2026年法改正議論と監査ログで進める守りのDX【リスク判定付】

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「打刻データ」が従業員の実態を正確に映し出していると断言できる経営者は多くないはずです。2024年の残業時間上限規制に続き、2026年に向けては、運用の厳格化に関する議論が本格化しています。

2026年に向けた法改正の議論は、現時点では改正案段階の論点も含まれており、今後の議論により内容が変更される可能性がある点には留意が必要です。それでも、これからのデジタルトランスフォーメーション(DX)経営において、自己申告に基づく記録からシステムが自動生成する客観的証跡への移行は避けて通れません。

本記事では、監査ログがなぜ労務管理の肝となるのか、その本質を解説します。

【本記事の要点】

  • 2026年の法改正議論を見据え、客観的な労働時間把握のための有力な手段を検討する
  • 打刻とPC稼働ログの乖離は経営リスクに直結する
  • ログ活用は守りのガバナンスだけでなく攻めの生産性向上に寄与する

2026年法改正議論の背景と客観的な労働時間把握の有効性

2026年法改正議論の背景と客観的な労働時間把握の有効性

労働基準監督署の調査において、自己申告の打刻とPC稼働ログの整合性は厳格に確認されます。客観的な記録を保持することは、法令遵守だけでなく企業の社会的信用を守るために必須です。

日本の労働政策は、今「働く時間の長さ」から「働く時間の質の把握」へと舵を切っています。2026年を迎えたいま、労働時間の把握はいっそう「厳格なエビデンス」を求められるフェーズに入ることが予想されます。

厚生労働省が定めるガイドラインでは、労働時間の把握について「原則として、使用者が自ら確認して記録するか、タイムカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること」と明記されています(参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。ここで注目すべきは「客観的な記録」という表現です。ガイドラインには具体的な例として「パソコンの使用時間記録(ログ)」が挙げられています。

現在進行中の法改正議論では、中小企業においても労働時間の上限規制や割増賃金の適用がいっそう厳密になることが見込まれています。実務上の調査においても、タイムカードやヒアリング、労働実態などの多角的な確認が必須です。その際、PCの稼働ログとの整合性は、実務上の実態を客観的に把握する上での有力な確認ポイントの一つとなり得るでしょう。

なお、客観的な記録はタイムカードやICカードなど多岐にわたり、PCログのみが唯一の手段ではありません。もし二つのデータに顕著な乖離があれば、会社側の管理不足を指摘され、悪質な場合は労働時間の改ざんを疑われる事態を招いてしまうでしょう。

「隠れ残業」が経営を揺るがす?監査ログがない企業が抱える法的リスク

「隠れ残業」が経営を揺るがす?監査ログがない企業が抱える法的リスク

経営者が把握していない現場の「実態」は、法的な紛争が発生した際に企業にとって致命的なダメージとなります。客観的なログデータは、当事者の主張よりも優先される強力な証拠となるからです。

ここで、一つの事例を紹介します。あるIT系商社では、残業を厳しく制限したことで表面上の数字は減少していました。しかし、退職した元社員から未払い残業代の請求が届いたのです。

会社側は「残業を禁じていた」と主張しましたが、元社員が証拠として提出したのは、自身のPCのログイン履歴と深夜に送信されたメールのタイムスタンプ、そして共有サーバーへのアクセスログでした。

裁判所や労基署は、打刻データのみならずPCログなどの複数の証拠から実態を総合的に判断します。会社が提供しているPCを使用し、業務に関連する作業を行っている実態が認められれば、原則として指揮命令下にある労働時間であると判断される可能性が高いです。

このIT系商社の事例では、結果として多額の残業代支払いだけでなく、コンプライアンス違反企業としてのレッテルを貼られ、採用活動にも支障をきたしてしまいました。この事例が示すのは、打刻と実態の乖離を把握していないこと自体が、経営にとって時限爆弾を抱えているのと同じだということです。

【経営者・DX担当者向け】自社の「労務・セキュリティ」リスク判定チェックシート

具体的な事例を見て、自社の現状に不安を感じた方もいるはずです。以下の各項目を確認し、該当するものがないかチェックしてください。

チェックリスト

【経営者・DX担当者向け】自社の「労務・セキュリティ」リスク判定チェックシート

判定結果:あなたの会社の「隠れ残業・訴訟」リスク

チェックがついた数に応じて、以下のリスクレベルが想定されます。ただし、この判定結果はあくまで一つの目安であり、実際のリスク水準は各企業の業種や規模によって異なります。

チェック数リスクレベル状態と必要な対策
0〜2個低(安全)客客観的な証跡管理ができている可能性が高い状態です。現状のログ保存期間や、分析の自動化をさらに進めるのが得策です。
3〜5個中(注意)「隠れ残業」の火種があります。労基署の調査が入った際、打刻との乖離を指摘されるリスクが高い状態です。早急にログの突き合わせ運用を検討してください。
6個以上高(危険)経営上の重大なリスクを抱えています。未払い賃金請求や過労死ラインの見逃しが発生しかねません。今すぐ「統合ログ管理」を導入し、実態把握を自動化すべきです。

労務管理DXの要:監査ログが「最強の盾」として信頼性を担保する3つの理由

労務管理DXの要:監査ログが「最強の盾」として信頼性を担保する3つの理由

監査ログは「誰が、いつ、どのPCで、何をしたか」というシステムの足跡を自動で記録します。これは従業員を監視するためのものではなく、正当に働く社員と会社を守るための透明な物差しです。

1.意図的な操作を排除する「人為的な書き換えリスクが小さい事実」の自動記録

本人や管理者の意思で操作可能なタイムカードや自己申告制と異なり、システムが自動で刻む稼働記録は、客観性が高く、人為的に書き換えることが困難な記録です。ただし、導入に際しては、取得目的や利用範囲を就業規則等で明示し、従業員への説明と同意を得る適切な手順が求められます。

2026年の運用厳格化を見据えた際、この「人の意図が入らないデータ」こそが、万一の労働紛争において会社が適切に管理を行っていたことを示す強力なエビデンスになります。法的なリスクを回避するためには、主観的な主張ではなく、揺るぎない事実の提示が不可欠です。

2.物理的な監視に頼らない、テレワーク環境の公平な評価

姿が見えないテレワーク環境では、プロセスが見えにくいゆえに正当な評価が難しくなる課題があります。監査ログを活用すれば、目に見える成果だけでなく、深夜労働の有無や業務の密度をデータで多角的に把握可能です。

真摯に業務へ取り組む社員を埋もれさせず、一方で過剰な負荷がかかっている社員には早急なフォローを行うなど、データに基づいた公平なマネジメントの基盤を構築できます。ログは監視ではなく、離れて働く社員との信頼を繋ぐ道具なのです。

3.メンタル不調の「予兆」を可視化する次世代の健康経営

長時間労働による健康被害は、企業にとって甚大な損失を招きます。打刻データ上は定時退社となっていても、実際のログに「深夜の散発的なアクセス」や「休日数時間のログイン」が記録されている場合、それは不調の予兆である可能性があり、注意喚起のきっかけになり得ます。

深刻な事態に陥る前にログから状況を察知し、産業医面談等の対策を講じることは、企業としての安全配慮義務を果たす上でも極めて肝要です。客観的な証跡を基盤とした健康経営こそが、持続可能な組織を作ります。

守りのDXから攻めのDXへ:ログデータを組織の「健康診断」に活用する手法

守りのDXから攻めのDXへ:ログデータを組織の「健康診断」に活用する手法

ログデータの蓄積と分析は、組織内のボトルネックを特定し、真に効果的なシステム投資や人員配置を導き出します。守りのガバナンスを、生産性向上という攻めの経営戦略へと転換させることがDXの本質です。

例えば、全社のログを分析することで、特定の部署に業務が偏っている実態が可視化されることもあります。

「Aさんは毎日22時までPCを操作しているが、業務フローに無駄があるのではないか」

「Bチームは特定のアプリケーションの操作時間が異常に長い」

こうした気づきは、経営者が次の一手を打つための貴重なデータになります。勘や経験に頼るのではなく、ログという事実に基づいてデジタル利活用や投資を判断する姿勢が求められます。

また、セキュリティ対策としての側面も見逃せません。外部からの不正アクセスや内部からの情報持ち出しを検知するために収集している監査ログを、あらかじめ利用目的をプライバシーポリシー等で整備した上で労務管理の証跡として活用することは、限られた予算の中で投資効率を最大化する選択肢となります。

【実装の注意点】膨大なログをどう扱うか?自動検知による効率的な運用フロー

【実装の注意点】膨大なログをどう扱うか?自動検知による効率的な運用フロー

ログ活用の失敗要因は、データの海に溺れてしまうことです。勤怠打刻との乖離を自動で抽出する仕組みを整え、異常値のみを経営判断の材料にすることが効率的な運用の第一歩です。

いざログを取ろうと決めても、社員が100人いれば1日に発生する操作ログは数万行に及びます。これを毎日、人間が目視で確認し、勤怠データと照らし合わせるのは現実的ではありません。せっかくログを取得していても、それを活用可能な状態で整理できていなければ、宝の持ち腐れです。

ここで不可欠なのが「ログの可視化」と「異常の自動検知」です。理想的なのは、勤怠システムの打刻時間とPCの稼働ログを自動で突き合わせ、一定以上の乖離がある社員をリストアップしてアラートを出すような仕組みです。

経営者や人事担当者がチェックすべきは、膨大な正常ログではなく、そこから浮き彫りになった異常値だけで良いのです。

まとめ:2026年法改正を「守りのDX」から「持続可能な成長」への転換点に

2026年の法改正を目前に控え、企業に求められているのは「なんとなくの管理」からの脱却です。これからの経営者が考えるべきは、バラバラに存在する勤怠データとシステムの操作記録を統合し、組織の透明性を高めることです。

ログを取ることは、社員を疑うことではありません。むしろ正しく働く社員に不当な評価を与えず、会社を法的なリスクから守るための、いわば企業の健康診断です。膨大なログの中から、勤怠打刻と乖離している箇所を自動で見つけ出し、ダッシュボードで一目で確認できるような環境を整えてください。

コンプライアンスを守りつつ、従業員が安心して働ける環境こそが、次世代の成長を支える基盤です。まずは自社のPCからどのようなログが抽出できるのか、現状の勤怠データとどれくらいズレているのか、棚卸しから始めてはいかがでしょうか。その一歩が、「データに基づいた健全な経営」の第一歩となるはずです。

帯邉 昇

執筆者

株式会社MU 営業部

帯邉 昇

新卒で日本アイ・ビー・エム株式会社入社。ソフトウェア事業部でLotus Notesや運用管理製品Tivoliなどの製品担当営業として活動。その後インフォテリア株式会社、マイクロソフト株式会社で要職を歴任した。キャリア30年のほとんどを事業立ち上げ期のパートナーセールスとして過ごし、専門はグループウェアやUC、MA、SFA、BIなどの情報系で、いわゆるDXの分野を得意とする。(所属元)株式会社エイ・シームジャパン。