- share :
「DXシステム開発 Expo 2026」「ものづくりDX Expo 2026」「AI Innovation Tokyo 2026」
- 開催日:2026年9月3日(金)~4日(土)
- 開催場所:東京都立産業貿易センター浜松町館
- 主催者:株式会社ナノオプト・メディア
生成AIの進展により、システム開発やものづくりの現場では、担当者が自らAIを使って業務改善に取り組む動きが広がっています。一方で、開発スピードの向上は、シャドーAI(会社が把握していないAIの利用)や情報漏洩といった新たなリスクも生み出します。
製造業ではAIの性能に加え、部門やシステム間のデータ断絶が本番展開の壁となっています。現場で使えるDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するには、何から整えればよいのでしょうか。
2026年9月3日・4日に東京都立産業貿易センター浜松町館で開催された「DXシステム開発 Expo 2026」「ものづくりDX Expo 2026」「AI Innovation Tokyo 2026」では、情報基盤、現場、AIの3領域を横断するソリューションが紹介され、3100名以上が来場しました。本記事では、AIレディなデータ基盤づくりの観点から、そのヒントを紹介します。
【本記事の要点】
- AI活用が本番展開でつまずく背景には、モデルの性能だけでなく、参照するデータの欠損や重複、部門・システム間の断絶がある
- 「AIレディなデータ」とは、正確性やガバナンス、説明可能性などに加え、品質を保ち続ける運用体制までそろった状態を指す
- 全システムの刷新やデータの一箇所への集約は不要で、既存システムを生かしながら、信頼できるデータを関係性ごとつなぐ考え方が有効
- まずは業務プロセス上のデータ断絶を特定し、優先度の高い領域から段階的に整備することが、AI活用を実験から実務へ進める第一歩になる
- 展示ブースでは、AI駆動開発による内製化支援、OCRから基幹システム連携までの自動化など、現場の課題に踏み込んだソリューションが紹介された
AI活用を成果につなげる製造業のデータ基盤:「AIレディ」なデータをどう整えるか
生成AIやエージェンティックAI(自律的に判断して業務を進めるAI)の活用が進む一方、 PoC(概念実証)では成果が出ても本番展開でつまずく企業は少なくありません。その背景には、AIモデルの性能だけでなく、AIが参照するデータの品質や、部門・システムをまたぐデータの断絶があります。
製造業では、同じ製品や部品でもシステムごとにコードや定義が異なるなど、固有の複雑さを抱えています。Stibo Systems株式会社のシニアアカウント エグゼクティブ・岡田学氏は講演で、AI活用を一時的な実験で終わらせず、事業成果につなげるためのデータ基盤の考え方を解説しました。
AI投資と成果のギャップを生む「データ断絶」
AI投資が拡大する一方で、効果測定や本番展開で壁にぶつかるケースがあります。岡田氏は、その原因としてモデル性能よりも「参照するデータの欠損や重複、責任の不透明さ」を挙げました。AIへの投資を事業価値に変えるには、信頼できるデータを継続的に供給できる基盤が必要です。
特に製造業では、部門ごとの最適化によって、同じ対象でもシステムごとにコードや定義が異なることがあります。PoCでは限定されたデータを使うため成功しても、本番展開するとシステム間の断絶が表面化します。必要なのは全面的なシステム刷新ではなく、既存システムを生かしながら、同じ意味のデータを参照できる相互運用性を構築することです。
「データがある」だけではAIは使えない
AI活用で重要なのは、単に大量のデータを保有することではありません。
- 正確性
- ガバナンス(管理体制)
- コンテキスト(業務の文脈)
- 説明可能性
- アクセス性
これらに加え、品質を維持し続ける運用成熟度がそろってはじめて「AIレディなデータ」になります。
製造業では、製品、部品、サプライヤー、設備、顧客など、複数のデータ領域をつなぐことが重要です。たとえば壁掛け時計の製造でも、部品構成だけでなく、取引先、出荷先、自社担当者などの情報が相互に関係しています。AIが業務の文脈を理解するには、個々のデータだけでなく、企業固有の意味と関係性まで表現する必要があります。
代替部品や設計変更:データの関係性がAIの精度を左右
講演では、AIによる代替部品の提案がユースケースとして紹介されました。単に類似した品番を提示するだけでは、現場で採用できません。スペック、調達可否、適用条件、規制、承認履歴など、判断に必要な情報がそろい、「なぜ代替できるのか」「誰が承認したのか」を説明できて初めて、実務で使える回答になります。
もう1つの例が、PLM(製品ライフサイクル管理)とMDM(マスターデータ管理)を連携した設計変更影響の管理です。 上流での設計変更は、コストやリードタイム、許認可、販促など後工程へ波及します。
部品・製品・コスト・販売情報が結びついていなければ、AIであっても影響範囲を適切に推論することはできません。データ同士の関係性こそが、AIに業務上の文脈を与えるのです。
一箇所に集めるのではなく「信頼できるデータ」をつなぐ
岡田氏が示した「トラステッド・インテリジェンス・プラットフォーム」の考え方では、すべてのデータを一箇所に集約することを目的としません。重複排除や属性付与、標準化を行い、領域間の関係性を維持した信頼できるデータ基盤から、各システムやAIへ必要なデータを同期します。
こうした基盤整備は、AIのためだけの取り組みでもありません。検索や手戻り、二重入力といった現行業務の課題も改善できます。さらにAPI(システム同士をつなぐ仕組み)やDaaS(データをサービスとして提供する形態)経由 で正しいコンテキストを備えたデータをAIエージェントに提供すれば、判断理由や履歴も残せます。
つまり、今日のデータ課題を解決することが、将来のエージェンティックAIを安全に活用する出発点になるのです。
まずはデータ断絶を特定し、段階的に整備する
講演では、MDMを活用した海外企業の事例も紹介されました。3社の取り組みは以下のとおりです。
| 企業名 | 所在地・業種 | MDMの活用内容 | 成果・展開 |
| OfficeMax New Zealand | ニュージーランド・オフィス用品販売大手 | 新商品登録のプロセスをMDMで整備 | 新商品登録にかかる時間を6週間から2時間へ短縮 |
| Hager Group | ドイツ・電気設備大手 | グローバル共通のデータモデルとワークフローを整備 | 画像検索やテキスト生成などのAI活用へ展開 |
| Sligro Food Group | オランダ・ベルギー・食品流通大手 | 商品属性をMDMで集中管理 | 旧システムの廃止、AIによるWEBコンテンツ生成を推進 |
製造業のAI活用を成果につなげるには、モデルだけでなく、AIが参照するデータの品質、意味、関係性、承認履歴を整えることが不可欠です。とはいえ、すべての領域を一度に手掛ける必要はありません。
まずは事業プロセスの中でデータの断絶が起きている箇所を特定し、優先度の高い領域から段階的に基盤を整備することが、AI活用を実験から実務へ進める第一歩となるでしょう。
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。

