DXとは「選ばせる」のではなく「自然に選んでしまう」を設計する【街で見つけたDX】

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DXportal®編集部が休日に撮影した街の写真を並べて見返していたところ、一見バラバラに見える設備に、ある共通の設計思想が浮かび上がってきました。

  • 犬用水飲み場
  • 屋外喫煙所
  • 地下鉄入口のエレベーター
  • 木目調のスロープ
  • 大型駐輪場
  • バイク専用区画

用途も対象者もまったく違います。それでも並べてみると、1つの問いが浮かびます。「これは、人へ命令する設計ではなく、人が自然と望ましい行動を選んでしまう設計なのではないか」と。

同じ問いを企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に当てはめると、景色が変わります。

「AIを導入したのに使われない」
「新しい社内システムが定着しない」
「ルールを増やしても現場が動かない」

こうした悩みを抱える経営者・DX推進担当者・現場マネージャーへ向けて、本記事では街で見つけた設計思想を手がかりに、DXの本質を編集部の視点から読み解きます。

【本記事の要点】

  • 街の設備には「禁止する前に、選びやすい場所を用意する」という共通の設計思想がある
  • 良いDXも同じで、人を管理・命令するのではなく、望ましい行動を自然に選べる環境を設計するもの
  • ナッジ理論と選択アーキテクチャの視点は、社内システム・業務フロー・顧客体験の定着率を上げる実務的レバーになる
  • できる小さな設計変更(初期値・並び順・入力項目の削減など)で、DX投資の成果は変わり得る

禁止する前に、行動できる場所を用意する

みなとみらいの犬用水飲み場
編集部にて撮影


最初のテーマは「禁止よりも受け皿」です。ここでは犬用水飲み場と屋外喫煙所という2つの設備を通じて、対象者そのものではなく「行動を支える仕組み」に着目します。共通しているのは、呼びかけよりも先に選択肢を差し出しているという発想です。

犬用水飲み場が語る、マナーの前にある設計

横浜・みなとみらい周辺で我々が見かけたのは「犬用の水飲み場」。それは、みなとみらいでよく見かける、犬連れの散歩客が水を与えられるよう整えられた設備でした。

ここで着目したいのは犬に優しい街かどうかではありません。「マナーを守ってください」と看板で呼びかける前に、マナーを守れる環境そのものを先に用意している点です。呼びかけは行動を変えにくく、受け皿は行動を変えやすい。この差は、企業内の啓発ポスターと業務ツールの関係にも重なります。

屋外喫煙所が語る、禁止ではなく分離という設計

横浜駅前のタバコステーション
編集部にて撮影

別の場所で見かけた指定喫煙所も同じ発想で読み解けます。喫煙の是非は本記事では論じません。駅周辺は一律禁煙区域に指定されていますが、着目するのは、「吸うな」と一律に禁じるのではなく、「ここでなら吸える」と場所を分けることで摩擦を減らしている点です。

禁止は対立を生みますが、選択肢の提示は共存を生みます。企業DXにおいても、旧システムの利用を禁じる前に、新システムを使いたくなる導線を先に用意しているかを問い直す価値があります。

出典・参照:

人に頑張らせる前に、困らない環境をつくる

横浜駅地下鉄行きエレベーター
編集部にて撮影

2 つ目のテーマは「努力の前提を減らす」です。エレベーターとスロープを通じて、利用者へ努力を求めるのではなく、努力なしで使える環境を最初から用意する発想を読み解きます。人が仕組みに合わせるのか、仕組みが人に合わせるのか、その分岐点がここにあります。

地下鉄入口のエレベーターが示す、経路の選び直し

地下鉄入口で撮影したエレベーターは、車いす利用者、高齢者、ベビーカー、旅行者など、さまざまな人が同じ入口から自然に入れるように整備されていました。困っている人が現れてから助けるのではなく、そもそも困りにくい経路を先に用意しておく設計です。

「人が努力して仕組みに合わせる」から「仕組みが人に合わせる」への転換が、静かに実装されています。

木目調スロープが示す、努力を前提としないUI

マンション前のスロープ
編集部にて撮影

別のスポットで見かけた木目調の緩やかなスロープは、段差を越える努力そのものを不要にしていました。それは「バリアフリーが必要(あるいはDX文脈でいえばデジタルデバイドを排す)」という画一的な指摘ではありません。

ここから読み取りたいのは「人に頑張らせるか、頑張らずに使える環境にするか」の設計判断です。企業システムに置き換えれば、「マニュアルを読まなければ使えないUI」と「初めて開いても迷わないUI」の違いに近いと言えます。前者は教育コストを個人へ転嫁し、後者は設計側が負担を引き受けています。

人はルールではなく、環境で動く

横浜駅前駐輪場
編集部にて撮影

3つ目のテーマは「ルールより導線」です。駐輪場とバイク専用区画を並べると、行動を変える力の多くが、命令ではなく空間の側にあることが見えてきます。ここで初めて、本記事の軸となる2つの言葉が意味を持ち始めます。

駅前駐輪場が示す、選択肢の提示

駅前で見かけた駐輪場は、駅へ通勤する市民のために、たくさんの自転車を受け止めていました。ここで「違法駐輪が減った」と結論づけることは避けます。我々が着目したいのは、「停めるな」と貼り紙を増やすよりも、「ここなら停められる」という受け皿を先に用意しているアプローチです。人は禁止に反発しますが、選びやすい選択肢には自然と流れます。

バイク専用区画が示す、環境設計・行動設計という視点

横浜駅周辺のバイク置き場
編集部にて撮影

同じ発想を強く感じたのがバイク専用の区画でした。「停めるな」と書くのは容易ですが、それでは行動は変わりません。代わりに「ここなら停められる」と選択肢を提示することで、望ましい行動が起きやすくなります。

ここでいったん、本記事のキーワードを整理します。それは、「環境設計」と「行動設計」です。人の意志に期待するのではなく、環境の側で行動が生まれやすい状態を作る発想であり、行動経済学ではナッジ理論や選択アーキテクチャと呼ばれます。

出典・参照:

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。