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「社長からDXを任されたが、明日から何をすればよいのか分からない」
この状況に立たされている新人DX担当は、中小企業の現場に数多く存在します。ツールを調べても、補助金を検索しても、社内で誰も動いてくれないと不安になってしまうのではないでしょうか。
実は、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進で最初につまずく理由の多くは、システム選定でも予算でもなく、社内の協力体制が組めていない点にあります。
本記事では、DX担当が着任直後に会うべき社内の5人と、それぞれに何を聞くべきかを具体的に整理します。連載『新人DX担当の教科書』の第2回として、第1回で扱った「最初の1週間でやること」の次のステップとなる「人と会う段階」に焦点を当てます。読み終えたときには、今週中に社内5人へ15〜30分のヒアリングを申し込む具体的な計画が、あなたの手元に残るはずです。
【本記事の要点】
- DX担当の最初の仕事はツール選定ではなく、社内の困りごとを集めて味方を増やす仕事である
- 会うべき相手は「社長」「現場のベテラン」「実務担当者」「管理部門」「慎重派」の5人である
- 各相手に聞くべき質問と、避けたい伝え方をそのまま使える形で提示する
- 読了後の行動は、5人へのヒアリング予定を今週中に入れて困りごとマップを作り始めることである
なぜDX担当の最初の仕事は「人に会うこと」なのか
DXを進める新任担当者が最初に取り組むべきなのは、システム比較でも業務フロー図の作成でもありません。まずは、DXへの協力を取り付けるために、社内の関係者に会って話を聞くことです。理由は、DXの失敗要因の多くが技術ではなく、人と組織にあるからです。
『2025年版中小企業白書』でも、中小企業のデジタル化・DXは取組段階のばらつきが大きく、経営者の理解と全社的な推進体制の構築が課題として挙げられています。
中小企業基盤整備機構が2024年12月に公表した『中小企業のDX推進に関する調査』でも、DX推進を阻む要因の上位に「DXに関わる人材が足りない」「組織的な取り組みができていない」が並んでいます。担当者が個人プレーで走っても、組織側の準備が整っていなければ空回りする、という構造がデータからも読み取れます。
中小企業の現場では、担当者が突然「これからDXを進めます」と宣言しても、現場は動きません。むしろ「また新しく『やらなければならないこと』が増えるのか」と身構えるだけでしょう。
だからこそ、担当者は先に相手の困りごとを聞きに行き、「自分は業務を楽にする側の人間である」という位置取りを作る必要があります。DXは会社を少しずつ変える仕事であり、その最初の一歩は関係づくりから始まります。
出典・参照:
DX担当が最初に会うべき社内の5人
社内で会うべき相手は、役職ではなく役割で選びます。DX担当が初期に会うべきなのは、次の5人です。
- 社長・経営者:DXの目的と使える予算を握る人
- 現場のベテラン社員:業務の実態と過去の失敗を知る人
- 実務担当者:日々の面倒な作業を抱えている人
- 管理部門(経理・総務など):部門横断の詰まりを見ている人
- 慎重派・反対派:導入後に起きる問題を先に教えてくれる人
この5人にヒアリングを行う目的は、「社内の困りごとマップ」を作ることです。誰がどこでつまずいているのかを地図にすると、最初に手を付けるべき課題が浮かび上がります。逆に、この地図がない状態でツール導入から入ると、現場が使わない仕組みに投資してしまうリスクが高まってしまうのです。
順番は、まず社長で目的を確認し、その後に現場・実務・管理部門と広げ、最後に慎重派で不安を吸い上げるのが基本形です。ただし社内の関係性によって、順番は柔軟に組み替えて構いません。以下、5人それぞれについて「なぜ会うのか」「何を聞くのか」「避けたい伝え方」を掘り下げていきます。
1人目:社長・経営者に「何のためのDXか」を聞く
DX担当が最初に会うべき相手は、DX推進を任命した経営者です。経営者と目的をすり合わせないまま動くと、途中で「そんなつもりで頼んだのではない」と言われ、担当者だけが板挟みになってしまいます。ここでの30分の会話が、その後半年の方向性を決めます。
経営者に聞くべき5つの質問
経営者との最初の面談では、次の5つを確認します。
- 一番困っている経営課題は何か(売上・利益・人手不足・後継など)
- DX推進で成し遂げたい成果は何か(数値目標があるか)
- 使える予算のおおよその上限はいくらか
- いつまでに何を出してほしいのか(半年後・1年後)
- 反対されたら、経営者はどこまで後押ししてくれるか
とりわけ5つ目の「経営者の後ろ盾」は必ず確認しておきたいポイントです。担当者に権限がない状態で改革を進めても、現場は動きません。経営者から「困ったら私に言ってくれ」の一言をもらえるだけで、その後の動きやすさは変わります。
経営者との対話で避けたい伝え方
いきなり「クラウドを入れましょう」「AIを使いましょう」と手段から入ると、経営者は身構えます。経営者が聞きたいのは、投資に対して何が返ってくるのかであり、ツール名ではありません。したがって初回は「まず社内の困りごとを1ヶ月かけて集めます。その上でご提案します」と伝え、時間をもらう姿勢が現実的です。
経済産業省が2024年3月に策定した『DX支援ガイダンス』でも、中小企業のDXは経営課題を起点に、伴走型で関係者を巻き込みながら進めるべきと整理されています。ツールから入るのではなく、経営課題から入る流れは、公的な支援方針とも一致します。
出典・参照:
2人目:現場のベテラン社員に「過去の失敗」を聞く
2人目は、現場を長年支えているベテラン社員です。勤続年数が長く、業務の裏側を知り、過去のシステム導入やルール変更にも立ち会ってきた人物です。ここを飛ばすと、DX担当は過去と同じ失敗を繰り返します。
ベテランに聞くべき質問
ベテラン社員には、業務改善の歴史を聞きます。
- 過去にうまくいかなかった業務改善やシステム導入は何か
- なぜ定着しなかったと感じているか
- 現場が嫌がる変更のパターンは何か
- 逆に、現場が助かったと感じた改善はあるか
- 今の業務で暗黙知になっている部分はどこか
「過去の失敗」を語れる相手は、社内でも限られます。ベテランは失敗を語りたがらないこともありますが、「同じ失敗を繰り返したくないので教えてください」という姿勢で臨めば、多くの場合で口を開いてくれるでしょう。属人化の背景も、この会話から見えてくるはずです。
ベテランとの対話で避けたい伝え方
新人DX担当がやってしまいがちなのが、「今のやり方は古いですね」「デジタル化すれば楽になります」と改革者として乗り込む姿勢です。ベテランは、その言葉の裏に「あなたのやり方を否定します」というメッセージを読み取ってしまいます。すると情報は出てきません。
代わりに「教えてください」「なぜ今のやり方になっているのか背景を知りたいです」と切り出すと、業務が今の形に落ち着いた理由が見えてきます。DXは、その理由を無視して仕組みを変えると必ず反発を招いてしまうものです。
3人目:実務担当者に「毎日面倒な作業」を聞く
3人目は、毎日の業務に追われている実務担当者です。受注入力、請求処理、在庫確認、電話対応など、現場で手を動かしている人たちです。改善テーマの種は、会議室ではなく、この人たちの不満のなかに眠っています。
実務担当者に聞くべき質問
実務担当者には、業務の具体的な手触りを聞きます。
- 毎日、面倒だと感じている作業を3つ挙げるとしたら何か
- 紙・Excel・メール・電話・FAXのうち、二度手間になっているものはあるか
- 月末や締め日に、決まって発生する残業の原因は何か
- 「これがなくなれば楽なのに」と思う作業はあるか
- 他部署からの依頼で、時間を取られている作業はあるか
この質問は、抽象的に聞かず、具体的な作業名まで踏み込みます。「業務効率化のためにヒアリングします」ではなく、「先週の受注処理で一番手間だった作業を教えてください」というレベルまで下ろすと、生の困りごとが見えてくるはずです。
実務担当者との対話で避けたい伝え方
「効率化」「生産性向上」「DX」というビジネスでは当たり前の言葉でも、現場の実務担当者にとっては馴染みがないことも少なくありません。そのため、いきなりそういった言葉を並べると、実務担当者は口を閉ざしてしまうでしょう。彼らが日々使っているのは、「面倒」「二度手間」「めんどくさい」「わからん」という言葉です。DX担当は、その語彙に合わせて質問を組み直してください。
2024年版中小企業白書でも、DXに取り組む企業ほど労働生産性の向上や売上増加につながる傾向が示される一方、取組を阻む最大要因として人材と組織体制が挙げられています。現場の言葉で聞く姿勢は、その組織体制を作り直す第一歩です。
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4人目:管理部門に「部門横断の詰まりポイント」を聞く
4人目は、経理・総務・人事などの管理部門です。管理部門は、営業・製造・購買など各部門から情報が集まる位置にいるため、社内で「どこで詰まっているか」を最も俯瞰的に見ています。現場の担当者だけでは見えない構造的な詰まりが、ここから浮かび上がります。
管理部門に聞くべき質問
管理部門には、部門をまたがる詰まりを聞きます。
- 二重入力になっている業務はあるか(同じ数字を複数箇所に入れる作業)
- 承認待ちで止まりやすい申請はどれか
- 月末月初に集中する業務のボトルネックはどこか
- 部門間で情報が伝わらず、確認電話が増えている業務はあるか
- 紙・押印・郵送が残っている業務はどれか
管理部門は、部門横断の視点を持っているため、現場だけをヒアリングしていては見えない「詰まりの構造」を教えてくれます。とりわけ二重入力と承認待ちは、多くの中小企業で改善余地が大きい領域です。
管理部門との対話で気を付けたい点
管理部門は、既存の業務フローを守る責任も負っています。したがって「今のやり方を変えます」と急に告げると防衛反応が出ます。ここでも「業務のどこが詰まっているのか教えてほしい」というスタンスから始め、「どう変えるか」は後段に回します。
経済産業省が2025年3月に公表した『中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025』では、DXセレクション選定企業の共通点として、経営層のコミットメントと部門横断の推進体制が挙げられています。管理部門との連携は、その部門横断体制の入口になります。
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5人目:慎重派・反対派に「不安」を聞く
5人目は、社内で慎重派とされている人、あるいは反対の声を上げそうな人です。DX担当は賛成者だけに会いがちですが、反対派こそ、導入後の問題を事前に教えてくれる存在です。この人たちを敵視するか味方に取り込むかで、プロジェクトの寿命が変わります。
慎重派に聞くべき質問
慎重派には、率直に不安を聞きます。
- 新しい仕組みに切り替えるとき、何が心配か
- 過去に「導入したものの使われなくなった仕組み」は何だったか
- 現場に負担がかかる可能性はどこにあると思うか
- どんな進め方なら受け入れやすいか
- 賛成できない場合、その理由はどこにあるか
慎重派の意見は、担当者にとって耳が痛い内容も含まれます。しかし、その痛みを事前に受け止めておくと、導入後の炎上を避けられます。反対派を敵に回すのではなく、リスクの早期発見者として位置付ける発想が要となります。
慎重派との対話で避けたい伝え方
「反対する理由を論破しよう」という姿勢で臨むと、対話は決裂してしまうでしょう。DX担当は、改革を進める立場ではありますが、その立場は中立でなくてはなりません。そのため、慎重派を「説得しに行く」のではなく、「意見を聞く」という姿勢を忘れないようにしましょう。そのうえで、もし相手の指摘に一理あると感じたら、その場で「その視点は抜けていました。持ち帰って考えます」と認めるだけで、関係は前進するでしょう。
東京商工会議所が2025年1月に公表した『中小企業のデジタルシフト・DX実態調査』では、多くの中小企業でDX担当が兼任であり、専任体制が組めない実態が明らかになっています。担当者に十分な時間も権限もないなかで、現場を敵に回すコストは想像以上に高くつきます。
出典・参照:
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。

