DXは毎日の仕事だけのものではない|年に一度の「巨大な手間」を狙うという発想

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年次業務DXの自己診断:自社の候補を洗い出す8つの観点

年次業務DXの自己診断:自社の候補を洗い出す8つの観点

候補業務を挙げただけでは判断できません。自社にとってどの業務から着手すべきかを見極めるため、次の8つの観点で洗い出してみてください。感覚値でよいので、まず書き出すことが最初の一歩になります。

  1. 短期間に何件、延べ何時間の処理が集中しているか
  2. 通常業務を止めたり、後回しにしたりしていないか
  3. 残業、休日出勤、応援要員が必要になっていないか
  4. 処理時期になると入力ミスや確認漏れが増えていないか
  5. 毎年ほぼ同じ手順を繰り返しているか
  6. 元となる書類やデータの形式がある程度そろっているか
  7. 締切が固定され、処理時期を後ろへずらせないか
  8. 業務終了後に、翌年へ活かす振り返りが行われているか

洗い出しに使える簡易フォーマット

チェック項目で終わらせず、次のような表に自社の業務を書き出してみるのが実効的です。何を書き出すかを決めるだけで、経営会議の議題が変わります。

業務名発生月期間関与人数通常業務停止属人化度
実地棚卸し3月末2日15名あり
年末調整11〜12月6週間3名一部
契約更新3月3週間5名一部

この表を作るだけでも、「実は年間工数より短期集中の負担が問題だった」という発見が出てきます。読者が自社版を作る際は、感覚値でよいので、まず1枚に書き出してみてください。数字の正確さよりも、俯瞰できることに価値があります。

「年に一度だから自動化」と決めつけない:判断時の落とし穴

年次業務のDXは投資対効果が読みやすい一方で、頻度が低いことから固有のリスクを抱えます。ここでは、実務でつまずきやすい点を整理します。導入前に必ず織り込んでおきたい観点です。

翌年になると誰も操作を覚えていない

年1回しか使わないシステムは、翌年の運用時に操作方法を忘れがちです。担当者が異動していれば、マニュアルが残っていても再現できない場合があります。導入時のマニュアル整備と、年1回の操作リハーサルの仕組み化までを設計に含める必要があります。

制度や帳票の様式が毎年変わる

年末調整、法定調書、社会保険関係の書類などは、法改正や様式変更が毎年のように行われます。自動化の設定を毎年見直せる体制がなければ、翌年に動かない仕組みになりかねません。ベンダーの保守契約に「様式変更への追随」が含まれるかは、契約前に確認しておきたい点です。

保守費が削減効果を上回ることがある

RPAやAI-OCRのライセンス費・保守費は、月額・年額で発生します。年1回しか使わない業務のためだけに導入すると、削減できた人件費より保守費のほうが高くつくケースも少なくありません。既存で契約しているクラウド会計・給与・在庫管理システムに、年次業務向けの機能が含まれていないかを先に確認するのが現実的です。

停止時に手作業へ戻せるか

自動化した仕組みが年に一度だけ動かなくなったとき、手作業へ切り戻せる余地を残しておく必要があります。締切固定の業務では、システムトラブルが即座に事業リスクへ直結します。バックアッププランを持たない自動化は、繁忙期には特に危険です。

出典・参照:

自動化の前に問い直す:一斉処理は本当に必要か

自動化の前に問い直す:一斉処理は本当に必要か

年次業務のDXというと、AI-OCRやRPAの導入を思い浮かべがちです。しかし、そもそもの業務設計を見直せば、自動化に踏み込まずとも負担を減らせる場面があります。ツール選定より先に、業務そのものへ問いを立てる工程を挟みたい理由です。

提出時期を分散できないか

年に一度、全社員から書類を集めているものの、社内締切を月ごとにずらせないか。契約更新の期日を一斉にせず、契約ごとに更新月を分散できないか。制度上の締切と社内の締切は、別で設計できることが多くあります。

元データを最初から電子的に取得できないか

紙で回収してからAI-OCRで読み取るのではなく、最初から入力フォームで集めれば読み取り工程そのものが不要になります。年末調整であれば、社員に年調ソフトで入力してもらう運用へ切り替えることで、書類回収と入力の工程が一度に消えるでしょう。「紙をどう電子化するか」ではなく「紙を発生させない」という順序が有効となるのです。

必要な項目を減らせないか

「毎年の慣習で集めているが、実際には使っていない項目」が混ざっていることがあります。集計や確認の工程を減らす最も効果的な方法は、そもそも入力・回収する項目を減らすことです。廃止提案は現場から出にくいので、経営側から働きかけることを意識しましょう。

一部工程だけを切り出して改善できないか

法令や品質管理の観点から業務そのものを廃止できない場合でも、事前準備、データ収集、集計、差異抽出、転記といった工程を分解すれば、負担の大きい部分だけを改善できます。

棚卸しであれば、実地カウントは残しつつ、集計と差異抽出だけを表計算からデータベースへ切り替えるだけでも効果が見込めるでしょう。全工程を一度に自動化する発想から離れることで、着手のハードルが下がります。

出典・参照:

明日から始める3ステップ:年間カレンダーを開くところから

読み終えた後に何をすればよいか、具体的な3ステップに落とし込みます。ツール選定も予算取りも、その先の話です。まずは1つ目だけでも今週中に着手してみてください。

ステップ1:自社の年間業務カレンダーを1枚にまとめる

12ヶ月の枠に、毎年発生している業務を書き込みます。

  • 棚卸し
  • 年末調整
  • 決算
  • 契約更新
  • 価格改定
  • 健康診断
  • マスター更新
  • 監査
  • 点検
  • 報告書作成

これらをすべて、部門をまたいで書き出すことがポイントです。経理、総務、人事、情シス、営業事務、現場それぞれに書き出してもらい、1枚のカレンダーへ統合します。これによって、部門をまたぐ「見えない繁忙月」が浮かび上がってきます。

ステップ2:負担が集中している月を特定する

書き出したカレンダーを見ると、特定の月に業務が重なっていることがわかります。3月末、11〜12月、決算月の翌月などが典型です。そこにどの部門が関与し、何人が動員され、通常業務がどれだけ止まっているかをメモします。「その繁忙期は本当に顧客や受注が増えたことで生まれているのか、それとも事務処理を集中させる業務設計が生み出しているのか」を、この段階で問い直します。

ステップ3:1業務を選んで「今年の振り返り」を実施する

翌年に向けた改善策を検討する前に、今年の実施記録を残します。誰が、何日、何時間かかり、どこでつまずいたか。この記録がないと、翌年もまた同じ手順で乗り切ることになってしまうでしょう。振り返りの1時間が、翌年の10時間を救う可能性を持っています。

継続のために:ベンダー・保守契約の棚卸しも

自動化を検討する段階になった際は、既に契約しているクラウド会計・給与・勤怠・在庫システムに、年次業務向けの機能が含まれていないかを先に確認しましょう。新規ツールを追加する前に、既存機能の再確認と保守契約の棚卸しを行うことで、追加投資を抑えられます。年に一度しか使わない機能に新規契約するより、既存契約の見直しから入るのが中小企業には現実的です。

出典・参照:

まとめ:DXは「毎年の仕方がない」を疑うところから始まる

本記事では、年に一度の業務にこそDXの投資対象があるという視点を整理してきました。要点を振り返ります。

  • DXの候補は毎日の業務だけではなく、年次・季節業務にも存在する
  • 年間工数ではなく「短期集中で通常業務をどれだけ止めているか」で評価する
  • 宇都宮市の事例が示すのは、技術そのものではなく「集中業務への着眼」
  • 年に一度ゆえに、操作忘れ・様式変更・保守費用といった固有リスクがある
  • 自動化の前に、提出時期の分散や元データの電子化といった業務設計から検討する

読み終えた後の最初の行動として、次の1つに取り組んでみてください。自社の年間業務カレンダーを1枚の紙に書き出し、毎年同じ時期に残業や応援要員で乗り切っている業務を丸で囲むことです。ツール導入も予算取りも、その先の話になります。まずは「毎年の仕方がない」を可視化するところから、年次業務のDXは始まります。

貴社が来年の同じ時期を、今年より少しだけ軽い気持ちで迎えられるよう、本記事が1つのきっかけになれば幸いです。少しの時間を取って、来年の3月や12月の自社を思い浮かべながら、年間カレンダーを開いてみてください。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。