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【第1回】ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長CEO 鳥谷 浩志氏

製造業デジタルトランスフォーメーション(DX)の成否は、ツール導入ではなく「情報の流れの再設計」にかかっている——。そう語るのは、『製造業のDXを3Dで加速する~デジタル家内制手工業からの脱却〜(幻冬舎)』の著者で、ラティス・テクノロジー株式会社の代表取締役社長を務める鳥谷浩志氏(以下、鳥谷氏)です。
鳥谷氏は、設計部門に閉じた3Dデータを全社資産へと昇華させる構想「カジュアル3D」を掲げ、独自の軽量3DフォーマットXVLを武器に製造業の構造改革を支援してきました。同氏が必要性を指摘するのが、日本企業に根強く残る「デジタル家内制手工業」からの脱却です。
製造業の競争力を再定義する3D活用の戦略とその実装の要諦を、経営視点からインタビューしました。
【本記事の要点】
- 「デジタル家内制手工業」からの脱却: 紙図面による情報分断がDXの停滞を招いている
- 共通言語としての3Dデータ: XVLによる軽量化が、設計から現場までのプロセスを自動化する
- 経営層の役割: 変革の成功は「不満・ビジョン・最初の一歩」の掛け算で決まる
設計部門に眠る3Dデータを全社資産に:創業理念「カジュアル3D」の原点
まずは、ラティス・テクノロジーの設立意図と事業概要を教えていただけますか。
鳥谷氏

「私が28年前に当社を創業した原点は、『カジュアル3D』という構想の実現でした。当時から、3次元CADは色々な企業で導入されていましたが、その利用者は設計部門に限定されていました。そのため、実際に3Dデータに触れるのは全従業員のうちの6~7%程度に留まり、残りの93~94%にあたる、製造・生産技術、サービス、調達、営業、マーケティングなどの部門で働いている人たちの間では、依然として紙図面が主流でした。その状況は、今もほとんど変わっていません。
会社全体から見れば設計部門の人員はごく少数に過ぎません。そこで、『本来は関係者全員が3次元で仕事ができる環境を整えるべきではないか』という問題意識から生まれたのが、3Dデータを軽量化し、誰もが扱える形にする『カジュアル3D』という発想でした。そのマーケットを創造しようと創業したのが当社です。」
「カジュアル3D」の実現に向けた中核技術として、ラティス・テクノロジーが独自に開発したXVLフォーマットとはどういったものなのですか。
鳥谷氏
「XVL(eXtensible Virtual world description Language)とは、大容量の3次元CADデータを軽量化し、ネットワーク上での高速転送と大規模データの快適な閲覧を可能にするフォーマットです。
実は、3次元CADデータの軽量化には2つの利点があります。一つが、ネットワーク上でデータを軽くして転送できる点。もう一つが、大規模データをサクサク表示できる点です。当社は元々、前者を意図していたのですが、大規模データも扱えることに気づき、現在では、トヨタ自動車をはじめとする重工業、自動車、航空、造船など、多数の企業で活用されています。
このフォーマットを活用することで、組織の壁を越えてプロセスを自動化することができます。それが、まさに製造業におけるDXであると捉えています。」
2次元図面文化が生む情報分断:日本製造業DXの現在地
ラティス・テクノロジーの技術的な優位性をご説明いただきましたが、改めてお伺いします。失われた30年、35年と言われる日本。製造業におけるDXは今、どんなステージにあるのでしょうか。また、その中でラティス・テクノロジーの狙いはどこにあるのでしょうか。
鳥谷氏

「我々のターゲットは、3次元CAD 設計を行っている製造業です。それらの企業では、設計部門へのIT投資やPLM(製品ライフサイクル管理)などの領域への投資がかなり進んでいます。
ただ、日本の製造業は長年に渡り2次元図面文化で成功してきました。3次元設計をしていても、まだまだ現場では紙図面でデータや情報が流通しているというのが実状です。せっかく3次元の情報があるのに、部門を越えると情報は紙図面へと変換され、2次元と情報量が削減されてしまいます。非常にもったいない話です。ここを3次元化していくのが、我々のビジネスモデルです。」
仕事の進め方に根強い問題があるわけですね。
鳥谷氏
「結局、3次元CADの使い方を誤っている企業が多いと思います。現状は、3次元CADで設計して、CAM(コンピュータ支援製造)や3Dプリンターで形を作る、解析する、といった使い方が主流です。本来、部品表(BOM)と3Dモデルは密接に紐付くべきです。しかし、多くの企業では3次元CADモデルから作成された2次元図面と、別途管理されている部品表で代替しています。情報はデジタルで存在しても、流通経路がアナログのままでは、生産性は頭打ちになってしまいます。」
それに対して、企業の現場は課題意識を持っていないのでしょうか。
鳥谷氏
「企業によりますが、成功体験が強すぎたのではないかと思います。2次元図面で非常に成功し、『メイドインジャパンだ』『日本の製造業は世界を圧倒している』という時代が長らく続きました。それだけに、『今のやり方で問題ない』と捉える現場が多いのです。」
「デジタル家内制手工業」からの脱却:著書の核心
そうした状況下で、鳥谷社長は著書『製造業のDXを3Dで加速する〜デジタル家内制手工業からの脱却〜』を執筆されました。その意図をお聞かせください。
鳥谷氏

「本書のテーマは『デジタル家内制手工業からの脱却』です。現状、3次元CADデータは図面化され、その図面の絵を利用して作業指示書を書いたり、取説を書いたりという業務がまだ多く残っています。デジタルツールは導入されていても、切り貼りで、人手で情報をつないでいます。部門を越えるとツールが変わり、そこで扱うフォーマットも変わるからです。
見た目はデジタルでも、実態は家内制手工業です。人の手による作業がボトルネックになっている状態だと言えます。これを変えない限り、製造業のDXはできないというのが我々の実感です。ボトルネックは、設計から出てくる紙図面と現地・現物です。ならば、それらをすべて3Dモデルにすれば良いのではないかと考えました。なので、この本を通じて『設計のDXに加えてダウンストリームのDXも実現できるのではないか』と主張したかったのです。
解決策は、設計から現場、さらには現地・現物まで、統一3Dフォーマットでデータを流通させること。XVLに紙図面や現地・現物の情報を集約することで、部門横断のプロセス自動化が可能になり、製造業全体のDXを実現できます。それを広く知ってもらいたいと思い本書を執筆しました。」
鳥谷社長は、これまでに『製造業の3Dテクノロジー活用戦略』『製造業DXを3Dで実現する~3Dデジタルツインが拓く未来~』を執筆されており、さらに2024年6月に発売された『製造業のDXを3Dで加速する~デジタル家内制手工業からの脱却〜』も依然として好評です。製造業向けシリーズ3冊目となる、本書は一連の流れの中でどう位置付けられるのでしょうか。
鳥谷氏
「本書では、情報の流れをどう作るかにフォーカスしています。DXの本質は、情報の流れを作ることです。統一3Dフォーマットが流通すれば、それぞれの現場では3D活用アプリケーションを利用して、徹底的にデータを活用することができます。
『製造業DXを3Dで実現する~3Dデジタルツインが拓く未来〜』では、図面と現地・現物を3Dモデルで置き換えることで、DXを実現できることを示しました。『製造業の3Dテクノロジー活用戦略』では、このような技術がどういう背景で開発されてきたのかにフォーカスしています。」
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
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