ATMが増えたのに、銀行の窓口係は減らなかった

公開日 : 

share :

「ATMが増えても、銀行の窓口係は減らなかった。だから機械は仕事を奪わない」

自動化が話題になると、こんな話を耳にすることがあります。けれども、ご自身が銀行の窓口に足を運ぶ機会はどうでしょうか。昔より減ったという方もいるのではないでしょうか。そうなると、あの話は今も本当なのか、AIの時代にも当てはまるのかと気になってきます。

米国のデータでは、ATMが増えた時期に窓口係の雇用は減りませんでした。近年は、客がネットやスマートフォンを使うようになり、窓口係の減少が確かめられます。機械の登場と雇用の増減は、直結しているわけではありません。本記事では、その理由を米国と日本のデータから考えます。

【本記事の要点】

  • 米国ではATMが増えた時期に支店も増え、窓口係の雇用は減らなかった
  • 1支店あたりの窓口係は減っており、雇用を支えたのは、ATMによる運営コストの低下に規制緩和も重なった支店の増加だった
  • 窓口係は近年減っているが、背景にはATMだけでなく客が使う手段の変化もあり、機械の登場と雇用の増減は直結していない
  • 日本では窓口の仕事が入出金から相談へ移っており、雇用を左右するのは、需要の増減・客が使う手段・残る作業の設計である

ATMが増えた時期、米国の支店は増え、窓口係も減らなかった

ATMと支店の両方が1980年から2007年にかけて増えたことを、上向きの棒グラフと矢印で並べて示す図

「ATMが増えても、窓口係は減らなかった」は、本当に統計で確かめられるのでしょうか。この章では、話の出どころとされる米国の銀行のデータを見てみましょう。

ATMが約22倍に増えた間、支店も約2倍に増えた

ATMもネットバンキングも、銀行の仕事をデジタル化した具体例です。米国の連邦準備制度理事会(FRB)が公表した電子バンキング関連の表では、ATMは1980年の約1.9万台から、2007年の約41.5万台まで増えました。同じ期間に、銀行の支店も約3.9万店から約7.9万店へ増えています。

年ATMの台数支店の数
1980年約1.9万台約3.9万店
1995年約12.3万台約5.7万店
2007年約41.5万台約7.9万店

*FRBの電子バンキング関連の表(Figure 1 data)のデータを、編集部で表にまとめたものです。

ATMが急増した時期に、支店は減るどころか増えていました。

出典・参照:

都市部の支店では窓口係が20人から13人に減り、支店が43%増えた

では、支店の数は増えたものの、窓口係の雇用はどうだったのでしょうか。経済学者のジェームズ・ベッセン(James Bessen)は、国際通貨基金(IMF)の雑誌『Finance & Development』2015年3月号の論考で、ATMが1990年代半ばから急増したのに、窓口係の雇用は減らなかったと説明しています。

論考によると、都市部の平均的な支店で必要な窓口係は、1988年から2004年にかけて20人から13人に減りました。一方で、都市部の支店の数は43%増えています。ベッセンは、ATMで支店の運営コストが下がり、銀行が市場シェアを争って支店を増やしたと説明しています。

つまり、1支店あたりの人数が減っても、支店の数が増えたことで、全体の雇用は支えられたという説明です。

また、支店数の増加と、1店舗あたりの必要人数の減少に伴い、仕事の中身は、現金の処理が中心だった窓口から、顧客との関係づくりや商品の販売を含む仕事へ変わったとされています。

出典・参照:

ATMが雇用を減らさなかったとは言い切れない:支店規制の緩和も重なっていた

支店が増えた背景には、規制の変化もありました。1994年に成立した米国のリーグル・ニール法(Riegle-Neal Interstate Banking and Branching Efficiency Act)は、銀行が州境を越えて支店を展開する際の障壁を取り除きました。

このため、ATMが増えた時期に窓口係の雇用が減らなかったからといって、ATMが雇用を減らさなかったとは言い切れません。1支店あたりの窓口係は20人から13人に減っており、全体の雇用を支えたのは支店の増加でした。その支店の増加には、ATMによる運営コストの低下に加えて、規制緩和も重なっていました。

つまり、雇用を左右したのは、ATMがあるかどうかだけではなかったのです。

出典・参照:

2010年前後から米国の支店が減り、窓口係も減った

窓口と支店が増える時代から、ネットやスマートフォンを使う客が増えて支店が減る時代への変化を左右に対比した図

では、その後も米国の支店と窓口係は、減らないままだったのでしょうか。この章では、2010年前後から両者がどう変わったのかを見ていきましょう。

支店が減り、近年は窓口係も約28%減った

米国の支店の数は、2010年前後から減り始めました。米国の預金保険機関であるFDICの集計と、IMFの金融アクセス調査の2つの系列で確かめると、次のとおりです。

系列起点終点減少率
FDIC:銀行の営業拠点(banking offices)2009年 約10万カ所(ピーク)2026年 78,061カ所(10月2日時点)約2割
IMF:商業銀行の支店(本店を除く)2012年 81,798店2024年 68,436店約16.3%

*FDICの報告とBankFind Suite、IMFの金融アクセス調査(FRED)のデータを、編集部で表にまとめたものです。

窓口係の雇用も減っています。米国の労働統計局(BLS)の推計と予測は、次のとおりです。

区分期間窓口係の雇用変化
推計2018年5月から2024年5月468,470人から339,340人約28%減
予測2025年から2035年339,200人から294,500人13%減

*BLSの職業別雇用統計(2018年5月・2024年5月)と職業見通しのデータを、編集部で表にまとめたものです。

ATMが急増した期間ではなく、支店が減り始めた後の期間に、窓口係の減少が確かめられます。

出典・参照:

客が窓口に来なくなると、支店増による相殺は起きない

BLSは、窓口係の雇用が減る要因として、次の5つを挙げています。

  • オンラインバンキング
  • スマートフォンでの小切手入金
  • 来店の減少
  • ビデオ通話による窓口
  • 機能を増やしたATM

歴史的には支店の拡大が雇用を押し上げたものの、いまは支店の数と1店あたりに必要な人数の両方が減る、という見立てです。

ここまでを並べると、なぜ支店増による相殺が起きなくなったのかが見えてくるでしょう。かつてと今を比べると、次のようになります。

項目かつて(客が窓口に来る時代)今(客がネットやスマートフォンを使う時代)
客が主に使う手段窓口ネット、スマートフォン
支店の数増えた減っている
1支店あたりの窓口係ATMで減った減る見立て(BLS)
全体への影響支店が増え、人数減を打ち消せた打ち消す動きが起きない

客が使う手段が窓口から移ると、支店そのものが減ります。減った人数を打ち消す動きは、起きなくなったと考えられます。雇用の増減は、ATMという機械の登場だけでなく、客が使う手段の変化とも結びついているのです。

出典・参照:

全銀協集計ではCD・ATMも全国銀行の職員数も減っている

CD・ATMと全国銀行の職員数という別の統計がともに減少していることを、別系列として並べた図

では、日本ではどうでしょうか。米国と同じ形で確かめられるのでしょうか。日本では、国勢調査の職業分類で銀行の窓口事務員が「会計事務従事者」に含まれていた時期があり、窓口係だけの人数を長期にわたって追える公的統計がありません。そこでこの章では、窓口係を含む2つの統計を見ます。

確認できる統計:CD・ATMの台数と全国銀行の職員数

全国銀行協会の『決済統計年報』によると、ゆうちょ銀行を除くCD(現金自動支払機)・ATMの設置台数は、次のように推移しています。

時点CD・ATMの設置台数(ゆうちょ銀行を除く)
2010年9月末111,963台
2020年9月末97,895台
2025年9月末82,932台

*全国銀行協会『決済統計年報』(2010年版・2020年版・2025年版)のデータを、編集部で表にまとめたものです。

2010年から2025年までに、約25.9%減りました。日本は、米国のようなATMの増加期とは異なる局面にあります。

もう1つは、全国銀行の職員数です。全国銀行協会の『全国銀行財務諸表分析』の全国銀行の合計では、次のとおりです。

時点全国銀行の職員数
2001年3月末352,805人
2011年3月末300,243人
2026年3月末264,295人

*全国銀行協会『全国銀行財務諸表分析』(2000年度決算・2010年度決算・2025年度決算)のデータを、編集部で表にまとめたものです。

2001年から2026年までに、約25.1%減っています。この職員数は、事務系や庶務系なども含む在籍総数で、窓口係だけの人数ではありません。

出典・参照:

窓口の仕事は、入出金から相談へ比重が移っている

窓口の仕事の中身はどうでしょうか。厚生労働省の職業情報サイト「job tag」は、銀行等窓口事務の仕事について、ATMによる預入・払出・送金などの定型的な取引の自動化が進む一方で、資産形成、相続、ローン、外国為替などの個別相談の比重が高まり、専門知識や提案力が求められていると整理しています。

現金の出し入れという作業がATMに移り、窓口では相談の仕事の比重が高まる。この方向は、ベッセンが米国について説明した「現金処理から関係づくりへ」と重なります。機械が仕事に及ぼす影響は、人数だけでなく、仕事の中身の変化としても表れます。

出典・参照:

雇用を左右するもの:職名ではなく作業に分けて考える

仕事を機械で安くなる作業、需要が増えるサービス、人に委ねる判断の三つに分けて見る考え方を示す図

ATMの話から、機械と雇用の関係をどう読めばよいのでしょうか。この章では、別の自動化の例を1つ挟んだうえで、雇用を左右するものを、仕事を作業に分けて考える視点から整理します。

電話交換手の例:機械に置き換わっても、就業全体は下がらなかった

ATMよりずっと前の、電話交換手の自動化にも同様の研究がありました。米国の経済学者による研究(Quarterly Journal of Economics、2024年)は、1920年から1940年にかけて、米国の電話会社AT&Tが電話網の半分超を機械式の交換へ移した動きを調べたものです。

交換手の仕事の大半は、機械に置き換わりました。それでも、その後に働き始めた世代の就業全体は下がらず、事務職やサービス職へ吸収されています。一方で、自動化の時点ですでに交換手だった人たちは、10年後に低賃金の仕事に就いているか、働いていない確率が高いという結果でした。対象は、当時の交換手の担い手だった若い女性たちです。

ここから分かるのは、「社会全体は適応した」ことと「当時の当事者が無傷だった」ことは、別の話だということではないでしょうか。ATMの窓口係でも、職種全体の人数が保たれた期間があったことと、個々の人が別の仕事へ移れたかどうかは、別の問題として考える必要があります。

出典・参照:

職名ではなく、作業・需要・客が使う手段で考える

経済学者のデービッド・オーター(David Autor)らによる2003年の研究は、仕事を一枚岩ではなく、作業の束ととらえました。明確なルールで書ける反復作業はコンピューターが代わりに担い、決まった形のない分析や人との対応は、コンピューターと組み合わさって価値が高まることがある、という考え方です。

この見方でATMの話を読み直すと、こう整理できるでしょう。

ATMが、窓口係の仕事のうち、現金の出し入れという作業を、人手をかけずにこなせるようにする
↓
1支店を運営するのに必要な窓口係が減り、支店の運営コストが下がる
↓
コストが下がった銀行が支店を増やし、1支店あたりの人数は減っても、支店が増えている間は、全体の人数が支えられる
↓
客が使う手段が窓口からスマートフォンへ移り、支店そのものが減る
↓
人数を支える動きが起きなくなる

つまり、人数を左右したのは、機械の能力だけではなく、需要の増減と、客が使う手段と、残る作業の設計だったと考えられます。機械の登場と雇用の増減は、直結しているわけではないのです。

仕事を職名ではなく作業に分けて見ると、機械で安くなる作業(機械に任せることで、少ない人手で、低いコストでこなせるようになる作業)、需要が増えるサービス、最後まで人に委ねられる判断が見えてきます。窓口係で実際に見られた動きは、次のとおりです。

窓口係で見られた動き内容
ATMに移った作業預入・払出・送金などの定型的な取引
コスト低下と競争のもとで増えた提供拠点支店
窓口で比重が高まった仕事個別相談(資産形成・相続・ローン・外国為替など)

自社の仕事に当てはめるときは、次の3つを確かめてみるとよいでしょう。

  • その作業を機械に任せてコストが下がったとき、サービスへの需要は増えるのか、頭打ちなのか
  • 客が使う手段は、変わりつつあるか
  • 作業が機械に移った後、人に残る仕事は何か

生成AIでも、同じ見方で考えられます。国際労働機関(ILO)の推計では、世界の約4人に1人が、生成AIの影響を受けうる作業を含む職業に就いています。最も影響を受けやすい区分に入るのは雇用の3.3%で、事務の仕事が最も高い水準にあります。

ILOは、大半の職業には人の関わりが必要な作業が残るため、仕事がなくなるよりも、仕事の中身が変わる可能性が最も高いとしています。窓口係の仕事が、現金の出し入れから相談へ比重を移したのと同じ方向です。

出典・参照:

まとめ:機械の登場より、客の行動の変化が雇用を動かす

米国では、ATMが増えた時期に窓口係の雇用は減りませんでした。1支店あたりの人数は減っても、支店が増えて、全体の人数が支えられたからです。

しかし、近年は、オンラインバンキングやスマートフォンでの入金など、客が銀行を使う手段が変わり、窓口に来る客が減りました。窓口係の減少が確かめられるのは、この時期です。つまり、雇用を動かすのは、機械の登場そのものよりも、機械をきっかけに客の行動が変わるときなのではないでしょうか。

生成AIの時代にも、同じことが考えられます。貴社の仕事を、機械で安くなる作業、需要が増えるサービス、最後まで人に委ねられる判断に分け、次の3つを確かめてみてはいかがでしょうか。

  • その作業を機械に任せてコストが下がったとき、サービスへの需要は増えるのか、頭打ちなのか
  • 客が使う手段は、変わりつつあるか
  • 作業が機械に移った後、人に残る仕事は何か

職名だけを見ていたときには気づけなかった点が見えてくるはずです。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。