筆者

DXportal®運営チーム

DXportal®編集部

DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。