【GAFAMの次はどこだ?】世界の次世代覇権予想⑦フィジカルAI部門|AIが「身体」を持つ時代の覇者

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子どもの頃、鉄腕アトムやドラえもんに胸を躍らせた読者は少なくないでしょう。人間とともに生きるロボット、未来の道具が当たり前にある世界。DXportal®では以前、そうしたアニメ・漫画で描かれた未来技術が、現実のデジタル技術としてどこまで近づいているのかを考察しました。

現代は、かつて子どもの頃に夢見た世界が、AIとロボティクスによって現実の産業競争になり始めています。ロボタクシーが街を走り、ドローンが荷物を運び、ヒューマノイドが工場で働く。その未来の覇権を握るのは誰なのでしょうか。

本シリーズはここまで、AI・基盤モデルからデバイスまで、デジタル空間の覇権を見てきました。第7回で扱うのは、AIが画面の中から現実世界へ出てきたときの覇権争いです。

最強のAIモデルを作った企業ではなく、AIに「身体」を与え、現実世界で働かせる企業が、次のビッグテックになるのではないか。この観点から、実用化の現在地、正式ノミネート6社、ダークホースの順に見ていきます。

【本記事の要点】

  • フィジカルAI(現実世界を認識・判断・行動するAI)は、ロボタクシーが週間およそ40万〜50万回、配送ドローンが累計200万件超の配送を行い、ヒューマノイドが実際の自動車工場で稼働するなど、すでに実用化の段階に入っている
  • 正式ノミネート6社(Tesla、Waymo、Figure AI、Boston Dynamics、Agility Robotics、NVIDIA)は、それぞれ異なる強み(データ・商用実績・労働力化・ブランド力・現場適応・開発基盤)でフィジカルAIの覇権に近づいている
  • ダークホースの中国勢は、2026年上半期の人型ロボット出荷で世界の97%を占め、量産力そのものが競争力になるという新しい構図を示している
  • ダークホースの日本勢は、完成品のヒューマノイドではなく、産業用ロボットの制御技術と製造ノウハウへのAI融合に勝ち筋を探っている

フィジカルAIの定義と技術の現在地|実用化が始まった2026年

現実世界で動くAIと人・業務の関係を整理する説明図解

本章では、まず本記事でいう「フィジカルAI」の定義を押さえます。そのうえで、2026年現在、各技術がどこまで実用化されているかを、自動運転、配送ドローン、ヒューマノイドの順に確認します。ここまではSFではなく、すでに現実です。個々の企業の取り組みは、次章の正式ノミネート企業の項で見ていきます。

フィジカルAIの定義

本記事でいう「フィジカルAI」とは、現実世界を認識し、判断し、実際に行動するAIのことです。ここには、次のような技術がすべて含まれます。

  • ヒューマノイドロボット
  • 産業用ロボット
  • 物流ロボット
  • 自動運転車
  • ロボタクシー
  • 配送ドローン
  • 無人配送車
  • 自律機械

重要なのは、フィジカルAIを「生成AIの次に出てきた別のAI」としてとらえないことです。生成AI・基盤モデルの進化と、カメラ、センサー、ロボット制御、シミュレーション、AIチップ、ロボティクス工学が組み合わさることで、AIが現実世界で行動できるようになってきたという流れです。AIに「身体」が与えられた、と表現しても大げさではありません。ここからは、各技術についてもう少し詳しく見ていきましょう。

自動運転|ロボタクシーの商用化

自動運転は、フィジカルAIのなかで最も商用化が進んだ分野です。運転手のいない有料のロボタクシーは、すでに米国の複数都市で日常の移動手段として使われています。先行するサービスでは、週間の乗車回数が40万〜50万回規模に達し、商用展開の都市は米国内の14都市に広がっています。

運行の広がりに合わせて、ロボタクシー専用の車両も量産が始まりました。一部の都市では、監視者なしの無人走行も行われています。一方で、個人が購入できる段階にはまだなく、規制当局の承認取得も課題として残っています。

出典・参照:

配送ドローン|商用配送の拡大

配送ドローンは、食品、小売商品、医療製品を最短10分で届ける段階に入りました。専業大手のZiplineは、2026年1月までに累計200万件を超える商用配送を達成し、2026年内に少なくとも4つの新しい州へ広げる計画です。

Alphabet傘下のWingは、小売大手Walmartとの提携を軸に、2027年までに配送拠点を270超へ広げる計画を発表しています。すでに配送を始めた地域では、利用者の上位25%が週3回注文しており、配送件数は6カ月で3倍に増えました。

Walmartは2026年5月、WingとZiplineによるドローン配送が累計100万件を超えたと発表しました。対象は4州・5都市圏の66店舗で、平均配送時間は23分です。100万件のうち4割は、2027会計年度第1四半期の3カ月間だけで配送されたものでした。

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ヒューマノイド|工場・物流現場への導入

ヒューマノイドは、自動車工場や物流倉庫といった限られた現場で、実運用が始まった段階です。自動車の生産ラインや物流拠点で、継続して稼働する実績が出ています。

現在のヒューマノイド導入は、工場、倉庫、物流、単純反復作業が中心です。店舗、建設、清掃、危険作業、農業、介護補助、家庭、接客といった分野への広がりは、各社が目標として掲げている段階で、現時点の実績ではありません。技術的な課題も残っています。

これまでの実績は、いまのところ単一工程・単一拠点での継続稼働にとどまっています。ヒューマノイドは、特定作業用の機械から「何でもできる汎用労働者」へ進化できるのでしょうか。

「身体」の形|人型が先とは限らない

AIが働くために、人間の形をしている必要はあるのでしょうか。仕事ごとに、最も合理的な身体は異なります。

  • 移動:車輪を持つロボタクシー
  • 配送:空を飛ぶドローン
  • 工場・倉庫の重作業:専用アームを持つ産業用ロボット
  • 人間用に作られた職場:人の形をしたヒューマノイド

実際、ここまで見た実用化の実績を見比べると、人型でない身体のほうが先に大規模な商用化を達成しています。ロボタクシーは週40万〜50万回規模の有料乗車を提供し、配送ドローンは専業大手だけで累計200万件を超えました。

一方のヒューマノイドは、特定の工場・拠点での継続稼働が実績の中心です。人間の形をしていることは、強みなのでしょうか。それとも、必ずしも必要のない制約なのでしょうか。

正式ノミネート6社|現実世界の覇権を狙う企業

現実世界で動くAIと人・業務の関係を整理する説明図解

本部門の正式ノミネートは、Tesla、Waymo、Figure AI、Boston Dynamics、Agility Robotics、NVIDIAの6社です。

Tesla:自動車のデータを人型ロボットへ展開する戦略

Teslaは、2026年2月にロボタクシー専用車「Cybercab」の生産第1号車が完成し、4月からギガファクトリー・テキサスで連続生産が始まりました。100台超の車両がテキサス州のギガファクトリー周辺や全米40以上の都市での試験走行で確認されており、オースティン、ダラス、ヒューストンでは監視者なしの無人ロボタクシー走行も実施されています。最終的には年間200万台という量産目標を掲げていますが、一般消費者向けの販売開始は2027年を予定しています。

Teslaが握るのは、自動運転とヒューマノイドの両方です。ヒューマノイド「Optimus」も2026年内の量産開始を目指しています。CEOのイーロン・マスク(Elon Musk)は「CybercabもOptimusも、ほぼすべてが新しい取り組みであり、初期の生産ペースはひどくゆっくりで、その後一気に速くなる」と述べ、量産初期の難しさを認めています。

同社の最大の強みは、自動車で蓄積してきた膨大な現実世界データとコンピュータービジョン技術です。最大のリスクは、規制当局の承認取得というボトルネックが残っている点です。自動車で培ったAIと現実世界データを、人型ロボットへ横展開できるかが問われています。

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Waymo:「運転」という仕事を完全自動化した企業

Waymoは、2026年時点で週間およそ40万〜50万回の有料ロボタクシー乗車を提供しており、2026年内に週間100万回を超えることを目指しています。2024年5月時点の週5万回から、わずか2年ほどで10倍という成長です。2026年9月1日にはデンバー、サンディエゴ、タンパで正式に公共向けサービスを開始し、米国内の商用展開都市は14都市に拡大しました。

年内には海外での初展開を含め、約20都市で運行・実証を行う計画です。車両は「Jaguar I-Pace」に加え新型ミニバン「Ojai」を投入し、車両数は4000台を超えています。

Waymoが握るのは、フィジカルAIをすでに商用サービスとして成立させているという実績そのものです。親会社AlphabetのAI・データ基盤との連携も強みです。最大のリスクは、車両の量産・拠点展開のペースが、需要の伸びに追いつけるかという点にあります。

フィジカルAIの覇権は、汎用ヒューマノイドではなく、「運転」という巨大な仕事を完全自動化した企業から始まる可能性があります。

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Figure AI:ロボットを「労働力」として販売する事業モデル

Figure AIは、独BMWのスパルタンバーグ工場で実績を積み重ねています。前世代のFigure 02は、2025年までの10カ月間でBMW X3の3万台超の生産を支援しました。後継のFigure 03は2026年6月30日に同工場へ到着し、部品を仕分けてシーケンシングトロリーへ積み込む物流工程を担当しています。

Figure AIが握るのは、ヒューマノイドを研究室から実際の労働現場へ移した実績です。最大の強みは、BMWという量産自動車工場での継続稼働という、派手さより信頼性を積み上げてきた点にあります。最大のリスクは、この成功を他社・他工場へどこまで水平展開できるかでしょう。

評価軸は「踊れる・走れるロボット」ではなく、毎日長時間、壊れず、同じ現場で働けるかどうかです。ロボットを「商品」ではなく「労働力」として販売できるかが、この企業の将来を左右します。

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Boston Dynamics:「世界一有名」から「世界最大」への転換

Boston Dynamicsが握るのは、長年培ってきたロボティクスの象徴的なブランド力です。2026年1月、韓国Hyundai傘下のもとでCES 2026にあわせ、量産仕様の新型Atlasを発表し、同社ボストン本社での生産をただちに開始しました。2026年の出荷はすべて、HyundaiのロボティクスメタプラントアプリケーションセンターとGoogle DeepMindに割り当てられています。

Hyundaiは2026年、FIFAワールドカップ関連の広告キャンペーン「School of Football」にAtlasを起用するなど、ブランド力を活かした展開も進めています。最大のリスクは、研究デモとしての知名度の高さに対し、商用顧客基盤がまだ限定的な点です。世界一有名なロボット企業は、本当に世界最大のロボット企業になれるのでしょうか。

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Agility Robotics:人型にこだわらない実務適応型の設計

Agility Roboticsが握るのは、派手さより実際の仕事への適応を重視した設計です。ヒューマノイド「Digit」は身長約175cm、重量約73kgで、床から高い棚まで届く逆向きの膝(鳥の脚のような形)を持ちます。手は、重いプラスチック容器をつかむことに最適化されています。人間用に作られた通路、棚、工具、作業場をそのまま利用できれば、ヒューマノイドは必ずしも人間と同じ外見である必要はありません。

最大の強みは、実際の顧客のもとで働いている実績です。2024年6月に物流大手GXOと結んだ複数年契約を、同社はヒューマノイドの「業界初の正式な商用導入」と位置づけています。Digitは、協働ロボットから容器を受け取ってコンベヤーへ置く作業を担っています。GXOのジョージア州フラワリーブランチ拠点では2024年6月から稼働を続け、2025年11月には搬送したトートの数が10万個という節目を超えました。顧客にはGXOのほか、Amazon、Toyota Motor Manufacturing Canada、Schaeffler、Mercado Libreが名を連ねます。

最大のリスクは、用途の広がりに時間がかかる点です。CEOのペギー・ジョンソン(Peggy Johnson)は、家庭向けは少なくとも10年以上先になると見ています。同社は2026年後半の完了を目指して、特別買収目的会社のChurchill Capital Corp XIとの合併による上場(評価額は約25億ドル)を計画しており、倉庫・工場という現場を1つずつ広げていくには、資金と時間が欠かせません。

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NVIDIA:「ロボット版Windows」を狙う開発基盤

NVIDIAはロボット完成品メーカーではありませんが、フィジカルAI全体の共通基盤を握る可能性がある企業として正式ノミネートに含めます。

NVIDIAは、2026年5月31日、台湾で開催されたGTC Taipeiで、オープンなヒューマノイドロボットの参考設計「Isaac GR00T Reference Humanoid Robot」を発表しました。UnitreeのH2 Plusをベースの機体に、Sharpa Wave社の触覚付き五指ハンド、NVIDIA自身のJetson AGX Thor T5000という車載コンピューターを組み合わせ、シミュレーション・学習・実装までを担うIsaac GR00Tソフトウェア一式とセットで提供します。

この参考機はUnitree経由で2026年内に入手可能になる予定で、Ai2、ETHチューリッヒ、スタンフォード大学ロボティクスセンターなどが導入予定の研究機関として名を連ねています。

第3回(半導体・計算資源部門)で扱ったNVIDIAが半導体そのものの覇権を握る企業だったのに対し、本記事でのNVIDIAは、フィジカルAI開発プラットフォーム企業として評価します。最強のロボットを作る会社より、「ロボット版Windows」を作る会社のほうが強いのではないか、という問いが成立します。

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