クレディセゾン 小野和俊|社員を置き去りにしないDX・AX成功の法則【DX先進企業のキセキ⑥】

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株式会社クレディセゾン 取締役(兼)専務執行役員CDO(兼)CTO 小野 和俊氏

株式会社クレディセゾン 取締役(兼)専務執行役員CDO(兼)CTO 小野 和俊氏1

DX(デジタルトランスフォーメーション)に成功する企業と、思うような成果を上げられない企業。両者を分けるのは、最新技術の有無ではなく「組織をどう動かすか」という思想です。株式会社クレディセゾンは、2019年から内製開発を軸にDXを推進し、100を超えるシステムの内製化を実現するとともに、生成AIを活用した「CSAX戦略」へと歩みを進めています。

壮大な計画を先に描くのではなく、小さく実践して成果を積み重ね、全社へ広げる。さらに社員を置き去りにしない改革と、異文化を融合させる組織づくりを進める。同社の姿勢の中には、自社のDX・AX推進に応用できるヒントが数多く見つかるはずです。今回は、同社取締役(兼)専務執行役員CDO(兼)CTOの小野和俊氏(以下、小野氏)に、DX・AX(AIトランスフォーメーション)を成功へ導くための実践論と組織変革の本質について伺いました。 

【本記事の要点】

  • クレディセゾンは2019年から内製開発を軸にDXを推進し、100を超えるシステムの内製化と、生成AIを活用した「CSAX戦略」を展開している
  • グランドデザインを最初に描かず、小さく実践して成果を確かめながら全社へ広げる「計画しすぎない」進め方を一貫して貫いている
  • 社内公募や伴走型内製開発など、社員が「置き去りにされた」と感じさせない組織づくりに力を入れている
  • 生成AI活用は社員300人規模での検証を経て全社展開へ。地道な実績の積み重ねが、次の挑戦への信頼につながっている
  • DXを成功に導く本質は「異文化融合」と「傾聴力」にあるという、小野氏ならではの視点が語られている

最初にグランドデザインを描かず、小さな実践から最適解を見つける

小野様は2019年にクレディセゾンに入社されていますが、御社でのDXの取り組みはそれ以前から始まっていたのでしょうか。それとも小野様の入社後に本格化したのでしょうか。

小野氏

株式会社クレディセゾン 取締役(兼)専務執行役員CDO(兼)CTO 小野 和俊氏2

「それまでもまったくやっていなかったわけではありません。ただ、内製開発チームを作り、AIを全社員で使い倒すような本格的なDX、いわゆる『CSDX』(クレディセゾン独自のDX推進体制)としての取り組みは、私が入社した2019年頃から動き始めました。」 

小野様は入社されてから2年後の2021年9月に「CSDXビジョン」を提示されていますが、このタイミングで打ち出されたことには何か理由があったのでしょうか。

小野氏

「明確な理由があります。よくCDOなどが、着任時にコンサルタントのような四象限(軸を2つ設定し、物事を4つの領域に整理して分析するフレームワーク)のグランドデザインを描きますが、私はその手法を取らない方がいいと思っていました。 子供の頃からプログラミングをしていましたが、ITの専門家でもクレディセゾンの内部事情まで知っているわけではありません。組織や社員、意思決定、ITレベルの実情を見ないと、当社に最適化された解は見えてこないのです。

そこで、まずは内製化チーム8人で小さく早く動き、2年間は何に力を入れるべきかを見定める期間にしました。そうしているうちに、活動の中でアプリの改善課題などが見え、『全社で取り組むべきだ』と明確になったため、2021年に『CSDXビジョン』(デジタルトランスフォーメーション推進に向けてクレディセゾンが掲げる戦略)として打ち出したのです。」

グランドデザインを描く前にまず動き、実情を見ながら最適解を探っていったのですね。そのアプローチは、多くの企業にとって取り入れやすいヒントに見えます。こうしたプロジェクトの進め方は、入社以前から小野様の一貫したスタイルなのでしょうか。

小野氏

「そうだと思います。以前ベンチャービジネスをやっていた際も、集まったエンジニアの強みを生かして試作し、少し違うと感じたらすぐにピボットして新サービスを作りました。組織やメンバーによってやるべき最適解は変わるので、まずは動いてみてから方向性を決めたいというのは、私の昔からの傾向ですね。」

以前、「社員を置いてけぼりのDXにはしたくない」と語られていましたが、この意味合いを教えていただけますか。

小野氏

「DXは中期経営計画によく書かれますが、現場社員が『自分たちの仕事は変わらず実感がない』状態になるのは良くありません。これがまさに『社員置いてけぼり』状態です。そこで私たちは2つのレーンを設けました。経営上の優先順位でトップライン向上やコスト削減を狙う『レーン1』と、社員が『良くなった』と実感できるものを意識的に取り入れる『レーン2』です。

レーン1だけでは現場の仕事が変わらないため、レーン2をきちんと行うことが、ここでいう『社員を置いてけぼりにしない』ということです。たとえば、当時2,000人弱いたコールセンターで、現場が望みつつも高額で実現できなかった機能を、ROI計算を一度抜きにして試しに導入しました。これがレーン2の一例です。」

内製化と社内公募で育てる、ビジネスとデジタルをつなぐ組織

他社ではDX部門と事業部門の摩擦に苦労する話を聞きますが、ビジネスデジタル人材の社内公募や伴走型内製開発は見事な施策ですね。これらも小野様のアイデアでしょうか。

小野氏

「そうです。ただし、社会公募に関しては始めから方針を決めていたわけではありません。最初は技術者中心でチームを作りましたが、事業部門の方々に比べて私たちは現場や社内キーパーソンのことを知りません。ですが、走り始めて1年ほどで『中の人と一緒にやる必要がある』と気づき、総合職からの社内公募を始めたわけです。

 一方、伴走型内製開発は最初から考えていました。企画、方針決定、開発の間に多重構造を作らず、考える人と作る人が隣り合わせで進める方が絶対に効率的だからです。

『計画しすぎない』ことが私たちの重要なキーワードです。ガチガチに計画すると仮説が外れた時に一発アウトになりますからね。だからこそ私は、プロジェクトにも遊びや余白を残し、動きながら進路を見定める姿勢を重視しています。今回は、その過程で『中の人が混ざった方がうまくいく』と分かり、社内公募を始めたに過ぎません。」

計画をガチガチに固めず、あえて余白を持たせることで環境の変化にも対応できるというのは、車のハンドルの「遊び」にも通じる発想ですね。読者企業にとっても、計画に遊びを残す姿勢は取り入れる価値がありそうです。小野様がこうした考え方をお持ちになったのは、何か影響を受けたものがあったのでしょうか。 

小野氏

「これは歴史的にも言われていることです。ソフト開発者のカリスマと称されるトム・デマルコ著の『スラック』にある『ゆとりの法則』と同じ概念ですね。

よく例に出されるのが、8つの数字コマが並ぶ3×3のスライドパズルです。1マスだけ空いているからこそ、コマを動かして並び替えることができるというものですね。しかし、これをプロジェクトに置き換えて考えると、マネージャーはその空き枠を『無駄』と捉えて埋めてしまいがちです。けれど、パズルでは空き枠を埋めてしまうと、少しの変化にも身動きが取れなくなるように、プロジェクトにも余白が必要なのです。感覚としては3〜4割ほど余白を空けておいた方が、激しい環境変化にも柔軟に対応できます。そのため私たちは意図的に余白を確保するようにしています。」

*スラック:邦題『ゆとりの法則 - 誰も書かなかったプロジェクト管理の誤解』(日経BP社)

プロジェクトの「余白」の重要性を、3×3のスライドパズルになぞらえて解説した図。予定を詰め込んだ「余白なし」の状態と、3〜4割の空きを確保した「余白あり」の状態を比較し、空き枠があることで変更への対応や優先順位の見直し、柔軟な計画調整がしやすくなることを示している。

計画に余白を持たせながら、まず動いて最適解を探るという小野様の姿勢は、社内公募を通じた人材の集め方にも表れているように感じます。社内公募をした際、応募が集まるか不安はありませんでしたか。

小野氏

「ありました。そのためタイミングを非常に重視しました。『セゾンのお月玉』というサービスを改善し続け、『あのチームは面白そうだ』という社内ブランディングができたタイミングで募集を開始しました。」

*セゾンのお月玉:セゾンカードの利用金額に応じてデジタル抽選券が貯まり、月に一度の抽選で現金1万円が当たるスマートフォンアプリ施策(現在は終了)。詳細はクレディセゾン公式note「お月玉 〜内製開発の挑戦と学び〜」(https://note.saisoncard.co.jp/n/n77a0c3c0ba94)を参照。

「あのチームは面白そうだ」という社内の期待感が高まったタイミングを見計らって募集を開始されたのですね。社内公募の時期選びに悩む担当者は多いはずで、参考になる視点です。ところで、実際に募集をかけた時の反応はどうだったのでしょう。なんとなく、こうしたケースでは様子見をする社員が多いように感じるのですが。

小野氏

「いえ、むしろ逆でした。募集枠に対して3倍を超えるエントリーがあり、一斉に応募が来たのです。私的には、この結果は社内ブランディングの成果だと思っています。 」

AIは実証してから全社展開へ:CSAX戦略を支えた現場検証

2025年にCSDXビジョンの次に「CSAX戦略」を打ち出された狙いも教えていただけますか。

小野氏

「CSDX自体も継続していますが、AIの進化を受け、AIで全社の業務を変えていく方針をビジョンとして公表すべきだと考え『CSAX戦略』(「文化・意識」と「仕組み・構造」の両面からAI活用を推進し、社員がAIワーカーとして成長できる環境づくりを進める、クレディセゾンの戦略)を打ち出しました。

これもいきなり宣言したのではなく、まず社内で検証するところからスタートしました。2025年6月末からChatGPTの最上位モデル(企業版)を社内300人に使い倒してもらったのです。当社は9割が総合職なので、総合職の業務にフォーカスして実験しました。 

『まずは少人数で全力でやってみよう』と始めたところ、参加社員からは『手放せない』と声が上がり、測定したROIは954%(約10倍の投資対効果)でした。これによって総合職の仕事が変わる確認が取れたため、1ヶ月強の検証を経て、9月頭には全社導入とCSAX戦略の発表に至りました。パイロット運用で大きな手応えを得られたことが、迅速な全社導入とビジョン公表につながっています。」

御社は改革が進めやすい社風という印象を受けますが、実態として文化の違いなどをどのように乗り越えてこられたのでしょうか。

小野氏

「当社には『オープン』『フランク』『イノベーティブ』という社風が金融機関でありながら実際に根付いています。ただ、新しいものなら何でも良いというわけではありません。」

そうした企業文化を醸成するために、どのような工夫をされてきたのでしょうか。

小野氏

「『センスメイキング(腹落ち感の醸成)』を意識した工夫を各所で行っています。これは、トップだけが盛り上がり、役員や社員が冷めている状態を避けるためです。

たとえば、2025年6月末の株主総会直後、役員会議で『AIを用いた株主総会の音声ロールプレイパートナー』を試してもらいました。AIが『カード事業の見通しは?』と質問し、役員の回答に対して講評まで行うデモを見せたところ非常に盛り上がり、実際に1年後の株主総会の事務局にてAIが活用されました。

また、全社員向け説明会では、オペレーター向けの研修用AIロールプレイを現場社員にデモしてもらいました。現場で働く社員が作成したリアルなロールプレイ に会場は大いに盛り上がりました。こうしたストーリーテリングを伴う仕掛けで、腹落ち感のあるAXを実現しています。」

株主総会のロールプレイや現場社員によるデモを通じて、AI活用への納得感を社内に浸透させてこられたのですね。トップの熱意だけで終わらせず現場を巻き込む工夫は、多くの企業が参考にしたいポイントです。こうした巻き込み方を、再現性のある形で他社にも当てはめるとしたら、何がポイントになるでしょうか。

小野氏

「再現性という点で言えば、ビジョンを発案した本人自らがプレゼンし、熱量を伝えることも重要です。DXチームのメンバーを採用する社外公募時も、私自身がブログで直接発信したことで100人規模まで集まり、離職率も低く抑えられたという例もあります。採用にしても、人事に任せきりにせず、考えた本人が自分の言葉で語り実行することがポイントです。」

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