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「DX担当になったけれど、現場に行っても何を見ればいいか分からない」
「忙しそうな社員に話しかけづらい」
「改善案を出しても『現場を知らないくせに』と言われそうで怖い」
このように感じている新人DX担当者の方に向けた記事です。
【新人DX担当の教科書】シリーズは、現場に入って業務を観察し、改善ポイントを見つける視点を身につけることを目的にしています。第1回で最初の一歩、第2回で社内キーパーソンとの接点づくりを扱いました。今回はいよいよ、DX担当が現場でどこを見るのか、どのように話を聞くのか、何を記録するのかまで、翌日から真似できる手順で解説します。
読み終える頃には、身近な業務を30分だけ観察して「困りごとメモ」を作れる状態を目指します。ツール比較や補助金申請より前に、無料でできる調査として現場観察を武器にしてください。
【本記事の要点】
- DX推進の失敗の多くは、現場を知らないまま進めることに起因する
- 現場観察は監査でも評価でもなく、会社を少し良くするための情報収集である
- 見るべきは人ではなく、業務の流れ・待ち時間・二重入力・属人化・現場の工夫
- 今週中に1つの業務を30分観察し、困りごとメモを作ることが最初の行動
なぜDX担当は最初に「現場」を見に行くべきなのか
DX担当を任されるとまずツール比較表を作りたくなりますが、その前に必要なことがあります。それは、現場を見に行くことです。理由は単純で、現場の困りごとを知らないままツールを選ぶと、ほぼ確実に「使われないシステム」が生まれてしまうからです。
この章では、公的資料が示すDX失敗の共通パターンと、現場観察が最初の投資として合理的である理由を整理します。
日本のDXは「部分最適」から抜け出せていない
IPA『DX動向2025』では、日本企業のDXが依然として内向き・部分最適の段階に留まり、業務プロセス全体の変革に至っていないと指摘されています。経済産業省『DXレポート2.2』でも、個社単位のデジタル化にとどまり産業全体の変革につながっていない点が課題として提示されました。
この「部分最適」とは、特定部門や特定業務だけをデジタル化し、前後の業務との連携が取れていない状態を指します。中小企業の現場で言えば、受注管理だけシステム化したものの、その前後の見積作成や納品確認は紙のまま残っている、といった状況です。ツール導入だけを先に進めても部分最適は解消できません。
出典・参照:
中小企業のDXは「デジタル化」段階で足踏みしている
中小企業庁『2024年版中小企業白書』第7節では、多くの中小企業のDX取り組みが「アナログ業務のデジタル化」の段階に留まり、業務プロセス変革まで到達している企業は限られると分析されています。『2025年版中小企業白書』第5節でも、経営者と現場双方の理解、そして業務プロセスの見直しが必要であると示されました。
つまり、中小企業のDXが停滞する共通要因は、ツールを入れる前段階である「業務の見直し」が不足しているからなのです。そのため、新人DX担当が最初にやるべき仕事は、この見直しの材料を集めるための現場観察だと言えるのです。
出典・参照:
現場を知らずにDXを進めた時に起こること
現場を知らずにDXを進めると、次のような結果に陥りやすくなります。
- 現場が「これでは仕事にならない」と反発し、旧来の紙・Excel運用に戻る
- 一部の社員だけが新システムに入力し、他は元の業務を続けて二重管理になる
- 経営層は「導入したのに使われない」と嘆き、DX担当が矢面に立たされる
これらはツールの機能不足ではなく、現場の実態を把握しないままシステム要件を決めたことが根本原因です。だからこそ、最初の投資は現場観察に振り向けるべきなのです。
現場観察の目的は「監査」でも「評価」でもない
ここが新人DX担当が最も誤解しやすい部分です。現場観察とは、誰かの仕事ぶりを採点することではありません。目的を取り違えると、現場の警戒心を高めて情報が集まらなくなります。
目的は「会社を少し良くするための情報収集」
現場観察の目的を一言で表すなら、会社を少し良くするための情報収集です。
- 仕事の流れ
- 手間
- 待ち時間
- 確認作業
- 二重入力
- 属人化がどこで起きているか
これらを把握するために現場へ行き、現状を観察し、現場の従業員のヒアリングを行うのです。
この目的意識を自分の中で明確にしておくと、観察中の視線や質問の仕方が変わります。「誰の効率が悪いか」を探す視線ではなく、「業務のどこで詰まっているか」を探す視線こそがポイントです。
現場に警戒されないためのスタンス
観察に入る前に、次のスタンスを言葉にしておくと現場の警戒が和らぐでしょう。
- 「評価しに来たのではなく、業務を教えてもらいに来た」
- 「効率化のためではなく、困りごとを聞くために来た」
- 「メモは取るが、個人名を残す評価資料には使わない」
この前置きを最初の30秒で伝えられるかどうかで、その日の観察の質が変わります。場合によっては、名刺代わりに一枚の紙にまとめておくのも有効です。
現場観察で見るべき7つの視点
では、現場に立った時、何をどの順番で見ればよいのでしょうか。本章では、新人DX担当が翌日から使える7つの視点を示します。
視点1:人ではなく「業務の流れ」を見る
観察対象は個人ではなく業務です。誰かの手際を評価するのではなく、どこで作業が止まっているか、どこで確認が発生しているか、どこで紙・Excel・電話・口頭連絡が挟まっているかを見ます。人を見る視線と業務を見る視線は、現場から見て明らかに違います。
視点2:「動いている時間」より「待っている時間」を見る
改善のヒントは、手を動かしている瞬間よりも待ち時間の中にあります。
- 承認待ち
- 返信待ち
- 確認待ち
- 入力待ち
- 移動待ち
- 資料待ち
これらは「見えない待ち時間」と呼ばれ、中小企業の生産性を静かに下げている要因です。
観察メモには「9:15〜9:32 承認待ちで別業務」のように、待ちの発生時刻と長さを残します。この積み上げが、後の改善テーマの骨格になるのです。
視点3:「二重入力」と「転記」を重点的に見る
同じ情報を複数の場所に入力している場面は、改善テーマの宝庫です。
- 紙からExcel
- Excelから販売管理システム
- メールから台帳
- FAXから受注表
その他にも、転記に伴う多くの作業は、そのたびに時間と入力ミスのリスクが積み重なります。
ただし、ここで注意したいのは「なぜ同じ情報を何度も扱っているのか」を先に理解することです。取引先の書式が指定されている、過去のシステム連携が壊れている、承認ルートが複数ある、といった背景があるからこそ二重入力が残っています。ツールで解決する前に、背景を理解する順序を守ってください。
視点4:「その人しかできない仕事」を見つける
- 特定の社員だけが知っている判断基準
- ファイルの置き場所
- 顧客ごとの例外対応
- 過去の経緯
これらは属人化のサインです。属人化している本人を責めるのではなく、「会社にとって欠かせない知識がその人に集中している」と捉え直してください。
属人化は現場の努力の結果であることが多く、否定から入ると情報が閉ざされます。「この判断はどうやって身につけましたか」と学びに行く姿勢で聞くのが基本です。
視点5:「現場がすでに工夫していること」を見逃さない
現場には、正式な仕組みではないが社員が自分たちで作った様々な「工夫」が存在します。
- Excelで作った表
- メモ
- ホワイトボード
- チェック表
- LINEグループ
- 紙の管理表
一見非効率に見えても、これらは現場が困りごとを解決するために生み出した知恵です。
DX担当はこれを否定せず、「なぜこの工夫が生まれたのか」を聞きましょう。工夫の背景にある困りごとこそが、DXで解くべき本当の課題です。
視点6:紙・Excel・電話・口頭連絡の使われ方を見る
紙やExcelが残っている背景には、複数の理由があるでしょう。
- コスト
- 習慣
- 顧客都合
- 取引先都合
- 現場の安心感
- 過去のシステム導入失敗
紙やExcelを頭ごなしに悪者扱いすると、現場の信頼を失います。
見るべきは「どこで、誰が、何のために」紙やExcelを使っているかです。取引先が紙のFAX注文書しか出さないなら、その工程を電子化しても片手落ちになるでしょう。使われ方の観察が、現実的な改善範囲を決めます。
視点7:「なぜこのやり方なのか」を最低3回は聞く
表面の答えの奥に、本当の理由が眠っています。
- なぜExcelで管理しているのか
- なぜ紙に印刷するのか
- なぜ担当者に電話で確認するのか
このように、現場担当への質問を段階的に3回繰り返すと、制度・慣習・過去の失敗といった構造的な理由が見えてきます。
この「なぜを重ねる」姿勢は、製造業のカイゼン活動で培われた考え方で、現場観察の中核となる問いかけです。
現場観察の型:三現主義・ゲンバウォーク・ワークサンプリング
観察の型を持っておくと、初めての現場でも迷いにくくなります。ここでは製造業由来の3つの手法を、中小企業の非製造部門でも使える形に翻訳して紹介します。
三現主義:現場・現物・現実を見る
三現主義は、現場・現物・現実の3つを重視し、机上の推測ではなく事実に基づいて課題を特定する考え方です。トヨタやホンダなど製造業で発展してきましたが、事務・営業・物流の現場にも応用できます。
受注処理を例にすれば、次のような図式です。
- 現場=受注担当の座席
- 現物=実際の受注メールやFAX原本
- 現実=処理中に起こる問い合わせや割り込み
会議室での議論ではなく、この3つを直接見ることを徹底します。
出典・参照:
ゲンバウォーク:歩いて観察する
ゲンバウォークはリーン手法の1つで、管理者が実際に現場を歩いて観察し、プロセスの無駄や改善機会を発見するための手法です。
中小企業では、DX担当が受注・製造・出荷・請求といった業務の順に「歩いて」現物と人の動きを追いかけると、部門をまたぐ待ち時間や情報の断絶が見えてきます。
出典・参照:
ワークサンプリング:時間で区切って記録する
ワークサンプリング法は、一定時間ごとに現場で作業内容を観察・記録し、作業構成比率を統計的に把握するIE(Industrial Engineering)手法です。事務部門でも「10分ごとに何をしていたかを1行メモする」形で応用でき、待ち時間・雑務・本業の比率を可視化できます。
新人DX担当が一日ですべての業務を測るのは難しいため、まずは30分〜1時間、10分刻みで観察対象を1名に絞って試してみるのが現実的な進め方でしょう。
出典・参照:
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。

