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「現場を観察してみたけれど、聞いた話が多すぎて整理できない」
「紙とExcelと口頭連絡が混ざっていて全体像がつかめない」
「業務フロー図なんて作ったことがなく、何から手を付ければよいか判断できない」
DX(デジタルトランスフォーメーション)担当に任命されたばかりで、こう感じている新人DX担当者さんはいないでしょうか。【新人DX担当の教科書】と題した本シリーズ。第3回で現場観察の視点を学びましたが、次に立ちはだかるのは「見える化」の壁です。ここでつまずくと、ツール導入も業務改善も判断の拠り所がないまま進んでしまい、投資が空振りに終わりがちです。
本記事では、専門的な業務フロー図を作らなくても、新人DX担当が自分の手で進められる「業務棚卸し」の具体的な手順を、食品卸の事例と現場ヒアリングのコツを交えて解説します。読み終える頃には、対象業務を1つ選び、A4一枚で棚卸し表を書き始められる状態を目指しましょう。
【本記事の要点】
- 業務の見える化とは、きれいな業務フロー図を作ることではなく「誰が・何を・どの順番で・何を使って・誰に渡しているか」を関係者で会話できる状態にすること
- 新人DX担当は全社を一度に棚卸ししてはならず、受注処理や請求処理など身近な1業務に絞って始めるべき
- 紙・Excel・口頭連絡には残っている理由があり、悪者扱いせず「なぜ残っているか」を聞く姿勢が現場との信頼を作る
- 棚卸し表は15項目の簡易フォーマットで十分。作った表は必ず現場に見せて「この理解で合っていますか」と確認する
業務の見える化とは:新人DX担当がまず外す誤解
DX担当に任命されると、上司や書籍から「まずは業務を見える化しよう」と言われます。しかしこの言葉ほど誤解を生みやすいものはありません。
この章では、見える化を「業務フロー図の作成」ととらえてしまう誤解を解き、新人DX担当が本当に目指すべきゴールを整理します。ここを間違えると、以降の棚卸し作業がすべて的外れになってしまうため、まずはこの前提条件を詳しく見ていきましょう。
見える化の目的は「会話できる状態」を作ること
業務の見える化とは、きれいな業務フロー図を描くことではなく、「誰が、何を、どの順番で、何を使って、誰に渡しているか」を関係者で共有できる状態にすることです。
DX担当者が1人で作った精緻なフロー図は、確かに経営層には受け入れられやすい綺麗で整理されたものかもしれません。しかし、現場から見ると「私たちの仕事はそんな一直線ではない」と映ることも少なくないのです。
見える化のゴールは、資料の完成ではありません。現場と管理職と経営者が同じ絵を見ながら「この工程で何が起きているか」を会話できる状態を作ることにあります。
つまり、成果物の美しさより、共通の言葉と共通の理解が生まれたかが問われるのです。
なぜ「ツール導入の前」に見える化をやるのか
見える化を飛ばしてSaaSやRPAを入れても、多くの場合、投資に見合った効果が出ません。理由は3つあります。
- 現状業務が把握できていないため、ツールが解決すべき課題を特定できない
- 属人化した判断や例外対応がツールに落とし込めず、結局現場が二重管理になる
- 導入後の効果測定ができず、経営層から「本当に効いているのか」と問われる
経済産業省が公開している『中堅・中小企業等向けDX推進の手引き』でも、DXの第一歩は経営課題と業務・組織の現状を把握することとして解説されています。ツール導入は目的ではなく手段にすぎません。その手段が刺さるべき現状を先に把握しなければ、投資が空振りに終わってしまうこともあり得るのです。
新人DX担当が最初に持つべき視点
新人DX担当が陥りがちなのは、「効率化する対象」を探そうとしてしまうことです。しかし、まず持つべき視点は「業務を裁く」ことではなく「業務を翻訳する」ことです。
現場は毎日その業務を回している当事者であり、DX担当は外から来た翻訳者です。翻訳者の仕事は、現場の言葉を経営者と他部署に届く言葉に置き換えることにあります。この立ち位置を最初に決めておくと、ヒアリング中に現場と対立せず、関係がぶれません。
出典・参照:
見える化を始める前に押さえる4つの原則
見える化は、やり方次第で「作業のための作業」に化けます。この章では、新人DX担当が着手前に押さえておきたい4つの原則を紹介します。この4つを外すと、棚卸し表を作っても現場から反発を受け、資料が活用されない結末を迎えかねませんので、心してお読みください。
対象を1つの業務に絞る
最初から全社業務を棚卸ししようとすると、ほぼ確実に挫折します。おすすめは、次のような身近で頻度の高い業務から1つだけ選ぶことです。
- 受注処理
- 請求処理
- 日報作成
- 在庫確認
- 問い合わせ対応
- 勤怠申請
- 経費精算
理由は2つあります。第一に、1つの業務を最後まで棚卸しできれば、他の業務にも横展開できる型が身につくから。第二に、成果物が小さいほど現場との会話が早く回り、DX担当としての信頼を早期に積み重ねられるからです。
マニュアルではなく「実際の業務」を見る
マニュアルや業務規程に書かれた流れと、現場で実際に動いている流れは違います。
- 紙のメモ
- 個人Excel
- 電話
- FAX
- ホワイトボード
- 口頭確認
- チャット
中小企業や小規模事業者では、こうした正式なルールに載っていない手順が会社を支えている場面が多く見受けられます。
新人DX担当が拾うべきなのは、この「表に出ていない業務」です。マニュアルを写経しても、そこには本当の「詰まり」は書かれていません。
紙・Excel・口頭を悪者扱いしない
紙・Excel・口頭連絡は、古いから残っているのではありません。理由があるから残っているのです。
- 安く早い
- 慣れている
- 柔軟に例外対応できる
- 取引先や顧客が求めている
- 過去のシステム化で失敗した
こうした背景を無視して「時代遅れだから直しましょう」と切り込むと、現場の反発を招きかねません。
DX担当が最初にすべきなのは、批判ではなく質問です。「なぜこの業務は紙で回っているのですか」と聞くことで、はじめて改善余地と、手を出してはいけない領域の境目が見えてきます。
業務を「作業・情報・判断・確認」に分けて見る
作業手順だけを並べても、改善ポイントは浮かびません。業務を4つの要素に分けて観察すると、詰まりが見えやすくなります。
- 作業:具体的に手を動かしている工程(入力、印刷、転記、集計など)
- 情報:どこから来て、どこに置かれているデータ(メール、FAX、紙、Excelなど)
- 判断:誰が、どの基準で意思決定しているか(価格変更、在庫調整、例外承認など)
- 確認:誰の確認を経て次に進むか、承認は何人必要か
この4分類で見ると、二重入力、確認待ち、属人化した判断、ミスの発生ポイントが浮かび上がってきます。
業務棚卸し表の作り方:新人でも書ける15項目テンプレート
見える化の成果物は、専門的な業務フロー図でなくて構いません。この章では、新人DX担当が最初に作るべき「業務棚卸し表」の項目と、書き方のコツを紹介します。ここで紹介するテンプレートは、Excel1枚でもA4一枚でも書き始められる形です。
まず作るのは「業務棚卸し表」1枚
BPMN(業務プロセスを図式化する国際標準記法)などの正式な図法は、一定の粒度で業務が整理された後の話です。最初のステップでは、Excelやスプレッドシート1枚で書ける「業務棚卸し表」を作ることをおすすめします。
参考として、コンサルティング現場で用いられる業務棚卸表は「業務名/担当者/頻度/所要時間/使用ツール/属人度/改善余地」などのカラムで構成される実務手法が広く共有されています。新人DX担当はこの型を借りて、自社の言葉で書き直せば十分です。
新人DX担当向け15項目テンプレート
以下は、新人DX担当が現場ヒアリングをしながら埋めやすい15項目です。表の前後で必ず現場と会話するために、何をどのカラムに書くかを想定読者の観点で並べました。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 業務名 | 例:受注処理、月次請求、日報作成 |
| 業務の目的 | 何のためにやっているか(例:出荷指示を配送に渡すため) |
| 担当者 | 実際に手を動かしている人 |
| 関係者 | 情報を渡す人・受け取る人 |
| 使っている道具 | 紙、Excel、メール、FAX、電話、口頭、既存システム |
| 入力する情報 | 何を書き写しているか(品番、数量、納期など) |
| 確認する人 | どの承認・チェックを経るか |
| 次に渡す相手 | 情報の受け渡し先 |
| 発生頻度 | 日次、週次、月次、随時 |
| かかる時間 | 1回あたりの所要時間 |
| ミスが起きやすい場所 | 過去に発生したミスの工程 |
| 待ち時間が発生する場所 | 誰かの確認や返信で止まる工程 |
| 属人化している判断 | その人しか分からない基準 |
| 現場が困っていること | 現場の生の言葉 |
| 改善できそうな小さなポイント | 現場が「これがなくなれば楽になる」と語る箇所 |
この表を見た経営者や部門長は、ようやく「業務の中で何が起きているか」を具体的に把握できます。フロー図より情報密度が高く、しかも新人でも書ける形式のため、社内共有の起点として機能します。
まずはA4一枚から書き始める
いきなり完璧な表を目指すと手が止まります。最初は対象業務を1つに絞り、A4一枚に手書きで書き出しても構いません。
手書きで書き出すと、粒度の不揃いや情報の抜けに自分で気付きやすく、次に現場に聞くべき点が明確になります。着手する際は、白紙のA4を用意して業務名を書くところから始めましょう。
出典・参照:
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。

