FAXが消えないのは、自社の問題とは限らない|小売・飲食の受発注、何から見直すか

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あなたは、「なぜウチはFAXをやめられないのか」と感じたことはないでしょうか。

仕入れの発注はFAXと電話、在庫はExcelで管理しているが、担当者が休むと業務が止まり、更新漏れで欠品や過剰在庫が発生してしまう。

デジタル化したいと思っているのに、結局いつものやり方に戻ってしまう。

そんなジレンマを抱える小売店・飲食店の経営者や店舗運営担当者は、決して少なくないでしょう。

本記事では、発注業務にFAXが残り続ける背景を「自社の問題」と「取引先を含めた構造の問題」に切り分けて整理します。そのうえで、いきなり全廃止を目指すのではなく、貴社でいま無理なく始められる見直しの手順を示します。ぜひ最後までお読みいただき、次に何から手を付けるべきかの判断軸を持ち帰ってください。

【本記事の要点】

  • 発注にFAXが残るのは自社の怠慢だけではなく、取引先の運用や商習慣が絡む構造の問題である
  • Excel受発注は更新漏れと属人化のリスクがあり、担当者不在で業務が止まる状態を招きやすい
  • 見直しの起点は「全廃止」ではなく「探せる・共有できる形にする」限定的な効率化になる

FAXをやめたいのにやめられない、小売・飲食の受発注現場で起きていること

発注業務が担当者一人に依存していると更新漏れで欠品や過剰在庫が発生するを中心に、この章で扱う要素の関係を整理した図解

小売店や飲食店の仕入れ発注では、FAXと電話、そしてExcel管理を組み合わせた運用が根強く残っています。店によっては、デジタル化を検討しても、結局は「いつものFAX」に戻ってしまうケースが少なくありません。

しかし、「なぜ戻ってしまうのか」といった原因を切り分けずにシステム導入だけを進めても、現場に定着せず、取引先との関係も損ないかねないのです。まずは現場で起きているジレンマを言葉にすることからはじめてみましょう。

発注業務が担当者1人に依存している

発注は、店のオーナーやベテラン担当者の頭のなかにあることが多く、担当者が休むと発注そのものが止まってしまう、という状態は問題です。これは、何をいつ、どの量で頼むかの判断がベテラン担当者個人に依存(属人化)しているために起こる現象で、他の従業員が代行しづらい状態が生まれてしまっています。

  • 仕入れ先ごとの締め切り時刻
  • 季節ごとの発注量の癖
  • 電話でしか通じない担当者の連絡先

これらの暗黙知が、積み重なっている状態と言えるでしょう。

更新漏れで欠品や過剰在庫が発生する

Excelの在庫表や発注リストは、手入力で更新される前提です。忙しい時間帯に更新が後回しになると、実在庫と帳簿の差が広がり、欠品や過剰在庫を招いてしまいます。かといって、数字が信じられなくなると、担当者は「念のため多めに発注」する方向に傾きやすく、廃棄ロスや資金繰りの悪化につながりかねません。

FAX・電話に戻ってしまう心理

新しいツールを試しても、取引先が対応できない、慣れているやり方の方が確実、急ぎのときは電話が早い、といった現場の判断が働きます。結果として「まずFAXで送っておく」運用に落ち着きがちなのです。この心理の背景には、取引先を含めた業務の流れが変わらない限り、自社だけデジタル化してもリスクを取るだけになるという実感があるからと考えられます。

Excelで受発注を回す運用の限界

更新漏れによる欠品と過剰在庫と複数人で同時に触れないを中心に、この章で扱う要素の関係を整理した図解

Excelは導入コストが低く、誰でも触れる道具です。しかし受発注や在庫管理の基幹として長く使い続けると、業務量が増えるにつれて限界が見えてきます。ここでは代表的な2つの課題を整理します。この限界を理解すると、「なぜFAX運用が温存されるのか」という問いにも答えが見えてくるでしょう。

更新漏れによる欠品と過剰在庫

製造業・卸売業・小売業の中小企業を対象にした調査でも、Excelでの受発注・在庫管理は更新漏れによる欠品・過剰在庫が課題として指摘されています。

  • 発注書の作成
  • 在庫の消し込み
  • 次回発注の判断

これらはすべて手作業でつながっているため、一箇所の抜けが在庫全体の精度に影響してしまうのです。

具体的には、締め切り間際の追加発注をExcelに反映し忘れて二重発注する、実棚卸しと帳簿の差を放置して発注点の判断を誤る、といった事象が起こってしまうでしょう。数字が信じられなくなると発注量が保守的に振れ、廃棄ロスや資金繰りの悪化を招きかねません。

複数人で同時に触れない

Excelファイルは、1人が編集している間は他の人がロックされ、同時編集ができません。店舗と本部、フロアとバックヤードなど、複数の場所や担当で発注情報を扱う運用では、ファイルの取り合いや上書き事故が起こりがちです。

さらに、「最新版がどれか分からない」「昨日更新した内容が消えている」という状態が続くと、Excelを疑って結局FAXや電話で確認するようになってしまうでしょう。デジタル化を進めているつもりが、二重管理を増やしているケースも少なくありません。

出典・参照:

FAX・電話が残るのは自社の怠慢ではない、4つの一般的な理由

FAX・電話が残るのは自社の怠慢ではない、4つの一般的な理由で扱う状況を、人物・業務・仕組みの関係から分かりやすく示した図解

ここで視点を切り替え、本章では、そもそもFAXや電話が残る理由を整理します。自社の努力不足だけを問題にすると、打ち手を誤りかねません。中小企業の受発注現場で挙げられる代表的な要因は主に次の4つです。

  • 取引先の希望:取引先がFAX受注しか対応しておらず、電話での確認を前提としているため、自社だけがデジタル化しても発注が通らない状態が起きる
  • 既存システムとの連携の複雑さ:受発注、在庫管理、会計などが個別に運用されており、置き換えると業務全体を組み直す必要が出てくる
  • 商品点数の多さ:扱う商品や仕様の組み合わせが多く、システム上のマスタ整備に時間とコストがかかる
  • 対応の先送り:現状で回っているため優先度が下がり、他の課題に押されて着手できない状態が続く

この4つを見て気付くのは、いずれも自社だけで完結する話ではないという点です。発注をシステム化する障害には、取引先の運用、システムの分断、商品構造、経営の優先順位付けまで含まれています。FAXが消えない状態は、自社の情報リテラシー不足や変化への拒否感だけで説明できる問題ではないのです。

自社側で改善できる部分と、取引先や業界側の事情による部分を切り分けて考えると、無理のない打ち手が見えてきます。取引先の希望や慣習に踏み込む前に、まず自社側で減らせるFAX業務がないかを点検する姿勢が現実的です。

出典・参照:

食品製造業の事例に見る、取引先の事情でFAXが残る構造

取引先の商習慣が受注方法を決めていると現実的な進め方は探せる・共有できる形への効率化を中心に、この章で扱う要素の関係を整理した図解

FAXが残る構造をより具体的に理解するために、食品製造業の事例を紹介します。ただし食品製造業は「受注する側」であり、飲食店・小売店の「発注する側」とは業種と立場が異なります。同じ事例が飲食店・小売店で起きているという意味ではなく、「取引先の事情でFAX・紙が残る」という構造の類推として読んでください。

取引先の商習慣が受注方法を決めている

食品製造業では、取引先である小売・卸・旅館・土産店などがFAX文化を維持しており、高齢の担当者や手書きの注文書に慣れた運用が続いているとされます。自社側だけでシステムを導入しても、取引先からは相変わらずFAXや手書きで注文が届きます。

この構造は、発注する側の飲食店・小売店にとっても大きな示唆があるでしょう。仕入れ先の卸や食品メーカーが同様の事情を抱えている場合、いくら自社が電子発注に切り替えたくても、取引先が受け取れなければ運用が回りません。FAXが残る理由の一部は、取引の相手側にあるということです。

現実的な進め方は「探せる・共有できる形」への効率化

同じ事例では、FAXを一気に廃止するのではなく、「探せる・共有できる形にする」限定的な効率化から着手することが現実的だと読み取れます。

  • 受信したFAXをスキャンしてクラウドに保存する
  • 注文内容を検索できる形で残す
  • 共有フォルダで店舗と本部が同じ情報を見られるようにする

こういった打ち手の検討です。

この考え方は、業種は違っても、飲食店・小売店の発注業務にも応用できます。取引先を変えずに、自社側の手元でFAX情報を扱いやすくすることから始めれば、取引先との関係を損なわずに業務を軽くできるのです。

出典・参照:

全廃止を急がない、段階的な見直しの進め方

発注の流れを発注側と受注側に分けて棚卸しすると取引先を電子対応可・FAXのみ・中間に3分類するを中心に、この章で扱う要素の関係を整理した図解

ここまでの整理を踏まえ、実際に何から手を付けるかを考えていきましょう。ただし、結論を先に述べると、FAXの全廃止をゴールに置かず、「自社側で完結できる部分から段階的に減らす」という進め方が現実的です。取引先を巻き込む前に、自社側で完結する打ち手から着手します。

発注の流れを「発注側」と「受注側」に分けて棚卸しする

まず、自社の受発注のうち、自社が発注する取引と、自社が受注する取引を分けて書き出します。飲食店であれば仕入れ発注(発注側)が中心ですが、法人向け配送や仕入れ代行では受注側の業務もあるでしょう。また、小売店では店舗発注(発注側)と本部からの発注受け(受注側)の両方が存在します。

発注側と受注側では、取引先との交渉の順序や、自社側でできる打ち手が変わります。まずは業務を分けて可視化することがこの棚卸しの起点です。

取引先を「電子対応可・FAXのみ・中間」に3分類する

次に、取引先を次の3つに分類します。

  • 電子発注に対応できる相手
  • FAXしか対応できない相手
  • 可能性はあるが未確認の相手

分類ができると、優先的に電子化を打診すべき相手と、当面はFAX運用を維持する相手が見えてきます。

取引先ごとの対応度は、FAX送信頻度・電話確認の多さ・注文書の書式などから推測できます。すべての取引先に一律で電子化を求めるのではなく、対応可能な相手から順に切り替える方針の方が、現場の負担は軽くなるはずです。

自社側で完結できる打ち手から着手する

取引先を巻き込む前に、自社側だけで進められる改善に着手します。

  • FAX受信データを紙で出さずにデジタルで受け取る
  • 受信した注文書を検索可能なフォルダに保存する
  • Excelの発注記録をクラウドで共有し担当者以外でも参照できるようにする

具体的には、こういった打ち手が考えられるでしょう。

これらは取引先の運用を変えずに、自社側の「探せる・共有できる形」を作る取り組みです。担当者不在時にも他の従業員が状況を確認でき、属人化の緩和につながるため、効果が見えやすい取り組みでもあります。効果が見えやすい取り組みから始めると、現場の合意も得やすくなります。

次の一歩:受発注の棚卸しから始める具体的な行動

一週間分のFAX・電話発注を全て書き出すと取引先ごとの対応度を確認するを中心に、この章で扱う要素の関係を整理した図解

ここまでの内容を踏まえ、読み終えた後にすぐ着手できる行動を整理します。いずれもシステム導入の前段階でできる作業で、費用をかけずに始められます。

1週間分のFAX・電話発注を全て書き出す

まず、直近1週間で発生した発注業務を、取引先ごとに全て書き出します。項目は次の6点で足ります。

項目記入内容の例
取引先名卸A社/メーカーB社
発注手段FAX・電話・メール・オンライン
発注頻度週3回/月2回 など
1回あたりの明細数20点/50点 など
担当者名店長/副店長 など
不在時の代行有無あり/なし

書き出すことで、自社の発注業務がどの取引先に、どのくらい時間を取られているかが可視化されます。全社の課題ではなく、特定の取引先や特定の担当者に集中していることが見えるケースもあるため、この一覧が、以降のすべての判断のベースになります。

取引先ごとの対応度を確認する

書き出した取引先について、電子発注に対応可能かどうかを確認します。営業担当者に「オンライン発注や電子発注に対応していますか」と一度聞くだけで、多くの取引先の対応度は把握できるでしょう。

対応可能な取引先が思ったより多ければ、電子化の余地は大きいと考えられます。逆にFAX対応しかできない取引先が多い場合は、自社側の受信・保存の効率化を優先するほうが現実的です。

保守契約・現行システムの棚卸しをする

受発注に関わる現行システム、複合機、電話・FAX回線、Excelファイルの保存場所を洗い出します。契約中のクラウドサービスやPOSがある場合、追加機能で発注支援が使えるケースも少なくありません。新規導入の前に、既存契約の中で使える機能がないかを確認する順序が現実的でしょう。

同時に、保守契約の内容や更新時期を把握しておくと、切り替えのタイミングを取引先との交渉に合わせやすくなります。読者が判断すべきは、「新しいものを買う」より先に「持っているものを最大限使う」を検討することです。

現場の負荷が減る最小の改善から試す

棚卸しの結果を踏まえ、最も負荷の高い業務、あるいは属人化が進んでいる業務を1つだけ選んで改善に着手します。「FAX受信を紙で出さずデジタルで残す」「発注Excelを共有クラウドに置く」といった小さな改善から始めましょう。

一度に全てを変えようとせず、現場が慣れる速度に合わせて範囲を広げる方が定着しやすいものです。特に、中小の現場では、施策の数を増やすより、続けられる仕組みを1つ作る方が結果に結び付きます。

まとめ:受発注の見直しは、取引先を含めた業務の流れの点検から始まる

本記事では、小売・飲食の受発注業務でFAXが消えない背景と、段階的な見直しの進め方を整理しました。要点を振り返ります。

  • FAXが残るのは自社の努力不足だけではなく、取引先の運用・システムの分断・商品点数・優先順位付けなど構造的な要因が絡みます
  • Excel運用には更新漏れによる欠品・過剰在庫と、複数人で同時編集できないという限界があります
  • 食品製造業の事例は業種が異なりますが、「取引先の事情でFAX・紙が残る」構造の類推として参考になります
  • 見直しは全廃止ではなく「探せる・共有できる形にする」ことから始めるのが現実的です

貴社が次に取るべき行動は、システムの選定ではありません。まず直近1週間の発注業務を書き出し、取引先を「電子対応可・FAXのみ・中間」の3つに分けてみてください。そのうえで、取引先を変えずに自社側で完結できる小さな改善を1つだけ選び、試してみることをおすすめします。

受発注の見直しは、取引先を含めた業務の流れを点検することから始まる作業なのです。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。