電話対応を減らすDXとは|自治体事例に学ぶ中小企業の業務改善

公開日 :  ( 更新)

目次

2つの事例から見る3つの共通点

2つの事例から見る3つの共通点

粗大ごみ収集と産後ケア申請、扱う分野はまったく違いますが、DXの構造は共通しています。ここで整理するのは、中小企業が自社の業務改善に転用するための共通原則です。

受付画面を作っただけではDXにならない

1つ目の共通点は、受付画面だけを便利にしても効果は限定的だという点です。福岡市がLINEで申込みを受け付けても、その後の処理券発行が別工程のままなら工程数は減りません。近江八幡市が電話受付を廃止しても、フォームの必須項目設計が甘ければ確認電話は残ってしまうのです。

中小企業でも、WEBフォームを作った後、その情報がどこで紙、電話、Excel、口頭連絡へ戻っているかを確認しなければなりません。受付の見た目だけを整えても、後工程が紙とExcelのままなら、社員の作業は減らないどころか二重管理で、かえって手間が増えてしまうのです。

表(利用者の面倒)と裏(社員の作業)は同じ業務の両面

2つ目の共通点は、利用者の面倒と社員の作業を切り離さずに考える発想です。電話で申込みを受ければ、利用者は電話をかける手間を負い、社員は聞き取りと転記の手間を負います。窓口来訪を求めれば、利用者は移動時間を負い、社員は受付と入力を負います。

一方の負担を減らせば、もう一方も減ります。逆に一方だけを便利にしようとして裏でしわ寄せを作ると、結局どちらも楽にならないこともあるでしょう。中小企業のDXでも、顧客体験と社内オペレーションを分けて考えるのではなく、同じ業務の表と裏として一緒に設計するのが実務的です。

電話や窓口を廃止するのではなく「主と補助」を分ける

3つ目の共通点は、電話や窓口を全廃するのではなく、位置付けを変えている点です。定型的な受付はオンラインを主導線にし、複雑な相談や緊急対応、デジタル利用が難しい人への対応には電話や窓口を残しています。

中小企業でも「電話をなくす」ではなく「電話を減らして相談に集中させる」という発想に切り替えるのが現実的です。オンライン化で電話や対面をなくすのではなく、定型受付をデジタルへ移し、人による対応が必要な相談へ社員の時間を振り向けることが現実的でしょう。

中小企業の顧客接点に翻訳する5つの示唆

自治体事例をそのまま真似する必要はありません。中小企業の日常業務へ翻訳したときに、どのような視点で見直せるかを5つに整理します。以下の表で、対応する業種の例と見直しの起点を対比します。

示唆主な対象業務見直しの起点
電話集中業務を1つ選ぶ修理受付・配送依頼「またこの電話か」と感じる業務
必須項目で聞き直しを減らす見積もり依頼・問診電話でよく聞き直す項目の抽出
後工程まで一気通貫化現場作業・請求転記や口頭連絡が起きる箇所
スマホ撮影で書類受領契約・不具合報告郵送・持参を求めている書類
電話・窓口を相談に集中クレーム・緊急対応定型と相談の切り分け

表の内容を、中小企業の判断材料として順に読み解きます。

示唆1:電話が集中する業務から1つ選ぶ

すべての業務を一気に変える必要はありません。まず社内で電話が集中している業務、社員が「またこの電話か」と感じている業務を1つ選びます。

  • 修理受付
  • 配送依頼
  • 予約受付
  • 在庫問い合わせ
  • 見積もり問い合わせ

など、業種によって候補は異なります。

示唆2:フォームは必須項目で「聞き直し」を減らす

WEBフォームを設計するときは、必須項目と選択肢の設計で確認電話の発生源を減らします。近江八幡市が電話廃止後に確認電話を減らせたのは、フォームで必須項目を強制したからです。

  • 住所
  • 症状
  • 希望日時
  • 写真添付

中小企業でも、これらの項目などを必須にすれば、聞き直し電話や折り返しメールなど、多くの確認作業を無くすことができるでしょう。

示唆3:受付後の割当てと現場連絡までデジタルで繋げる

受付情報を担当者へ電話や口頭で伝えるのを止め、そのまま担当者の画面へ流し、修理担当、配送担当、施工担当など、現場で作業する人がスマホで受付情報を見られるようにすると、印刷や転記が消えます。ここを設計しないと、フォームは「便利な受付追加」で止まってしまいます。

示唆4:スマホ撮影で証跡・書類を受け取る

産後ケアの申請で母子手帳をスマホ撮影で添付できるようにしたように、中小企業でも故障品写真、身分証明書、契約書などをスマホ撮影で受け取れば、来店や郵送の必要がなくなります。顧客の負担が消えると同時に、社員が原本を管理する作業も減ります。

示唆5:電話・窓口は「相談」に集中させる

電話や窓口を残す場合は、「定型受付は電話でも対応する」ではなく「相談や緊急連絡に集中させる」と位置付けを変えます。電話で受け付けている定型業務が減れば、社員は本来相談が必要な顧客へ時間を使えるようになります。これは顧客満足の向上と社員負担の軽減を同時に実現する方向です。

電話・窓口業務を棚卸しする具体的手順

電話・窓口業務を棚卸しする具体的手順

「どこから手を付ければいいか」に答えるための、具体的な棚卸し手順を提示します。DX推進担当や中小企業経営者が明日から着手できる粒度でまとめます。

手順1:1週間の電話・来店ログを取る

まず、自社の電話と来店の内容を1週間だけログに取ります。

  • 誰から
  • 何の用件で
  • 何分かかったか
  • その後の作業は何だったか

など、これらの要素をすべてメモします。特別なシステムはいりません。紙のノートやExcelで十分です。全社ではなく、まず1部署からで構いません。

手順2:ログを「定型」と「相談」に分類する

集めたログを2つに分けます。用件が決まっていて聞き取りパターンが同じものは「定型」、案件ごとに内容が異なり社員の判断が必要なものは「相談」です。この分類が、電話・窓口を主導線から外せる業務と残すべき業務の境界線になります。

手順3:定型業務のフォーム化を検討する

定型に分類された業務のうち、電話や来店の件数が多いものから順にフォーム化を検討します。

  • 既存の予約システム
  • 業種特化SaaS
  • 汎用フォームツール

など選択肢は多いですが、まずは無料や低コストのフォームで試してから判断しても遅くはありません。いきなり高額システムを入れる必要はないのです。

手順4:受付後の後工程まで一気通貫で設計する

フォームを入れる前に、受付後にどう流すかを設計します。

  • 担当者への割当て
  • 現場作業
  • 完了報告
  • 顧客連絡
  • 請求

この流れをすべて紙に書き出し、どこで転記や電話連絡が発生しているかを確認します。ここを設計せずにフォームだけ入れると、受付追加で終わり、社員負担がむしろ増える結果になりかねません。

手順5:小さく始めて現場と一緒に改善する

いきなり全社展開する必要はありません。まずは、1つの部署、1つの業務、 1 つのフォームから始め、現場社員の意見を聞きながら改善していければ十分です。

DXは「導入して終わり」ではなく「運用しながら育てる」ものです。現場の抵抗を減らすには、現場が改善に関わっている実感が必要なのです。

デジタル化の落とし穴と電話・窓口を残すべきケース

自治体DXを無条件に成功事例として礼賛するのは実務的ではありません。ここでは、導入時に見落としがちな制約と、電話や窓口を残すべき局面を整理します。

落とし穴1:デジタルを使えない顧客が存在する

  • 高齢者
  • スマートフォンやパソコンを持たない人
  • 視覚に障害がある人
  • 日本語が読めない外国人

このような、デジタル手段を使えない顧客層は必ず存在します。そのため、オンライン化進め、電話や窓口を完全に廃止してしまえば、これらの層は手続きから排除されてしまうでしょう。国もデジタルデバイド(情報格差)への対応を課題として整理しています。

中小企業でも同じ配慮は必要です。顧客層の年代や属性を踏まえ、オンライン化率の目標を100%にせず、電話・窓口も残しておく設計が現実的です。

落とし穴2:本人確認と情報セキュリティの制約

契約や身分確認が絡む手続きでは、本人確認と情報セキュリティの要件を無視できません。産後ケア申請でも本人確認書類の撮影・添付は認められましたが、業種によっては対面確認や電話認証が必要な場合があります。

中小企業でも、フォームで受け付けたデータをどこに保管し、誰がアクセスできるかを設計しないと、便利さの裏で情報漏洩リスクを高めかねません。フォーム導入とセキュリティ設計はセットで進めるべき課題です。

落とし穴3:認知度が低ければ利用されない

産後ケア事業の利用率が10.9%にとどまり、非利用理由の最多が「利用の仕方がよくわからなかった」だったように、仕組みを作っても顧客に知られなければ使われません。中小企業でも、フォームを設けたら顧客への案内、電話応対時の誘導、ホームページでの明示など、認知を上げる工夫を並行して進めます。

電話や窓口を残すべきケース

すべてをオンラインへ移すのが正解ではありません。次のようなケースでは、電話や窓口が意味を持ちます。

  • 複雑な相談や個別事情の聞き取り
  • 緊急性が高い故障、事故、クレーム対応
  • 対面でなければ確認しにくい商品説明や現物確認
  • デジタル手段を使えない顧客への支援
  • 高額契約や法定の詳細説明を伴う手続き

問題にすべきは、すべての申込みや手続きに対して一律に電話や窓口を求めている状態です。定型受付をデジタルへ移し、電話や窓口は本当に人の対応が必要なケースへ集中させるのが実務的な方向です。

まとめ:地に着いたDXは1つの手続きの見直しから始まる

粗大ごみ収集と産後ケア申請という2つの自治体DX事例から、中小企業が学べる要点を整理しました。派手な最新技術ではなく、電話と窓口という日常業務を見直すところにDXの入口があります。

  • 利用者にとって不便な手続きは、社員の作業も増やしている
  • 受付画面だけを便利にしても、後工程が紙と電話のままなら効果は限定的
  • 電話や窓口は廃止ではなく「相談に集中させる」ため主導線から外す
  • フォームの必須項目設計で聞き直しの電話が減る
  • スマホ撮影で書類提出を受け取れば来店・郵送が消える
  • デジタルを使えない顧客への配慮を残し、電話・窓口を補助手段として維持する
  • 全社刷新ではなく、電話が集中している一つの業務から棚卸しする

読者が次に取るべき行動は具体的です。まず1週間、自社の電話と来店のログを取ってください。誰から、何の用件で、何分かかったかを記録し、「定型」と「相談」に分けます。定型のうち件数が多いものから、フォーム化と後工程の設計を検討するだけで十分です。

自問すべきは次の3つです。

  1. 自社は顧客に電話や来店を求めることで、社員にも聞き取りや転記の仕事を発生させていないか
  2. WEBで受け取った情報が、その後の現場作業、請求、顧客連絡までつながっているか
  3. 電話や窓口でなければできない仕事と、習慣として電話や窓口を使っている仕事を区別できているか

新しいシステムの導入から始める必要はありません。今日から始められるのは、電話が繰り返される業務を1つメモに書き出すことです。そこから貴社の顧客対応とバックオフィスの改善は動き始めるのです。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。