異常に気づくまでの時間を測る|工場の不良対応を早める4時点の計測

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製造業の日報や集計表は、昨日の不良率を教えてくれます。ただ、その不良が出てから誰かが気づくまでに何時間かかったのかは、数字になっていない工場もあるのではないでしょうか。気づくまでの時間は、測らなければ縮められません。

異常の発生から現場が動くまでの時間を、データで記録して短くする。これは、製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)で最初に取り組める実務の1つです。センサーやAIといった新しい設備を足さなくても、現場にある入力と通知で始められるためです。

本記事では、発生・検知・認知・介入の4時点を記録して時間を測り、通知先と止める権限を重大度別に決める手順を、公的資料が示す範囲とあわせて解説します。

【本記事の要点】

  • 不良率の集計と、異常に気づくまでの時間は別の指標である
  • 発生・検知・認知・介入の4時点を記録すれば、時間がどこで失われているかが分かる
  • 重大度別に通知先、未応答時の二次通知、止められる人を表で決める
  • 測った時間は、入力・閾値・通知の見直しに使い、個人の評価には使わない

翌朝の集計では不良が止まらない理由:不良率の前に測る「異常に気づくまでの時間」

翌朝に紙帳票で不良を知る場面と、当日に通知で異常を認知する場面の対比

不良率の集計と、異常に気づくまでの時間は、別の指標です。不良を減らすために、不良率の前に測りたいのは、異常に気づくまでの時間です。

日報や集計表の不良率は、すでに出た不良の結果を数えた数字です。不良が出てから誰かが気づくまでの間、同じ設備は同じ不良を作り続けます。翌朝の集計で分かるのは、何個作ったかであり、何時間作り続けたかではありません。つまり、翌朝の集計は不良を止める情報ではなく、すでに出た不良を数えた記録に過ぎないのです。

では、翌朝の集計をやめて、異常をリアルタイムで画面に表示すれば、現場はすぐに動くのでしょうか。残念ながら、画面に異常が表示されても、担当者がその画面を見ていなければ誰も気づきません。仮にすぐに異変に気づいたとしても、止めるかどうかを判断し、現場に向かうまでの時間がかかってしまうでしょう。

異常が起きてから現場が動くまでには、次の5つの段階があります。

  • 異常が画面に表示される
  • 通知が担当者に届く
  • 担当者が異常に気づく
  • 担当者が止めるかどうかを判断する
  • 担当者が現場で動く

どの段階でも、それ相応の時間がかかります。段階ごとに時刻を測らなければ、時間がどこで失われているのかは見えないままになってしまうでしょう。

まずは自社の直近の不良を1件選び、その不良が実際に出た時刻と、翌朝の集計で分かった時刻を並べてみてください。その差が、いまの「気づくまでの時間」の見当になります。

発生・検知・認知・介入の4時点を記録する:異常に気づくまでの時間の測り方

異常の発生、システムの検知、人の認知、現場での介入を時系列に並べた図

では、気づくまでの時間を測るには、何をいつ記録すればよいのでしょうか。異常が起きてから現場が動くまでを、発生・検知・認知・介入の4つの時点に分けて、それぞれの時刻を記録します。4つの時刻の差を見れば、時間がどこで失われているかが分かります。

この章では、4時点の定義と記録元、時刻が取れないときの代わりの測り方を解説します。

4時点の定義と記録元

4時点の区切りは、時間の失われ方を見分けるためのものです。各時点の意味と、時刻を取れる記録元の例は、次の表のとおりです。

時点意味記録元の例
発生異常や不良が実際に起きた時刻設備のログ。取れない場合は代理値を使う(次の項)
検知システムが異常を捉えた時刻PLCやセンサー、検査機器のログ
認知人が異常を知った時刻通知の確認操作、画面の確認、電話の記録
介入人が現場で動き出した時刻現場到着の記録、設備の確認や停止の操作ログ

この4時点の時刻の差から、3つの時間を計算できます。それぞれの時間が長いとき、どこに原因があるかの見当も、あわせて次の表にまとめます。

時間計算長いときに疑う点
検知の遅れ検知 − 発生センサー、閾値、検査のタイミング
認知の遅れ認知 − 検知通知先、通知の経路、通知の見落とし
介入の遅れ介入 − 認知判断する人、止める権限、現場への動線

代理時刻と、時計の同期・欠測の扱い

多くの設備には、不良が実際に起きた時刻の記録がありません。その場合は、次のどちらかを、発生の代理値として使います。

  • センサーが検知した時刻
  • 作業者が入力した時刻

何を代理にしたかは記録に明記し、途中で測り方を変えないことが前提です。測り方を変えると、前後の数字を比べられなくなるからです。

また、PLC、センサー、通知サービス、作業者の入力は、それぞれ別の時計で時刻を刻んでいます。時計がずれていれば、検知の遅れや認知の遅れが、実際とは違う長さで出てしまうでしょう。そのため、同じ基準の時刻に合わせて同期し、ずれを確認する日を決めておくのが前提です。

なお、記録を扱う際には次の3つをそろえておきましょう。

  • 記録が欠けたものは、空欄のままにせず「未記録」として件数を数える
  • 同じ異常に通知が重なって届いたときは、通知の記録として1つにまとめる
  • 認知の時刻は、確認操作や応答、通話の記録など、人が知ったと確認できる最初の時刻にそろえる

通知先と止める権限を重大度別に決める:製造現場のエスカレーション

一次通知が未応答なら二次通知へ進み、重大度に応じて停止か継続監視を判断する図

異常に気づいたとき、誰に知らせ、誰が止めてよいのでしょうか。通知先と止める権限が決まっていなければ、4時点を測っても、介入の遅れは縮まりません。

継続監視・保留・停止・上位判断の分岐

異常コードと重大度を決め、重大度ごとに、最初の判断と判断する人を表にします。経済産業省の『工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン』の付録『Appendix スマート化を進める上でのポイント Ver1.1』は、システムに異常が起きたときの考え方を示しています。停止か継続かの判断基準、工場や本社などを含む意思決定の体制、責任者を確認する、というものです。

また、IPAの『スマート工場化でのシステムセキュリティ対策事例 調査報告書』でも、サイバーインシデントの文脈で、対応手順や全社と現場の連絡体制、事業継続の責任者を含む体制を事前に整える考え方を扱っています。

次の表は、その考え方を品質・設備の異常へ当てはめるときの形です。

重大度状態の例最初の判断判断する人
高人や設備の安全に関わる異常、不良の流出につながる異常停止現場の責任者。決められた権限者
中不良が増えているが、原因が分からない保留(ライン維持のまま確認)班長、品質担当
低基準の範囲内の揺らぎ継続監視担当者
判断が分かれる重大度が決まらない、基準が曖昧上位判断工場長、品質責任者

表に書く停止の条件は、次の3つを優先して決めます。

  • 機械安全の規定
  • ロックアウト(点検中の誤起動を防ぐため、設備の動力源やエネルギーを遮断し、必要な箇所を施錠する手順。残留エネルギーへの対処も含む)
  • 現場の標準手順

上記の表は、3つの内容を変えずに、誰が判断するかを整理するために使います。

未応答時の二次通知と、夜間・休日の代替

通知が届いても、担当者が休みだったり、席を外していたりして誰も気づかない可能性もあるでしょう。そのため、一次の通知先が応答しないときに、次へ引き上げる段階を、あらかじめ決めておくことが前提となります。

通知サービスやPLCの設定で、異常の検知と同時に一次通知が自動で届き、未応答の時間が過ぎたら二次通知が自動で飛ぶ機能を備えた仕組みを使う場合は、1人の気づきだけに依存しにくくなります。段階は、次の表のとおりです。

段階通知先切り替えの条件
一次通知当番の班長異常を検知した時点
二次通知班長の上位、または品質担当一次通知が未応答のまま、決めた時間が過ぎたとき
代替夜間・休日の当番、または工場長二次通知も未応答のとき

未応答のまま待つ時間は、工場の規模や設備によって異なります。直近の認知の遅れの実績から、工場ごとに決めてください。なお、通知の手段は画面への表示だけでは不十分です。担当者が画面を見ていないときに備えて、チャットや電話など、別の手段も用意しておきましょう。

出典・参照:

測った時間で、入力・閾値・通知を見直す:週次で見る異常対応の指標

異常対応にかかった時間を週ごとに見て、入力、閾値、通知を見直す循環図

測った時間は、どう改善に使えばよいのでしょうか。4時点の時刻は、記録するだけでは改善につながりません。次の順で、週ごとに見直します。

  • 週ごとに、検知・認知・介入の遅れを集計する
  • 長くなっている時間を見つけ、原因が入力・閾値・通知のどこにあるかを調べる
  • 原因になっている入力・閾値・通知を直す
  • 翌週以降の集計で、時間が短くなったかを確かめる

この章では、週ごとに見る指標と、測った時間を個人の評価に使わない理由を解説します。

中央値と未認知の件数で見る

1件ごとの時間よりも、週ごとの中央値、気づかれなかった件数、再通知の回数に注目します。見る指標と、時間が長いときに直す点は、次の表のとおりです。

見る指標見方時間が長いときに直す点
検知の遅れの中央値通常の異常で、どれだけ遅れて検知されるかセンサーの閾値、検査のタイミング
認知の遅れの中央値通常の異常で、通知から人が知るまでにかかる時間通知先、二次通知の条件
未認知の件数検知されたのに、誰も気づかなかった数通知の経路、代替の通知先
再通知の回数一次通知で足りず、再通知が必要だった数一次通知先の人数、通知の内容
介入の遅れ認知から現場で動くまでの時間判断する人、止める権限、現場への動線

作業者の入力が必要な工場では、入力の手間も見ます。入力の操作が面倒であれば、記録が遅れ、時間が正しく測れません。入力の項目や画面を減らすのも、見直しポイントの1つです。

個人の評価には使わない

異常に気づくまでの時間や、異常を感知して現場が対応するまでの時間は、仕組みを改善するために測る数字です。特定の担当者の応答時間を人事評価に直結させると、時間を測ること自体が避けられ、記録が正確でなくなるおそれがあります。時間が長かったときは、担当者個人ではなく、通知先、閾値、権限、現場への動線のどこに原因があるかを調べるようにしましょう。

そのうえで、通知先や閾値を見直した日と、見直した内容は、記録に残しておくことをおすすめします。次に時間が変わったとき、どの見直しが効いたのかをたどれるからです。

まとめ:不良率の前に、気づくまでの時間を測る

不良を止めるために見直すのは、不良率のグラフよりも先に、異常に気づくまでの時間です。発生・検知・認知・介入の4時点を記録すれば、時間がどこで失われているのかが見えてきます。

さらに、測った時間をもとに次の2つを進めれば、翌朝の集計を待たずに現場が動けるようになります。

  • 重大度別に、通知先、未応答時の二次通知、止められる人を決める
  • 週ごとに4時点の差を集計し、入力、閾値、通知を直す

まずは、自社の直近の不良を1件選び、発生・検知・認知・介入の時刻を書き出してみてください。どの時点で時間が失われていたのかが分かれば、次に決める通知先と止める権限も見えてくるはずです。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。