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経営者から「DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めてほしい」と任されているものの、現場からは「忙しくて使えない」「今のやり方で困っていない」と言われてしまう。
- ツール選定
- マニュアル作成
- 研修
- 問い合わせ対応
- 未入力者への催促
こうした一連の作業までを1人で背負い、それでも成果が出ないと自分の説明不足だと感じてしまう。そんな状態に置かれているDX推進担当者は少なくないはずです。
DX人材が構造的に不足するなかで、責任感の強い担当者ほど「自分がやらないと止まる」と抱え込みやすくなるものです。しかし、抱え込みは短期的に業務を進める一方で、属人化と疲弊を招き、DX全体の停滞につながりかねません。
本記事では、アドラー心理学の「課題の分離」という考え方を手がかりに、DX推進における責任分担を整理します。ただし、本記事は難しい心理学の解説ではなく、抱え込みすぎるリーダーが「どこまでが自分の仕事で、どこから誰に返すべきか」を見極めるための組織運用記事として構成しました。読み終える頃には、いま停滞している課題を紙に書き出し、誰へどう返すかを言葉にできる状態を目指していきましょう。
【本記事の要点】
- DXリーダーの仕事は全課題を自分で解決することではなく、「誰の課題か」を分けて判断できる状態をつくることである
- 「課題の分離」は責任放棄ではなく、相手が自分の課題に向き合える環境を整える思考法である
- 停滞課題は「自分が実行」「相手が判断+自分が支援」「経営・現場責任者へ返す」の3つに分類する
- 誰の課題かに加え、判断者・期限・支援範囲・報告先まで言語化して初めて組織は動く
なぜDX担当者は「全部自分でやる」状態に陥るのか
DX推進担当者が疲弊する背景には、個人の性格や努力不足ではなく、業務が構造的に集中する仕組みがあります。この章では、担当者に仕事が集まる組織構造と、責任感の強さが抱え込みに転化する心理を順に見ていきます。
経営から現場までの調整役に業務が集中する構造
DX推進担当者は、DXを進めるにあたって実に幅広い業務対応が求められます。
- 経営層への提案
- 部門間の調整
- ツール選定
- 導入準備
- 研修
- 問い合わせ対応
中小機構が2024年12月に公表した調査でも、DXに取り組む際の課題として「ITに関わる人材が足りない」が25.4%、「DX推進に関わる人材が足りない」が24.8%と上位に並びました。IPAの『DX動向2024』でも、DXを担う人材の不足が一層深刻化していると伝えています。
つまり、担当者が抱え込みやすいのは個人の問題というより、業務を分担する相手が組織内に不足しているという、組織構造上の問題なのです。つまり、「自分が動かなければ止まる」という感覚には、実態としての裏づけがあるのです。ここを個人の頑張り不足だと受け止めてしまうと、負荷はさらに担当者へ集中してしまうでしょう。
出典・参照:
責任感の強さが「抱え込み」に転化する心理
構造的な人材不足に加え、担当者本人の責任感も抱え込みを加速させています。
- 現場が使わないのは自分の説明不足ではないか
- 経営層が判断しないなら自分で決めるしかない
- 未入力なら代わりに入力した方が早い
こういった思考は、目の前の停滞を動かしたいという善意から生まれていることは少なくありません。
しかし、業務の抱え込みを続ければ続けるほど、他者が自分の課題に向き合う機会は失われます。経済産業省の『中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025』でも、DXは新たなクラウドサービスの導入や基幹システムの刷新で完結するものではなく、経営者がリーダーシップを取って組織やビジネスモデルの変革として進めるべきだと断言しています。担当者が経営判断まで巻き取っている状態は、この前提と食い違ってしまうのです。
出典・参照:
アドラー心理学「課題の分離」をDX推進に持ち込む意味
DX担当者の意図せぬ抱え込み構造から抜け出す手がかりとして、アドラー心理学の「課題の分離」を紹介します。ただし、心理学の解説そのものが目的ではなく、DX推進の責任分担を整理する視点として考えてみてください。
「課題の分離」とは何か
課題の分離とは、ある選択の結果を最終的に誰が引き受けるのかを基準に、その課題の主体を見極める思考法です。公認心理師監修のダイコミュの解説でも、結末を引き受ける人がその課題の当事者だと説明されています。
DX推進に当てはめれば、「日報を毎日入力する」という行動の結果を最終的に引き受けるのは、その社員本人と部門責任者です。DX担当者は、各部門にとって入力しやすい仕組みを整えられますが、本人に代わって入力し続けても、業務としての定着にはつながりません。ここに、担当者の努力と成果が結びつかない構造があります。
出典・参照:
DX推進で誤解しやすいポイント
課題の分離は、「相手の問題だから知らない」と切り捨てる考え方ではありません。『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏も、課題の分離は最終目標ではなく、目指すのは協力関係であり、リーダーだけが仕事をできても部下がついてこなければ組織は成立しないと述べています。
DX推進においても同じです。現場が使わない場合、「現場の課題だから」と放置するのは簡単ですが、それでは何も進歩しません。大切なのは、まずは使わない理由を確認し、その理由が操作上の問題なら支援し、業務設計に無理があれば見直したうえで、最終判断は現場責任者と経営層へ返すことです。分離した先に、協働のための対話を残す姿勢が求められます。
出典・参照:
DX推進の課題を4つの主体で整理する
ここからは、DX推進の代表的な業務を4つの担当別に分けて整理します。
- DX担当者
- 経営者
- 現場責任者
- 利用者
自社の役割分担と照らし合わせ、どの主体の課題を担当者が肩代わりしているかを確認してみてください。
DX担当者・推進リーダーの課題
DX担当者が引き受ける課題は、判断材料の整備と支援に集約されます。
- 導入目的を言語化し、選択肢と費用とリスクを提示する
- 操作方法や運用上の注意を説明する
- 試行結果を検証し、問題を経営層へ報告する
- 困っている利用者を支援する
注意したいのは、担当者の役割を「導入したツールを全員に使わせること」まで広げすぎない点です。利用しやすい条件を整え、必要な説明や支援は担えますが、社員それぞれが決められた業務を実行するかどうかまで代わりに背負うことは現実的ではありません。
経営者の課題
経営者が引き受ける課題は、投資判断と組織上の意思決定です。
- 投資の可否と優先すべき経営課題を決める
- 部門間の対立を調整し、旧来の業務や帳票を廃止するか判断する
- DX担当者へ必要な権限と予算を渡す
- 導入に伴う組織上の責任を引き受ける
DX担当者は、情報を整理して提案するところまでは担えますが、経営上のリスクを伴う最終判断は代行できません。経営者が投資や撤退の可否を明確にしないまま「現場と調整して進めてほしい」と任せる状態は、責任分担が曖昧なままDXを走らせることを意味します。
現場責任者の課題
現場責任者が引き受ける課題は、部門内での運用ルールの決定とフォローです。
- 現在の業務課題や制約を担当者へ説明する
- 新しい運用を現場で試し、利用しにくい理由を具体的に伝える
- チーム内の運用ルールを決め、未実施をどこまで許容するか判断する
- 現場メンバーへの指示とフォローを行う
DX担当者が現場責任者の代わりに、すべての社員へ利用を催促し続ける運用は避けたい形です。部門内の日常運用は、その部門の責任者が引き受けなければ定着しません。
利用者の課題
利用者が引き受ける課題は、自分の業務変更への向き合い方です。
- 必要な説明や研修を受ける
- 決められた範囲で新しい方法を試し、入力や操作を実行する
- 困った点や改善要望を伝える
担当者は学習機会を用意できますが、習得は本人にしか進められません。相手の不安や苦手意識へ配慮しつつも、利用者が引き受けるべき課題を奪わない姿勢が求められます。
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。

