AIエージェントが変えるSaaS調達とIT予算【世界のDX潮流】

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複数のSaaSを走らせているものの、退職者のアカウントが残ったままだったり、使う頻度の低いサービスに全社員分の料金を払い続けていたり、部門ごとに似た機能のツールが並列で動いていたり。契約更新の時期になるたびに「本当にこの契約数で合っているのだろうか」と迷いつつ、結局は前年と同じ内容で承認している。SaaSの契約管理を任されている担当者にとって、この既視感のある光景こそが今、世界のDX(デジタルトランスフォーメーション)潮流とぶつかろうとしています。

2026年7月1日、米Gartnerは「エージェンティックAI(自律型AIエージェント)によって、エンタープライズアプリケーションソフトウェア支出のうち2,340億ドル分がリスクにさらされる」との予測を公表しました。AIエージェントが人間の代わりに業務システムへ直接アクセスする世界では、「社員1人あたり月額いくら」というSaaSの伝統的な課金前提が揺らぎ始めます。

GoogleがGeminiベースの自律型エージェントを企業向けに展開し、SalesforceやMicrosoftが会話単位・クレジット単位の消費型課金を提供し始めた事実は、この変化が予測ではなく実務段階に入ったことを示しています。

本記事では、この潮流が中小企業のSaaS調達とIT予算にどう波及するのかを整理し、次年度予算の検討で確認すべき視点と行動を提示します。

【本記事の要点】

  • Gartnerは2026年7月、AIエージェントの普及で2,340億ドル規模のエンタープライズアプリ支出がリスクにさらされると予測
  • SalesforceのAgentforceやMicrosoftのCopilot Studioでは、シート課金に加え会話単位・クレジット単位の消費型課金が並行提供されている
  • 費用の捉え方が「社員が何人使うか」から「どの業務を誰または何が処理し、その処理にいくら払うのか」へ転換しつつある
  • 次回の契約更新前に、契約数・実利用者数・利用頻度・代替可能性・API連携の5観点でSaaSを棚卸しすることが起点となる

2026年7月のGartner予測:何が「危険にさらされる」と言われたのか

まず、今回の潮流の起点となったGartnerの予測を整理します。結論としては「SaaSが消える」という話ではなく、「シート課金モデルのままでは2,340億ドル規模の支出が別の課金構造へ流出しうる」という指摘です。

Gartnerが2026年7月1日に発表したリサーチによれば、2030年までにエンタープライズアプリケーションソフトウェア支出のうち最大2,340億ドル、日本円で約34兆円規模が「エージェンティック・アービトラージ」の影響を受ける可能性があります。エージェンティック・アービトラージとは、AIエージェントが人間ユーザーの代わりに複数の業務システムへアクセスし、既存SaaSの機能をより安価な仕組みで代替する動きを指す考え方です。

Gartnerは、AIエージェントが業務システムと直接やり取りする世界では「シート(座席)ベースのライセンス収益モデルの前提が崩れる」と指摘しています。従業員1人1アカウントを前提とした課金は、そもそも「人間が画面を操作する」ことを想定して設計されていたためです。操作するのがAIエージェントであれば、ライセンス数と業務処理量は連動しなくなるのは自明の理でしょう。

一方で、この予測は「SaaS不要論」ではありません。IT Proの分析でも指摘されている通り、AIエージェントが業務を担うほど、その裏側で叩かれるAPI、データストア、認証基盤、監査ログ基盤への需要はむしろ増える方向に働きます。中小企業にとっての示唆は、SaaS支出を削るのではなく、「支出の構造を人数課金から業務量課金へ再設計する」フェーズに入ったという理解でしておきましょう。

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「1人1ライセンス」という前提はなぜ揺らぐのか

続いて、シート課金が前提としてきた条件と、AIエージェントの登場でその条件がどう変わるのかを整理します。結論は、業務システムの操作主体が人間からエージェントへ移るとき、契約数と業務量の相関が失われるという点です。

シート課金は、業務を処理する主体が人間であることを前提としてきました。営業担当が10人いれば10ライセンス、経理が3人なら3ライセンスという形で、人数と業務量が概ね比例していた時代の設計です。SaaSベンダーにとってもユーザー企業にとっても、契約数を管理すれば費用と利用実態の管理を兼ねられるため、長らく合理的なモデルとして機能してきました。

しかしAIエージェントが登場すると、この対応関係が崩れます。1人の担当者が5体のエージェントを走らせ、それぞれが週に数百件の処理を行うとします。この場合、従来ならライセンスは1つでしたが、実際に取り扱う業務処理量は数十倍になり得ます。逆に、5人分のライセンスを付与していた業務を1体のエージェントが夜間に一括処理するようになれば、ライセンス数は減っても実処理量は同じか増える方向にも動くでしょう。

Googleが企業向けに展開している自律型AIエージェント(Gemini/Sparkシリーズ)のように、複数のSaaSを横断して操作するエージェントが実装段階に入った現在、「誰が使うか」ではなく「何が、どれだけ処理するか」で費用を捉える必要が出てきました。中小企業においても、AIアドオンを「全社員に付けるかどうか」だけで議論する時期は終わりつつあると考えて良いでしょう。

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ベンダー側の変化:会話単位・クレジット単位の課金が並走し始めた

ここでは、既に始まっているベンダー側の課金モデル変更を具体的な数値で押さえます。結論は、シート課金が消えるのではなく、シート課金・会話課金・クレジット課金の3系統が並走する時代に入ったという点です。

Salesforceは2025年5月、自社の自律型AIエージェント基盤「Agentforce」において、消費ベースの新料金体系「Flex Credits」を発表しました。500ドルで10万クレジット、標準アクションは20クレジット(約0.10ドル)、音声アクションは30クレジット(約0.15ドル)で消費されます。同時に、会話単位課金(1会話あたり2ドル)とユーザー単位ライセンスも維持されており、Agentforceは現在この3系統を併存させています。

Microsoftも同様に、Microsoft 365 Copilotの上位機能である「Copilot Studio」で、前払い型のCopilot Credits(1パック200ドル/月=25,000クレジット)と、事前契約不要の従量課金(pay-as-you-go)を提供しています。従来のCopilotが1ユーザーあたり月額固定だったのに対し、業務エージェントの実装領域では利用量課金が主流になりつつあるのです。

主要ベンダーの現行課金体系を並べると、以下の通りです。

ベンダー/サービス課金モデル単価の目安
Salesforce AgentforceFlex Credits500ドルで10万クレジット(標準アクション約0.10ドル)
Salesforce Agentforce会話単位1会話あたり2ドル
Salesforce Agentforceユーザー単位ライセンス従来型のシート課金
Microsoft Copilot StudioCopilot Credits200ドル/月で25,000クレジット
Microsoft Copilot Studio従量課金事前契約不要、実消費に応じた課金

この表からわかるのは、ベンダーは「シート課金を廃止する」のではなく、「業務量に応じた課金を追加している」という点です。したがって中小企業側の判断軸も「どの課金モデルが得か」ではなく、「どの業務を、どの課金モデルで契約するのが自社にとって合理的か」という問いに移ります。

想定処理量が読めない領域では従量課金がリスクになり、逆に処理量が明らかに少ない業務でシート課金を継続すれば割高になるのです。

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中小企業に潜む隠れコスト:AIアドオン全社員付与と従量課金の上振れ

続いて、この潮流の中で中小企業のIT予算に生じやすい「見えないコスト膨張」を整理します。結論として、AIエージェント時代には「使わないシートに払う損失」と「使いすぎて跳ね上がる従量課金」の両方をコントロールする必要があります。

第一に注意したいのは、AIアドオンの「とりあえず全社員付与」です。従来のSaaSアドオン感覚で、月額数千円のAI機能を全社員に付与すると、100人規模の企業では年間数百万円単位の固定費が発生します。AIエージェント機能を実際に使うのは一部の業務・一部の役職に限られることも多く、初年度は8割以上が休眠アドオンになる例も想定されます。

第二に、従量課金型のAIエージェントへ切り替えた際の「上振れ」です。Salesforceの音声アクション30クレジット(約0.15ドル)や、会話単位課金2ドルは、単価としては安く見えます。しかし1業務あたり数十回のアクションが必要な場合、月間数万件の処理が発生すれば、シート課金より高くつくケースも少なくありません。特に顧客対応・見積作成・データ抽出といった業務は、AIエージェント化した瞬間に処理件数が跳ね上がることがあります。

第三に、API利用料・監視ログ・権限管理コストです。AIエージェントは既存のSaaSやデータベースにAPI経由でアクセスするため、呼び出されるSaaS側にもAPIコール数の課金が発生します。加えて、AIエージェントが誤動作したときの監査ログ、権限設計の見直し、シャドーIT対策も追加の運用負荷です。IT担当者が1人しかいない中小企業では、この管理負荷そのものが導入判断のボトルネックになり得ます

つまり、現在は「AIエージェントを入れれば人件費が下がる」という一面的な話ではなく、シート課金の削減額と従量課金・運用コストの増加額を並べた上で、業務単位のROI(投資対効果)を判断する段階に入っているのです。

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DXportal®編集部

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