基本は、地道にステップを踏んでいくこと
入社6年半で100を超えるシステムを内製化されたとのことですが、内製化のレベル向上に手応えはありますか。
小野氏

「あります。当社では一部の機能だけでなく、クレジットカードの基幹系システムやアプリ『セゾンポータル』など、本業のど真ん中を内製化しています。もちろん、 最初から基幹系を任されたわけではなく、『セゾンのお月玉 』など小さな実績を重ねて健全性を可視化し、信頼を獲得してきた結果ではありますけど。地道にステップを踏んだ結果、止まれば事業に致命的な影響が出る核心部分まで内製化を進められました。」
小さな実績を重ねて信頼を積み上げながら、基幹系という事業の核心部分まで内製化を進めてこられたのですね。地道な歩みが大きな成果へつながる過程は、多くの企業にとっても励みになるはずです。ここまで着実に歩みを進めてこられた背景には、どのような判断基準があったのでしょうか。
小野氏
「地に足のついたやり方です。最初から大風呂敷を広げるのではなく、周りが『いけるのでは』と思える機運を醸成してから進めています。AXの全社導入も、社員300人での実験で確かな成果が出たからこそスピーディーに決定できました。」
これまで取り組んできた施策で、うまくいかなかったものはありますか。
小野氏
「要件定義の膨らみによるスケジュールのズレなどはあります。また『セゾンのお月玉 』も2年半で一定の役割を終えて発展的に解消しました。しかし、事業にクリティカルな影響を与えるような失敗はありません。」
大きな壁はなかったのでしょうか。
小野氏
「壁はないとも言えません。安全第一で基幹システムを守る情シス部門と、機動力を重視するスタートアップ出身者では『正義』が異なります。エンジニア間でも慎重派とスピード派のせめぎ合いは絶えません。それでも、お互いを理解し合えるようマネジメントしています。」
DX人材の育成については順調でしょうか。
小野氏
「公募組に加え、デジタル分野の新卒採用も始まり順調に育っています。他社が苦戦する要因は『教えられる先生役の人材』が社内にいないことだと感じます。当社は初期に質の高い人材を集められたため、ベンダー依存に陥らず自社育成が機能しています。」
リーダー層の育成も順調に進んでいるのでしょうか。
小野氏
「課題はありますね。私自身がプログラマー寄りなため、採用でもプログラミング力や設計能力を重視しすぎ、『プログラミング集団』になってミドルマネジメント層が手薄になったことは反省しています。
ただ、最初8人だったチームから部長が2〜3人、課長や係長も数十人生まれました。プログラミング力に偏った反省はあるものの、役職が人を育て、中間管理職層の育成も今は着実に進んでいます。」
DXやAIの挑戦に終わりはない

入社から今年で8年目を迎えられますが、何を変えることができ、何がまだ変えられていないのでしょうか。
小野氏
「変えられたのは、ITに強くなかった会社を間違いなく『ITに強い会社』へ劇的に変化させた点です。また、組織風土改革を進めたことも大きいです。従来の考え方(モード1)だけでは撤退を恐れて失敗できない空気になりますが、スピード感ある試行錯誤(モード2)の考えを取り入れ、心理的安全性などを発信してきました。
今では人事もこの言葉を普通に使い、文化的な発信基地として機能できたと思います。 変えられていない部分については無限にありますが、『これができていない』という決定的な課題はありません。必要だと思ったことは基本的に実行してきました。」
今後の構想や新たにチャレンジしたいことがあれば教えていただけますか。
小野氏
「この世界にゴールとなる『◯合目』という到達点はなく、挑戦に終わりはありません。 たとえば、基幹系の内製化を達成してフットワークが軽くなったと思ったら、AIの進化によりAXが始まりました。AXが進んで社員が日常的にAIを使うようになると、AIリソース(クレジット系トークン)が枯渇して他AIも併用するなど、次々と新たな課題が発生します。変化の激しい業界だからこそ『やりきった』と感じることはありません。」
「やりきった」と感じることがないからこそ、次々に新しい課題へ向き合っていけるのですね。変化を前提に動き続ける姿勢は、読者企業にとっても大きなヒントになりそうです。ところで、AIリソースの枯渇のように、今まさに向き合っている具体的な課題があれば教えていただけますか。
小野氏
「浮かんだことは既に実行しているのが実情です。当社は伝統的な日本の事業会社(JTC=ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)ですが、やり方次第で大きく変われます。内製チームの構築も、全社へのAI普及も、必要だと思ったからスピード感をもってやってきました。 次に何をやるかは、その時が必要だと感じたタイミングですぐに着手するため、私たちの今後の取り組みをご覧いただければと思います。」
DX成功の本質は「異文化融合」と「傾聴力」にある
改めてお聞きします。DXを成功に導く秘訣は何でしょうか。
小野氏
「『異文化融合』と『傾聴力』の2点に尽きます。 プロ中のプロなど外部の異分子を排除せず受け入れる文化と、入る側の姿勢の両方が噛み合うことが成功の要因です。
その基盤となるのが、Googleのエンジニアだったブライアン・W.フィッツパトリックとベン・コリンズ・サスマンが書いた書籍『Team Geek』の中で提唱している『HRTの原則』です。H(Humility:謙虚さ)、R(Respect:尊敬)、T(Trust:信頼)を意味し、自分の価値観を絶対視せず相手に謙虚さと敬意を持って接する考え方です。これらを分かりやすく言い換えたのが『傾聴力』です。
日本のDX失敗パターンで多いのは、有名な外部人材を連れてきて内製チームを作らせたものの、既存社員と衝突し、成果が出ないまま平均2.5年ほどで辞めてゼロリセットになるケースです。相手を『古い』と否定するのではなく、異なる存在であることを認識した上で謙虚さと傾聴力を持つことが、DXを成功に導く鍵だと考えています。」
*Team Geek:邦訳『Team Geek ―Googleのソフトウェアエンジニアはいかにチームを作るのか』(オライリー・ジャパン)
【取材を終えて】
DXの成功事例を取材すると、「AIを導入した」「内製化を進めた」といった施策に目が向きがちです。しかし今回のお話で最も印象に残ったのは、それらを支える考え方でした。小野氏は、一貫して「計画し過ぎない」「まず試す」「現場とともに進める」という姿勢を貫いています。
社員が改革を自分事として受け止められる環境を整え、小さな成功体験を積み重ねながら全社へ広げていく。その積み重ねが、100を超えるシステムの内製化やAI活用の全社展開という大きな成果につながっていることがよく理解できました。また、DXを阻む最大の壁は技術ではなく、人や組織、文化の違いにあるという指摘も非常に示唆的でした。
「異文化融合」と「傾聴力」という言葉には、DXを進めるあらゆる企業に共通する本質が凝縮されています。AI時代だからこそ、人と組織の在り方が競争力を左右する。そのことを改めて実感したインタビューとなりました。
DXportal®編集部
株式会社クレディセゾン 取締役専務執行役員CDO(兼)CTO 小野 和俊氏

1999年にサン・マイクロシステムズ(現Oracle Corporation)に入社し、シリコンバレー本社で開発に従事。2000年にアプレッソを起業し、DataSpiderを企画・開発。2013年にセゾン情報システムズ(現セゾンテクノロジー)と資本業務提携、同社に顧問として入社。2015年に同社の取締役。2019年にクレディセゾンにCTOテクノロジーセンター長として入社。2021年3月にCIOを兼務。2021年6月より取締役(兼)専務執行役員CTO(兼)CIOに就任。クレディセゾンのデジタルトランスフォーメーション推進を統括する。2023年3月から現職。現在はグループDX戦略、CSDX推進部、情報セキュリティ統括部、プロセシング事業部、セゾンAMEX事業部 管掌、株式会社モーションピクチャー 取締役、株式会社セゾンテクノロジー 取締役も務める。
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DXportal®編集部
DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。