顧客がAIに聞く時代、企業のFAQは誰のために書くのか【編集部考察】

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手続きをオンライン化し、質問をFAQやチャットボットで受ける企業が増えるなかで、顧客の相談先には、自分で選んで使う生成AIも加わりつつあります。そんな時代にあって、あなたの会社のFAQや窓口は、いまも「顧客の最初の相談先」と言えるでしょうか。

手続きをオンラインで完結させ、質問はFAQやチャットボットで受ける。これは、DX(デジタルトランスフォーメーション)で窓口や電話の負担を減らす定番の進め方です。ただ、それで顧客の「ちょっと聞きたい」に答えられているのかは、画面の向こうからは見えにくいものです。

本記事では、顧客が自分で契約している生成AIに手続きのやり方を聞くようになった時代の中で、企業が公式情報を何のために、どう整えるのかを考えます。

【本記事の要点】

  • 手続きがネットで完結しても、「ちょっとした質問」は残る
  • 旧来のチャットボットの堂々巡りには改善例も出てきたが、顧客の相談先は自分で選ぶ生成AIにも広がり始めている
  • 顧客のAIは公式の答えを誤ることがあり、画面の画像には個人情報が含まれ得る
  • 企業は、公式情報を更新日・対象・条件・例外・問い合わせ先が分かる正本として保ち、本人確認や例外は窓口へ戻れるようにする

手続きがネットで完結しても、「ちょっと聞きたい」は残る

オンライン手続きと残るちょっとした質問を分けて示す二つの導線

手続きがネットで完結すれば窓口は要らず、質問はFAQやチャットボットで足りる。つまり、それだけ人的リソースが削減できるわけです。企業が手続きをネットで完結できる形へ移していくのは、こうした背景があるからです。

経済産業省の2020年度の調査では、チャットボットの導入目的は次のようなものでした。

  • 問い合わせ対応の効率化
  • 営業時間外の対応
  • 自己解決の促進

また、金融庁が公表している金融機関の計画には、非対面の手続きの拡大を前提に、店舗を統合して人員と時間を捻出する例が見られます。

私は、ネット銀行ができた当初、手続きがネットで完結するのは便利だと思いました。その反面、ちょっとした質問を電話で聞けばすぐに済むはずのことを、FAQを見たり、チャットで相談して返事を待ったりして、少なくない時間を無駄にしている印象を受けたものです。

それに、以前は堂々巡りで結局役に立たないチャットボットがよくありました。「この回答は参考になりましたか」という最後の質問に「いいえ」を付けるのも、面倒な作業に思えたほどです。

銀行の窓口の価値は、手続きを受け付けることよりも、ちょっとした質問がその場で通じることにあったのではないか。私が問い直したいのは、この点です。

金融庁の『主要行等向けの総合的な監督指針』も、有人の店舗を持たない銀行に対して、従来の店舗が担ってきた機能を別の方法や態勢で代替するよう求めています。窓口がなくなっても窓口が担ってきた機能は残る、という考え方です。

オンライン化で顧客接点を減らす前に、窓口や電話で受けている問い合わせを、「手続き」と「ちょっとした質問」に分けて見る必要があります。問い合わせの記録を2つに分類するだけで、減らしてよいものと残すものの境界が見えてきます。

出典・参照:

窓口・チャットボット・顧客のAIで、「ちょっとした質問」を比べる

窓口とチャットボットおよび顧客のAIという三つの相談先を比べる図

顧客がネットで手続きを進める途中で、1つだけ分からないことが出たとします。窓口や電話、企業のチャットボット、顧客が自分で使う生成AIのうち、その質問が一番早く解決するのはどれでしょうか。本章では、この「ちょっとした質問」という1つの場面で、企業が用意する窓口とチャットボット、そして顧客が自分で使う生成AIを比較します。

旧来のチャットボットには、堂々巡りの不満が記録されている

私の印象だけでなく、チャットボットの堂々巡りの不満は、公的な会議資料や相談現場の報告にも記録されていました。3つの資料の内容は、次のとおりです。

資料時期・対象記録されている不満
消費者庁の会議で公表されたNTTデータ経営研究所の調査2020年6月15日公表。AIを少なくとも聞いたことがある36,972人へのWEB調査の自由回答チャットボットで解決できず結局電話した、言い換えても理解されない、最初の質問に戻る、有人対応に切り替えるボタンがない
全国消費生活相談員協会の資料2025年11月7日。取引デジタルプラットフォーム官民協議会に提出された相談現場の報告問い合わせ方法が分かりにくい、機械的で一般的な回答しか得られない、FAQが問い合わせ窓口への到達を妨げる
金融庁の金融トラブル連絡調整協議会の議事録2026年6月19日。全国銀行協会からの報告「AIだけでは解決しなかった」「AIの案内が誤っていた」という趣旨の苦情

表のうち全国消費生活相談員協会の資料には、堂々巡りとは別に、FAQが問い合わせ窓口への到達を妨げるという指摘もありました。

いずれも自由回答や現場の報告です。この不満は私1人の印象にとどまらず、利用者と相談の現場で繰り返し確認されていました。

出典・参照:

顧客の相談先は、企業の外にも広がっている

最近は、役に立たないチャットボットがあまりなくなったと感じます。裏づけになる例もあります。2つの改善例は次のとおりです。ただし、対象と条件が異なるため、数値は別々に読んでください。

例対象と条件公表された数値
木更津市のシミュレーション(こども家庭庁の資料、2025年8月13日)住民役の自治体職員によるテスト。既存のチャットボットと、生成AIを用いた市職員向けの方式既存方式は271件中106件(39.0%)が解決。生成AI方式は69件中59件(85.5%)が解決
auコマース&ライフの発表(2025年5月29日、同社の自社発表)au PAY マーケットの予測型FAQの導入後と、生成AIを活用した試験予測型FAQの導入後、利用者が1.7倍超、解決率が1.2倍。生成AIの試験では、未解決率が従来比で約10%減

もう1つの変化が、顧客が自分で選ぶ生成AIです。私は、企業のチャットではなく、自前で契約しているChatGPT、Claude、Geminiのような生成AIに、手続きの方法を聞き、スクリーンショットを送るほうが、効率的にできるようになっていると思っています。

では、顧客全体ではどうなのでしょうか。内閣府の消費者委員会が2026年6月4日に公表したアンケートでは、事前調査30,001人のうち、生成AIの利用経験者は16,424人(55%)でした。利用者1,442人の用途は、「情報の検索・リサーチ」が76.4%、「悩み相談」が23.3%です。

消費者庁の長官は、2026年9月3日の会見で、消費生活相談員から「生成AIにいろいろなことを聞いたうえで相談してくる消費者がいる」と聞いていると述べました。

生成AIを情報の検索や相談に使う人は、すでに珍しくありません。ただ、顧客が最初にどこへ質問するのかは、企業からは見えません。そこで、顧客と同じ立場に立って、1つの質問が相談先ごとにどう答えられるかを確かめておくのはどうでしょう。

窓口に実際に届いた「ちょっとした質問」を1つ選びます。個人情報を含まないものに限ります。その質問を、次の4つに同じ文面で尋ねてみてください。

  • 窓口
  • FAQ
  • 企業のチャットボット
  • 顧客が使うような生成AI

答えが食い違う点や行き詰まる点が、公式情報を整える手がかりになるのではないでしょうか。

出典・参照:

顧客のAIは公式の答えを間違えることがある

誤ったAI案内は公式情報で確認し、画面の個人情報は送信前に隠す二つの対応

顧客が自分のAIに聞くことは、企業の目が届かないところで、誤った案内と個人情報の流出というリスクを生みます。便利さと同じ重さで、この2つを見ていきます。

誤った案内と、確認の必要

消費者庁の『AI利活用ハンドブック 生成AI編』(2024年5月版)は、AIがもっともらしい誤情報を出すハルシネーションを説明し、回答を鵜呑みにせず確認する必要性を示しています。同様に、金融庁の協議会の議事録にもAIの誤った情報で本来とは異なる相談先へ行った例や、制度上難しい解決を期待した例が報告されています。

外部のAIが手順を説明しても、次のことまで把握しているとは限りません。

  • 最新の画面
  • 顧客の契約の種類
  • 本人の権限
  • 例外の条件

そのため企業は、次の項目を、顧客が最新の公式情報で最終確認できる状態にしておく必要があります。

  • 最終的な条件
  • 期限
  • 必要書類
  • 手数料
  • 本人確認

同時に、誤った案内が出たときに誰の責任かという疑問も浮かぶのではないでしょうか。経済産業省の『AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き』は、責任の帰属が契約、利用形態、関与する主体などによって個別に判断されるとしています。

責任の所在は個別に判断されるため、企業が事前に備えられるのは、運用面の違いを知っておくことです。次の表は、企業の公式窓口・公式チャットと、顧客が選んだ生成AIを、4つの観点で比べたものです。

観点企業の公式窓口・公式チャット顧客が選んだ汎用の生成AI
回答の出典企業の公式情報AIが読んだ情報で、顧客から見えにくい場合がある
更新する主体企業AIの事業者と、元の情報を出した発信者に分かれる
誤答の訂正企業が訂正する訂正を求める先が見えにくい
個別判断への引き継ぎ窓口で契約や履歴を確認して引き継げる契約情報の確認や本人確認の権限を、通常は持たない

外部のAIでは、出典・更新する主体・訂正の経路が、顧客からも企業からも遠くなります。企業は、自社のチャネルの外で作られる回答を、直接は管理できません。だからこそ、企業が管理できる公式情報を、誰が読んでも取り違えにくい形で整えておくことが、現実的な備えになります。

出典・参照:

画面の画像に含まれる個人情報

企業の手続き画面は、顧客のスクリーンショットを通じて、外部のAIに渡ることがあります。その画面には、次のような情報が意図せず含まれる可能性があります。

  • 氏名、住所
  • 口座番号、残高、取引履歴
  • 顧客番号、認証情報
  • メールの通知

個人情報保護委員会は、2023年6月2日の注意喚起で、個人情報を生成AIに入力する前に、利用目的、学習への利用、出力への反映の可能性を理解して判断するよう求めています。

IPA(情報処理推進機構)のDXリテラシー標準の学習教材も、個人情報や機密情報をむやみに入力しないこと、入力したデータがAIサービスのサーバーに送られることがあること、利用規約や設定を確認することを説明しています。

入力内容や画像の取扱いは、サービスやアカウントの種類、設定によって異なり、変更されることもあります。顧客がどのAIに何を送るのかを、企業は把握も制御もできません。

企業ができることは、顧客が画面を外部のAIに送る前に、注意を促す案内を用意しておくことです。進め方は次のとおりです。

  1. 自社の手続き画面のうち、氏名や口座、認証情報が映る画面を洗い出す
  2. 洗い出した画面ごとに、「外部のサービスへ送る前に、個人情報を隠し、利用中のサービスのデータ設定も確認してください」という案内を添える場所を決める

まずは、1の洗い出しから始めましょう。

出典・参照:

企業の公式情報は、誰が読んでも取り違えにくく書く

更新日や対象と条件および例外と問い合わせ先を備えた公式情報の構成

顧客のAIが誤った案内をするリスクに対して、企業が直接手を入れられるのは、自社が公開している公式情報です。企業のチャットも、顧客のAIも、回答の手がかりにするのは、FAQやヘルプなどのこの情報だからです。そのため、AIに読まれやすくする技術を考える前に、まず公式情報そのものを誰が読んでも取り違えにくい形に整えることが求められます。

更新日・対象・条件・例外・問い合わせ先を示す

生成AIに正しく答えさせる取り組みは、元になる情報を取り違えにくい形に整えることから始まります。その事例が、観光庁の生成AI実証です。

この実証の資料は、次の2点を示しています。

  • Q&Aデータの整備が不十分で、最新情報や詳細情報が反映されていないと、生成AIの回答が抽象的になったり誤ったりしがち
  • 更新の流れと担当者を明確にする必要がある

対象はホテルの社内FAQの実証ですが、企業のFAQにも通じる指摘ではないでしょうか。

また、デジタル庁が公表している行政データの機械可読性に関するルール案(2026年3月31日)は、PDFやWordのような人が閲覧・印刷するための形式では、自動でのデータ取得や再利用が困難だと説明しています。企業のFAQや手続き案内をPDFだけで置いている場合にも通じる指摘です。

さらに、PKSHA Technology(AIソフトウェアを提供する企業)は2026年3月3日、FAQにSchema.org(検索エンジンなどが内容を読み取りやすくするための共通の記述形式)に基づく構造化データを付ける機能を発表しました。構造化は、取得しやすくする補助の手段です。第一に必要なのは、内容の正確さと更新の責任です。

3つの資料に共通するのは、技術や形式より先に、内容の正確さと更新の責任を決める必要があるという点です。そこで、FAQやヘルプには次の項目を明示し、読む人にもAIにも取り違えられないようにします。項目ごとに書く内容と、更新の元になるデータは、次のとおりです。

項目FAQ・ヘルプに書く内容更新の元になるデータ
更新日いつの時点の情報かページの更新履歴
対象どの顧客・契約が対象か商品・契約の区分表
条件手続きできる前提規程、約款
例外条件に当てはまらない場合例外対応の記録
手数料・期限費用と、いつまでか料金表、期限の管理表
次の行動手続きの次の一歩手続きの流れ図
問い合わせ先個別の確認ができる公式の窓口窓口の一覧

PDF、告知、FAQ、電話の案内で説明が食い違えば、生成AIがどれを読んでも誤りが広がりかねません。古いページや矛盾するFAQを残さず、正本を1つに決めておくことが前提になります。

出典・参照:

本人確認と例外は、公式の窓口へ戻す

本人確認や例外の判断が必要な場面では、顧客を公式の窓口へ戻す必要があります。そのため、公式のページには、次の3点を明記します。

  • 一般の案内で済む範囲
  • 個別の確認が必要になる条件
  • その場合に問い合わせる窓口

窓口を残す考え方は、公的な資料にも見られます。消費者庁の消費生活相談のデジタル化の資料(2022年)は、電話や対面の相談をなくさず、複数の窓口を併存させる設計を示しています。複雑な案件は電話に切り替え、デジタルが難しい人は人が支援するというものです。

また、同庁の『SNS相談対応マニュアル』(2022年)も、複雑な契約や詳細な聞き取りが必要な場合は、電話相談へ切り替える判断を挙げています。ただし、切り替えが遅すぎると、かえって解決が遅れ得ることにも触れています。

実際に、金融庁の相談室が2025年7月から9月に受け付けた相談は、電話が9,709件(61%)、WEBサイトが5,624件(35%)で、電話が主な経路でした。

こうして見ると、窓口の価値は同じ定型の説明を繰り返すことにあるのではなく、次のような場面にこそあるのではないでしょうか。

  • 質問の背景を聞く
  • 契約や履歴を確認する
  • 例外を判断する
  • 正式に訂正する

では、質問の種類ごとに、どの相談先が向いているのでしょうか。役割分担は、次のように整理できます。

質問の種類向く相談先公式ページに置く導線
定型で、誤っても影響が小さいFAQ・ヘルプ更新日と条件を明記する
言い方が曖昧で、意味の解釈が必要生成AI(企業のチャット、顧客のAI)回答の根拠にたどれる公式ページを示す
本人確認、例外、影響の大きい判断窓口・電話窓口へ移る条件と、準備するものを示す

役割分担の目的は、顧客が困ったまま堂々巡りをしないことと企業の負担が際限なく増えないことの両立です。したがって、窓口を残すこともAIを導入することも目的にはなりません。まずは、自社に届く質問を、この3種類に振り分けるところから始めましょう。

出典・参照:

まとめ:相談先が増えるなかで、企業が正本を持つ

手続きがネットで完結しても、顧客のちょっとした質問は残ります。その質問の相談先は、企業の窓口や電話、FAQ、企業のチャットだけでなく、顧客自身が使う生成AIにも広がり始めています。

旧来のチャットボットには堂々巡りの不満が記録され、最近は改善した例もありました。そこへ顧客の生成AIが加わり、誤った案内や画像に含まれる個人情報という、新しい論点も生まれたのです。

そのなかで企業ができるのは、公式情報を、更新日、対象、条件、例外、問い合わせ先が分かる正本として保つこと。本人確認や例外の判断は、公式の窓口へ戻れる設計にしておくことです。企業のFAQは、窓口に来る顧客だけでなく、顧客が使うAIにも読まれる前提で書かなければならない時代になっていると考えてよいでしょう。

窓口とFAQを減らす前に、手続きと相談を分けて見る。顧客が困らず、企業の負担も増えない設計を目的にして、手段を選びます。

まずは、貴社に届く「ちょっと聞きたい」を1つ選び、窓口、FAQ、企業のチャットボット、顧客が使うような生成AIに同じ文面で尋ねたとき、どこで詰まるのかを確かめてみてはいかがでしょうか。そこから、公式情報の何を正本として整えるかが見えてくるはずです。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。