変革成功の方程式:経営が示すべき最初の一歩とは
著書『製造業のDXを3Dで加速する〜デジタル家内制手工業からの脱却〜』で、読者に最もアピールしたいポイントをお聞かせください。
鳥谷氏
「3点あります。1つ目は、変革を成功に導く方程式です。C(変革)=D(不満)×V(ビジョン)×F(最初の一歩)>R(抵抗)。現状に対する不満、経営のビジョン、最初の一歩の3つが掛け合わさり、現場の抵抗を上回った時に変革は成功します。
C = D × V × F > R
2つ目は、3Dを体験してもらうことです。本書にはQRコードを掲載しており、スマホで実際にXVL変換した3Dデータを体験できます。
参考:https://web3d.lattice.co.jp/Web3D81/Web3D?id=3DA_Cylinder%20Block_Demo
3つ目は、早い時期にスタートすることです。3Dモデル整備には時間がかかりますが、早く取り組んだ企業が先にゴールに到達しています。」
トップの決断が変えた現場:LIXILに学ぶ実装力
著書で描かれている、「DXは1日にしてならず」「ファーストペンギンが切り開くDXへの道」などの見出しは、とても印象的でした。それらには、鳥谷社長の想いが込められているのですね。
ところで、先ほど「DX推進には時間を要する」とのお話をいただきましたが、「早く成果を導け」と現場にプレッシャーをかける経営者もいるのではないでしょうか。
鳥谷氏
「本質は、ルールを整備し、それに従ってデータを準備するプロセスを確立することです。経営者が『リスクを恐れず進めと鼓舞する』ことで、3Dだけでなくデータ管理全体が動きます。本書では、まず必要なのは、『3Dのデジタルツイン』をつくるプロセスを確立することと言っています。図面と現地・現物を置き換える3Dモデルがあると、デジタルの可能性がすごく広がります。」
経営判断が現場を変えた具体的な成功事例を教えてください。
鳥谷氏
「象徴的な事例として挙げられるのが、LIXILです。同社は従来、ショールームで営業マンがお客様に相対で説明していました。それをオンラインで、しかも3次元で可視化し、その場で見積もりも可能にしました。その結果、受注率が格段に高まったのです。
その動きはコロナ禍で加速しました。当時は、『不要不急の外出自粛』という状況下だったため、ショールームに誰も来られなくなってしまったのです。そこで、『LIXILとしてどう対策すべきか?』と考えた時、トップが『3次元の可視化システムをバーチャルショールームとして公開しよう』と決断したのです。
この時重要だったのは、3D表示そのものの実現ではなく、裏側で3Dを基盤とする商品情報の流れを作ったことです。だからこそ、即時見積もりが可能になったのです。」
完全デジタルツインで未来を制す:DX×AIが切り開く次の競争軸
現状では、鳥谷社長が目指されている「カジュアル3D」に関して、どんな手応えを感じていますか。また、今後チャレンジしたいことも教えてください。
鳥谷氏
「『カジュアル3D』は、着実に広がりつつあります。ただ、私としてはやりたいこと、やるべきことが数多くあります。実際、製造の現場では大規模で複雑なモデルがどんどん増えて来ています。それで今、工場の中の動きをデジタルで全部再現していこうとしています。
例えば、自動車産業で言えば、日本は多品種少量生産です。そのため、生産ラインでは色々な車が次から次へと流れてきます。しかも、生産ラインのタクトタイムを短くしていかないといけません。ライン検討を今までのように、2次元的に判断しているのでは問題を見落とし、実際の現場で大きな問題を起こしてしまうでしょう。
そこで、生産ラインの検討を3次元的に判断できるシステムを開発しています。複雑な工場をすべて再現し、より大きな3Dデータをより高速に動かす。バーチャルもリアルも人の動きを全部表現するといった完全なデジタルツインの世界を作ることが、今後目指すべきテーマとなってきます。
実は、今考えているテーマがもう一つあります。「3D×AI」です。生成AIは、急速に普及していますが、パブリックデータだけで差別化をするのは難しいと言わざるを得ません。競争優位性を築くには、企業固有の設計データを使うしかないのです。
その点、3D設計データは極めて独自性が高い知的資産です。そのデータに属性情報を付与し、AIと組み合わせていけば、設計最適化や自動見積、保守予測、工程シミュレーションなどが高度化します。そんなことにもチャレンジしようと思っています。」
製造業のDXへの第一歩として何に取り組むべきか、読者にご提示いただけますか。
鳥谷氏
「ほとんどの製造業は、設計部門で3Dデータを持っています。それが、設計部門以外ではどう使われているのか。そこに大きなヒントがあります。データは21世紀の資源だと言われています。今こそ、設計部門で眠る3Dデータを全社で活用することを考えるべきです。
本書をご覧いただけばわかるように、成功事例が次々と出て来ています。3Dデータを活用すれば、生産性は大幅に上がることを実感していただきたいと思います。」
日本製造業復活の条件:現場力と3Dの融合
3次元設計データの全社活用が、日本の製造業復活の鍵になるということですね。
鳥谷氏
「日本の現場力は、依然として強いと思っています。なぜなら、現場部門が設計部門と対等のデータや知恵を持っているからです。設計の3Dデータを流通させることで、現場の力をデジタルで引き出すのです。そうすれば、欧米中に対抗できる競争力を構築できるでしょう。」
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
鳥谷氏
「DXは結局、我々ベンダーが推進するものではありません。主役は企業自身です。我々は伴走者として支援することしかできないのです。我々は最先端のテクノロジーや成功事例をご紹介できるので、『一緒にチャレンジしていきませんか』とお伝えしたいです。」
取材を終えて
本取材を通じて浮かび上がったのは、DXの本質が「システム導入」ではなく「情報の流通設計」にあるという事実でした。3D化は目的ではなく、企業固有データを全社で活用するための手段に過ぎません。
印象的だったのは、変革を数式で語る鳥谷氏の姿勢です。経営の覚悟と具体的な第一歩が掛け合わさった時に初めて、現場は動きます。日本の製造業には依然として強い現場力がある。その力を3DとAIで増幅できるかどうか、今後の競争力は、そこにかかっていると痛感しました。
(DXportal®編集部:袖山 俊夫)
鳥谷 浩志氏(ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長CEO)
1983年、東京大学理学部情報科学科卒業。同年、株式会社リコー入社。同社ソフトウェア研究所にて『ソリッドカーネル DESIGNBASE』の研究開発に従事。その後、ビジネス化を指揮。1989年、東京大学より理学博士号取得。1997年、当社 技術統括部長就任。1999年10月、当社 代表取締役社長就任(現任)。
執筆者
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DXportal®編集部
DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。
