スマートロック導入前に決める|賃貸管理の入室権限設計6ステップ

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内見を頼んだ仲介会社に、鍵をどう渡すか。退去の翌日に入る清掃業者に、暗証番号をいつまで有効にするか。スマートロックを入れると鍵の受け渡しは減りますが、この一件ごとの判断は誰かが先に決めておく必要があります。

機種や機能の比較だけでは、この判断は決まりません。入居者、同居人、仲介担当、清掃や修繕の業者に、誰が、いつまで、どの部屋へ入れるようにするのか。暗証番号の再発行や通信障害・停電のとき、そして契約が終わったあとの失効漏れまで、導入前の不安は尽きないのではないでしょうか。

本記事では、スマートロックで管理するのは鍵本体ではなく「入ってよいという許可(権限)」だという前提で、導入前に決める6つの項目を順に解説。最後は、決めた内容を1枚の表(権限台帳)に書き込めるところまで整理します。

【本記事の要点】

  • スマートロックで管理するのは鍵ではなく、誰が・どの扉へ・いつからいつまで・何の目的で入れるかという権限である
  • 導入前に決めるのは、利用者の区分、期限付きの付与、本人確認と再発行、入退室ログ、障害時の代替、契約終了時の失効照合の6つである
  • IPAなどの公的資料を参考に、6つの項目を順に示す
  • 6つの答えは1枚の権限台帳に落とし、契約終了データと鍵側のIDを突き合わせて失効漏れを確かめる

スマートロック導入で先に決めるのは、機種ではなく「誰がいつまで入れるか」

入室権限を「誰が・どの扉へ・いつからいつまで・何の目的で」の4要素で整理した図

スマートロックを入れると、物理的な鍵の受け渡しは減ります。それでも誰に入室を許すかという判断は、導入前に決めておく仕事として残るのです。ここでは管理の対象を権限ととらえる理由と、6つの項目の全体像を整理します。

鍵の受け渡しが減っても残る作業

これまで鍵は手渡しや郵送、キーボックスで受け渡してきました。スマートロックではこれが暗証番号やアプリの発行に置き換わります。手間は減りますが、次の判断はなくなりません。

  • 内見の予約に対して、誰にどの時間帯だけ番号を発行するか
  • 作業の依頼に対して、どの業者に作業日のどの時間だけ入室を許すか
  • 契約が終わったとき、誰の番号をいつ消すか

この判断を担当者の記憶や口頭の引き継ぎに任せる運用では、消し忘れに気づく手がかりがありません。最初の一歩は自社の物件に入る人の種類を書き出し、いまの鍵の受け渡しが誰の手間で行われているかを把握することです。

管理する対象は鍵ではなく権限

スマートロックで管理するのは、鍵本体ではありません。「誰が・どの扉へ・いつからいつまで・何の目的で入れるか」という権限です。この4つを合わせて、本記事では権限と呼びます。

IPAが公表している『入退管理システムにおける情報セキュリティ対策要件チェックリスト』は、入退管理システム(出入りを管理する仕組み)で守るべきセキュリティの条件を、起こりうる危険ごとに並べた資料です。政府機関だけでなく、自治体や民間の組織が仕組みを選ぶときにも使えます。条件に含まれているのは、たとえば次の項目です。

  • 利用者・オペレータ(操作する人)・管理者・保守員(点検や修理をする人)といった役割の区別
  • 入ってよい時間や扉の設定
  • ログ(いつ誰が出入りしたかの記録)を残すこと
  • 期限が切れた人のID(その人だけを見分ける番号や名前)が消し忘れられていないかの確認
  • 通信が切れたときなどへの対応

このチェックリストを参考に、本記事では賃貸管理で決めておくことを次の6ステップに整理しました。

ステップ決めること参考にした公的資料
1 利用者の区分誰が入るのかIPAが、利用者・オペレータ・管理者・保守員の役割の区別を挙げている
2 期限付きの付与いつからいつまで入れるのかIPAが、許可する時間や扉の設定と、期限切れ権限の削除漏れの確認を挙げている
3 本人確認と再発行番号を失ったとき、誰がどう再発行するのかIPAが、利用者の識別と認証の必要性を挙げている
4 入退室ログログを誰が、何のために見るのかIPAがログの記録を、個人情報保護委員会が個人データのアクセス制御を挙げている
5 障害・緊急時の代替止まったとき、何で入るのかIPAが、通信断などへの対応と復旧手順を挙げている
6 契約終了時の失効照合契約が終わったとき、権限は消えたのかIPAが、期限切れ権限のIDの削除漏れの確認を挙げている

出典・参照:

ステップ1:利用者を区分する

入居者・同居人、内見関係者、作業・管理担当者を入室目的別に分けた図

部屋に入る人の種類を決めないまま番号を渡すと、入る必要のない人まで入れてしまいます。これを防ぐ第一歩が、部屋に入る人を種類(区分)ごとに分けることです。

IPAのチェックリストは利用者・オペレータ・管理者・保守員という役割の区別を挙げており、賃貸管理では、これを入居者や仲介担当など現場で出会う人に置き換えるとよいでしょう。区分ごとに必要な範囲だけに権限を絞るのが基本です。次の表は、その例です。

利用者区分目的対象の扉付与条件発行者
入居者居住自室の玄関賃貸借契約の締結と、入居手続の完了管理会社
同居人居住自室の玄関契約者からの申請と、管理会社の承認管理会社
仲介担当内見の案内案内する部屋内見の予約管理会社
内見者内見案内する部屋仲介担当の同行を前提とした内見の予約管理会社
清掃・修繕業者作業作業する部屋作業の依頼管理会社
管理者点検・対応管理する物件担当者としての任命管理責任者

区分は自社の運用に合わせて増減してよいものです。たとえば物件のオーナーや緊急対応の担当者を置く会社では、その区分を加えます。大切なのは、どの区分にも入らない人には番号を渡さないという線を導入前に引いておくことです。

出典・参照:

ステップ2:契約・内見予約・作業依頼に期限をひも付ける

賃貸借契約・内見予約・作業依頼の日時を入室権限の開始と終了に結び付ける図

入れる期間を決めないまま番号を渡すと、退去した人や作業を終えた業者の番号が、そのまま使えてしまいます。これを防ぐために、区分ごとに権限の開始と終了(期限)を決めます。期限の元になるのは、鍵の設定画面に手で入力した値ではなく、すでに自社が持っているデータの日時です。

権限の元になるデータ権限の開始権限の終了
賃貸借契約入居日契約の終了日
内見の予約予約した時間帯の開始予約した時間帯の終了
作業の依頼作業の開始時刻作業の終了時刻

契約、予約、依頼のデータに物件と人物のIDをそろえておけば、開始日と終了日をそのまま権限の期限に渡せます。手入力に頼る運用では、終了の入力が漏れたときに番号が有効なまま残ります。

期限を付けただけでは運用は完結しません。番号を渡したあとの再発行やログ、止まったときの代替、契約が終わったときの確認まで決めて、はじめて一巡します。次のステップは、再発行です。

ステップ3:本人確認と再発行を統制する

本人確認、承認、旧ID停止、履歴記録の順に再発行を管理する図

暗証番号を忘れた、スマートフォンを失くした、担当者が替わった。こうした場面で番号を再発行するとき、本人かどうかを確かめないと、なりすました別の人に権限が渡ってしまいます。再発行の手順は、次の4項目で決めておくのが確実です。

決める項目内容
本人確認の方法何をもって本人とするか。連絡先への折り返しや、契約情報との照合など
再発行の承認者受付する人と、承認する人を分けるか
旧IDの停止新しい番号を出す前に、古い番号を止める順序
再発行の履歴いつ、誰が、なぜ再発行したかを残す項目

この4項目は権限台帳の項目として持たせておけば、再発行のたびに同じ手順で確認でき、履歴もそのまま残ります。

顔や指紋などの生体情報で解錠する方式を使う場合は、暗証番号と同じ扱いにしません。暗証番号のように、漏れたときに変更して再発行することが難しいためです。

認証のために数値へ変換した顔や指紋の特徴は、個人情報保護法で「その人を特定できる符号(個人識別符号)」にあたる場合があります。導入するときは、個人情報の扱い方として別に検討する必要があります。

ステップ4:入退室ログの目的・閲覧者・保存期間を決める

入退室ログの取得目的・閲覧者・保存期間・委託先管理を整理した図

入退室の記録(ログ)は、いつ誰が出入りしたかを示す記録です。トラブルのときに事実を確かめる助けになる一方で、誰でも見られる状態にしておくと、人の行動が知られてしまいます。これを防ぐには、記録の扱いを決めておく必要があります。

氏名や部屋番号と結びつけば、特定の人が分かる記録になるため、個人情報にあたります。さらに、その記録を検索できるようにまとめて管理している場合は、法律上「個人データ」とも呼ばれます。

個人情報保護委員会の『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)』は、個人データを守るための対策(安全管理措置)として、見られる人と範囲を限る仕組み(アクセス制御)や、見る人が誰かを確かめること(識別と認証)を挙げています。

そのためログは取得して終わりにせず、次の4項目を1枚の表で決めておくのが基本です。

決める項目内容
取得の目的何のために記録するか。トラブルが起きたときの事実確認など
閲覧者誰が見られるか。必要な担当者だけに絞る
保存期間目的に照らして、いつまで残すか。年数は自社で決める
委託先の管理クラウドの事業者にログを預ける場合の、委託先との取り決め

保存期間の年数は、取得の目的に照らして自社で決めるものです。IPAのチェックリストはログの記録を挙げているため、記録したログを定期的に見る担当者も、あわせて決めておきましょう。

出典・参照:

ステップ5:通信断・停電・端末故障の代替手段を決める

通信断・停電・端末故障に備え、物理的な鍵・緊急用コード・現地対応を示す図

スマートロックが止まった日に部屋へ入る方法がなければ、入居者も業者も困ります。スマートロックは、通信や電源、端末に支えられた設備だからです。IPAのチェックリストも、通信が切れたときなどへの対応と、故障から元に戻す手順を条件に挙げています。賃貸管理では、止まったときに何で入るのかを、導入前に決めておくことが欠かせません。

決める項目内容
代替手段物理的な鍵、緊急用の暗証番号、現地での対応のうち、何を使うか
現地対応誰が現地へ向かうか、連絡先はどこか
事前の確認代替手段が使える状態かを、いつ、誰が確かめるか

緊急の入室や火災などの消防への対応は、スマートロックの遠隔解錠だけに頼らないのが原則です。物理的な代替手段と現地対応の手順を別に決め、消防や設備の専門事業者にも確認しておきましょう。

ステップ6:契約終了データと鍵側のIDを突き合わせる

契約終了データと鍵側の有効IDを照合し、失効か理由を記録した保留へ分ける図

契約が終わっても番号が消えていなければ、住んでいない人が入れる状態が続きます。権限の最後は、失効(許可を無効にすること)です。IPAのチェックリストは、期限が切れた人のIDの消し忘れを確かめることを挙げています。賃貸管理では契約が終わったあとに鍵側で有効なままのIDが残っていないかを、契約のデータと照らし合わせる作業になります。

よくあるのは、退去した契約者のIDは消したのに、同じ物件の同居人、業者、一時利用者のIDが残ってしまうケースです。照らし合わせるときは、契約者のIDだけでなく、その物件で有効なIDをすべて取り出す必要があります。手順は次のとおりです。

手順内容
1契約が終了する物件の一覧を、契約のデータから抽出する
2同じ物件で有効なIDの一覧を、鍵側から出力する
3物件ごとに突き合わせ、契約者、同居人、業者、一時利用者のIDを分けて確認する
4残っているIDを、失効するか、理由を付けて保留にする
5結果と日付を、権限台帳に残す

突き合わせる項目は、次の7つです。

  • 人物のID
  • 物件と扉
  • 開始
  • 終了
  • 発行者
  • 取消の理由
  • 失効の結果

この7項目を台帳に記録すれば、失効の確認記録を残せます。あわせて、鍵側から出力した有効なIDの一覧を失効後に保存しておくと、台帳の記録が実際の処理と一致していることを後から確かめられます。

契約の終了と権限の失効は常に同時とは限りません。部屋の明け渡しや、元の状態に戻す工事(原状回復)、残された荷物の片づけが続いている間は、入室が必要な人や条件が変わります。その間の入室条件は、関係者ごとに別に確認する必要があります。そのうえで、突き合わせを行った日付と結果を残す欄を、契約終了の手続きの中に設けておきましょう。確認した日が記録に残っていれば、失効の漏れも後から追えます。

出典・参照:

まとめ:権限台帳を埋めてから機種を選ぶ

スマートロックで管理するのは、鍵ではなく権限です。冒頭の問い、つまり内見を頼んだ仲介会社に鍵をどう渡すか、退去の翌日に入る清掃業者の暗証番号をいつまで有効にするかは、この6つを決めておけば、その場の判断ではなく、あらかじめ決めた手順で答えられます。

  • ステップ1:利用者を区分する(誰が入るのか)
  • ステップ2:期限を契約・予約・依頼のデータからひも付ける(いつまで入れるのか)
  • ステップ3:本人確認と再発行の手順を決める(なりすましを防ぐ)
  • ステップ4:入退室ログの目的・閲覧者・保存期間を決める(記録の扱いを決める)
  • ステップ5:止まったときの代替手段を決める(入れなくなる事態を防ぐ)
  • ステップ6:契約終了データと鍵側のIDを突き合わせる(消し忘れを防ぐ)

6つのステップは、権限の始まりから終わりまでを一巡させる流れです。利用者を区分して誰が入るのかを決め、期限を契約や予約のデータから渡して、いつまで入れるのかを決めます。番号の再発行とログの扱いを決めておけば、渡したあとの運用が崩れません。止まったときの代替を用意し、契約終了のデータと鍵側のIDを突き合わせれば、住んでいない人の番号が残る事態を防げます。

この6つの答えは、次の項目を1枚の権限台帳に埋めると、そのまま機種を選ぶ物差しになります。「この機種は、台帳のこの項目を実現できるか」と見比べられるため、機能の多さではなく、自社の運用に合うかどうかで選べます。

台帳の項目埋める内容
利用者区分入居者、同居人、仲介担当、内見者、清掃・修繕業者、管理者など
対象の扉区分ごとに入れる部屋や共用部
付与条件と期限契約、予約、依頼のどのデータから、いつからいつまでか
発行者と再発行の承認者誰が発行し、誰が再発行を承認するか
ログの閲覧者目的と、見られる人
代替手段止まったときに何で入るか
失効の確認者と確認記録契約終了のデータと突き合わせる人と、失効後の有効ID一覧の保存先

機種の比較に入る前に、まずは自社の物件に入る人を種類ごとに書き出し、台帳の最初の列を埋めてみてはいかがでしょうか。その1列が埋まれば、残りの項目も、誰に何を決めてもらうかが見えてきます。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。