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DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉は毎日耳にするものの、自社の現場にどう結び付くのかつかみにくいと感じていませんか。特に中小企業の経営者やDX担当者は、大企業の華やかな導入事例より、身の回りの景色から発想のヒントを得たい場面が多いのではないでしょうか。
本シリーズ【編集部が街で見つけたDX】は、DXportal®編集部が街で見つけた何気ないシーンを切り取った「1枚の写真」から、DXを考えていく企画です。今回は、街角に佇む自動販売機の写真から物語をはじめましょう。「自動販売機の役割変化」を手がかりに、無人サービスというDXの本質を読み解いていきます。読み終わる頃には、あなたのいつもの通勤路・散歩道が「発想の資料室」に変わってくれれば幸いです。
【本記事の要点】
- 街角の自販機は「飲み物を売る機械」から「人がいなくても成立するサービス提供装置」へ変わっている
- 証明写真機、生搾りジュース、宅配ロッカー、駅ナカ個室ワークスペースなど、無人サービスは静かに拡大中である
- DXの本質は新機械の導入ではなく、人が担っていたサービスを別の仕組みへ再設計することにある
- 中小企業も自社の既存アセットに何を足せば無人化・サービス化できるかという視点を持つ価値がある
街で見つけた赤い自販機、そこから始まった観察
今回きっかけになったのは、電柱の脇に置かれた赤い飲料自動販売機でした。特別な機種でも珍しい設置場所でもありません。ただの自販機です。それでも1枚の写真を撮ってから、なぜか気になって周辺を歩き回るうちに、街の中に「機械が人の代わりをしている場面」が次々と目に飛び込んできました。
何気ない1枚の写真から始まった観察
自販機は、日本人にとって空気のような存在です。通勤路にも、駅前にも、公園の脇にも据えられていて、意識に上らないほど溶け込んでいます。だからこそ、あらためて眺めると小さな発見があります。
- 証明写真機
- 生搾りジュースの自販機
- 宅配ロッカー
- 駅ナカの個室ワークスペース
これらもすべて、道の途中で見かける「無人販売機」の一種でしょう。そしてこれらは、いわば販売のDXを体現した存在なのではないでしょうか。そういった視点に立ってみると、そこにはある共通する1つの「流れ」が浮かび上がってきました。
「飲み物を売る機械」という前提を疑ってみる
その流れとは、「機械は商品を売っているのではなく、サービスそのものを提供している」という事実です。
- 飲み物販売
- 写真撮影
- ジュース製造
- 荷物受け渡し
- 作業空間のレンタル
売り物はバラバラですが、共通点は「本来は人が対面で提供していた行為」を機械が代替している点にあります。自動販売機はもう、飲み物を売る機械ではなくなっていました。街の景色に埋もれた小さな違和感から、DXの輪郭が見えてきたのです。
自動販売機は「人の代わりに売る機械」として始まった
自販機の始まりに触れておきます。歴史そのものが本題ではありませんが、進化の起点を押さえると、いまの街の景色が読み解きやすくなるからです。この章では、自販機が最初から担っていた役割と、それがすでにDX的な発想だった点を短く整理します。
24時間稼働という価値の発明
自販機の最大の発明は、機械の中身ではなく「24時間稼働する販売員」という発想そのものにあります。日本自動販売システム機械工業会(JVMA)が公表した2024年(令和6年)版の統計によると、2024年末時点の国内自販機普及台数は約391万300台で、そのうち飲料自販機は約219万9,600台と全体の56.4%を占めています。ピーク時の2000年には560万台超が街を埋めていたため、台数だけを見れば縮小傾向です。それでも街に残り続ける理由は、販売にかかわる人件費を掛けずに24時間、雨の日も真夏の炎天下も販売接点を維持できるからにほかなりません。
自動販売機は「販売DX」の原点だった
ここで注目したいのは、自販機がすでに「無人販売のDX原点」を体現していた点です。自動販売機以前、すでに「販売」を自動化する試みはなされていました。それが、地方の路上などで見かける「無人販売所」です。しかし、無人販売所はあくまでも「購入者の善意」に根ざした販売設計であり、それは必ずしも効率的とは言えない課題も残しているでしょう。
自動販売機は、そうした課題を「テクノロジー(機械)」の力で解決したものです。そもそも人が接客していた作業を機械へ置き換え、営業時間の制約を外し、対面が要らないというサービス設計を実現したテクノロジー。数十年前の発想でありながら、いまDXの文脈で語られる「業務の再設計」の考え方と重なります。「販売を機械で無人&自動化する」という発想は、新技術を導入する話に見えて、実態は「人の仕事を仕組みへ翻訳する」話だったわけです。
出典・参照:
売っているのは商品ではなくサービスだった
観察を進めると、自販機のように見える機械たちが、実は「商品」よりも「サービス」を提供しているとわかってきました。ここが本記事の1つ目の転換点です。先の自動サービスは、すべて同じ「お金を入れて使う機械」ですが、対価として受け取っている価値は物体ではなくなっているのです。
証明写真機は「撮影」というサービスを売っている
駅の隅に置かれた証明写真機を見て気付きます。あの機械が売っているのは、写真という紙ではありません。売っているのは「撮影」というサービスです。かつて証明写真、は写真館に予約を入れ、着替え、順番を待って撮影してもらう行為でした。それが数分で完結する無人サービスに置き換わっています。撮影・現像・仕上げまでを機械が担い、対面の接客も予約も要りません。写真という物体は結果にすぎず、本質は撮影というサービスの無人化にあったことがお分かりでしょう。
最近では、履歴書などに添付する写真は、スマートフォンの自撮りモードで撮影した写真を、オンラインでそのまま貼り付けることも可能となっていますが、パスポートや免許証の申請などではいまだに証明写真機にお世話になっている人も多いのではないでしょうか。
生搾りジュース自販機は「体験」を売っている
続いて足を止めたのが、オレンジをその場で搾って提供する生搾りジュース自販機と、リンゴをその場で搾るタイプの自販機です。運営各社の説明によれば、機械が果物を1杯分ずつカットして搾汁し、透明のパネル越しに製造工程が見える設計になっています。ここでは既製品ではなく、その場で作られる体験そのものが商品です。
従来はジューススタンドで店員が手作業で提供していたサービスを、機械が引き取った新しいタイプの自動販売機と言えるでしょう。ただ、こうした流れは、他の自動販売機でももうずいぶん前から実現はされていました。それが、高速道路のサービスエリアなどで時折見かける、レギュラーコーヒーの自動販売機です。筆者もドライブの途中などではよく利用している機械ですが、昔懐かしい『コーヒールンバ』のリズムにのって、機械の中で1杯のコーヒーが作られる様子をモニター越しに見ることができる、なんだか楽しげな自動販売機です。
レギュラーコーヒーも生搾りオレンジジュースも、筆者は実際に利用して、通常の缶コーヒーや缶ジュースでは味わえないハイクオリティな商品だと感じています。しかしそれよりも、飲む前の「作られていく光景を見る時間」も含めて価値になっているな、という感想を抱きました。無人化しているのに体験価値が増している。これは、実に興味深い点ではないでしょうか。人が消えると味気なくなるという常識が、機械の中で覆されているのです。
出典・参照:
街には「無人サービス」が広がっていた
街を眺め直すと、無人化されているのは飲食物だけではありませんでした。歩けば歩くほど「販売ですらないサービス」を機械が担っている光景に出会います。この章では、販売から預かり、そして時間と空間の貸し出しへと広がる無人サービスの現在地を追いかけます。
はこぽすは「預かる・渡す」を無人化した
日本郵便が展開する「はこぽす」は、宅配便を受け取るためのロッカーです。従来は配達員が届け、受取人が対面で受領していた荷物受け渡しの工程を、置き型ロッカーへ再設計しています。売っているのは商品ではありません。売っているのは「都合の良いときに受け取れる時間」と「対面が要らないという安心」です。「売る」から「預かる・渡す」へ、無人サービスの領域が広がっている典型例でしょう。これにより、再配達に費やされていた人手や燃料も、少しずつ削減できているのです。
出典・参照:
STATION WORKは「時間と空間」を貸し出している
JR東日本が駅構内などで展開する「STATION WORK」は、個室型のWEBワークスペースです。もはや商品ですらありません。売られているのは「時間」と「空間」です。そこには、受付も店員もいません。WEB経由で予約し、扉のロックを解除し、必要な分だけ使う仕組みです。カフェで席取りに悩んだり、オフィスまで戻ったりせずに、駅ですぐに1本のオンライン会議へ入れる。この利用体験は、サービス提供側の人間が担っていた受付・会計・清掃管理の一部を仕組みへ置き換え、利用者側の空き時間を価値へ変換する、という発想によって生まれました。時間と場所が商品になる時代がすでに始まっているのです。
出典・参照:
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。





