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「生産管理システムを入れたはずなのに、なぜかExcelの工程表も紙の作業指示書もなくならない」
「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進と社内に号令をかけても、現場からは『前より忙しくなった』という声しか上がってこない」
このような違和感を抱えている経営者や工場長は多いはずです。新しいシステムを入れるべきか、追加投資で機能を補強すべきか、貴社でも判断に迷っている場面があるのではないでしょうか。
製造業DXが進まない最大の原因は、生産管理システムの性能や機能ではありません。システム・Excel・紙・ホワイトボード・口頭連絡が並走する「二重入力/二重管理」にあります。本記事では、この二重入力の問題点を深堀りします。最後まで読み終えたとき、DX推進に向けて貴社が次に取るべき行動が「もっと高機能なシステムを探す」ことではなく、「自社のどこで同じ情報が二回も三回も入力されているか」を棚卸しすることだと言うことがお分かりいただけるはずです。
【本記事の要点】
- 製造業DXが止まる主因は、生産管理システムの性能不足ではなく、システムとExcel・紙が並走する二重入力である
- スリーシェイクの2025年調査では、製造業の約6割がExcel・CSVを用いた手作業連携を残している
- 「現場がシステムを使わない」のではなく「システムだけでは仕事が完結しないから現場がExcelに戻る」構造で捉える必要がある
- システム刷新より先に二重入力マップの作成と業務棚卸しを行うことで、DX投資の効果が見えるようになる
「生産管理システムを入れたのにDXが進まない」現場で起きていること
製造業の現場では、生産管理システムを導入した直後から「思っていたのと違う」という声が必ず出ます。その原因は、経営層・現場・DX推進担当者の三者で見えている景色が大きく異なるためです。本章では、その三者がそれぞれ抱えている本音を整理し、なぜ生産管理システムを入れただけではDXが進まないのかを掘り下げます。
経営層の困惑「投資効果が説明できない」
経営層から最も多く出てくる悩みは「投資した金額に見合う効果が説明できない」というものです。理由は明確で、生産管理システムに入っている数字と、現場のExcelや紙の数字が一致しないため、どちらを信じて意思決定すべきか判断できない状態に陥るからです。
例えば、システム上の在庫数と現場のホワイトボードに書かれた在庫数が違う場合、経営層はどちらも100%は信用できなくなり、結果として「現場に直接電話で確認する」という昔の運用に戻ります。これではDX投資の効果は数字に表れません。
現場の本音「むしろ入力作業が増えた」
一方、現場担当者の本音は「システムが増えただけで作業はむしろ増えた」です。生産管理システムへの入力に加え、従来のExcel工程表や紙の日報も残っているため、入力する場所だけが増えた状態になっているのです。
現場は、意固地にExcelに戻っているわけではありません。
- システムに入力しても作業指示が現場まで届かない
- システムの画面では細かい段取りを表現できない
- システムに入力しても現場での指示は別に行わなければならない
こういった具体的な不便があるからこそ、結局Excelや紙を使い続けているのです。
DX推進担当者の板挟み「現場と経営の中間で疲弊する」
経営からは「DXを進めろ」と言われ、現場からは「これ以上仕事を増やすな」と言われる。これでは、DX推進担当者は両者の板挟みです。
中小企業基盤整備機構が2024年12月に公表した調査では、DXに「取組済み・検討中」と回答した企業が42.0%まで増えた一方で、進捗状況の最多は「アナログで行っていた作業やデータのデジタル化を進めている」段階の35.7%でした。多くの中小製造業がいまだデジタル化の入口で足踏みしているという事実は、DX推進担当者の苦しさを裏付けています。
データで見る製造業の二重入力の実態
ここまで読んで、「うちの工場だけが遅れていて、二重入力が残っているのではないか」と感じる経営者もいるかも知れません。しかし、DX推進の様々なデータを見る限り、二重入力はむしろ製造業の標準的な状態だと分かります。本章では一次調査の数字を引きながら、製造業全体に共通する構造を確認します。
約6割が今もExcel・CSVで手作業連携を残している
スリーシェイクが2025年に公表した『製造業におけるデータ連携の実態調査』では、データ連携方法のうち「一部自動化されているが手作業も含まれる(CSV出力など)」が36.3%、「手作業(ExcelやCSVを用いた連携など)が中心」が30.4%と報告されています。合計すると約6割が手作業を含むデータ連携を残しているという結果です。
つまり、生産管理システムは導入されていても、システム間の橋渡しはExcelやCSVが担っている工場が大半を占めているのが現状です。
業務システム環境の約7割がオンプレを含む構成
さらに同調査では、業務システム環境について「オンプレミスとクラウドの混在」が41.2%、「オンプレミス中心」が33.3%で、合計約7割がオンプレを含む構成です。クラウド中心は約3割にとどまります。この構造の意味は、システム同士が物理的・契約的に分断されていて自動連携しにくく、結果として人がExcelで橋渡しせざるを得ない現実があるということです。
出典・参照:
「2025年の崖」とDXレポート2.2が示す低位安定
経済産業省の『DXレポート』では、レガシーシステムを放置すれば2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じうると警告されていました。さらに2022年7月の『DXレポート2.2』では、ユーザー企業とベンダー企業がともに『低位安定』に固定され、個社単独でのDXが困難な構造を指摘しました。
これらの指摘は、生産管理システムを入れ替えるだけでは抜け出せない、業界全体の構造課題があるという認識を持つ必要があることを示唆しています。
二重入力が生まれる構造的なメカニズム
二重入力は「現場の怠慢」や「教育不足」だけでは説明できません。組織の意思決定と運用設計の結果として、構造的に発生しています。本章ではその発生メカニズムを3つの観点で整理します。
システムが現場の運用フローと一致していない
最も多いパターンは、生産管理システムの標準機能と現場の運用フローが一致していないケースです。例えばシステム上の工程は10種類しか登録できないのに、現場では実際には30種類の段取りが存在する、といった食い違いが起きます。
この場合、現場は不足部分をExcelで補完するしかなく、結果として「システム+Excel」の二重運用が完成します。これは現場の問題ではなく、業務要件とシステムのギャップを埋めなかった導入設計の問題です。
マスタ整備が不十分で入力が止まる
品目マスタ・工程マスタ・部品表(BOM)が整備されていない状態でシステムを使うと、入力時に「該当する品目がない」「該当する工程がない」という事態が頻発します。しかし、現場は止まれないので、その場で紙やExcelに書き留め、後でまとめて入力するという運用に流れがちです。
マスタ整備はシステム導入の前提条件であり、ここを後回しにすると二重入力が雪だるま式に増えてしまいます。
入力する人と使う人が分かれている
現場が入力し、管理者だけが閲覧する。この構造も二重入力を加速させます。この状態では、現場には入力の負担しかなく、入力したデータが自分の作業にフィードバックされる実感がありません。結果として「とりあえずExcelに書いておいて、後で誰かがシステムに転記する」という運用が固定化し、現場にとってのDXは「上のための作業」になります。
失敗する工場に共通する6つのパターン
ここからは、二重入力を解消できずDXが停滞してしまう工場に共通する6つのパターンを整理します。自社に当てはまるものがいくつあるかを確認しながら読み進めてみてください。
パターン1:生産管理システムとExcelが並走している
- 工程表
- 納期管理
- 進捗管理
- 負荷管理
1つ目は、生産管理システムを導入した後も、これらの工程をExcelで運用しているケースです。原因は、システムの入力負荷が高い、更新スピードが遅い、現場が見たい粒度の情報が見られない、といった運用上の不便です。Excelを使う現場が悪いのではなく、システムだけで日々の判断ができない運用設計に問題があります。
パターン2:紙帳票がなくならない
- 日報
- 作業指示書
- 検査票
- チェックシート
2つ目は、これらの帳票管理が紙のまま残っているケースです。現場にPC・タブレットが行き渡っていない、入力する時間が確保されていない、教育が追いついていない、といった理由が絡み合っています。このとき、紙を悪者にする前に、「なぜ紙でなければ回らないのか」を観察すると、入力端末の配置、書き込み量、片手作業の有無といった物理的な制約が見えてくるでしょう。
パターン3:入力する人と使う人が違う
3つ目は、現場が入力し、管理者と経営層だけがダッシュボードを見ているという構造です。入力した本人にメリットがないため、入力の粒度・精度が下がり、その低品質データを管理者が修正し、修正済みの数値を現場が知らない、という悪循環が起きます。現場がメリットを感じない運用は定着しません。
パターン4:マスタ整備が不十分
4つ目は、品目マスタ・工程マスタ・BOMが整備されていないため、Excelで補完作業が発生しているケースです。マスタは地味な作業で、後回しにされやすい領域ですが、ここの整備度合いがシステム活用の上限を決めます。システム導入よりも先に、データ整備に投資する判断が求められます。
パターン5:リアルタイム運用ができていない
5つ目に考えなければならないことは、リアルタイム運用の有無です。終業後のまとめ入力、翌日更新、週次更新といったリアルタイムではない運用方法では、システム上のデータと現場の実態が常にズレてきます。データの鮮度が落ちれば、誰もそのデータを信用しません。信用されないデータは見られなくなり、見られないデータは入力されなくなる、という負のスパイラルが完成します。
パターン6:現場改善とDXが切り離されている
最後のパターンは、「DXはIT部門の仕事」「現場改善は製造部門の仕事」と切り分けているケースです。こうした、DXをすべて他人任せにしてしまう工場ほど、二重入力が温存される傾向があります。成功している工場は、現場改善・標準化・業務整理を先に進めたうえで、その結果に合うシステムを選定しています。DXはITプロジェクトではなく改善活動の延長線にあるという認識が前提です。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。


