経営課題につながらない改善は、失敗ではない
あなたが改善と経営課題のあいだに線を引こうとしても、どうしても会社の課題につながらない改善はあります。ただ、会社の課題につながらなかったからといって、その改善が失敗だったことにはなりません。
改善の中には、売上や利益に直接はつながらなくても必要なものがあります。たとえば、次のようなものです。
- 法令への対応
- 安全の確保
- 現場の負担を減らすこと
- 新しいやり方を学ぶための試行
こうした改善は、経営課題の一覧に書かれていなくても、会社にとって意味を持つ場合は少なくありません。
大切なのは、「つながらないから止める」と担当者が1人で決めないことです。その改善を続けるのか、維持にとどめるのか、別の根拠を集めるのかは、経営者に位置づけを確認して決めることです。つながらなかった改善は、経営者と話す出発点になります。A4用紙1枚には「つながりが見えない。位置づけを確認したい」と、そのまま書いておきましょう。
経営者との対話の下書きをA4用紙1枚にまとめる
ここまでの内容を、A4用紙1枚にまとめます。この1枚は、経営者から承認をもらうための書類ではありません。経営者と話すための下書きです。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 取り組んだ改善 | 改善を1つだけ書く |
| 確認できた変化 | 改善で変わったこと(第11回で整理した内容)。数字、現場の声、まだ確かめていないことを分けて書く |
| 経営課題の候補と出所 | 拾った課題と、どこで見聞きしたか(発言、資料名、数字) |
| 接続仮説 | 改善した作業→直接の変化→部門への影響→会社の課題の線 |
| 経営者に確認したい問い | 例:「この改善は、人手不足への対応として意味がありそうでしょうか」 |
| 次の1週間で確かめること | 確認の場で聞くこと、追加で見たい資料 |
空欄があってもかまいません。むしろ、空欄は経営者に聞くべきことがはっきりしている印です。なお、目標の数値や予算、誰が承認するかといったことは、この1枚ではまだ決める必要はありません。それらは今後の回で扱います。
始める前の確認:つまずき・チェックリスト・この1週間でやること
1枚を作り始める前に、起きやすいつまずき、確認したい項目、この1週間の行動を整理します。
よくあるつまずき
よく起きるつまずきは、2つあります。
1つ目は、経営課題を自分で作ってしまうことです。「会社の課題はきっとこれだろう」と担当者が決めてしまうと、経営者の認識とずれたまま話が進みかねません。課題は必ず出所つきで拾い、見つからなければ空欄のまま残しましょう。
2つ目は、無理に線をつなげてしまうことです。説明しやすくしようとするほど、途中の飛躍を見ないふりをしがちです。飛躍は隠さず、確かめたい点として書いておくほうが、経営者との対話は実りのあるものになります。
チェックリスト
| 確認 | 確認すること | 確認の目安 |
|---|---|---|
| □ | 取り組んだ改善を1つだけ選んだか | 複数を並べず、1枚につき改善は1つにする |
| □ | 改善の成果、経営課題、接続仮説を分けて書いたか | 3つを同じ欄に混ぜていない |
| □ | 経営課題の候補に、出所を添えたか | 発言、資料名、数字のどれかが書いてある |
| □ | 資料が見当たらない課題を、推測で埋めていないか | 見当たらない欄は、空欄か質問として残してある |
| □ | 改善から課題まで、4段階で線を引いたか | 改善した作業、直接の変化、部門への影響、会社の課題がそろっている |
| □ | 経営者に確認したい問いを書いたか | 飛躍している箇所が、問いの形になっている |
| □ | 社外に出せない情報を、外部のサービスに入力していないか | 経営計画や決算の資料を、外部のサービスや社外の人に出していない |
この1週間でやること
この1週間でやることは、次の3つです。
| やること | 具体的な内容 |
|---|---|
| 1. 課題の候補を拾う | 閲覧できる経営計画や会議資料、社長の言葉から、経営課題の候補を出所つきで書き出す |
| 2. 1枚に線を引く | 取り組んだ改善1つについて、A4用紙1枚の下書きを作る |
| 3. 確認の場を依頼する | 社長か上司に「この改善が会社の課題とどうつながるか、15分ほど確認させてもらえませんか」と短い時間をお願いする |
実際に確認するのは、翌週以降でかまいません。この1週間は、確認の場を依頼するところまでで十分です。
まとめ:改善の価値は、会社の課題との線が引けたときに説明できる
改善の価値は、会社がすでに示している課題との線が引けたときに、初めて周りへ説明できるようになります。担当者が「役に立っています」と主張するだけでは、その価値は伝わりません。そしてその線は、確定した事実ではなく、経営者に確かめる仮説です。
経営課題は自分で考えず、発言・資料・数字から出所つきで拾い、改善との接続は仮説のままA4用紙1枚に残しておきましょう。つながらない改善が見つかっても失敗ではなく、経営者に位置づけを確認する出発点になるのです。
まずは、あなたが取り組んできた改善を1つ選び、その改善が会社のどの課題につながりそうかを、1本の線で書いてみてください。その1枚が、個人の改善を会社の話へ変える最初の一歩になります。
次回の第14回は、この1枚を持って誰に会い、誰が決める人なのかを確かめます。改善を会社の取り組みとして進めるために、経営者との対話の相手と、意思決定の役割を整理していきましょう。
※【新人DX担当の教科書】シリーズの続きの回や、今回の内容とつながる過去の回は、新人DX担当の教科書のシリーズページから探せます。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。


