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Zoomなどのオンライン会議が当たり前になり、画面越しで足りる打ち合わせが増えました。そんな時代に、世界中から人が集まって会議をする国際会議場は、デジタル技術の活用とは逆行した、昔から変わらない営みのように思えます。街を歩いていて「会議センター」と書かれた大きな建物を見かけたとき、私はそんな疑問を持ちました。
本記事では、その建物の写真を入口に、国際会議の統計、対面とオンラインの研究、私の取材や会議での実感を材料にして考えます。結論は、集まるべきかオンラインで足りるかという優劣ではなく、会議の目的に合わせて選ぶ考え方です。
【本記事の要点】
- 写真の建物を含むパシフィコ横浜では、2024年に国際会議が64件開かれた
- 国際会議は対面に戻る一方で、ハイブリッド開催も30.4%あり、完全な回帰ではない
- 研究では、アイデアの発散は対面が有利で、選択や情報伝達はオンラインでも足りる傾向がある
- 集まる意味を一言で言えるかが、会議の形を選ぶ出発点になる
パシフィコ横浜の会議センターは、どんな国際会議の会場か
写真の建物は、パシフィコ横浜の会議センターです。この章では、写真から確認できる事実と、施設の公式情報、国際会議の実績を分けて見ていきます。
写真から確認できること
写真1に写っているのは、白色系の外壁と、横長に並ぶ窓です。外壁には、日本語の「会議センター」と英語の「CONFERENCE CENTER」の立体表示があります。窓には周辺の建物とみられる反射が見えます。撮影したのは、誰でも通れる屋外の歩行空間です。
写真2は、会議センターと周辺を広場側から写したものです。白色系の低層部の外壁に、写真1と同じ「会議センター」の表示が確認できます。その背後には、曲面を含む高層の建物が隣接して写っています。本記事で扱うのは、会議センターの表示がある低層部分です。手前には、階段や歩行者用の通路、舗装された広場と樹木が見えます。
施設の概要:開業と規模
ここからは、写真だけでは分からない部分を公式情報で見ていきましょう。横浜市の施設情報とパシフィコ横浜の公式サイトによると、会議センターの開業は1991年7月で、運営しているのは株式会社横浜国際平和会議場です。規模は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開業 | 1991年7月 |
| 延床面積 | 約3万平方メートル |
| 階数 | 地上7階・地下1階 |
| メインホール | 1,000席 |
| 会議室 | 大小あわせて約50室 |
会議センターは、パシフィコ横浜を構成する施設の1つです。パシフィコ横浜は、会議センターのほか、国立大ホール、展示ホール、アネックスホール、ノースなどを一体で配置した複合施設です。
出典・参照:
国際会議の実績:パシフィコ横浜の2024年
では、この施設はどれくらい国際会議に使われているのでしょうか。日本政府観光局(JNTO)の2024年の統計では、パシフィコ横浜で開かれた国際会議は次のとおりです。
| 項目 | 2024年の実績 |
|---|---|
| 国際会議の開催件数 | 64件 |
| 参加者総数 | 197,977人 |
JNTOが数える国際会議の条件は、次のとおりです。
- 主催が国際機関・国際団体、または国家機関・国内団体であること
- 参加者が50人以上であること
- 日本を含む3つ以上の居住国・地域から参加があること
- 1日以上の開催であること
企業の社内会議は対象外です。
パシフィコ横浜は、大学とホテルを除く国内のMICE施設(会議や展示会などを開く施設)で、国際会議の開催件数が22年連続1位だと、施設側が発表しています。
出典・参照:
国際会議は対面へ戻り、ハイブリッドも定着した
新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、ZoomなどのWEB会議ツールを使ったオンライン会議が、仕事の場で一般的になりました。その後、国際会議の形はどう変わったのでしょうか。この章では、JNTOの統計から、開催件数と開催形式の移り変わりを見ます。
開催件数:コロナ禍で急減し、2024年も2019年の半分に届かない
JNTOの基準で数えた日本国内の国際会議の開催件数は、次のとおりです。
| 年 | 開催件数 |
|---|---|
| 2019年 | 3,621件 |
| 2020年 | 222件 |
| 2021年 | 29件 |
| 2022年 | 553件 |
| 2023年 | 1,376件 |
| 2024年 | 1,702件 |
2020年から2022年に件数が少ないのは、新型コロナの流行で、海外との往来や大人数での集会が制限されていたためでした。2021年は29件まで激減し、2023年からは件数が急増しています。
それでも、2024年の1,702件は2019年の3,621件の47.0%で、件数そのものが戻りきっていません。参加者総数は124万1,049人で2019年の62.2%、外国人参加者は15万8,934人で74.5%でした。件数の回復よりも、参加者数の回復が先に進んでいます。
開催形式:ハイブリッド中心から対面中心へ
コロナ禍は、国際会議が対面だけの開催から、オンラインを組み合わせた開催へ広がる転機にもなりました。ハイブリッドとは、会場での対面開催とオンライン参加を組み合わせた形式のことです。開催形式の内訳は、次のとおりです。
| 年 | 対面 | ハイブリッド |
|---|---|---|
| 2020年 | 210件 | 12件 |
| 2021年 | 21件 | 8件 |
| 2022年 | 133件 | 420件 |
| 2023年 | 736件 | 640件 |
| 2024年 | 1,184件 | 518件 |
開催形式の比率を見ると、2022年はハイブリッドが75.9%を占め、対面を大きく上回っていました。ところが2023年には対面が53.5%と再びハイブリッドを上回り、2024年は対面が69.6%、ハイブリッドが30.4%です。ハイブリッド中心だった国際会議は、わずか2年で対面中心へ戻ったことになります。
ただし、この統計から見えてくるのは、対面開催の比率が戻ったことまでです。その原因を、人は対面を求めるから、という単一の理由では説明できないでしょう。次のように、複数の事情が重なっています。
- コロナ禍に伴う入国規制の解除
- 延期されていた会議の開催
- 会議の規模や分野の構成
もう1つ見逃せないのは、2024年でもハイブリッドが518件ある点です。国際会議は、オンラインへ全面的に移ったわけでも、すべてが対面に戻ったわけでもありません。対面に戻りつつ、オンラインを組み込む選択も残っています。
出典・参照:
対面が向く会議とオンラインで足りる会議の違い
対面とオンラインによる会議は、何がどう違うのでしょうか。この章では、研究と調査から見える違いを整理します。
アイデアの発散と選択:Nature掲載の実験が示す違い
2022年に科学誌Natureに載った研究は、約600人の実験と、5カ国・約1,500人の通信企業の技術者によるフィールド実験で、会議の形式による違いを調べました。ビデオ会議のペアは、対面のペアより、創造的なアイデアを出す数が少ない結果でした。
一方で、出たアイデアのなかからどれを採用するかを選ぶ段階では、オンラインが劣る証拠はなく、一部ではオンラインが有利だった予備的な結果もあります。ただし、対象は2人1組での特定の課題です。すべての会議や業種に当てはめることはできません。
出典・参照:
日本の会社員調査:伝達はオンライン、雑談は対面
日本の会社員を対象にした調査を見ます。リクルートワークス研究所が2021年に、3大都市圏の従業員50人以上の企業で働くデスクワーカー4,202人に尋ねたところ、情報や方針の伝達は、オンラインでも同じか、オンラインのほうが有意義だという回答が過半でした。反対に、会議の前後の会話、ちょっとした相談、雑談は、対面のほうがよいという回答が約5割以上ありました。
対面、映像、音声を目的別にうまく使い分けているという回答は28.5%です。ただし、いずれも本人の申告に基づく調査で、生産性や創造性を直接測ったものではありません。
出典・参照:
会議の目的ごとの整理
ここまでの研究と調査を、会議の目的ごとに整理すると、次のようになります。
| 会議の目的 | 研究・調査から見える傾向 | 根拠 |
|---|---|---|
| アイデアの発散 | 対面のペアのほうが、創造的なアイデアが多かった(2人1組の特定課題) | Nature(2022年) |
| 会議の前後の会話・相談・雑談 | 対面のほうがよいという回答が約5割以上 | リクルートワークス研究所 |
| 案の選択 | オンラインが劣る証拠はなく、一部では有利な予備的結果もあった | Nature(2022年) |
| 情報や方針の伝達 | オンラインでも同じか、オンラインのほうが有意義という回答が過半(本人申告) | リクルートワークス研究所 |
選択や情報の伝達は、オンラインでも対応しやすい傾向があり、移動の時間や費用を減らせる利点もあります。目的によって得手不得手が分かれる、というのが、研究から言える範囲です。
取材とブレインストーミングで感じる違い
研究と調査を見てきました。この章では、私の実感を書きます。私は取材や会議を自分で進めることがありますが、実施方法はオンライン、オフラインの両方が入り混じっています。それでも私は、基本的には人と直接会って進める会議や取材のほうが好きです。
オンラインの会議や取材は、限られた時間で必要なことだけを確認するやり方には向いています。一方で、互いのやり取りのなかから何かを生み出すような形には、向いていないと感じます。
その代表が、アイデアを求める会議、いわゆるブレインストーミングです。ブレインストーミングには決まった答えがなく、1つの話題から思考を広げることが目的です。ところが、オンラインだとなかなか話が弾みません。
取材も同じです。あらかじめ決めた質問に対する考えを聞くだけなら、オンラインで足ります。ただ、直接会うと雑談や脱線がしやすくなり、その雑談のなかから、記事の核になる話を拾い上げられることがあります。
話が本題から外れるのは、一見よくないことのようにも思えますが、そのおかげで、思わぬいい記事になることも少なくありません。こうした展開は、オンラインでは少ないと私は思っています。
その理由は、オンラインで取材や会議をすると、必要なことを伝えようとする意識が、どうしてもお互いに働くからでしょう。そのため真面目にはなるものの、時に笑いがもれるような和やかな雰囲気で進めるのは、結構難しいと感じます。対面のほうが、雰囲気が広がることは多いのではないでしょうか。
もちろん、これはあくまで私が感じる個人的な感想に過ぎません。それでも、研究が示す「アイデアの発散は対面が有利」という結果と重なる部分があり、実感と研究が同じ方向を向いていることは、私にとって興味深い発見でした。
会議場は情報を伝える場所から、集まる目的を設計する場所へ
会議のための建物は、これからどんな役割を担うのでしょうか。この章では、会議場のハイブリッド対応と、対面にかかるコストを同じ重さで見ながら、DX(デジタルトランスフォーメーション)の視点で考えます。
パシフィコ横浜の公式サイトは、オンラインやハイブリッドといった多様な会議形式に対応し、通信環境の整備、技術サポート、情報提供を行うと説明しています。同サイトによると、2020年以降に現地開催とハイブリッドの会議の実績を重ねてきたということです。
観光庁が2022年度に実施したハイブリッド国際会議の実証事業では、参加者の73%が、新型コロナの収束後もハイブリッド開催は理想的だと回答しました。
運営上の主要な論点とされたのは、常設の高速回線、専用のLAN、オンラインのプラットフォーム、そして現地とオンラインの双方向性です。
対面には、コストもあります。集まる側が負担するものは、次のように小さくありません。
- 移動の時間と交通費
- 育児や介護との両立
- 障害のある人の参加しやすさ
- 国境を越える移動のしやすさ
- 環境への負荷
オンラインで参加する人を、現地の参加者より下に置かないことも、会議の設計の一部です。
ここまでの材料から、会議場の役割は、情報を伝える場所から、集まる目的を設計する場所へ移りつつあると、私は考えます。研究や調査では、情報の伝達や案の選択はオンラインでも対応しやすい傾向があり、アイデアの発散や偶発的な会話は、集まる価値が出やすい場面と考えられます。
会議のための建物が残っているのは、デジタルが会議を不要にしたからではなく、会議を目的別に選べるようにしたからではないか。これが、写真を見て考えた私の見方です。
デジタルに任せやすいのは、情報や方針の伝達、案の選択、移動や育児・介護などの事情で集まりにくい人の参加です。一方で、人が同じ場所に集まる価値が出やすいのは、アイデアを広げる場面や、雑談から思いがけない話が生まれる場面です。
会議センターのような建物は、後者のために人が集まる場を整える場所へ、役割を移しつつあるのではないでしょうか。
DXとは、会議をオンラインにすることではありません。何をデジタルに任せ、何のために人が同じ場所に集まるかを選ぶことです。
出典・参照:
まとめ:集まる意味を決めることが会議のDXになる
街で見かけた会議センターは、オンライン会議が当たり前になった時代にも、会議のための建物が使われ続けている姿でした。国際会議は対面へ戻りつつ、ハイブリッドも30.4%残っています。
研究や調査を見ると、アイデアの発散は集まる価値が出やすい一方、選択や情報の伝達はオンラインでも対応しやすい傾向があります。これは、私が感じる実感とも同じでした。
貴社で会議を設定するとき、その会議で人が同じ場所に集まる意味を、一言で言えるでしょうか。目的、参加する人の条件、移動の費用や時間もあわせて考えたうえで会議の形を選ぶことが、会議そのものに意味を持たせることにつながるのです。
集まる意味を一言で言えるかを問うことが、会議のDXの出発点になります。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。





