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「電話が鳴り止まず、社員が受付と転記に追われている」
「顧客からは繋がらないと苦情が入る」
「WEBフォームを作ったのに、結局は電話や窓口がなくならない」
このような悩みを抱える中小企業の経営者や現場責任者は多いはずです。
実は自治体でも同じ課題が起きています。粗大ごみの電話受付は繋がらず、産後ケアの申請方法がわからず利用率は10%台にとどまっています。そんな中、福岡市や近江八幡市、大阪市や岡山市では、電話と窓口を主導線から外し、オンラインへ切り替える取り組みが進んでいます。
本記事では、粗大ごみ収集と産後ケア申請という2つの自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)事例を鏡にして、中小企業が自社の顧客対応とバックオフィス業務を見直す視点を整理します。読後には、自社のどの業務から電話・窓口を減らせるか、現場の受付負担と顧客の心理的負担を同時にどう軽くできるかの判断軸を持てるようになります。
【本記事の要点】
- 利用者にとって不便な手続きは、裏側で働く社員の仕事も増やしている
- 粗大ごみ収集と産後ケア申請の自治体DX事例に共通するのは、受付だけでなく後工程までデジタルでつなげた点
- 電話や窓口を廃止するのではなく、定型受付はオンライン、相談は人へと役割を分けるのが実務的
- 自社の顧客接点を棚卸しし、電話が集中する業務から一つずつ見直すのが現実的な一歩
電話と窓口は本当に必要か問い直す視点
多くの中小企業では、顧客からの申込みや問い合わせを電話と窓口で受け付けるのが当たり前になっています。しかし、その当たり前が社員の残業と顧客の不満を同時に生んでいるケースも少なくないようです。まずは電話と窓口が「習慣」なのか「必要」なのかを切り分ける視点を考えていきましょう。
電話受付は顧客にも社員にも負担を強いている
電話で申込みを受けるとき、顧客は次のような一連の行動を求められます。
- 営業時間内に電話をかける
- 繋がるまで待つ
- 担当者に用件を説明する
- 内容を復唱される
一方で電話を受ける社員側も、電話に出る、聞き取る、復唱する、紙やExcelへ転記する、担当者へ引き継ぐ、という作業が発生します。
電話は繋がった人には便利ですが、繋がらなかった人にとっては窓口としてまったく機能していません。そして、電話が集中した場合の構造的な課題は、自治体でも一般企業でも共通しています。
福岡市の粗大ごみ受付センターでも「電話がつながらない」というFAQが公式に設置されていますが、この「電話がつながらない」問題は、利用者にとっても企業や行政側にとっても、大きなストレスです。
出典・参照:
窓口対応は「来てもらう前提」を疑うところから
窓口も同じです。顧客に来店してもらう前提を置いた瞬間、顧客側には移動時間や書類準備の負担が生じ、社員側にも受付、書類確認、入力、保管という業務が発生します。電話問い合わせと窓口対応は別々の問題に見えて、実は1つの業務の表と裏です。
こうした問い合わせ業務のデジタル化を検討するときに最初に問うべきは、「そもそも来店や電話を顧客にお願いする必要があるのか」です。既存の手続きをそのまま画面上へ再現するのではなく、まずは顧客に求めている行動そのものを減らせないかを考えます。この発想の切り替えができるかどうかが、後の投資対効果を左右します。
事例1:粗大ごみ収集のDXが示す「後工程までつなげる」意味
1つ目の事例は粗大ごみ収集です。デジタル庁は2024年3月、粗大ごみ収集の申込手続を地方公共団体が優先的にオンライン化すべき手続に位置付け、環境省と連携した活用事例集を公表しました。中小企業の受付・配送・訪問業務に置き換えて考えられる典型事例です。
福岡市のLINE受付が短縮したのは工程数だけではない
福岡市は平成30年(2018年)9月から粗大ごみ収集の申込みをLINEで受け付けています。従来は「電話申込→コンビニで処理券購入→処理券を貼る→出す」の4工程でしたが、LINE内のキャッシュレス決済を組み合わせることで3工程に短縮しました。この事例は第4回Digi田甲子園の本選事例にも選ばれています。
工程数が減ったこと以上に見るべきは、電話に集中していた申込みがオンラインへ分散し、電話がつながらない住民と受付を回す職員の双方が楽になった点です。中小企業でいえば、営業時間内の電話集中を分散させ、社員が電話対応以外の業務に時間を回せる状態を作ることに相当します。
出典・参照:
近江八幡市は電話受付を廃止して確認電話を減らした
滋賀県近江八幡市は粗大ごみ収集の電話受付を廃止し、記録が残るオンライン申請へ一本化しました。結果として、記入不備の確認電話などのやり取りが減り、業務効率が改善したと報告されています。
ここで見るべきは、電話を廃止したこと自体よりも、フォームで必須項目を強制することで「聞き直し」の発生源そのものを減らした点です。中小企業でも、WEBフォームに必須項目や選択肢を設ければ、電話での再確認や修正依頼の頻度を落とせます。逆に、任意項目ばかりのフォームでは記入不備が起きやすく、結局は確認電話が残ってしまうでしょう。
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デジタル庁は「優先オンライン化手続」に位置付けている
デジタル庁は2024年3月、粗大ごみ収集の申込手続を地方公共団体が優先的にオンライン化を推進すべき手続として明示し、環境省と連携して活用事例集を公表しました。これは、国が「電話でなくてもよい」と判断した典型例です。
中小企業もこれと同じ問いを立てられるのではないでしょうか。この問いは、自社の受付業務のうち、電話でなければならない理由があるものはどれか、以前から電話で受けているだけで置き換え可能なものはどれかを分けて考える出発点になります。
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事例2:産後ケア申請のオンライン化が問う「窓口来訪の前提」
2つ目の事例は産後ケア事業の申請オンライン化です。産後間もない利用者に窓口来訪を求めるのは無理があるという当然の疑問に、自治体が向き合い始めた事例です。中小企業でも、顧客の状況に配慮せず「来店」「郵送」「電話」を求めていないかを問い直す材料になるでしょう。
利用率10.9%と「利用の仕方がわからない」20.5%が示す申請導線の課題
ニッセイ基礎研究所が2025年4月に公表した資料では、産後ケア事業は令和4年度時点で全国市町村の約84%で実施されているものの、利用率は10.9%にとどまっていました。その背景には、提供体制、費用負担、認知度に課題があることが指摘されています。
BABY JOBの調査では、産後ケア事業を利用しなかった理由の最多は「利用の仕方がよくわからなかった」で20.5%を占めました。制度があっても申請導線がわかりにくければ、利用は伸びないのは当然です。
こうした事例は、中小企業にとっても示唆的ではないでしょうか。サービスや商品を用意しても、問い合わせや申込みの導線がわかりにくければ、顧客は離れます。受付導線を整えることは、集客と業務効率化の両方を同時に押し上げる打ち手になるのです。
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大阪市・岡山市は電子申請へ切り替えている
大阪市(淀川区など)は2025年4月から産後ケア事業のオンライン申請案内を提供し、電子申請への切り替えを進めています。また、岡山市も産後ケアの電子申請の受付を開始し、来所や郵送に頼らない申請導線を整備しています。
見るべきは、来所や郵送という前提を外して、スマートフォンで完結できる導線を用意した点です。両自治体の事例では、母子手帳などをスマホで撮影して添付できるようにする工夫も含め、利用者に求めている行動自体を減らす思想が共通しています。
近年では、多くのネットサービスが身分証明書の確認を含めた、申請手続きなどをネット上で完結できる動きが増えています。しかし、多くの中小企業では、まだオンライン受付に対応できていないケースも少なくありません。
今後、身分証明書、見積もり依頼、故障品写真、契約書などをスマホ撮影でそのまま送れる仕組みへ移し、来店や郵送の負担を軽減する施策を検討することは、企業にとって大いに価値があるはずです。これにより、顧客の手間が大幅に軽減されるとともに、社員が原本を保管したり、コピーを取ったりする作業も削減されるでしょう。
出典・参照:
こども家庭庁も母子保健DXを政策課題に位置付け
こども家庭庁は母子保健DXを政策課題に位置付け、母子健康手帳や母子保健情報のデジタル化、産後ケアを含む申請オンライン化の方針を示しています。令和6年11月20日付けの資料では、利用者負担軽減や周知強化を含む改善策が整理されています。
自治体の取り組みが個別の思いつきではなく、国全体の方向性として整理されている点は、中小企業がベンダーや社内へデジタル化を説明する際の裏付けにもなるでしょう。
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執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。


