デジタル化した方がよい業務とその見極め方
一方で、デジタル化することで業務効率が明確に改善する領域も存在します。この章では、デジタル化のROI(投資対効果)が出やすい業務の特徴を整理します。
二重入力が発生している業務
現場で紙に書いた内容を、事務所に戻ってからExcelやシステムへ再入力している業務は、優先的にデジタル化すべき対象です。二重入力は転記ミスと残業を生む温床であり、現場としても不便を感じているため、もしかしたあ現場が「紙が便利」と言っているわけではないかもしれません。むしろ現場から「これ、あとで打ち直しているんですよ」という声が上がる業務こそ、真っ先に見直すべき領域です。
過去履歴の検索・集計・遠隔共有が必要な業務
- 点検記録
- 作業実績
- 拠点間報告書
- 日報提出
このような業務は、過去との比較・集計・共有が発生するためデジタルが有利です。紙で保管された点検表は、3年前の同じ機械の記録を探すだけで半日を要してしまうでしょう。中小機構のIT活用事例集でも、業務効率化と現場負担軽減をセットで実現した中小企業の取組が紹介されています。
法令・監査対応で証跡が必要な業務
電子取引データについては、2024年1月以降、原則として電子データのまま保存することが義務化されました。紙出力のみでの保存は原則不可となり、電子帳簿保存法の要件を満たす保存体制が必要です。請求書、領収書、契約書などの電子取引データは、判断の余地なく電子保存が必須となります。中小企業庁のミラサポplusでも、中小企業においても対応が必要と解説されています。
出典・参照:
紙とデジタルをハイブリッドで運用する方法
ここまで解説した通り、DXを進めたいからといってすべての「紙」を「デジタル」に置き換えればいい、というわけではありません。つまり、紙かデジタルかの二択ではなく、業務の時間軸で棲み分けるハイブリッド運用が現実解となるでしょう。この章では、現場で回るハイブリッド運用の具体像を提示します。
現場中は紙、現場後にデジタル化する
一次記録は紙で速く取り、事務所に戻ってからスキャン・写真撮影・OCRでデジタル化する運用は、多くの現場で有効です。現場での入力負荷を上げず、後工程での検索性・集計性は確保できます。
ITmedia TechFactoryでも、製造現場のDXにおいて「紙を生かすデジタル化」というアプローチが有効な場合があると報じられています。紙帳票をそのままスキャンし、AI-OCRでデータ化する運用は、中小製造業でも広がりつつある事例です。
スキャン・OCR・写真化で後工程を軽くする
紙のまま残しても、写真化やスキャンにより後工程は電子で扱えます。手書きの点検表を作業後にスマートフォンで撮影し、クラウド保存するだけでも、検索性と共有性は向上します。この方式なら現場は紙で速く記録でき、管理側はデジタルで蓄積・分析できるため、両者の負荷を最小化できます。
ホワイトボードや掲示物を無理に廃止しない
工程表、シフト表、当日の緊急連絡や周知事項は、事務所のホワイトボードや掲示物のほうが一覧性と共同視認性に優れています。これらを電子サイネージやチャットに置き換える場合は、代替手段の視認性と即時性が同等以上か検証してから移行すべきです。廃止ありきで進めると、現場の情報共有が滞る危険があります。
出典・参照:
現場が反発しないペーパーレス化の進め方
ペーパーレス化の失敗の多くは、紙をなくす順番を間違えたときに起きやすいです。この章では、現場に反発されず、実効性のあるペーパーレス化を進めるための手順を示します。
「なぜ紙を使っているのか」を現場で観察する
経営層やDX推進担当者は、まず現場に足を運び「なぜこの業務は紙なのか」を観察する必要があります。現場の理由は、速度、環境、視認性、共同確認、緊急性など具体的です。理由を聞かずにツール導入すると、現場は「わかっていない上からの指示」と受け止め、二重管理が発生してしまうでしょう。GMOサインの解説でも、紙とデジタルの二重管理により業務負荷が増える失敗事例が指摘されています。
削るべきは「二重入力されている紙」から
紙業務を4つに分類してみてください。
- 現場中に使う紙
- 現場後に保存する紙
- 集計のため再入力している紙
- 緊急時に必要な紙
真っ先に削るべきは3つ目の「二重入力されている紙」であり、1つ目と4つ目は無理に廃止すべきではありません。この順序を守ると、現場の負担を増やさずに管理側の効率化が進みます。
小さく試して定着してから広げる
いきなり全社展開ではなく、1業務・1拠点・1帳票から試し、現場の声を反映して改善する運用が定着への近道です。tebikiの解説でも、目的を明確化せずにツール導入すると現場の入力負荷が増え定着しないことが指摘されています。
小さな成功体験を積み上げ、現場から「これは便利」と評価された業務から順に広げるのが実効的です。令和6年版情報通信白書でも、日本企業のデジタル化は進む一方、現場業務レベルでは依然課題が残ると示されています。
出典・参照:
まとめ:紙を残す判断もDX戦略の一部である
本記事では、ペーパーレス化が逆効果になる場面と、デジタル化してよい業務・してはいけない業務の判断軸を整理してきました。要点を改めて振り返ります。
- ペーパーレスは目的ではなく、業務を安全・正確・速く進めるための手段である
- 緊急性・一覧性・現場環境の3条件が絡む業務は、紙のほうが業務設計上正しい場合がある
- 削るべきは『現場で役立っている紙』ではなく『あとで二重入力されている紙』から
- 電子取引データは電子帳簿保存法により電子保存が必須であり、この領域は判断の余地なくデジタル化する
- 紙とデジタルは対立ではなく、業務の時間軸でハイブリッド運用するのが現実解となる
読み終えた読者に取ってほしい次の行動は明確です。まず自社の紙業務を先述したように次の4つに分類してみてください。
- 現場中に使う紙
- 現場後に保存する紙
- 集計のため再入力している紙
- 緊急時に必要な紙
この分類ができれば、どこから手を付ければよいかが見えてきます。すべてを廃止する必要はありません。紙を残すことはDXの敗北ではなく、業務設計として正しい選択となる場合があるのです。
DXの目的は経営課題を解決することであり、その過程で紙とデジタルを冷静に使い分ける判断こそ、貴社のDX戦略の完成度を高めるはずです。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。

