外から来た人ほど、会社を変えられる|「当たり前」を問い直せる視点という強み

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「異動でDXの担当になったが、その業務のことは正直よく知らない」

「中途で入ったばかりで、周りが当たり前にこなしている仕事が、自分にはまだ何も見えていない」

新しい部署や会社に入ったばかりの人なら、こうした引け目に心当たりがあるはずです。とりわけDX(デジタルトランスフォーメーション)の担当は、その業務に長く携わった人よりも、異動や新規採用で入ったばかりの人が任される場面が目立ちます。

ただ、引け目のもとになっている「知らない」は、克服すべき弱点とはかぎりません。むしろ、その業務を知り尽くした人にはできない強みです。「これは何のためにやっているのか」と、前提を置かずに聞ける。仕事のやり方そのものを問い直すDXでは、その素朴な問いこそが出発点になります。

この見方を教えてくれるのが、株式会社クレディセゾンでDXを率いる小野和俊氏の歩みです。DXportal®では以前、その小野氏に取材しました。外から入って最初の2年を社内の理解にあて、小さな実績を積み重ねてから全社の変革へと広げていった。その過程を、同氏はインタビューで具体的に語ってくれました。

本記事では、小野氏の実践を手がかりに、「知らない」ことがなぜ当たり前を問い直す力になるのか、そしてその気づきをどうすれば会社を変える動きに変えられるのかを整理します。読み終えたとき、自分(あるいは受け入れた人材)の「わからない」を、いつ、どう組織へ差し出せばよいかの見取り図が見えてくるはずです。

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【本記事の要点】

  • 業務を「知らない」ことは弱みではなく、「これは何のためにやっているのか」と先入観なく問える立場という強みである
  • 人は仕事に慣れるほど手順の理由を意識しなくなる。だから外から入った人の視点は、当たり前を問い直すうえで組織にとって貴重になる
  • 外からの視点を会社の変化につなげた例が、クレディセゾンの小野和俊氏である。文化の理解と傾聴を土台に、小さな実績を積んでから全社の変革へ広げた
  • その視点が生きるかどうかは、入る側が踏む順序(聞く→小さな実績→提言)と、受け入れる側が成果を待てるかの両方で決まる

「まだ何もわからない」を、引け目に感じていないか

新しい職場の入口に立つ人がノートを手に、書類の受け渡しや端末を使う仕事の流れを見渡し、素朴な疑問を抱いている

新しい職場では、用語も手順も勝手がわからず、最初のうちは居心地の悪さがつきまといます。

この居心地の悪さは、多くの場合そのまま焦りに変わります。早く戦力にならなければ、早く「わかっている人」にならなければと考え、わからないことを口に出さないよう気をつけ始める。周囲に追いつくことが当面の目標になっていくのです。ただ、この焦り自体はおかしなことではありません。

問題なのは、周囲に追いつこうと急ぐあまり、「入ったばかりの時期にしか持てないもの」がある、ということを見逃しがちになってしまう点です。それは特別なスキルではなく、「なぜこの作業をしているのか」を、何の前提もなく尋ねられる立場です。

クレディセゾンでDXを率いる小野和俊氏も、2019年の入社時点では「ITの専門家でも、クレディセゾンの内部事情まで知っているわけではない」立場から出発しました。しかし同氏は、その「知らない」状態をむしろ強みに変えたのです。

慣れると、人は「当たり前」を見なくなる

帳票を二度確認する循環が「いつもの手順」として繰り返され、その脇にある「理由は?」の問いが意識されなくなっている。

仕事に慣れるとは、いちいち考えなくても手が動くようになり、作業の効率は上がります。ただ、その分だけ「そもそもなぜこうしているのか」と立ち止まる回数は減り、毎日こなす作業ほど考えることを放棄しがちです。慣れるとは、目の前のやり方を疑わなくなることでもあるのです。

たとえば、ある帳票を二重にチェックする手順があったとしましょう。始めた当時は、それなりの理由があったはずです。ところが担当者が入れ替わり、システムも変わっていくうちに、理由を知る人はいなくなり、手順だけが残ります。それでも中にいる人は困りません。「昔からそうしている」で話が済むからです。いわば「そこに疑問があること自体が見えなくなっている」状態と言ってよいでしょう。

DXの出発点としてよく挙げられる業務の棚卸しや可視化も、この「見えなさ」と向き合う作業です。何をやっているかを書き出すだけなら難しくありません。しかし「それは本当に必要か」を問い直す段になると、その業務に慣れた人ほど手をつけにくくなってしまうのです。これは、前提を疑うには、いったんその前提の外に立つ必要があるからだと考えられます。

「知らない」から、当たり前を問い直せる

現場担当者が紙の受け渡しや転記の流れを説明し、外から加わった人が隣で耳を傾け、気づきをノートに残している。

外から来たばかりの人は、まだこの「前提の外」に立っています。だから、なかにいる人には見えなくなった段差や回り道に気づけるのです。「この書類、なぜ紙で回しているんですか」「この転記、前のシステムから直接出せないんですか」といった問いは、業務に染まる前だからこそ自然に出てくるものでしょう。

小野氏がクレディセゾンで最初に取った行動も、この立場を生かすものでした。着任したCDOがまず全社のグランドデザインを描くのはよくある進め方ですが、同氏はそうしませんでした。「組織や社員、意思決定やITの実情を見なければ、その会社に最適化された答えは見えてこない」と考え、入社からの2年間を、何に力を入れるべきかを見定める期間に充てています。内製の少人数チームで現場に入り、まず社内を理解することから始めたのです。

知らないことは、この「見定める」姿勢と相性が抜群です。すでに答えを持っていないからこそ、現場の話を聞くところから始めます。計画を固めすぎないまま動けるのも、手元に出来合いの正解がないからです。

外からの視点を、会社を変える力にするには

「聞く」から「小さな実績」、そして「提言」へ順に進む。その全体を「受け入れ・見守る」と記した組織の土台が支えている。

見定める期間に、小野氏のチームは現場の具体的なニーズに応えていきました。そのひとつが「セゾンのお月玉」の改善です。2,000人近いコールセンターの要望を、投資対効果の計算をいったん脇に置いてでも形にした結果、「あのチームは面白そうだ」という評判が社内に広がり、のちの社内公募には想定の3倍を超える応募が集まりました。小さな成果が、人を巻き込む力になったわけです。こうした実績が積み上がったうえで、2021年9月に全社の「CSDXビジョン」が公表されています。

小野氏が振り返って挙げた成功のカギは、「異文化融合」と「傾聴力」でした。外部の専門人材を排除せず受け入れる組織の側の姿勢と、入る側が謙虚さと敬意を持って現場に向き合う姿勢。その両方がかみ合うことが必要、という見立てです。同氏は、相手のやり方を「古い」と否定するのではなく、自分とは異なる存在だと認めたうえで耳を傾けることを重んじることから始めたのです。

この順序を外すと何が起きるかも、小野氏は取材のなかで率直に話しています。名前の通った外部人材を招いて内製チームを作らせたものの、既存社員と衝突。成果が出ないままわずかな時間で鳴り物入りの担当者が辞めてしまい、ゼロからプロジェクトをやり直す。このようなケースは、DXでよく見られる失敗の型です。外から来た人の視点が生きるかどうかは、それをいつ、どう伝えるかで決まります。

もっとも、順序を踏むのは入る側だけの仕事ではありません。現場の話を聞き、小さな実績を積むには時間がかかります。その間は、目に見える成果がなかなか出ません。そこで早く結果をと急かすのか、それとも腰を据えて見守るのか。外からの視点が会社に根づくかどうかは、招いた側のその辛抱にもかかっています。小野氏が2年をかけて社内を見定められたのも、それを認めた組織があったからこそでしょう。

まとめ:知らなさは、いま活かせる強みである

新しい職場で業務に詳しくないことは、乗り越えるべき弱点というより、いま手にしている強みです。慣れた人には見えなくなった前提を、まだその外から見られる。「なぜこうしているのか」を先入観なく問えるこの立場は、仕事のやり方を問い直すDXと、もともと相性がよいものです。

小野和俊氏の歩みが示すのは、その強みを一気に振りかざすのではなく、現場を理解し、小さな実績で信頼を築いてから大きな提言へ進む、という順序でこそ会社は変わっていく、ということでした。外から来た人の「わからない」は、組織にとっては当たり前を問い直すきっかけになり、本人にとっては「現場をわかったうえで変化を起こせる人」というキャリアの強みになります。

入ったばかりのいま感じている「なぜこうしているのか」を、答えを急がずメモに残しておく。会社を変える大きなうねりは、その1枚のメモから始まるのかもしれません。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。