DXを定着させる鍵は「ツール」ではなく「運用ルール」にある

ツール導入などのデジタル化は、従業員のモチベーション向上にもつながっていると感じますか。
藤川氏
「どうでしょうね。一概に直結するとは言えない気がします。デジタルツールが苦手なスタッフにとっては、むしろ覚えることが増えて面倒だと感じてしまう場面もあるかもしれません。
実際、当社のスタッフは30代から40代、特に40代が多いです。そのため、新ツールを導入したからといって、全員がすぐにスムーズに使いこなせるわけではありません。人によって得意不得意がありますし、人の入れ替わりもあるので、浸透度合いは『人による』というのが正直なところです。」
苦手な方に無理やりツール学習を強いるようなことはしないのでしょうか。
藤川氏
「押し付けることはできませんし、していません。ただ、日々の業務に必要な入力作業などは根気よく教えています。プログラミングや複雑な数式を組むことを求めているわけではなく、『決まった場所にデータを正しく入力する』という運用を徹底してもらっています。前任者が教えることもあれば、私が直接教えてキャッチアップしてもらうこともあります。」
デジタル化やDXを進める上で、特にこだわったルールや工夫はありますか。
藤川氏
「最初に『運用のルール』をしっかり構築したことです。たとえば、社内コミュニケーションツールを『ChatWork』から『Slack』へ移行した際、チャンネル名やユーザー名の付け方、メンションの付け方などのルールを整備しました。特に『商品は正式名称で記載する』といった検索性を意識した運用は入社時にしっかりと伝えています。そうしないと後から情報が追えなくなってしまうからです。」
そうしたルールは全員で作り上げていったのでしょうか。
藤川氏
「初期の少人数だった頃に、合宿のような形でみんなで話し合って決めました。ただ、現在は店舗が増えてスタッフの数も4〜5倍に拡大したため、当時決めたルールが少し薄れてきている部分もあります。ここは改めて整えていきたいところです。」
ツール選定や導入において、これまでに失敗や「もっとこうすればよかった」と感じた事例はありますか。
藤川氏
「スピード感を優先して早い段階でツールを導入した結果、後から苦労したケースはいくつかありますね。当時は勤怠管理に『ジョブカン』を選んで活用していましたが、現在私たちがバックオフィス全般で使っている『マネーフォワード』も、後に労務管理機能などを大幅に拡張してきました。最初からマネーフォワードで一元的にまとめておけば、システム間の連携や切り替えの手間がもっと楽だったなと思うことはあります。」
最新のデジタルツールやサービスの情報は、普段どのように収集されているのですか。
藤川氏
「以前はIT系などの無料の展示会やカンファレンスに足を運び、直接話を聞くことが多かったです。ただ、最近は事業規模が大きくなったこともあり、なかなかそういったイベントに行く時間が取れていません。現場や経営のマネジメントで手一杯なのが実情です。」
組織拡大で見えてきた新たな課題と、次のDXへの挑戦
直近でデジタル面において強化・整理しようとしている取り組みはありますか。
藤川氏
「部門別会計の再構築です。ここ2〜3年で東京や福岡などに店舗や工房がどんどん増え、全部で8部門ほどに拡大しました。事業拡大に伴って少し管理が煩雑になっていたため、現在は会計士の方とも相談しながらスプレッドシート等を活用し、部門ごとの数値を明確に可視化しようとしています。
具体的にはスタッフに毎日必要な数値を入力してもらい、確認しています。それをもとに『この部門の売上をどう上げるか』を検討し、毎週・毎月の定例ミーティングで現場とすり合わせを行っています。」
現時点での経営上の大きな課題は、その8部門の運用・自走でしょうか。
藤川氏
「各部門の会計管理を明確にし、現場のチームが自律的に数値を意識して動ける仕組みを作ることです。ただ、マネジメント層の育成や配置は人の適性も関わってくるので、一朝一夕にはいかず難しい部分ですね。
しっかり任せられる人材がいる部門もあれば、私や副代表の米田が常時フォローに入っている部門もあります。組織作りや人作り、人材採用の面は、自社のまだ弱い部分だと感じています。」
事業規模が拡大するほど、デジタル化やDX推進で業務が効率化される一方で、組織づくりなどの新たな課題も次々と生まれるのですね。
藤川氏
「当社は創業して14〜15年になりますが、組織の悩みは尽きませんね。デジタル化やDX推進で楽になる作業がある一方、組織が大きくなればまた新しい壁にぶつかります。」
IT活用やDXとは別に、御社の事業展望や今後のプランを教えていただけますか。
藤川氏
「むやみに店舗数を増やすことよりも、チーズを軸にした派生商品の開発に力を入れていきたいと考えています。言うなれば、お菓子やケーキなどチーズの新しい可能性を広げていく取り組みです。また、自分たちの店舗だけでなく、全国のチーズ工房の方々と協力して『日本のチーズ産業全体』を盛り上げていきたいですね。国産チーズの認知や魅力を高め、業界全体を元気にすることに貢献できればと思っています。
現状は、為替(ユーロ高)などの影響で輸入チーズの価格が上昇していることもあり、小売店さんが日本のチーズを積極的に扱ってくださる動きも出てきています。追い風が吹いているタイミングでもあるので、しっかり波に乗っていきたいですね。」
最後に、デジタル化やDXと言われても何から手をつければいいか分からない、と悩む中小企業の経営者に向けてメッセージをお願いできますか。
藤川氏
「私自身もデジタルを完璧に使いこなせているわけではありませんが、とにかく『まず手を動かしてみる』ということが一番大切だと思います。苦手意識があっても、最新のAIツールにとりあえずでも触ってみる、アプリをダウンロードしてみる、という小さな一歩からです。
行動を起こさなければ何も変わりませんし、ずっとFAXや手書きのままになってしまいます。少し触ってみるだけで、次の選択肢や視点が見えてくるはずです。」
完璧を求めず、まず動いてみるというのは、藤川社長の姿勢が伝わるお話ですね。
藤川氏
「私は好奇心が勝ってしまう性格なので、一歩を踏み出しやすい面もありますが、新しいツールを試してみると『意外と面白いな』と感じることも多いはずです。躊躇している方も、ぜひ勇気を持って一歩踏み出してみてほしいですね。」
試行錯誤を恐れず挑戦することの大切さが伝わってきました。藤川社長、ありがとうございました。
取材を終えて
デジタル化やDXという言葉を聞くと、多くの人はAIや最新システムの導入を思い浮かべるかもしれません。しかし、藤川氏のお話から伝わってきたのは、DXとは決して華やかなものではなく、「現場で困っていることを1つずつ改善する営み」の積み重ねであるということでした。
実際、藤川氏は、成功事例だけでなく、OCR化の断念やツール選定の反省など、うまくいかなかった経験も率直に語ってくださいました。その姿勢にこそ、多くの中小企業が参考にできるリアリティがあると感じます。
また、「まず触ってみる」「完璧を求めず小さく始める」というメッセージは、DX推進に二の足を踏む企業への力強い後押しになるでしょう。技術そのものではなく、現場の課題を見つめ、改善を繰り返し、人を巻き込みながら前へ進む。その積み重ねが、結果として組織を強くしていく。そんなDXの本質を改めて考えさせられる取材となりました。
DXportal®編集部
株式会社nobilu

- 本店所在地:東京都渋谷区神山町5-8 ステラハイム神山101
- 代表取締役:藤川真至
- 資本金:8,500,000円
- 店舗および製造所
・“奥渋谷”と呼ばれるエリアに構えた工房併設型のショップ「SHIBUYA CHEESE STAND」
・代々木公園近くにあるCHEESE STAND の2号店「&CHEESE STAND」
・チーズの研究所「CHEESE STAND LAB.」
・ABURAYAMA FUKUOKAにあるチーズ専門店「ABURAYAMA CHEESE STAND」 - URL:https://cheese-stand.com/pages/company
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DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。