電子申請できるのに紙で出す社労士事務所|「顧問先が使えない」を前提にした設計

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あおぞら社労士事務所の事例:ルール化が大規模受託を生んだ

業務をルール化・標準化することで、大規模な受託へ対応する流れ

顧問先を巻き込む業務ルールの設計が経営インパクトに直結した例として、岐阜県のあおぞら社労士事務所の取り組みがあげられます。同事務所は2016年より株式会社エフアンドエムのオフィスステーションProへ移行し、電子申請を軸にした運用に切り替えました。

公開されている導入事例によれば、1件あたりの申請作業時間は15〜30分から約5分へ短縮。年間約1,200件の処理で約200時間もの業務効率化を実現したとされています。ここで注目したいのは時間短縮そのものではなく、その工数を確保できたからこそ、約500名規模の医療法人という大規模顧問先の受託につながった点です。

同事務所は、顧問先への依頼手順や情報提供のフォーマットをルール化することで、顧問先の対応力に業務品質が左右されない状態を作り上げました。個別事務所の実績なので数値をそのまま一般化することはできませんが、「顧問先を巻き込む業務ルールを設計すれば、大規模顧問先を受託できる余力が生まれる」という実例は、他事務所にとっても示唆を与えてくれるのではないでしょうか。電子申請DXは経費削減の話ではなく、事業拡大への投資に変わり得る、というのが読み取るべきメッセージです。

出典・参照:

電子申請クラウドの主な選択肢:オフィスステーションProと社労夢

二つの電子申請クラウドをワークフロー、支援、連携と自事務所の運用で比較する図解

顧問先を巻き込む業務ルールを支えるツールとして、社労士事務所向けの電子申請クラウドがいくつか存在します。ここでは公開情報に基づき、代表的な2サービスを客観的に紹介します。機能比較そのものが目的ではなく、「どんなルール設計を支えるか」という観点で読み解く材料としてください。

オフィスステーションPro(株式会社エフアンドエム)

前章で紹介した、あおぞら社労士事務所が採用するクラウド型サービスです。

  • 社会保険・労働保険の電子申請
  • 顧問先とのデータ連携
  • 進捗管理

これらを、すべて事務所側で完結させる設計です。顧問先に画面操作を強いない運用を目指す事務所と親和性があります。

社労夢(株式会社エムケイシステム)

社労夢は、社会保険・雇用保険・労働保険手続きから給与計算までを含むクラウド型電子申請システムです。電子申請機能に加え、周辺業務との連携で事務所内の情報を一元化する構成が公式サイトで紹介されています。

機能比較で終わらせない選び方

ツール選定で忘れやすいのは、「事務所内でどんな業務ルールを回すか」を先に固めておく視点です。以下は、選定時に事務所側が自問すべき観点の例です。

観点問い
情報収集顧問先からの情報を定型フォームで受けられるか
代理送信事務所側で電子申請を完結させる運用に耐えるか
進捗共有顧問先へ進捗と控えを共有する仕組みがあるか
給与連携顧問先の給与ソフトとデータ連携できるか
教育負荷事務所スタッフの学習コストが現実的か

表を眺めるだけでは判断できません。自事務所の現状の詰まりどころ(情報が集まらない、進捗が見えない、給与連携で二重入力が発生している、など)に照らし、ボトルネックを解消する観点でツールを選ぶことが、形骸化を防ぐ現実的な進め方です。

ベンダーへ問い合わせる際も、機能一覧の説明ではなく「自事務所のこの詰まりをどう解消できるか」という問いに置き換えて確認すると話がかみ合いやすくなるでしょう。

出典・参照:

自事務所の運用を点検する5つの基準

情報の受け取り方、申請完結範囲、証明書管理、進捗共有、例外手順の五項目

ここまでの論点を踏まえ、自事務所の電子申請運用が形骸化していないかを確認する基準を5つに整理します。1つでも当てはまる項目があれば、業務ルールの設計余地が残っています。

  1. 直近3か月で、電子申請可能な手続を紙・FAX・郵送で処理した事例が複数ある
  2. 顧問先から情報を受け取る際、担当者ごとに受け方(メール本文・FAX・チャット・電話)が違う
  3. 顧問先ごとに電子申請を「使える」「使えない」で運用を分けており、切替判断が担当者任せになっている
  4. 電子申請の進捗を顧問先へ共有する仕組みが決まっておらず、都度問い合わせ対応に追われている
  5. スタッフによって電子申請の操作習熟度に差があり、属人的な運用になっている

これらは、システムを買い替えても解消しません。事務所内で「情報の受け方」「代理送信の担当」「進捗共有の方法」を明文化することが先で、ツールはその設計を効率化する道具に過ぎないのです。

まず取り組めるのは、直近3ヶ月で紙・FAXに戻った手続きを一覧化し、なぜ紙に戻ったのかを1件ずつ書き出す棚卸しです。原因が顧問先の稟議なのか、電子証明書の未取得なのか、事務所側の情報収集の型不足なのかを区別することで、次の打ち手が見えてきます。

あわせて、契約中の電子申請クラウドの保守契約やサポート範囲を確認し、代理送信・進捗共有機能の使い残しがないかもチェックしておくと、追加投資なしで運用改善に踏み出せます。

まとめ:電子申請DXの成否は顧問先を巻き込むルール設計で決まる

本記事では、社労士事務所の電子申請が形骸化する構造と、その処方箋を検討しました。要点を整理します。

  • 電子申請は制度上ほぼ完結できる環境が整い、2025年1月から労働安全衛生関係の一部手続も原則義務化された
  • 2025年6月には社労士法が20年ぶりに改正され、社労士の役割は労務監査等へ広がっている
  • 電子申請が紙に戻る主因は、システム機能ではなく顧問先の対応力に依存した業務設計にある
  • 顧問先が「使えない」ことを前提に、情報提供の型化と事務所内完結の代理送信へ振り切ることで形骸化は防げる
  • あおぞら社労士事務所の事例は、ルール化が大規模顧問先の受託という経営インパクトにつながることを示している

貴所が明日から着手できる行動は、直近の顧問先とのやり取りを見直すことです。紙・FAXに戻った手続きがなかったかを1件ずつ書き出し、原因を「顧問先の事情」「事務所側の設計不足」に切り分けてみてください。原因が事務所側の設計にあるなら、まず1つの顧問先で情報提供のフォーマットを固定するところから始めれば、電子申請DXは形骸化から抜け出す方向へ動き出します。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。