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新しい業務システムやツールを入れようとすると、現場から「また新しいものが増えるのか」「今のやり方で困っていない」という声が返ってくることがあります。DXやシステムの入れ替えを進める経営者、あるいは情報システムやDXの担当者なら、一度は体験したことのある場面でしょう。しかし、この反応を「現場の意識が低い」「変化を嫌う人たち」とだけ受け取ってしまうと、話はそこで止まってしまいます。
本記事では、現場の抵抗を「技術そのものへの反対」と「進め方への反対」に分けて見る、という視点を示します。手がかりにするのは、19世紀初頭のイギリスで職人たちが機械を打ち壊したできごとです。この歴史を補助線にすると、抵抗の中身がほどけて、DXを進めやすくする糸口が見えてきます。
【本記事の要点】
- 現場がDXに抵抗するとき、反対されているのは技術そのものとは限らない
- 19世紀に職人が機械を壊した抗議も、機械の入れ方が賃金や技能の価値を一方的に切り下げる形で進められたことへの反発だった、と近年は読み直されている
- 抵抗は「技術への反対」と「進め方への反対」に分けられる。後者は決め方を変えれば減らせる
- 「意識が低い」と一括りにすると、直せる問題まで放置される
新しい道具に、現場はなぜ身構えるのか
まず、多くの職場で起きていることを整理しましょう。新しいシステムの導入がアナウンスされると、現場からは歓迎よりも警戒の反応が先に出やすいものです。
よくあるのは、こんな声です。
- 覚えることが増えて、しばらくは仕事が遅くなる
- 今の手順で回っているのに、なぜ変えるのか
- 前にも新しい仕組みが入って、結局使われなくなった
どれも、経営やDXの担当者からすると「後ろ向き」に聞こえるでしょう。
ただ、この反応を頭から「変化を嫌う人たちだ」と決めつけてしまうと、そこで思考はストップします。抵抗している人が何に反応しているのかを、もう少し細かく見ておかなければなりません。
機械を壊した職人たちの話
ここで、歴史の話を1つだけしておきます。それは、19世紀初頭のイギリスで、繊維工業の職人たちが工場や作業場の機械を打ち壊す抗議行動を起こしたという話です。
この抗議行動は、1811年にイングランド中部のノッティンガム周辺で始まり、その後の数年間で中部から北部の織物工業地帯へ広がっていきます。壊されたのは、靴下編み機や織機といった、当時の新しい機械でした。この一連の動きは、実在しない指導者の名にちなんで「ラッダイト運動」と呼ばれています。
長いあいだ、この運動は「時代遅れの反技術運動」の代名詞のように使われてきました。しかし、20世紀後半以降の歴史研究は、少し違う読み方をしています。歴史家のエリック・ホブズボームは、これを「暴動による団体交渉」と位置づけました。
ホブズボームは、職人たちが壊そうとしたのは機械そのものというより、機械の導入が、賃金の引き下げ、熟練を必要としない労働への置き換え、それまで積み上げた技能の価値の切り下げという形で一方的に進められたことへの抗議であった、と位置づけたわけです。
これは、労働者の側に立って交渉する仕組みがまだ存在しなかった時代に、機械を壊すことが数少ない意思表示の手段だった、という見方ではないでしょうか。
抵抗は、たいてい「決め方」に向いている
この見方は、現代のDX(デジタルトランスフォーメーション)や、システム導入への現場の抵抗にも当てはまります。
現場の反対を分解してみると、性質の違う2つが混ざっています。1つは、技術そのものへの反対です。新しいやり方が本当に役に立つのか、自分たちの仕事に合っているのか、という疑いです。もう1つは、進め方への反対です。こちらは、技術の中身とは別のところを向いています。
進め方への反対の中身は、たとえば次のようなものです。
- 導入を決める場に自分たちが呼ばれず、決まったことだけが下りてくる
- これまでの仕事の進め方や、何をもって「よい仕事」とするかの基準が、相談なく変わる
- 長年かけて身につけたコツや段取りが、新しい仕組みの前では「なくてもいいもの」のように扱われる
19世紀初頭のイギリスで、機械を壊した職人たちが反応した状況との共通項を見つけれられるのではないでしょうか。
「技術アレルギー」で片付けない
技術と仕組み。2つの反対は、対処の仕方が違います。
技術そのものへの反対には、説明を尽くすか、実際に使ってもらって判断してもらうか、時間をかけるしかありません。ここは、すぐには動きません。一方で、進め方への反対は、決め方を変えるだけでも、抵抗感を小さくできます。
- 導入を決める前に現場の何人かに入ってもらう
- 評価の基準をどう変えるのかを先に共有する
- これまでのやり方の良かった点を新しい仕組みにどう引き継ぐかを一緒に考える
こうした対策は、技術を変えなくてもできることです。
抵抗をまとめて「技術アレルギー」や「意識の低さ」として扱うと、この区別が消えてしまいます。これでは、決め方を直せば減らせたはずの反対まで、「仕方のないもの」として放置されてしまうでしょう。
現場が何を守ろうとしているのか、つまり、手順、裁量、評価、これまでの努力の意味のうちどれなのかを、先に聞いておくことが出発点になります。
守ろうとしているものが分かれば、返す言葉も変わってきます。手順を守りたい人には、これまでの手順のどこを引き継ぐかを示せばいいでしょう。裁量を守りたい人には、判断の余地がどこに残るのかを一緒に決めればいいでしょう。同じ「抵抗」でも、中身が違えば届く言葉もまったくといって違うのです。
まとめ:現場が守ろうとしているものを見る
機械を壊した職人たちが守ろうとしたのは、機械を拒むことそのものではなく、自分たちの技能と暮らしの価値でした。現代の現場も同じで、新しい仕組みに身構えるとき、たいていは何かを守ろうとしています。それが技術への疑いなのか、決め方への不満なのかを見分けられれば、少なくとも後者は、進め方を変えることで減らせます。
DXがうまくいかない理由は、道具の性能そのものより、合意の作り方にあることが少なくありません。抵抗を一括りにせず、中身を2つに分けて見る。それだけで、次の一手は変わってきます。現場が守ろうとしているものを、こちらはわかっているだろうか。新しい仕組みを持ち込む前に、一度立ち止まって確かめてみる価値はありそうです。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。



