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DeepSeekやKimi、Qwenなど、中国発のAIモデルがたびたび話題になっています。しかし、中国性AIに関しては、高い性能を低価格で使えると評判になる反面、データの扱いに不安を示す声があるのも事実のようです。一方で、中国が国として、AIで具体的に何を、どんな規模でやろうとしているのかわからないというのが実情でしょう。
モデルの話題が先行するなか、中国工業情報化部(MIIT)は2026年9月11日、ソフトウェア産業へAIを統合する国家計画「人工知能+ソフトウェア特別行動実施方案」を公表しました。ソフトウェアを作る工程そのもののAI化を国として進める内容で、2028年までに、AIプログラミングツールを2万社超のソフトウェア企業へ普及させ、見本となる応用事例を100件つくるといった数値目標を掲げています。
本記事では、計画が掲げる数値目標の中身、その強みと限界、米国・EU・G20との違い、そして日本の中小企業にとっての示唆を解説します。
【本記事の要点】
- 中国は2028年までに、AIプログラミングツールを2万社超へ普及させ、見本となる応用事例を100件つくるなど、4つの数値目標を掲げた
- 件数目標は進捗を追いやすく、関係者が動きやすい。一方、生産性や品質といった成果は件数から見えないため、米国・EU・G20は別の観点で測っている
- 日本の中小企業は、対象工程・利用者・品質・顧客価値を分けて目標を立て、小さな先行案件から横展開する考え方を参考にできる
中国のAI政策が示す4つの数値目標と、それを支える実施の仕組み
中国の方案は、2028年・2030年の数値目標と、それを実現するための措置の両方を示しています。ここでは、目標の中身と、それを支える仕組みを順に整理します。
4つの数値目標
MIITの方案(文書番号:工信部信発〔2026〕209号)は、2028年までに次の4つを実現するとしています。
- 高水準のインテリジェント・プログラミングツールと開発プラットフォームを、規模以上ソフトウェア企業2万社超へ普及させる
- ソフトウェア企業のインテリジェント化技術改造(技改)プロジェクトを累計100件実施する
- 重点業界でエージェント型ソフトウェアの標杆応用(ベンチマーク応用)を100件つくる
- 良質なオープンソース・プロジェクトを5件以上育成する
2030年にはさらに一段進め、重要ソフトウェアの全面的なインテリジェント化などを目指すとしています。
ここで注意したい点が2つあります。1つは、これらがいずれも2028年・2030年の目標であり、現時点で達成した実績ではないことです。もう1つは、「技改100件」と「標杆応用100件」が別々の目標である点です。
英語版の中国政府サイトの要約では、技改100件が省略され、標杆応用100件だけが残っています。技改は企業の開発工程そのものを変える取り組み、標杆応用は重点業界向けのエージェント型ソフトウェアの見本づくりです。この2つが並んでいることは、計画の射程が製品デモだけでなく、ソフトウェアを作る工程自体にも及んでいることを示しています。
出典・参照:
数値目標を支える実施の仕組み
公式解説「七問+一図」によると、この方案は数値目標だけでなく、それを支える具体的な仕組みも示しています。分野ごとに整理すると、次のとおりです。
| 分野 | 主な内容 |
|---|---|
| 安全面 | 安全で信頼できるプログラミングツールの調達、生成されたコードの安全審査、重点業界向け新規ソフトウェアのリリース前検査 |
| 資金・認定面 | 地方の「算力券」(AIの計算資源の利用を補助する券)や財政専項資金、「首版次ソフトウェア製品」(初めて市場に出す新製品)の認定など |
| オープンソース | AtomGitや開放原子開源基金会を軸にした支援 |
| 人材 | 再訓練・職務転換 |
なお、国費総額や年度別配分、1社・1件あたりの上限は、9月15日時点で確認できる方案・公式解説のいずれにも示されていません。
出典・参照:
件数のKPI、米国・EU・G20は何を測っているか
中国が普及企業数・技改件数・標杆応用件数・開源育成件数という「件数」を測るのに対し、他の地域が重視する指標は異なります。ここでは、世界的な潮流を調べてみましょう。優劣ではなく、何をKPI(成果を測る指標)に置くかという視点の違いとして見てください。
米国:研究・商用化・インフラ・政府調達
米国のAI Action Planは、規制障壁の見直しや民間主導の技術革新環境の整備を軸にしています。そのうえで、次のような複数の政策行動で構成されています。
- 研究
- 商用化
- AIインフラ
- 政府による導入
- 評価の仕組み
- 輸出・安全保障
民間主導を掲げつつも、政府が調達や研究、インフラ整備、輸出管理を通じて強く関与している点が特徴です。
EU:市場投入後の義務履行と透明性
EUのAI法は、汎用AIを提供する事業者に対し、文書化、著作権方針の遵守、学習内容の要約公開、重大なシステミックリスクの通知・評価・事故報告といった義務の履行を求めます。汎用AIモデル提供者への義務は2025年8月2日に適用が始まり、欧州委員会の執行権限は2026年8月2日に発効済みです。
既存モデルには2027年8月2日までの猶予があり、高リスクAIの主要規定は2027年・2028年へ段階的に適用される部分があります。EUが測っているのは、市場に出た後の責任と透明性です。
G20:案件ごとの効果測定
G20は法的拘束力を持たない共同原則として、基礎研究、商用化、信頼できる導入、人材、知的財産、標準、供給網を各国が国内事情に応じて実装するという方向性を示しています。特に公共部門のAI活用については、案件ごとに指標を設けて価値と影響を評価し、その結果を見てから拡大するという考え方を推奨しています。
案件ごとに成果を測ってから広げるというこの考え方は、中国方案の件数目標に対し、「導入数の次に成果をどう測るか」という問いを投げかける材料になります。
出典・参照:
件数KPIの強みと限界
中国方案の2万社・100件・100件・5件以上という数値目標には、明確な強みがあります。目標が数字ではっきり示されているため、関係する省・企業・基金・オープンソースコミュニティーは、何を進めればよいのかが分かりやすく、動きやすくなります。進捗も、件数を数えれば外形的に追えます。
一方で、件数は成果そのものを示すものではありません。2万社に普及したとしても、それによって生産性がどれだけ上がったのか、欠陥がどれだけ減ったのかは、件数からは分からないためです。実際、9月15日時点で確認できた公表資料には、次の項目が示されていません。
- 生産性向上率
- 欠陥の減少率
- 利用の継続率
- 売上・付加価値への効果
- 普及を「達成」と数える判定条件
- 100件の選定・検収基準
- 第三者による評価方法
導入した件数と、そこから生まれる成果は別物です。件数を達成しただけでは、計画の効果までは判断できません。
日本の中小企業への示唆
今回の2万社は中国の「規模以上ソフトウェア企業」が対象で、日本の中小企業全般を直接対象にした制度ではありません。それでも、計画の設計思想には参考にできる部分があります。
参考にできるのは、次の4点です。
- AIツールの購入数やアカウント数だけでなく、対象工程、利用者、品質・安全、顧客価値を分けて目標を立てる
- 小さな先行案件を選び、再現可能な手順に整えてから横展開する
- 生成したコードのレビューやリリース前の検査、データ管理、権限・監査、人材の再訓練を、導入計画そのものに組み込む
- オープンソースを無償の調達手段ではなく、ライセンスや脆弱性対応、保守を伴う運用資産として扱う
そのうえで、自社のAI活用を測る指標も、他社の導入数ではなく、導入前後のリードタイムや手戻り、顧客対応時間、従業員の役割の変化に置くほうが、実態に近づくでしょう。
まとめ:何を測るかが、AI活用の進め方を決める
中国の計画は、2万社や100事例といった件数の目標を掲げることで、ソフトウェアを作る工程そのもののAI化に向けて、国全体の動きをそろえようとするものでした。
件数は進捗が見えやすく、関係者が動きやすい反面、その先にある成果までは映しません。米国が研究やインフラ、EUが義務の履行、G20が案件ごとの効果を測っているように、何を測るかは、その国が何を重視するかを映すのです。
この違いは、企業のAI活用にも当てはまります。導入したツールの数や利用者数だけでなく、導入前後で仕事がどう変わったのかを測る視点を持つことが、AI活用の実態をつかむ第一歩です。次にAIのニュースを目にしたときは、その国や企業が何を目標に置き、何で測っているのかにも目を向けたいところです。
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
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