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「DX人材求む」
そんな一文を求人票に載せたことがある経営者や、社内で「あの人はDX人材だから」と誰かを評したことがある人事担当者は、少なくないはずです。ところが、いざその中身を説明しようとすると、言葉に詰まってしまう。「DX人材」とは具体的に何ができる人のことなのか、実は誰も明確に答えられないまま、この言葉だけが独り歩きしていないでしょうか。
本記事では、「DX人材」という言葉を定義しようとすればするほど、なぜ現実から遠ざかっていくのかを、国の統計データから読み解きます。あわせて、DX(デジタルトランスフォーメーション)専門メディアであるDXportal®自身がこれまで複数の角度から取り上げてきたDX人材論も考察することで。読み終える頃には、完成された「DX人材」の人物像を外に探すのではなく、自社にとってのDX人材像をどう定義し、採用の場でどう示せばよいかが見えてくるはずです。
【本記事の要点】
- 経済産業省・IPAは「デジタルスキル標準」で5つの人材類型を定義したが、これは1つの言葉を5つに分けなければ説明できなかったことの裏返しでもある
- 国の定義努力にもかかわらず、DX人材が「大幅に不足している」と回答した企業の割合は2021年度30.6%から2023年度62.1%へ増加している
- ただしIPAの分析によれば、自社独自の人材像や評価基準を持つ企業ほど、この不足感は明確に低い
- DXportal®自身もこれまで複数の角度からDX人材を語ってきたが、これは矛盾ではなく、外部の統一定義に頼らず自社の基準を持つことの重要性を裏付けている
「DX人材求む」という求人票の空白
求人サイトや自社の採用ページで、よく目にする「DX人材」という言葉。あるいは社内で、「あの人はDX人材だから」「うちにはDX人材がいないから」といった会話が交わされる場面もあるかもしれません。
では、あなたは、「DX人材」とは具体的にどういう人材を指しているのか、説明できますか。
ほとんどの方が、答えは「NO」ではないでしょうか。「DX人材」とは具体的にどのようなスキルを持ち、どのような仕事を任せられる人のことなのか。求人票を書いている本人も、社内で評している本人も、はっきりと言語化できないまま、この言葉をなんとなく使っている。こうした現象は、現代ビジネスの現場で往々にして見られます。便利な言葉であるほど、その中身は空白のままになりやすいものです。
出典・参照:
国でさえ、5つに分けなければ定義できなかった
この「DX人材」という言葉を、国レベルで定義しようとした試みがあります。経済産業省とIPA(情報処理推進機構)は、2022年12月に『デジタルスキル標準』を策定し、そのあともDXを推進する人材の役割・スキルを示し改訂が続いています。
この標準では、DXに関わる人材を、次のそれぞれ役割も、求められる知識も、まったく異なる5つの類型に分けて定義しました。
- ビジネスアーキテクト:全社戦略や事業構想を描く
- デザイナー:ユーザー体験を設計する
- データサイエンティスト:データ分析で意思決定を支える
- ソフトウエアエンジニア:システムを開発・運用する
- サイバーセキュリティー:資
注目したいのは、国でさえ「DX人材」という1つの言葉を、5つの類型に分けなければ説明できなかったという事実です。これは国の定義努力が不十分だったということではなく、むしろ「DX人材」という言葉が、そもそも1つの人物像に収まりきらない広がりを持っていることの証左だと読むべきでしょう。
定義しても、国全体では人材不足感が悪化した
さらに興味深いのは、この定義化が進んだあとも、企業の人材不足感が全体としては悪化していることです。IPAが2024年に公表した調査分析ディスカッション・ペーパー『DX動向2024-深刻化するDXを推進する人材不足と課題』によれば、DX人材の量が「大幅に不足している」と回答した企業の割合は、2021年度の30.6%から2023年度には62.1%へと増加し、調査開始以来はじめて過半数を超えました。
国が5つの類型を示し、育成の道筋を提示してもなお、日本全体で見た不足感はむしろ強まっている。この逆説をどう読めばよいのでしょうか。
ここで、この調査のもう1つの分析が手がかりになります。IPAは、企業ごとに「自社にとって必要なDX人材像を設定・周知しているか」「評価基準を持っているか」を尋ね、その有無と人材不足感の関係を調べています。結果は明確でした。DX人材像を設定している企業では「大幅に不足している」と回答した割合が48.6%だったのに対し、設定していない企業では68.3%にのぼったのです。評価基準がある企業とない企業でも、43.7%対68.7%という同様の差が見られています。
つまり、国が示した5類型のような統一的な定義そのものは、個々の企業の不足感を直接解消するわけではないということです。むしろ、その定義を手がかりに、自社が「何を求めるDX人材なのか」を自分たちの言葉で定義し直し、評価基準にまで落とし込めているかどうかが問われているのです。
それにもかかわらず、日本企業でDX人材の評価基準を持つ企業はまだ21.2%にとどまり、人材像を設定していない企業も4割にのぼる事実(米国企業は評価基準を持つ企業が6割を超えています)を、我々は真摯に受け止めなければならないでしょう。
「DX人材」は1つの顔を持たない
DXportal®も、これまで「DX人材」というテーマを、決して1つの定義だけでは語ってきませんでした。ある記事では、DX成功のカギを握る人材として、ビジネスアーキテクト・テクノロジーアーキテクト・エンジニア・デザイナー・チェンジリーダーという5つの役割を独自に整理しました。
別の記事では、そのなかでも経営戦略をデータ設計へ落とし込む「オーケストレーター」としてのビジネスアーキテクトの役割を、より深く掘り下げています。
さらに、政府がスキルの見える化を通じてDX人材不足の解消を目指す施策を紹介した記事もあります。
外部採用に依存せず、既存社員への教育投資によって人材を「資産」として育てる視点を提示した記事もあります。
これらは、DXportal®の主張が揺れているということではありません。むしろ「DX人材」という言葉が、切り口によっていくつもの異なる姿を見せるという、この言葉の性質そのものを表した結果です。
経済産業省・IPAの5類型も、DXportal®がかつて整理した5つの役割も、それぞれ異なる軸で「DX人材」をとらえており、どちらか一方だけが正解というわけではないのです。
問題が起きるのは、企業がこの多様性を踏まえないまま、「DX人材」という言葉をあたかも唯一の答えがあるかのように使ってしまうときでしょう。中身を定義しないまま「DX人材求む」とだけ書かれた求人票では、応募する側は何を期待されているのかわかりません。社内で「あの人はDX人材だから」とだけ評価される社員も、具体的に何を求められているのかわからないまま、答えようのないプレッシャーを抱えることになりかねないのです。
この問題に対する唯一の答えは、「自社にとってのDX人材」という定義を、できるだけ具体的かつ定量的に定義することである。これが、DX推進専門メディアとして、読者の皆さんに情報提供を行ってきたDXportal®としてのこの記事の結論です。
まとめ:定義を待つのではなく、自社の基準を示す
「DX人材」を統一的に定義しようとするほど、その定義から現実は遠ざかっていく。国の5類型も、DXportal®がこれまで語ってきた複数の切り口も、それぞれ異なる「DX人材」の姿を描いており、唯一の正解は存在しません。そしてIPAの調査が示すとおり、国の定義努力そのものは、企業ごとの人材不足感を直接には解消しないのです。
この基準のなさは、採用の入口でそのまま裏目に出ます。「ITに強そうな人」「なんとなくDXを進めてくれそうな人」といった曖昧な人物像のまま求人を出しても、本当に優秀なDX人材ほど集まりにくくなります。
- 自社が何を任せたいのか
- どのような成果を期待しているのか
これらを言語化することが、求人広告費を価値ある投資に変えてくれます。特に、経験と実力を持つ人材ほど、あいまいな「DX人材」という言葉には魅力を感じにくく、応募そのものを避ける傾向があるからです。
不足感を明確に下げているのは、自社独自のDX人材像を定義し、評価基準として社内外に示している企業です。だからこそ企業に必要なのは、外部の統一的な定義を待つことではありません。「この会社は何を変えたいのか」という具体的な問いを起点に、自社にとっての「DX人材」とは何かを自分たちの言葉で定義し、その基準を求人票や社内評価の場で、誰にでもわかる形ではっきりと示すことです。それこそが、定義できない言葉と向き合う、最も実践的な向き合い方ではないでしょうか。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。



