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2022年11月30日、OpenAI社によってChatGPTが世界中に一般公開されました。それ以降、今や「AIブーム」と呼べるほど、ビジネスの世界のみならず、我々の生活そのものにAIが浸透しはじめているのは、多くの読者にとっても実感のできるところでしょう。
しかし、ITの歴史に詳しい方の中には、「またAIブームか」と感じている方も少なくないはずです。1980年代のエキスパートシステム、2010年代の機械学習、そしてChatGPTを起点とする生成AIと、AIは何度も期待され、何度も失望されてきました。それでも今回は違うと喧伝されますが、本当に違うのかは判断に迷うところです。
本記事では、過去3回のAIブームと冬の時代を振り返りながら、生成AIを中心とする第4次ブームが定着する条件を社会実装・インフラ・人材・コストの観点から検証し、コラムとして紹介します。読み終えたとき、ブームに乗るか降りるかの二択ではなく、自社の業務課題からAIをどう位置づけるかという判断軸を持てる状態を目指していきましょう。
【本記事の要点】
- AIは過去に2度の冬を経験しており、いずれも「現実問題が解けない」「知識を記述するコストが膨大」という構造的な壁で失速した
- 第4次ブームは計算資源・データ・ユースケースの広さの面で過去と構造が異なるが、それでも幻滅期は避けられない
- Gartnerのハイプ・サイクルが示す幻滅期は撤退の合図ではなく、実装段階への移行を示すサイン
- 中小企業は流行で判断せず、業務課題起点・ROI試算・運用負荷・属人化リスクの4軸でAI活用を見極めるのが現実的
AIの歴史を振り返るとなぜ「冬」が訪れたのか
AIブームの是非を判断する前に、まずは過去のブームがなぜ冬を迎えたのかを押さえておく必要があります。歴史は繰り返すとよく言われますが、繰り返すパターンを理解していなければ、同じ轍を踏みかねません。総務省の情報通信白書ではAIの進展を3つの時代に整理しており、本章ではその系譜を経営判断の視点で読み解きます。
第1次ブーム:推論と探索で現実は解けなかった
第1次AIブームは1950年代後半から1960年代にかけて起こりました。
コンピューターによる推論や探索が可能になり、迷路やパズルを解くデモンストレーションが世間を沸かせたのがこの時期です。しかし現実社会の課題は迷路よりはるかに複雑であり、ルールを記述しきれない問題に直面しました。
結果として研究投資は縮小し、最初の冬の時代を迎えています。経営視点で見ると、デモで動くことと業務で使えることの間には深い溝があるという普遍的な教訓を残した時代でした。
第2次ブーム:エキスパートシステムは知識記述コストに敗れた
1980年代に訪れた第2次ブームの中心は、専門家の知識をルール化して推論させるエキスパートシステムでした。
医療診断や故障診断などで実用化が試みられ、日本でも第5世代コンピュータ計画に巨額の投資が行われています。しかし専門家の暗黙知を言語化する作業は想像以上に膨大で、例外への対応も難しいことが明らかになりました。
知識を維持し続けるコストが見合わず、再び冬の時代が訪れます。技術ではなく運用負荷が普及を阻んだ点は、現代のAI活用にも通じる示唆を与えてくれます。
第3次ブーム:ディープラーニングが冬を解凍した
第3次ブームは2010年代以降の機械学習・ディープラーニングが牽引しました。
転換点となったのは2012年の画像認識コンテストILSVRCで、トロント大学チームがディープラーニングを用いて従来手法を引き離す精度を叩き出した出来事です。データと計算資源の蓄積が突破口を開き、画像認識・音声認識・翻訳などで実用水準に到達しました。
第3次ブームは、過去2回の冬を乗り越えた最初のブームと評価されており、ここから現在の生成AIブームへと地続きにつながっていると考えられます。
第4次AIブームと呼ばれる生成AIの現在地
現在は、第3次ブームの延長線上にあるのか、それとも別の時代区分なのか、ChatGPT登場以降の動きをどう位置づけるかは識者の間でも見解が分かれます。本章では公的資料と業界レポートをもとに、現在の生成AIブームがどの段階にあるのかを整理し、経営判断の材料を提供します。
ChatGPT以降を第4次と呼ぶ見方の登場
一般財団法人日本経済研究所は、ChatGPTの登場によってAIの利用層が研究者やエンジニアから一般のビジネスパーソンへと一気に広がった点に注目し、これを第4次AIブームと位置づける見解を示しました。これまでのAIが裏方の自動化技術だったのに対し、生成AIは対話形式で誰もが触れる点が決定的に異なります。利用者の裾野が広がれば期待値も投資も膨らみ、結果として失望のリスクも高まるという構造を生み出しています。
日本企業のAI活用は世界と比べてどこにいるのか
総務省の令和7年版情報通信白書では、日本における生成AIの個人利用が拡大している一方、米国・中国・ドイツとの差は依然として大きいことが示されています。企業のAI活用方針の策定状況や利用状況も国際比較で遅れが目立ち、ブームに乗っているように見えても実態は様子見の組織が多数を占めるのが現状です。経営者にとっての示唆は、世間の熱量と自社の業務適用の間には依然として大きな距離があるという冷静な認識を持つべきという点になります。
出典・参照:
公的資料が示すAI進展の経緯
令和6年版情報通信白書のAI進展の経緯では、第1次・第2次ブームと冬の時代を経て、現在の第3次ブームに至る流れと生成AIの登場が体系的に整理されています。公的資料がここまで歴史を踏まえてまとめている事実は、現在のAI活用が一過性の話題ではなく、政策・経済・社会の基盤と結びついて議論されていることの表れと言えルノではないでしょうか。つまり、中小企業にとっても、流行ではなく社会基盤としてのAIをどう扱うかという視点が求められる段階に入っていると言えるでしょう。
出典・参照:総務省(令和6年版情報通信白書 AI進展の経緯)
過去のブームと現在のブームは何が構造的に違うのか
「今回は違う」と語られる根拠を、感覚論ではなく構造で確認しておく必要があります。技術の進歩そのものではなく、社会実装・インフラ・人材・コストという4軸で過去と現在を比較すると、違いが具体的に見えてきます。本章では4つの観点で過去ブームと現在ブームを並べ、経営判断に使える視点へと翻訳します。
社会実装・インフラ・人材・コストの4軸比較
下記の表は、過去のAIブームと現在の生成AIブームを4つの観点で比較したものです。比較する目的は「今回は冬が来ない」と判断する材料ではなく、何が変わり何が変わっていないのかを切り分け、自社の意思決定の解像度を上げる点にあります。
| 観点 | 第1次・第2次ブーム | 第3次・第4次ブーム |
|---|---|---|
| 社会実装 | 研究室・一部の専門システムに限定 | 業務ソフトやSaaSに組み込まれ一般利用が広がる |
| インフラ | 計算資源とデータが圧倒的に不足 | クラウドGPUと大規模データが利用可能 |
| 人材 | 研究者中心で一般職には縁遠い | 利用者は事務職まで広がりリテラシーが課題 |
| コスト | 専用機・専用人材で初期投資が高額 | 月額数千円から試せる利用形態が普及 |
表を見て分かるのは、過去ブームを冬に追い込んだ「データ不足」「計算資源不足」「導入コスト過大」という制約が現在では構造的に解消されている点です。一方で、現場の人材リテラシーや運用設計はむしろ新しい課題として浮上しています。経営者は「インフラが整ったから安心」と読むのではなく、「今度はインフラ以外の要因で停滞する可能性が高い」と読む方が現実的です。
それでも残る共通の壁
構造が変わったとはいえ、過去ブームと共通する壁も残っています。具体的には、下記のような課題です。
- 現場の業務に落とし込めない
- 期待値と実用ギャップが埋まらない
- 社内で運用しきれず属人化する
これらは技術ではなく組織と運用の問題であり、ブームの追い風だけでは解決しません。中小企業にとってのリスクは、外部ベンダーに任せきりで導入したものの、社内に運用できる人材がおらず塩漬けになる展開です。歴史を踏まえれば、ツールの華やかさではなく地に足のついた運用設計こそが導入成否を分けます。
ハイプ・サイクルから読み取る生成AIの現在
Gartnerが毎年公表するハイプ・サイクルは、技術が話題化してから定着するまでの典型曲線を示す指標です。生成AIとAIエージェントが現在どこに位置しているかを知ると、過剰な期待にも過度な悲観にも陥らず冷静に投資判断ができます。本章では2024年と2025年の発表内容を整理し、中小企業がどう読むべきかを考えます。
2024年:生成AIは過度な期待のピーク
Gartnerは2024年9月発表の「生成AIのハイプ・サイクル:2024年」で、生成AI関連技術の位置づけと、2027年までに生成AIソリューションの40%がマルチモーダル化するという予測を公表しました。マルチモーダルとはテキスト・画像・音声・動画を横断して扱う技術のことで、業務利用の幅を広げる方向に進化が続く見通しです。同時期の生成AIは過度な期待のピーク期にあり、誇大広告の波が最大化していた段階と整理できます。
2025年:生成AIは幻滅期、AIエージェントがピークへ
Gartnerが2025年8月に発表した「日本におけるクラウドとAIのハイプ・サイクル:2025年」では、AIエージェントが過度な期待のピーク期に位置づけられ、生成AIに関連する一部技術が幻滅期へと移行したことが示されました。RAG(検索拡張生成)は幻滅期に入ったと整理されており、話題先行で導入したものの期待ほどの成果が出ていない事例が増えている実情を反映しています。
出典・参照:
幻滅期は撤退の合図ではない
ハイプ・サイクルの幻滅期はマイナス印象を持たれがちですが、実態は「派手さが落ち着き、地に足のついた実装フェーズへ移る期間」を指します。過去のディープラーニングも一時期は幻滅期と語られましたが、現在は産業基盤に組み込まれています。経営者にとって幻滅期は撤退の合図ではなく、過熱した期待から離れて冷静にユースケースを設計できる好機と解釈する方が建設的です。世間が騒がなくなったタイミングこそ、地味な業務改善で差をつけられる時間帯になります。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。

