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「ある日突然、社長から「DX担当をお願い」と言われたが、何から始めればよいのか分からない。AIを勉強すべきなのか。ツールを探せばよいのか。そもそもDX担当とは何をする仕事なのか」
世の中にDX(デジタルトランスフォーメーション)やAIの解説記事はあふれていますが、「DX担当という仕事そのもの」を順序立てて教えてくれる情報はほとんど見当たりません。書籍を買って勉強しようと思っても、その膨大なページ数に気後れしてしまう。こんな経験をお持ちの方も少なくないはずです。
そこで、DXportal®では、【新人DX担当の教科書】として、辞令を受けたばかりの中小企業のDX担当者が、毎週日曜日の夜に読み、月曜日からの1週間でやることを一つだけ持ち帰れる実践型シリーズを企画しました。
第1回となる本記事では、辞令を受けてからの最初の1週間で何をすべきかをお伝えします。読み終えたとき、月曜日の朝に「今週は会社を知ることだけに集中しよう」と思えるはずです。一緒に少しずつ進んでいきましょう。
【本記事の要点】
- 最初の1週間の仕事は「改善」ではなく「観察」である
- 社長への15分ヒアリング、現場30分散策、紙業務とシステムの洗い出しが初週のすべて
- AI導入検討・ツール比較・改善案作成・DX宣言は今週まだ手を付けない
- 公的フレームワークは概要だけ押さえ、詳細は次回以降に扱う
DXportalが【新人DX担当の教科書】を始める理由

DX担当に任命された人が最初に困るのは、「何をする仕事か誰も教えてくれない」という点です。DXやAIの解説記事は無数にありますが、任命された当人が知りたいのは、明日の朝デスクに座って何から手を付ければよいか、です。本連載はこの問いに答えるためにあります。
DX担当という仕事を教える記事が世の中にない
DXは経営課題を解決するための手段です。しかし多くの記事は「DXとは何か」「AIで何ができるか」というツールや概念の解説に偏っています。任命された担当者が直面しているのは、もっと手前の問題です。誰に何を聞き、どこから観察し、何を書き出し、何をやってはいけないのか。これらを順序立てて示してくれる記事が、ほとんどありません。本連載はその空白を埋めるためにあります。
毎週日曜日、明日からの1週間でやることを一つだけ提案する
DX担当の仕事は長期戦です。1週間で会社を変えることはできません。しかし、1週間ごとに小さな一歩を積み重ねれば、半年後には会社の見え方が変わってくるはずです。本連載は毎週日曜日に更新し、その週にやることを一つだけ提案します。完璧を目指さず、まずは月曜日に動き出せる状態を作ることを目指しましょう。
最初の1週間は「改善」ではなく「観察」が仕事
辞令を受けた直後、多くの新人DX担当が陥る誤りがあります。それは、初日から「改善案」を考え始めてしまうことです。改善は必要な仕事ですが、観察を飛ばして改善に進むと、現場と経営の双方を失望させる結果になります。
観察を飛ばした改善が現場を壊す
会社の実情を知らないまま改善案を作ると、現場で実際に動いている業務の機微を見落としてしまうでしょう。例えば、ベテラン社員が長年かけて磨いた手順を「非効率」と切り捨ててしまったり、本当の課題ではない部分にツールを当ててしまったり……。結果、現場の協力を得られず、DXは「上から降ってきた迷惑な仕事」と見なされてしまうかもしれません。DXに取り組む最初の段階で現場の信頼を失うことは、新人DX担当にとって大きなつまづきです。
「知らないまま改善する」のが一番危険
「知らないこと」自体は問題ではありません。新人DX担当が会社のすべてを把握していないのは当然です。問題なのは、知らないまま動いてしまうことです。最初の1週間は、知らないことを認め、知るための時間に使いましょう。これが後の判断精度を支えます。
観察対象は「会社・現場・人」の3つに分ける
観察対象は3つに整理して考えます。第1に会社(経営層が何を期待しているか)、第2に現場(どの業務が忙しく、どこに紙が残っているか)、第3に人(ベテラン社員が何に困っているか)です。次の章から、それぞれの観察方法を具体的に示します。
今週やること①:社長に15分もらい、期待を聞く
最初に確保すべきは、経営層との対話の時間です。1時間も2時間もいりません。15分で十分です。
なぜ社長との対話が最初なのか
DXは経営課題を解決するための手段です。経営課題が言語化されていないまま動くと、効率化だけを追求したツール導入が目的化してしまうかもしれません。それでは、経営課題の根本的な解決にはならないのです。
社長がDXに何を期待しているのか、DXを推進した結果どのような成果を得たいのかを、社長本人の言葉で聞き出すことが、すべての出発点になります。任命の理由を本人の口から聞くだけでも、自分が担う役割の輪郭が見えてきます。
聞くべき5つの質問
社長との15分では、以下の質問をぶつけてみてください。
- DX担当に任命した理由は何か
- 3年後、会社をどんな状態にしたいか
- 現在、最も気になっている経営課題は何か
- 予算と意思決定の権限はどこまで任せてもらえるか
- 中間報告はどのくらいの頻度で行えばよいか
これらをメモに残し、後で文章化します。社長の言葉のニュアンスまで記録しておくと、後の方針判断で迷ったときの羅針盤になります。
なお、社長の許可が得られれば、対話の様子をボイスレコーダーなどで録音しておき、後でAIを使って要約したテキストに起こしても構いません。ボイスレコーダー×AIの活用は、会話に集中する姿勢を作るのにも役立ちます。
聞いてはいけない質問
逆に、初回ヒアリングでは「何のツールを入れますか」「AIで何をしますか」と聞いてはいけません。DXによる具体的な施策案を経営層が持っていることは少なく、仮に答えを引き出せても、それは仮説に過ぎません。手段は後から決めるものです。手段から入ると、あとで「思っていた話と違う」という擦れ違いが起きてしまうリスクもはらんでいます。まずは、フラットな段階で現状の課題を聞き出し、その対応策はあとから考えても問題ありません。
今週やること②:現場を30分歩く
社長との対話が終わったら、椅子から立ち上がって現場へ向かいましょう。資料を読むより、まず歩きます。課題も解決策のヒントも、すべて現場に転がっているのです。
30分歩くだけでわかること
オフィスや工場、店舗を30分歩くだけで、紙の量、人の動き、机の上の散らかり具合、誰がどこで電話しているかが見えてきます。社内システムの画面を覗かせてもらうのも良いでしょう。ただし、闇雲に現場を歩くだけでなく、「資料は何で作っていますか」「この紙はどこへ流れますか」と現場の担当者に聞きながら歩くことを意識しましょう。
一番忙しい部署を特定する
歩きながら、明らかに人が動き回っている部署、電話が鳴り続けている部署、紙が積まれている部署を探します。そこが課題の宝庫であり、後の改善の起点になります。最初の1週間では「目星をつける」だけで十分です。改善案はまだ作りません。
紙で運用されている業務をリストアップ
歩きながら気づいた紙業務をメモします。
- 受発注伝票
- 勤怠管理
- 申請書
- 報告書
- 議事録など
仮に、一部の業務で紙対応が残っていたとしても、必ずしも悪ではありません。慣習・法令・取引先の都合・現場のITリテラシーなど、紙のまま運用されている理由を把握すれば、改善の優先順位が判断できます。
今週やること③:ベテラン社員に「困りごと」を聞く
会社の実態を一番知っているのは、長年現場で働いてきたベテラン社員です。彼らの言葉は、どんな資料よりも具体的で価値があります。
ベテラン社員へのヒアリングの基本姿勢
まずは、各部署のベテラン社員とヒアリングの時間を設け、ゆっくりと対話を試みます。ただし、ヒアリングの段階ではまだ改善案を出す必要はありません。「困っていることはありますか」「日々の業務で時間を取られているのは何ですか」と相手の話を聞くことに注力し、部署の課題をできる限り丁寧にピックアップします。1人あたり20分から30分、初週で3人ほど話せれば十分です。
聞き出す3つの観点
ベテランから聞き出したいのは次の3点です。
- 過去にやってみたが続かなかった改善の経緯
- 紙やExcelで運用している理由と、変えにくい背景
- 「あの仕事さえなくなれば楽になる」と感じている業務
過去の失敗経験は、新人DX担当が同じ轍(てつ)を踏まないための情報源です。ベテランの言葉を尊重する姿勢を見せることで、後のDX推進で協力を得やすくなります。
改善案を出さない我慢が後で効く
ヒアリング中に「こうすればいいのでは」と思っても、その場で口に出すのは控えましょう。新人DX担当が初日から提案すると、ベテランは「またか」と心を閉ざしてしまうかもしれません。最初の段階では「聞く」だけに徹します。提案するタイミングは、観察を終え、社長と合意した方針が固まってからです。
今週やること④:使っているシステムを書き出す

最後に、社内で使われているITシステムを一覧化します。これがIT資産の見える化の最初の一歩です。
IT資産の「見える化」はDXの前提
どんなシステムが、いつから、誰のために動いているか。契約は誰が結び、毎月いくら払っているか。これらが見えないままDXを進めると、二重投資や契約放置が起きます。経済産業省は2025年5月に『レガシーシステムモダン化委員会総括レポート』を公表し、いわゆる「2025年の崖」を一区切りつけたうえで、レガシー刷新を継続課題として位置づけました。中小企業でも、自社のIT資産を把握しないまま新しいツールを入れることは、コストとセキュリティの両面でリスクになります。
初週はシンプルな一覧で十分
最初から完璧な棚卸表は作れません。紙でもExcelでもよいので、以下の項目を埋める一覧を作りましょう。
| 項目 | 記入内容の例 |
|---|---|
| システム名 | 販売管理システム、会計ソフト、勤怠管理など |
| 主な利用部署 | 営業部、経理部、人事部など |
| 契約形態 | パッケージ買い切り、SaaS月額、自社開発など |
| 月額または年額費用 | おおよその金額 |
| 利用開始時期 | 把握できる範囲で |
| 利用頻度の体感 | 毎日/週次/月次/ほぼ使われていない |
この表を作るだけで、誰も使っていないSaaSや、保守切れに近いシステムが見えてきます。判断は来週以降で構いません。今週は「ピックアップする」ことが目的です。完璧を目指して止まるより、空欄ありでも前へ進めることを優先します。
出典・参照:
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。


