【新人DX担当の教科書⑬】その改善、会社のどの課題につながっている?|シーズン2最初の1週間でやること

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DX(デジタルトランスフォーメーション)担当として、現場の困りごとから始めた改善がようやく動き出した。そんなときに社長や他部署の人から「それで、会社のどの課題の解決につながっているの?」と聞かれ、言葉に詰まった経験はないでしょうか。

改善の手応えはあるのに、会社の話として説明しようとするとうまく言葉が出てこない。そのままでは、せっかくの改善が「担当者が善意でやっている活動」に見えてしまい、次に時間や人の相談をするときにも話が通りにくくなってしまうでしょう。

DXの小さな改善を1つでも形にしたあなたにとって、ここは次の段階へ進むための大事な分かれ目です。この【新人DX担当の教科書】シリーズをここまで読んできた方も、この回から読み始める方も、手元にある改善を1つ思い浮かべながら読み進めてください。

本記事では、すでにやり遂げた改善を会社の経営課題へつなぎ直し、経営者との対話の下書きをA4用紙1枚にまとめるまでの進め方を解説します。

【本記事の要点】

  • DXの最初の仕事は、新しい改善を探すことではなく、実施済みの改善を会社の課題につなぎ直すことである
  • 経営課題は担当者が考えて決めるのではなく、社長の言葉や社内の資料、数字から出所つきで拾う
  • 改善と課題を結ぶ線は確定した事実ではなく、経営者に確かめる仮説としてA4用紙1枚に残す
  • つながらない改善も失敗ではなく、位置づけを経営者に確認する出発点になる

※このシリーズのこれまでの回は、新人DX担当の教科書のシリーズページからまとめて読めます。これまでの内容を振り返りたいときにご活用ください。

DXの最初の仕事は、実施済みの改善を経営課題につなぎ直すこと

現場の改善から部門の運営、経営者との対話へつながる流れを示す図

最初にやるのは、新しい改善テーマを探すことではありません。すでにやり遂げた改善を、会社がすでに認識している経営課題へ、後からつなぎ直すことです。

これまでの改善は、現場の観察、業務の棚卸し、課題リストという現場起点の順番で進んできました。この進め方は正しいものです。ただ、現場から始めた改善は、そのままでは「会社にとって何の意味があるのか」が周りから見えにくいまま残ってしまいます。

そこで今回のねらいは、あなたが取り組んできた改善が会社のどの課題の解決につながっているのかを、社内の関係者にも説明できるようになることです。

DX担当が目指すのは、個人の改善をチームで回る運営へ広げること

これまでは、あなた自身が動いて小さな改善を形にしてきました。これからは、その個人の改善活動を、経営者や他部署の人と一緒にチームで回る運営へと広げていきましょう。

そのためには、改善の話を「自分の現場の話」から「会社の話」へ置き直す必要があります。今回つくる1枚は、その最初の足がかりです。

改善を経営課題とつなげて説明する必要がある理由

時間や人、予算の相談は、担当者の熱意だけでは通りにくいものです。社長が判断するときに見ているのは、その相談が会社の抱える課題にどう関わるかだからです。

IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2026」(2026年4月中旬〜6月中旬に調査、有効回答1,799社)には、参考になる数字があります。全社戦略に基づいて全社または一部の部門で、あるいは部署ごとに個別にDXに取り組んでいると答えた企業を集計したものです。

経営者・IT部門・業務部門の協調が「十分にできている」「まあまあできている」と答えた割合は、成果が出ている企業と出ていない企業とで、次のように大きく違いました。

DXの成果回答企業数協調が「十分にできている」「まあまあできている」と答えた割合
成果が出ている828社72.9%
成果が出ていない167社37.1%

この数字は、協調と成果に関連があることを示すもので、協調すれば成果が出るという因果関係まで示すものではありません。それでも、担当者の改善が現場の中だけで閉じず、経営者と同じ言葉で話せる状態をつくることの大切さは読み取れます。

出典・参照:

改善を経営課題へつなげる3つのステップ

入力業務の改善、確認作業の削減、部門への影響、経営者との判断を順に結ぶ4段階の図

改善を経営課題へつなげる作業は、次の3つのステップで進めます。区別する、拾う、線を引く、の順です。

改善の成果・経営課題・接続仮説の3つを区別する

最初に、混ざりやすい3つのものを分けて考えます。

区別するもの中身例
改善の成果実施した改善で、何が変わったか入力ミスが減った、確認の手間が減った、現場から楽になったという声が出た
会社の経営課題会社が困っていること、経営者が解決したいこと人手不足、利益率、納期、品質、顧客の維持
接続仮説改善が経営課題にどう寄与し得るかという見立て確認の手間が減れば、少ない人数でも繁忙期を回せる余地が生まれるのではないか

改善の成果は、改善の前と後で何が変わったかを書いたものです。入力ミスの件数のように数字で測れたものと、「楽になった」という現場の声のように数字にならないものを分け、まだ確かめていないことは「確かめていない」と書いておきます。

この整理は、本シリーズの第11回で扱いました。すでに「変わったこと」をまとめている方は、それをそのまま使えます。まだの方は、今わかる範囲を書き出すだけで十分です。

3つのうち大切なのは、3つ目の接続仮説を、確かめる前の見立てとして扱うことです。「つながっている」と言い切るのではなく、「つながる可能性がある」と書いておくようにしましょう。

経営課題は「考える」のではなく、出所つきで「拾う」

経営課題は、担当者が自分で考えて決めるものではありません。会社の課題を示すのは経営者の役割です。

経済産業省の『中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025』も、経営者がビジョンを描き、現状との差から課題を整理する流れを示しています。担当者の仕事は、経営者がすでに示している課題を拾い、確かめることです。

課題の候補は、次のようなところから拾えます。

  • 社長が朝礼や会議で繰り返している言葉
  • 経営計画や事業計画に書かれた重点方針
  • 全社会議の資料
  • 売上、利益、残業時間などの数字

拾ったときは、「どこで見聞きしたか」という出所を必ず一緒にメモしておきましょう。「人手が足りないらしい」という自分の印象と、「経営計画の重点課題に人材確保と書かれている」という事実は、同じ重さではないからです。

会社によっては、経済産業省の「ローカルベンチマーク」を使ったことがあるかもしれません。ローカルベンチマークは企業の健康診断ツールとも呼ばれ、売上や利益などの財務の数字と、経営者の考えや事業の強みといった数字にならない面の両方から、会社の現状を整理するための道具です。経営者が金融機関や支援機関と対話しながら、現状と課題を理解し合うために使われます。

会社でこの資料を作っているなら、そこには経営者自身が口にした会社の現状と課題がすでにまとまっています。経営者が認識している課題を、資料名つきの出所として拾える入口になるわけです。ただし、担当者が1人で作り直したり、診断結果を確定したりする必要はありません。

閲覧できる資料が見当たらない場合も、推測で埋めないでください。その欄は空けたまま、経営者に聞く質問として残しておけば十分です。なお、経営計画や決算の資料には社外に出せない情報も含まれます。外部のサービスに入力したり、社外の人と共有したりしないよう注意しましょう。

出典・参照:

改善から経営課題まで、途中の線を順に引く

課題の候補を拾ったら、改善とのあいだに線を引きます。いきなり「この改善で人手不足が解決する」と結ぶと、途中の飛躍が大きすぎて説得力がありません。次の4段階で、1つずつつないでいきます。

ここでは、架空の中小企業の場面で考えてみましょう。DX担当が、発注データの入力をテンプレート化した改善です。

段階中身架空の中小企業の例
1. 改善した作業実際に手を入れた作業発注データの入力をテンプレート化した
2. 直接の変化作業そのものに起きた変化入力ミスと、確認の手間が減った
3. 部門への影響部門の仕事の回り方への影響繁忙期に受注処理の残業を抑えられる余地が生まれた
4. 会社の課題経営者が解決したいこと人手が限られる中でも、受注を落とさずに業務を回す

たとえば、社長が会議で繰り返し「人が足りない」と話しているなら、この線は経営者に確かめる価値のある仮説になります。一方で、4段階を順に見ると、まだ確かめていない飛躍が2か所あることも分かります。

1つ目は、2から3へ進むところです。入力ミスと確認の手間が減ったことは、担当者が自分で確認できます。しかし、それが繁忙期の残業の減少につながるかどうかは、まだ分かりません。残業の主な原因が、入力や確認ではなく別の作業にあるかもしれないからです。

2つ目は、3から4へ進むところです。残業を抑えられる余地が生まれたとしても、それが社長のいう「人が足りない」という課題への対応になるかどうかは、社長の認識によります。社長が気にしているのが、受注を落とさないことなのか、採用や定着なのかは、担当者には決められないでしょう。

この2か所の飛躍こそが、経営者に確認したい点になります。線を引いてみると、確認すべき問いが具体的な形で見えてくるはずです。

この線を引く作業は、シリーズ第8回で学んだ「現場の言葉を会社の言葉に翻訳する」技術の応用でもあります。現場の変化を、段階を追って会社の言葉へ置き直していくイメージです。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。