自社倉庫の残業ゼロが、3PL事業への入り口になった|物流DXが生む新しい収益源

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「自社の出荷業務だけで手一杯なのに、他社の物流まで引き受けるなんて無理だ」

3PL(Third Party Logistics:サードパーティー・ロジスティクス)と聞いて、このように考える中小企業の経営者や物流責任者は多いのではないでしょうか。確かに、複数の荷主から商品を預かり、在庫を管理し、指示通りに出荷する3PL事業には、正確で安定した物流オペレーションが求められます。しかし、3PL事業への参入を左右するのは、必ずしも倉庫の大きさや従業員数だけではありません。

たとえば、自社物流の作業が標準化され、在庫や出荷状況を可視化でき、担当者個人の経験に頼らず運用できる体制が整っているか。そこが、新たな物流サービスを展開するための重要な土台になります。家具の卸売りやEC販売を手掛ける三栄コーポレーションでは、WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)の導入によって出荷業務を自動化し、残業ゼロを実現。その体制を土台として、新たに3PL事業を開始しました。

本記事では、同社の事例を手掛かりに、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)が「倉庫内の効率化」を超えて新たな収益源につながる仕組みを解説します。読み終える頃には、自社物流の現状を「3PL事業化の土台」という視点で棚卸しする視点が手に入ります。

【本記事の要点】

  • 3PL事業への参入を左右するのは倉庫の規模ではなく、自社物流がどこまで標準化・可視化されているかである
  • 三栄コーポレーションはWMS導入で出荷業務を自動化し残業ゼロを実現、その体制を土台に3PL事業を開始した
  • 3PLに必要なのは「速い倉庫」ではなく、誰の商品でも同じルールで扱える「再現できる倉庫」である
  • WMS選びでは、荷主・商品増への対応力、人の判断依存の解消、在庫の可視化、外部システム連携という4つの視点が重要になる

複数倉庫への出荷を「人の判断」で回していた三栄コーポレーション

複数倉庫への出荷先を一人の経験者が判断し、業務が属人化している構造

三栄コーポレーションは、家具や家庭用品、服飾雑貨、家電などを扱う生活用品の専門商社です。近年はEC事業にも力を入れています。

同社の物流では、家具のような大型商材を扱うため、商品ごとに保管場所が異なり、1件の注文に対して複数の倉庫へ出荷指示を出さなければならないケースがありました。しかも、倉庫ごとに在庫管理の方法が異なっていたため、注文が入るたびに在庫を確認し、それぞれの倉庫へ出荷指示を出すというアナログな対応が必要だったのです。

この方法でも物量が一定であれば、人の経験や努力によって対応できたかもしれません。しかし、コロナ禍でインテリアやガーデニング関連商品のEC需要が急増すると、従来のオペレーションは逼迫します。ここで重要なのは、単に「仕事量が増えた」ということではありません。

問題の本質は、次のような処理の間を人がつなぐ必要があったことです。

  • どの倉庫に何があるのかを確認する
  • 注文内容から出荷元を判断する
  • 倉庫ごとに出荷指示を出す

物量が増えれば、そのまま確認作業や判断作業も増えてしまいます。これは、自社物流を抱える中小企業で起こりやすい典型的な「人を増やさなければ処理能力も増えない」状態だと考えられるでしょう。

出典・参照:

WMS導入で残業ゼロ。変わったのは「速さ」だけではない

WMSで在庫を可視化し作業を標準化することで、倉庫の残業をゼロにした変化

三栄コーポレーションはこうした課題に対応するため、ロジザード株式会社が提供するクラウドWMS「ロジザードZERO」を導入しました。その結果、出荷業務を自動化し、業務効率化や生産性向上、コスト削減を実現。導入事例では、残業ゼロを実現したことも紹介されています。

ただし、本記事で注目したいのは「残業がなくなった」という成果だけではありません。物流DXを単なる効率化として考えるなら、

WMS導入 → 作業時間削減 → 残業削減

で話は終わります。しかし、三栄コーポレーションの事例はその先へ進みました。WMSによってバックオフィスの体制が整備されたことを土台に、同社は大型商材を扱うEC運営のノウハウを活用し、新たに3PL事業を開始したのです。

つまり、自社物流を効率化した結果、その物流機能そのものを他社へ提供できる事業へ発展したということです。ここに、物流DXを「コスト削減」だけで終わらせない重要なヒントがあります。

出典・参照:

なぜ倉庫の効率化が3PLという新事業につながるのか

自社倉庫の効率化で得た運用ノウハウを、3PL事業へ展開する流れ

3PL事業では、自社商品だけを管理していればよいわけではありません。荷主が増えれば、次のような業務のバリエーションも増えてきます。

  • 商品の種類
  • 在庫管理方法
  • 入出庫ルール
  • 出荷条件
  • 納品先
  • 梱包方法

自社物流を「Aさんなら分かる」「この商品はいつもB倉庫を見る」といった担当者の経験で回している状態で、そこへ他社の商品まで追加すれば、管理はさらに複雑になります。

だからこそ、3PL事業に必要なのは単なる倉庫スペースではありません。誰の商品が、どこに、いくつあり、何をいつどこへ出荷するのかを、一定のルールで管理できる仕組みが必要です。自社物流のDXによって作るべきなのは「速い倉庫」ではなく、再現できる倉庫と言い換えてもよいでしょう。

  • 担当者が変わっても同じルールで運用できる
  • 荷物が増えても同じ仕組みの中で処理できる
  • 荷主が増えても、在庫や出荷状況を切り分けて把握できる

この状態まで物流業務が標準化・可視化されて初めて、自社で培った物流機能を他社へ展開する選択肢が見えてきます。

三栄コーポレーションの事例からDXportal®編集部が読み取る重要なポイントは、3PLへの参入可否は「倉庫の規模」だけではなく、「物流業務がどこまで標準化・自動化されているか」という視点からも判断すべきだということです。

ただし、これは同社の事例を踏まえた編集部の考察であり、WMSを導入すれば誰でも3PL事業を始められるという意味ではないことにはご注意ください。

出典・参照:

3PLを見据えたWMS選びで確認したい4つの視点

荷主・商品の増加、人の判断、在庫可視化、既存システム連携でWMSを選ぶ図解

自社物流の効率化だけでなく、将来的な3PL事業への参入や受託拡大まで見据えるのであれば、WMSを選ぶ際にも「今の作業が便利になるか」だけで判断しないことが重要です。

荷主や商品が増えても管理できるか

3PLでは、複数企業の商品を同じ物流拠点で扱う可能性があります。荷主別、商品別、倉庫別など必要な単位で在庫や出荷状況を管理できることは、運用を複雑化させないための重要な条件です。

今の自社商品を管理できれば十分ではなく、管理対象が増えたときにも同じ仕組みを使えるかを確認する必要があります。

人の判断に依存している工程を減らせるか

  • 注文を確認して担当者が出荷先を決める
  • 在庫を確認してExcelへ入力する
  • 担当者が倉庫へメールや電話で出荷を依頼する

こうした処理が残っていれば、物量や荷主が増えるほど人手も必要になります。

3PLへの拡張を考えるなら、「作業を少し楽にする」だけではなく、判断・転記・指示といった人の介在をどこまで減らせるかを見るべきです。

在庫と出荷状況を可視化できるか

自社物流であれば、多少情報確認に時間がかかっても社内で調整できるかもしれません。

しかし、他社の物流を預かる以上、

  • 現在の在庫はいくつか
  • 注文はどこまで処理されているか
  • いつ出荷されたのか

といった情報を把握できることが、サービス品質に直結します。

つまり3PLにおける可視化は、社内の業務効率化だけでなく、荷主に対する説明力や信頼性を支える仕組みでもあるのです。

現在のシステムや販売チャネルと連携できるか

ECモール、自社EC、受注管理システム、基幹システム、配送システムなど、物流の周囲にはさまざまなシステムがあります。荷主ごとに異なるシステムを利用する可能性も考えれば、外部システムとの連携性やデータの取り込み・出力方法も確認しておく必要があるでしょう。

3PL事業では「倉庫内だけで完結するWMS」ではなく、物流の前後工程とどうつながるかという視点がより重要になります。

まずは自社倉庫の「属人化」を洗い出してみる

判断の属人化や例外作業、個人の知識を洗い出し、共有できる工程へ変える様子

では、3PL事業に関心を持つ中小企業は、何から始めればよいのでしょうか。このとき、いきなり倉庫を増やしたり、新しい営業部門を作ったりする必要はありません。まず確認したいのは、現在の自社物流です。

たとえば、次のような形で自社倉庫で属人化している業務を書き出してみてください。

  • 注文が入った後、誰が何を判断しているか
  • 在庫確認を人が行っている工程はないか
  • Excelへの転記は残っていないか
  • 出荷指示をメールや電話で行っていないか
  • 特定の担当者しか分からないルールはないか
  • 担当者が休むと止まる作業はないか

手作業や属人化した工程が多ければ、それだけ現在の処理能力が「人」に依存しているということです。反対に、それらを標準化し、システム上で確認・処理できる状態に近づければ、物量増加への対応力も高まります。

その延長線上に、余力となった物流能力や蓄積したノウハウを、3PLというサービスへ変える可能性が生まれるのです。

まとめ:物流DXのゴールは「倉庫内」で終わらせない

物流DXというと、入出庫記録のデジタル化、ピッキングミスの削減、在庫管理の効率化など、倉庫内の改善に目が向きがちです。しかし、本当に大事なのは、その一段先にある「事業拡張」です。

三栄コーポレーションの事例では、複数倉庫への出荷管理という課題に対してWMSを導入し、出荷業務を自動化。残業ゼロや業務効率化を実現しただけでなく、整備した物流体制と大型商材ECのノウハウを土台に3PL事業へ踏み出しました。もちろん、これは一企業の事例であり、同じシステムを導入すれば同じ結果が得られるわけではありません。倉庫スペース、人材、営業力、採算性、荷主獲得、契約や責任分担など、3PL事業には別途検討しなければならない課題も残るでしょう。

本記事の要点を整理します。

  • 3PL事業への参入を左右するのは倉庫の規模ではなく、自社物流がどこまで標準化・可視化されているかである
  • 三栄コーポレーションはWMS導入で出荷業務を自動化し残業ゼロを実現、その体制を土台に3PL事業を開始した
  • 3PLのDXの本質は倉庫作業を速くすることではなく、誰の商品であっても一定のルールで管理し、状況を把握し、安定して出荷できる「再現できる倉庫」に変えることである
  • WMS選びでは、荷主・商品増への対応力、人の判断依存の解消、在庫の可視化、外部システム連携という4つの視点が重要になる
  • 倉庫スペース・人材・営業力・採算性など、3PL事業には本記事の範囲を超えて検討すべき課題も残る

自社物流に追われている企業ほど、まずは現在の作業の中に残る手作業や属人化を洗い出してみてください。その改善は、残業を減らすためだけの取り組みではありません。現在はコストセンターに見えている自社物流が、将来、新たな収益を生み出す事業へ変わる。その入り口になる可能性があるのではないでしょうか。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。