【中小企業を変える経理DX③】電子帳簿保存法と経理DX推進の注意点&実践パターン

【中小企業を変える経理DX③】電子帳簿保存法と経理DX推進の注意点&実践パターン

経理DX推進の実践

前述の通り、経理のためのDXソリューションは、既に多くのベンダーから提供されています。

主流となっているクラウド型のSaaS(Software as a Service/以下:SaaS)は、オンプレミスより初期投資を抑え、さらに導入までもスピーディーな導入が可能な仕組みです。

ここからは、経理部門のDX推進について具体的な実践例をいくつかご紹介します。

会計システムをオンプレミス型からクラウド型へ

会計システムをオンプレミス型からクラウド型へ

今までの会計システムは、パソコン1台1台にソフトをインストールして起動させる、いわゆる「オンプレミス型」が一般的でした。

しかし、近年はオンライン上のサーバーで提供されるシステムやサービスを、インターネットを介して利用する「クラウド型」会計システムの利用が拡大しています。

オンプレミス型の会計システムの利便性は、使用しているパソコンの状態に依存する部分が多く、必ずしも安定的ではありません。

インストールが必須なため、ハードディスクの容量を消耗しますし、バージョンアップは多くの場合手動で対応する必要があります。

更には、PCが故障した場合は、修復するまで会計ソフトが一切利用できなくなってしまいます。

また、オンプレミス型をデスクトップ型のパソコンにインストールしている場合は、会計システムを利用できる場所が制約されてしまい、リモートワークにも対応できません。

コロナ禍においても、経理部門の従業員が出社を迫られていた原因の一部はこの場所の制約によるものです。

一方、クラウド型の会計システムの場合は、インターネットの接続環境さえ整っていれば、いつでもどこからでも利用可能です。

また、バージョンアップも自動的に行ってくれますので、いつでも最新版を利用できます。

複数ユーザーの同時接続も可能であり、クラウド上の複数のシステムやアプリケーション間でデータ連携を行える、iPaaS(Integration Platform as a Service)との相性も良いため、今後も拡張性があるDXツールとして期待ができるでしょう。

また、経営者を始めとした意思決定者が社内にいない場合でも、データが確認できるクラウド型会計ソフトによるスピーディーかつ正確な財務情報・経理情報は、経営陣の意思決定にも寄与できる、企業にとって重要なツールになります。

経費精算システムにより紙の精算を全面撤廃

経費精算システムにより紙の精算を全面撤廃

電子データ保存やスキャナ保存の導入に関する事前申請が必要なくなる等、電子帳簿保存法の要件が緩和されたことにより、多くの企業にとって電子保存の導入ハードルが大きく下がりました。

それに伴い、さらに利用価値を高めているのが経費精算システムです。

これまで経費精算に関する業務は、経理担当者としては概ね以下のような流れで行う必要がありました。

  1. 経費精算書を紙に印刷して、領収証を添付、自身の印を押印
  2. 上長に内容を確認し、承認印の押印を受領する
  3. 経費精算書の金額・領収書・決裁を目で確認
  4. 振込データ一覧と振込データを手作業で作成
  5. 経費精算書を纏めてファイリング
  6. 税務調査や監査時にはファイルを書庫から出したうえで、資料を抽出

担当者、上長、経理担当者による一連の申請から決済までのプロセスは、必要不可欠な手続きではありますが、紙ベースでの手続きを行うためにはこのようにかなりの工数がかかります。

また、経理部門においては決済された申請に沿った経費の支払いに加えて、申請書と領収書の突合をした上で仕訳や振込処理後のファイリングなど、適切な情報管理のためにも多くの業務が発生していました。

経費精算システムを利用すれば、この経費精算に関する業務を飛躍的に効率化することができます。

例えば、従業員が経費を申請する際はスマートフォンで領収書を撮影して、システムに取り込みオンライン上で決裁者の承認を得ることができます。

経理担当者もオンラインで申請内容とデータを確認・認証の処理を行うことができるようになるため、ペーパーレスで経費申請から決済までが完結出来るのです。

また、経理担当者が認証したデータは自動的に振込データ及び仕訳データと連携ができるなど、そのメリットは多岐にわたります。

また近年、画像読み込みシステムに人工知能が搭載されたAI-OCR(artificial intelligenc-Optical Character Recognition)の技術が発展しており、領収書を読み取るだけで、取引先、金額、内容を自動的にテキスト化してくれるようになりました。

一連の流れをデータで完結することにより、紙で対応する場合に比べ経費精算に関する業務に掛かる時間や物理的なコストを大幅に削減できます。

これは経理部門にとってだけでなく、社内全体に大きなメリットをもたらすでしょう。

そのため、経理のDX推進として大きな効果がある経費精算システムは、何よりもまず導入を検討すべき代表的なツールの1つです。

*OCR:Optical Character Recognition(またはReader)の略で、光学的文字認識機能(画像データのテキスト部分を自動的に認識し、文字データに変換する)のことを指す

クラウドグループウェアを導入し電子承認と情報共有を一元化

経理部門のDX推進を阻害している、承認などのワークフローやファイル管理を解決させるのがクラウド型グループウェアです。

クラウド型のグループウェアを導入すれば、インターネットがつながる場所であれば環境に囚われずスマートフォンからでも情報を確認でき、決裁者の意思決定もスピーディーに行えます。

これは、コロナ禍でも度々ニュースに取り上げられた「押印のために出社しなければならない」という、経理部門に根強く残るハンコ文化からの脱却にも一役買ってくれます。

また、ファイル管理などもクラウド上で全て完結できるため、稟議やマニュアルなどの書類もわざわざ紙で印刷してから回覧する必要が無くなり、ペーパーレス化による時間と費用のコストが大きく削減できるでしょう。

更には、災害発生や感染症拡大といった緊急時においてもリモートワークによる柔軟な働き方を実現でき、企業活動が止まることなく生産性を維持できます。

ただし、経理部門に限らずクラウドグループウェアを導入する際に注意すべき点としては、機能やフローを充実させることが却って業務を複雑にしてしまわないように、企業ごとに導入の目的と適用レベルを合わせて設定することが重要です。

入金・支払に関する請求管理を代行業者へ委託

さらに、デジタル化が進んだことにより、経理部門のDXは新システムの導入による業務効率化だけでなく、これまでには出来なかった次元での業務の代行も可能になっています。

もちろん、業務の代行も全てオンラインでやり取りができるようになっており、その点についても利便性の高いサービスと言えるでしょう。

では、請求管理の代行とはどのようなものなのでしょうか。代行可能な業務としては、以下のような業務が挙げられます。

  • 与信管理
  • 請求書の作成・送付
  • 代金回収
  • 入金確認
  • 未入金の催促

代行業者の中には、指定期日に入金を100%保証してくれる未回収リスク保証サービスなどもあるため、代行業者に任せることで万が一のリスクが生じる危険を最小限に抑えられるでしょう。

これまで経理部門を中心に社内で行ってきたこれらの業務から解放されれば、社内のリソースを企業の利益獲得に繋がるコア業務に集中させることが可能になることは間違いありません。

ただし、機密保持の観点から、信頼できるパートナー選びが重要な施策であるため、コストだけで判断せず、企業としてのリスクヘッジを行ったうえでしっかりと代行業者を選定する必要があります。

まとめ

「中小企業を変える経理DX」の3回目として、経理部門のDXを進めるツールやサービスを導入する際の注意点と実践パターンについて、要件緩和された電子帳簿保存法との関わりを含めて解説致しました。

経理部門のDXと一口に言ってもソリューションは多岐にわたり、導入する企業によって解決する課題や規模は様々です。

大事なことはDXソリューションを導入するビジョンと目的を明確にして、現場で活用できる仕組みにすることです。

経理部門のDXが成功すれば全社的に良い効果が生まれ、生産性と価値が高い企業に生まれ変わるでしょう。

また経理部門で働く従業員の仕事もノンコア業務から、経営管理を補助するコア業務へとキャリアシフトでき、「攻めの経理」としてのモチベーションも高くなります

ぜひとも貴社の状況に合わせ、小さな実践からでも構いませんのでDX推進に取り組んでみてください。

次回は本連載の締めくくりとして、実際に経理部門でDXを推進して成果を挙げている企業の事例を紹介します。

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この記事の執筆者

金融系DXライター

志藤たつみ

経理DXライター。経理歴15年。 プライム企業、中小企業、ベンチャー企業など、 様々な業種や規模での経験・知見を活かしたDXコンテンツを展開中。 「経理のキャリアを楽しく」がモットー。 趣味は近所の散歩とパン屋めぐり。

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志藤たつみ

経理DXライター。経理歴15年。 プライム企業、中小企業、ベンチャー企業など、 様々な業種や規模での経験・知見を活かしたDXコンテンツを展開中。 「経理のキャリアを楽しく」がモットー。 趣味は近所の散歩とパン屋めぐり。

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