AIで創る顧客価値:MS&ADが描く次世代顧客対応のグランドデザイン
AIの急速な進化に伴い、金融・保険業界のDXは新たな局面を迎えています。多くの企業がAI導入の目的を業務効率化やコスト削減に置く中、MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社はAIを業務効率化だけでなく、顧客価値創造にこそ活用するという方向性を打ち出しています。
本講演では、同社専務執行役員CDOの本山智之氏と、株式会社RightTouch代表取締役の野村修平氏が登壇。「AIを業務効率化だけに使うのではなく、新しい価値を届ける手段として捉えるべきだ」との考えのもと、顧客体験(CX)の変革とオペレーション改革について議論しました。
AIと人の役割分担が生む顧客価値
本山氏は、AI投資をROIや人件費削減だけで評価することに限界があると指摘。重要なのは、「AIができること」と「人がやるべきこと」を整理し続け、新たな価値を生み出すことだと述べました。その象徴が「事故後の補償」から「事故を未然に防ぐ保険」への転換です。
たとえば、船舶の航行データや気象情報をリアルタイム分析し、海難事故を未然に防ぐ仕組みは、AIを活用すれば実現できる可能性があります。AIによる継続的なデータ分析を保険の専門家である同社が価値に変換することで、事故発生後に補償するだけではなく、事故そのものを防ぐサービスへと保険の価値を拡張しています。
自動車保険の保険金支払いでも、「AIができること」と「AIが担うべきではないこと」を明確に切り分けています。定型的な支払い業務はAIで迅速化する一方、死亡事故や重傷事故、複雑な交渉など、顧客への共感や寄り添いが求められる場面は人が対応すべきだと本山氏は語りました。
AI CoEで競争力を高める
本山氏は、AI活用を「汎用領域」と「競争領域」に分ける戦略も紹介しました。議事録作成や翻訳などはSaaSを積極活用する一方、引受審査や保険金支払いなど競争力の源泉となる業務は内製化を基本とすると述べました。
同社のグループ内には保険会社が5社、100社を超える関連会社が存在します。そこで、グループ全体最適化を実現するためAI CoE(Center of Excellence)を設置。グループ各社による開発の分散や重複案件の開発を防ぎ、AI開発で得られる知見をエクサウィザーズとのジョイントベンチャーに集約させていきます。
AI時代は人材育成も変わる
AI活用を進める上で本山氏は、人材育成が重要な課題の1つだと説明しました。同社が求めるのは、保険業務とAIの双方を理解し、実装まで担える人材です。
一方で、AIの活用によって若手社員が簡易案件を経験する機会が減り、熟練者を育成しにくくなるという新たな課題も生まれました。そのため同社では、AI人材の育成と並行して、若手社員が熟練者の持つ高度な交渉力や共感力を身につけられるよう、教育体系の再構築にも取り組んでいます。
信頼できるパートナーとともに取り組むことが重要
講演の最後、本山氏は「自社だけで考えるのではなく、企業の大小を問わず、試行錯誤できるパートナーを作り、ともに取り組むことがAI活用の成否を左右する」というメッセージでしめくくりました。
AIを単なる効率化ツールではなく、顧客価値を創造する基盤として活用する。MS&ADグループの取り組みは、保険業界にとどまらず、AIを経営戦略に組み込もうとする企業にとって多くの示唆を与えました。
保険DXを加速する最新ソリューションが展示ブースに集結
今回の「保険EXPO2026」には、株式会社NTTデータ、株式会社GenerativeX、Shift Technology Japanなど約30社が出展しました。DXportal®では、その中から特徴的なソリューションを展示した2社を紹介します。
顧客ごとに最適化した動画で保険・金融DXを推進
共同印刷株式会社は、パーソナライズ動画/インタラクティブ動画配信プラットフォーム「OneDouga(ワンドウガ)」を展示しました。OneDougaは、顧客1人ひとりのデータや動画内での選択に応じて動画の内容や表示を最適化するサービスです。保険・金融業界を中心に、複雑な商品や契約内容を分かりやすく伝えることで、顧客体験(CX)の向上や営業支援、業務効率化を実現します。
同社コンテンツプロデュース部の満尾崇氏は、「一律の動画ではなく、1人ひとりに合わせた専用動画を届けられる点が最大の特長です。複雑な商品でも『自分向け』として伝えられるため、お客様から高い評価をいただいています」と語ってくれました。印刷事業で培ったノウハウを生かし、DX支援へと事業領域を広げる同社の取り組みから、今後も目が離せません。
金融特化のAIでレガシー刷新を支援

Trust株式会社は、金融機関向けITコンサルティングとAIプロダクトを展示しました。同社は金融機関に伴走するコンサルティングに加え、ソースコードから仕様書を生成し、システムを可視化するAIプロダクト「TLanP(トランプ)」を提供。COBOLなどレガシーシステムの可視化やドキュメント整備を支援しています。
同社AI・データ事業部の田中稔氏は、「当社は、設立3年目ながらメガバンクなどで実績を積み重ねていますが、AIエージェントの実装支援への関心も高く、多くの商談につながっています」と手応えを語ってくれました。
金融業界に特化した専門性とAI活用こそ、同社がDX推進を支える存在として注目を集める理由なのでしょう。会場では来場者が各ブースで担当者と活発に意見を交わし、保険DXの最新動向や実践事例への理解を深めていました。
展示を通じて、AIやデジタル技術を活用した顧客体験の向上や業務変革の方向性を、来場者は具体的にイメージできたのではないでしょうか。
まとめ:保険業界に見る、AI時代の「人とAIの役割分担」
今回の取材を通じて最も印象に残ったのは、AIが「業務効率化のためのツール」という段階を越え、「顧客価値を創造する経営基盤」として語られていたことです。
本記事で紹介した2つの講演では、それぞれ異なる切り口からAI活用が語られましたが、共通していたのは「人とAIを対立させるのではなく、それぞれの強みを生かして顧客体験を高める」という考え方です。
また、展示ブースでも、パーソナライズ動画やAIアバター、レガシーシステムの可視化など、現場の課題解決に直結する実践的なソリューションが数多く紹介されていました。DXは技術導入そのものが目的ではなく、顧客や現場にどのような新しい価値を提供できるかが問われる時代に入っていることを、あらためて実感できるイベントだったのではないでしょうか。
本イベントは、保険業界におけるDXの現在地を示すだけでなく、AI時代に企業が競争力を高めるためのヒントを数多く示した場だったといえます。
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
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