変化の時代を勝ち抜く3つの戦略

目まぐるしく変化し、先行き不透明な事業環境の中で、日本の製造業が持続的な成長を遂げるためには、どのような戦略を描くべきでしょうか。最新のものづくり白書では、以下の3つの視点が重要であると提言されています。
レジリエンス:サプライチェーン強靭化と経済安全保障
コロナ禍や自然災害、地政学リスクの高まりは、グローバルに広がったサプライチェーンの脆弱性を露呈させました。特定の国や地域、あるいは特定のサプライヤーに依存するリスクを低減し、予期せぬ事態が発生しても事業を継続できる「レジリエンス(回復力、しなやかさ)」の強化は、喫緊の課題です。
具体的な取り組みとしては、調達先の多元化や国内生産拠点の確保、在庫の適正化などが挙げられます。さらに、自社の直接の取引先だけでなく、その先のサプライヤー(ティア2、ティア3)まで含めたサプライチェーン全体を可視化し、リスクを把握・管理する体制の構築が求められるでしょう。
加えて、近年重要性が増しているのが「経済安全保障」の視点です。半導体や重要鉱物、医薬品など、国民生活や経済活動に不可欠な物資の安定供給確保や、先端技術の流出防止といった観点から、サプライチェーンを見直し、管理を強化する必要性が高まっています。
政府も関連法の整備や支援策を進めており、企業としても自社の事業におけるリスクを認識し、対策を講じることが不可欠です。これらの取り組みは、有事の際の事業継続を可能にするBCP(事業継続計画)の高度化にも繋がります。
グリーントランスフォーメーション(GX):脱炭素化と企業価値向上
カーボンニュートラルの実現は、もはや単なる環境問題への対応ではなく、企業の競争力や持続可能性を左右する経営課題となっています。「グリーントランスフォーメーション(GX)」は、脱炭素化の取り組みを経済成長の機会と捉え、産業構造や社会システム全体の変革を目指す動きです。
製造業においては、自社の事業活動における省エネルギー化や再生可能エネルギーの導入はもちろんのこと、サプライヤーから顧客に至るサプライチェーン全体でのCO2排出量(Scope3)の把握と削減が求められるようになっています。こうした取り組みは、大手企業だけでなく、サプライチェーンを構成する中小企業にとっても他人事ではありません。
政府が推進する「GXリーグ」への参画や、炭素排出に価格を付ける「カーボンプライシング」制度の導入、そして前述したグリーンファイナンスの活用などを通じて、GXへの取り組みを加速させることが、将来的な規制強化への対応だけでなく、新たなビジネスチャンスの創出や企業価値の向上にも繋がるでしょう。
CX×DX:企業変革を加速する鍵
生産性の向上、ビジネスモデルの変革、そしてレジリエンスやGXの実現においても、デジタル技術の活用、すなわちデジタルトランスフォーメーション(DX)は不可欠な要素です。
しかし、日本企業、特に中小企業においては、DXへの取り組みが道半ばである、あるいは部分的なデジタル化に留まっているケースが多いのが現状です。人材不足やコスト、導入効果の不明確さなどが障壁となってるのです。
2024年版ものづくり白書では、DXを単なるデジタル技術の導入として捉えるのではなく、企業全体の変革を目指す「コーポレート・トランスフォーメーション(CX)」と連携させて推進することの重要性が強調されています。これは、デジタル技術はあくまで手段であり、それを活用して経営戦略や組織文化、業務プロセスそのものを変革していくという視点に経った考え方です。
近年注目される技術としては、以下のようなものが挙げられます。
- 生成AI:設計・開発業務の効率化、技術文書の自動作成、熟練技術者のノウハウ継承、顧客対応の高度化など、多様な活用可能性が期待される
- デジタルツイン:現実世界の設備や工程を仮想空間上に再現し、試作品製作前のシミュレーション、生産ラインの最適化、設備の予兆保全などに活用することで、開発リードタイムの短縮やコスト削減、品質向上に貢献する
- 5G/ローカル5G、Beyond 5G/6G:高速・大容量・低遅延・多接続といった特徴を活かし、スマートファクトリー化(工場内の機器の無線接続、遠隔監視・制御)、AR/VRを活用した遠隔作業支援、自動運転搬送ロボット(AGV)の高度化などを実現する
これらの先端技術を効果的に活用するためには、導入ありきではなく、自社の課題解決や目指す姿から逆算して最適な技術を選定し、導入を進めることが重要です。
また、DXの進展はサイバー攻撃のリスク増大と表裏一体です。工場システムやサプライチェーン全体を標的とした攻撃も増加しており、レジリエンス強化の観点からも、セキュリティ対策への投資は必須となるでしょう。
まとめ:持続的成長に向けたネクストステップ
本記事では、最新の2024年版ものづくり白書に基づき、現在の製造業が置かれている状況と、変化の時代を勝ち抜き持続的な成長を遂げるための3つの重要な戦略について解説しました。
業績は回復基調にあるものの、コスト増、人手不足、金利上昇といった課題は山積しています。こうした厳しい環境下においても、サプライチェーンの強靭化、脱炭素化への貢献、そしてデジタル技術を活用した企業変革に積極的に取り組むことが、将来の競争力を左右する鍵となり得るのです。
特に中小企業の皆様におかれては、「どこから手をつければ良いか分からない」と感じることもあるかもしれません。そんなときは、まずは、自社の現状と課題を正確に認識することから始めるのが良いでしょう。
その上で、すべての戦略を一度に進めようとするのではなく、優先順位をつけ、スモールスタートでDXやGXの取り組みを開始し、成功体験を積み重ねていくことが有効です。
また、自社だけで完結しようとせず、専門知識を持つ外部パートナーや地域の支援機関、あるいは同業他社との連携も積極的に検討することをお勧めします。
ものづくり白書が示す方向性は、単なるトレンドではなく、これからの製造業が生き残り、発展していくための道筋です。本記事が、貴社にとって次の一歩を踏み出すためのヒントとなれば幸いです。