今週やってはいけない5つのこと
ここまでが今週やることです。逆に、今週は手を出さない方がよいことが5つあります。やってはいけない理由とセットで押さえてください。
①AI導入を考える
生成AIは魅力的ですが、何を解決するかが定まらないうちに導入を検討すると、PoC(試験運用)止まりで終わります。AIは課題が見えてから手段として検討します。先に手段を決めると、目的が手段に引きずられます。
②ツール比較を始める
ツール比較サイトを眺める時間があるなら、現場を1分でも長く歩いた方が学びがあります。ツールは課題の定義の後に選びます。比較表を作ることが仕事になってしまうと、本来の観察時間が失われます。
③システム会社へ相談する
社外のシステム会社へ相談すると、相手は売れる商品を提案します。それが悪いわけではありませんが、自社の課題が固まっていない状態で相談すると、ベンダー主導でDXが進んでしまい、自社では全体像が見渡せなくなってしまいます。相談は自社の方針が固まってからで構いません。
④改善案を作り始める
改善案は観察の後で作ります。1週間でわかったことなど限られていますから、提案資料を作るのは早すぎます。早すぎる提案は、根拠の薄さを露呈させ、後の説得力を弱めます。
⑤「DXしましょう」と社内へ宣言する
任命された直後に全社へDX宣言を出すと、現場は構えてしまうでしょう。場合によっては、「何かやらされるらしい」という空気が広がり、ヒアリングも進まなくなってしまうかもしれません。宣言は中期計画ができた段階で十分ですので、最初は静かに観察するのが定石です。
公的資料は「存在を知る」だけで今週は十分
DX担当として知っておきたい公的フレームワークがいくつかあります。ただし、初週から読み込む必要はありません。詳細は本連載の後続回で扱いますので、現段階ではその存在と概要だけ押さえておきましょう。
DX推進指標(経済産業省・IPA)
DX推進指標は、経営者と社内関係者が一緒に回答することで、現状と目標の認識ギャップを可視化する自己診断ツールです。定性指標と定量指標で構成され、経営層と現場が同じ言葉でDXを語れる状態を作るために使われます。本連載では後続回で実際の使い方を解説します。
出典・参照:
デジタルガバナンス・コード(経済産業省)
デジタルガバナンス・コードは、企業がステークホルダーへDXの取り組みを説明する際の指針です。ビジョン・戦略・成果指標・ガバナンスといった枠組みで考えを整理できるため、新人DX担当が中期計画を作るときの参考になります。現在は、2024年9月に改定された「Ver.3.0」が最新版です。
出典・参照:
デジタルスキル標準(経済産業省・IPA)
デジタルスキル標準は、全ビジネスパーソン向けのDXリテラシー標準と、DX推進人材5類型(ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティ)のスキルを定義しています。DX担当が「自分はどの役割を担うのか」「社内に誰がいて、誰が足りないのか」を考えるときの参照軸になります。
出典・参照:
中小企業のDX動向は数字で押さえる
中小企業庁の2025年版中小企業白書は、中小企業のデジタル化・DX推進状況をデータで整理しています。社長への中間報告で「業界の平均はこうです」と話す材料になります。IPAのDX動向2024では、人材確保・育成が日本企業のDXで最大の課題と指摘されています。新人DX担当が直面する人材不足の構造を、数字で確認できます。
出典・参照:
まとめ:今週は「会社を知る」ことだけに集中する
新人DX担当の初週でやることは、改善ではなく観察です。本記事の要点を改めて整理します。
- 社長に15分もらい、DXへの期待と権限・予算・報告頻度を聞きます
- 現場を30分歩き、忙しい部署と紙の業務を把握します
- ベテラン社員3人に「困っていること」を聞き、改善案はその場では出しません
- 使っているシステムを一覧化し、契約と利用頻度の体感を並べます
- AI導入検討・ツール比較・改善案作成・DX宣言は今週まだやりません
- 公的フレームワークは存在と概要だけ押さえ、詳細は後続回で扱います
月曜日の朝、デスクに着いたらまずノートを開いてください。1ページ目に「今週は会社を知る週」と書きます。その下に「社長と15分」「現場30分」「ベテラン3人」「システム一覧」と4行書けば、今週のToDoリストは完成です。完璧を目指す必要はありません。観察したことをメモに残しておけば、それが来週以降の改善の出発点です。
DX担当の仕事は、システムを導入することではありません。会社を理解し、現場を理解し、課題を見つけ、改善を積み重ねることです。DXは目的ではなく、経営課題を解決するための手段です。この出発点を見失わなければ、新人DX担当でも会社に必要な変化を生み出せます。
次回は「【新人DX担当の教科書②】DX担当が最初に会うべき社内の5人」をお届けします。DX推進はとかく現場の反発を受けがちですが、キーマンを抑えておくことで円滑に進めることができるのです。
来週日曜日、またお会いしましょう。貴社の最初の1週間が、よい観察の週になりますように。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。
