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- 役所の窓口で申請書がうまく書けない
- スーパーのセルフレジの前で操作に手間取り、後ろの人の視線が気になる
- オンラインでの手続きを案内されても、そこにたどり着けない
DX(デジタルトランスフォーメーション)やセルフサービス化が進むほど、こうした場面で立ち止まる人が出てきます。いわゆるデジタルデバイドです。このとき、問題は「使えない人」の側にあると考えられがちですが、本メディアでは、これを設計の問題として捉え直しました。
DXの設計は、たいてい「デジタルに慣れた人」を暗黙の標準ユーザーに置いています。申請フォームを画面で埋めることを前提にすれば、それができない人は「対応できない人」になり、会計を利用者が自分で操作することを前提にすれば、操作に不安がある人は「レジを滞らせる人」になります。標準の置き方が、誰を例外にするかを決めているのです。しかし、その標準を慣れない人の側に据え直すと、何を作るべきかの判断は変わってきます。
この記事では、全員のデジタル移行を待たずに「橋を架ける」設計を実際に行っている、日本の3つの現場を紹介します。3つに共通しているのは、デジタル化を進める一方で、慣れない人のための経路をあえて残し、時には増やしているという設計判断です。そこから、「使える人」だけを前提にしないDXの作り方を考えていきましょう。
【本記事の要点】
- DXの設計は「デジタルに慣れた人」を暗黙の標準に置き、慣れない人を例外として扱いがちである
- 標準ユーザーを慣れない人の側に置き直すと、設計の判断そのものが変わる
- 3つの事例に共通するのは「全員のデジタル移行を待たず、橋を架ける」という設計思想である
- 紙・対面・人手をあえて残すことは、後退ではなく設計判断の1つである
申請書を書かせない窓口をつくった北見市「書かないワンストップ窓口」
1つ目は自治体の事例として、北海道北見市の「書かないワンストップ窓口」を取り上げます。
北見市は、市民が窓口で申請書を手書きせずに手続きを進められる仕組みを、全国に先駆けて整えてきました。市の説明によると、2012年に職員が実際に自分の市役所の窓口を利用してみる実証実験を行ったことが、2013年からの業務見直しの出発点でした。
来庁者はフロアマネージャーの案内を受けてカウンターに進み、職員が聞き取りながら受付システムに入力し、来庁者は内容を確認して署名するだけで手続きが完了します。転入や出生などに伴う複数の手続きを、1カ所でまとめて処理する形も取られています。
この仕組みの特徴は、フロントの窓口だけでなく、その後ろで職員が行う事務のフローも一体で見直したうえで成り立っている点です。総務省の自治体DX事例では「書かない、回さない、漏れがない窓口」として紹介されており、国の交付金を活用して、同種の窓口づくりに取り組む自治体が広がっています。
出典・参照:
手続きの窓口を近所のコンビニに置いたコンビニ交付サービス
2つ目は、行政手続きの接点そのものを増やした事例です。コンビニ交付サービスを取り上げます。
コンビニ交付サービスは、市区町村が発行する住民票の写しや印鑑登録証明書などを、マイナンバーカードを使って全国のコンビニエンスストアのマルチコピー機で取得できる仕組みです。運営は地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が担い、店舗網はセブン‐イレブン・ジャパンをはじめとする事業者が提供しています。近年は、iPhoneに搭載したマイナンバーカードでも利用できるようになりました。
この仕組みの意味は、役所の窓口が開いている時間に、役所まで足を運ばなくても、生活圏の中で手続きを終えられる点にあります。平日の日中に窓口へ行けない人、長い列に並ぶのが難しい人にとって、近所のコンビニは現実的な接点です。
マイナンバーカード自体はデジタルの仕組みですが、ここでは「窓口に行けない人が、近所で完結できる場所」を物理的に増やした取り組みとして位置づけられます。あわせて、セブン銀行のATMでは、マイナポータルを通じて自治体が持つ情報を指定先へ提出する手続きなども行えるようになっています。
出典・参照:
急かさないレジを残したイオンリテール「サポートレジ」
3つ目は、対面の経路をあえて残した民間事例です。イオンリテールの「サポートレジ」を取り上げます。
イオンリテールは、利用者が自分で会計操作を行うセミセルフレジを、ここ数年で急速に増やしてきました。同時に、支払いの場面で戸惑ったり負担を感じたりする利用者が一定数いることも課題として認識され、店員が精算機まで出向いて手助けする場面が増えてきたのです。
そこで同社は、会計に手助けが必要な人のための有人レジ「サポートレジ」を、2022年4月から店舗に導入しました。報道によると、対象は高齢者や目の不自由な人などで、2023年時点で約240店舗に設置され、300店舗を超える規模へ拡大する方針が示されています。
セルフ化を進めながら、その裏で、店員が対応する経路を意図的に残し、むしろ増やしている点がこの事例の特徴です。
イオンリテールの取り組みと似た発想は海外でも見られます。オランダのスーパーマーケットJumboは、店員が世間話をしながらゆっくり会計する「Kletskassa(おしゃべりレジ)」を2019年に始めました。現在では、高齢者の孤立を和らげることを目的に、政府の孤独対策の取り組みと連携して導入され、国内の多くの店舗へ広がっています。
出典・参照:
まとめ:全員の移行を待たず、橋を架ける
3つの現場に共通しているのは、全員がデジタルに移行するのを待たずに、いま使えない人と手続きの間に橋を架けている点です。
- 申請書を書かせず職員が代わりに入力する
- 役所まで行かなくても近所で手続きできる場所を増やす
- セルフ化の裏で、急かさない有人レジを残す
紙や対面や人手を残すこれらの判断は、DXの後退ではありません。誰を標準ユーザーに置くかを決めたうえでの、設計の選択です。
DXにおいては、「増やす・進める」だけでなく「あえて自動化しない・残す」を選ぶことも、1つの判断です。そして、橋を架ける設計は、デジタルに慣れた人の利便性を損なうものではないのです。
書かない窓口は誰にとっても速く、コンビニ交付は誰にとっても便利なように、DXの対象を「誰に」置くかによって、デジタル化を進めるだけがDXを推進しているとは言えないのかもしれません。
貴社のDXは、誰を「使える人」の基準に置いているでしょうか。その基準を、いちばん不慣れな顧客や従業員の側に置き直したら、何を変えることになるでしょうか。この機会に問い直してみていただければ幸いです。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。


