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多くの企業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に乗り出しています。しかし、
「何から手をつければ良いのか」
「思うように成果が上がらない」
といった課題を抱える中小企業の経営者やDX推進担当者も少なくないのではないでしょうか。また、日々の業務に追われ、DXによる業務効率化の推進に十分な時間を割けないという現実もあるかもしれません。
本記事では、このような課題を解決するヒントとして、マイクロソフト社の取り組みから学びを得ながら、DXで業務効率化を実現するための具体的な「3つのコツ」を解説します。
この記事を読むことで、貴社がDXを推進する上で、どこに注力し、どのように「ムダ」をなくして成果に繋げていくべきかの明確な指針と、すぐに実践できる行動のヒントが得られます。
日本企業が陥りがちな「ムダな努力」とは

DXを推進する上で、まず目を向けなければならないのは、既存の業務に潜む非効率性です。知らず知らずのうちに「ムダな努力」を積み重ね、本来得られるはずの成果を逃しているケースは少なくありません。
業務効率化の3つのコツを解説する前に、日本企業が陥りがちな「業務上のムダな努力」に目を向けてみましょう。
成果に繋がらないタスクへの固執
日本では「努力は報われる」という価値観がある種の美徳とも考えられています。しかし、ビジネスの世界においては、努力が必ずしも成果に直結するとは限りません。
DX推進においても同様で、目的を見失ったまま、ただ闇雲に新しいツールを導入したり、従来の方法に固執してしまったりする例が見受けられます。
越川慎司氏の著書『世界の一流は「休日」に何をしているのか』によれば、マイクロソフトのエグゼクティブは「成果につながる努力」と「つながらない努力」を瞬時に見抜くことで「ムダな努力」を切り捨てているといいます。
この「見極め力」こそ、DXを成功に導く上で不可欠な要素と言えるでしょう。各企業がDXによって何を達成したいのか、その目的に照らし合わせて、本当に必要なタスクにリソースを集中させることが肝要です。
形骸化した会議と過剰な資料作成
日常業務の中で多くの時間を占めるものとして、会議や資料作成が挙げられます。一見すると、円滑に仕事を進めていくためには欠かせないタスクのように思えますが、実際にはこれらの活動が、成果を生み出すどころか、むしろDX推進の足かせとなっている例も散見されます。
越川氏によれば、日本企業では欧米企業に比べ社内会議の割合が多く、「会議のための会議」が全体の60%を占める企業さえあるといいます。上司の目を気にして体裁の良い資料の作成に時間を費やしたものの、それが意思決定の迅速化や会議の質の向上にどれほど貢献しているのか?疑問に思うケースも少なくありません。これは、ビジネスの世界に身を置く方であれば、誰もが実感することではないでしょうか。
これらの「ムダ」は、DXによって効率化できる領域ですが、同時にDX推進を遅延させる要因でもあります。目的が曖昧な会議や、情報過多で本質的でない資料の作成は、貴重な時間と人材を浪費し、企業の変革を阻害する可能性があるのです。いくらDXによって効率化したとしても「ムダ」な作業は結局のところ、成果には繋がりません。この「ムダ」の効率化のために限られたリソースを投入することは、DX推進の足かせにしかならないでしょう。
マイクロソフトに学ぶ「ドゥ・モア・ウィズ・レス」の真髄

日本企業が抱える「ムダな努力」の問題を克服し、DXを効果的に推進するためのヒントが、マイクロソフト社で徹底されている「ドゥ・モア・ウィズ・レス」(Do more with less)という考え方にあります。
「より少ない資源で、より多くの成果を」という考え方
「ドゥ・モア・ウィズ・レス」とは、「より少ない資源で、より多くのことに取り組む」という意味です。これは、単にコストを削減するというだけでなく、限られた時間、エネルギー、人材といったリソースを最大限に活用し、より大きな成果や価値を生み出すことを目指す思考法です。
この考え方は、まさにDXの本質と合致します。
DXとは、デジタル技術を活用して、主に次のようなことを目指す取り組みです。
- 業務プロセスの効率化
- 生産性の向上
- 新たなビジネスモデルの創出
つまり、DXとは、既存のリソースをより賢く活用し、これまで以上の成果を達成するための変革なのです。大企業ほど潤沢なリソースを持たないケースが多い中小企業においては、この「ドゥ・モア・ウィズ・レス」の精神は特に重要となります。
成果を見極める「見極め力」の重要性
マイクロソフトのエグゼクティブが「ドゥ・モア・ウィズ・レス」を体現できる背景には、彼らが持つ卓越した「見極め力」があると越川氏は指摘しています。彼らは、自身がタスクに注ぎ込むエネルギーと時間が、きちんと成果につながるかどうかを見極める能力がズバ抜けているというのです。
これは、DX推進においても極めて重要な能力です。
中小企業の経営者やDX推進担当者は、自社の経営戦略や事業目標に照らし合わせ、「どの業務をデジタル化すれば最も効果が高いのか」「どのテクノロジーが自社の課題解決に本当に役立つのか」といった点を見極めなければなりません。
流行りのツールに飛びついたり、他社の事例を鵜呑みにしたりするのではなく、自社にとって本当に「成果につながる努力」は何かを冷静に判断しなければならないのです。
具体的な実践例:会議と資料作成の変革
「ドゥ・モア・ウィズ・レス」を実践する上で、マイクロソフトでは特に会議と資料作成のあり方が見直されています。これらは多くの企業で時間と労力が浪費されがちな領域であり、改善の余地が大きい分野です。
会議の最適化:目的と参加者を絞る
マイクロソフトのエグゼクティブは、「何も決まらない会議は時間のムダ」とドライに割り切り、会議の回数と時間を大幅に削減することを意識しているといいます。具体的には、以下の取り組みが徹底されています。
- 全員参加の「情報共有会議」はリモートで開催
- 意思決定のための会議を中心に開催し、参加者は決定権者に限定
- アジェンダ(議題)が不明確な会議は開催不可
- 発言のなかったメンバーは次回から参加不要
これらの取り組みは、中小企業にとっても大いに参考になるでしょう。会議の目的を明確にし、本当に必要な参加者だけを招集する。そして、事前にアジェンダを共有し、議論のポイントを絞ることで、短時間で質の高い意思決定を目指すことが可能です。
また、WEB会議システムやチャットツールといったITツールを有効に活用すれば、情報共有の効率化やリモートでの会議参加も容易になり、さらなる時間短縮とコスト削減が期待できます。
資料作成の効率化:本質を見抜く
資料作成に関しても、マイクロソフトではシンプルさと簡潔さが求められます。体裁を整えることに時間をかけるのではなく、「資料はエッセンスさえわかれば十分」と考えられているためです。
エグゼクティブによっては、資料作りの時間さえムダと考え、「今ある資料を見せてくれ」あるいは「手書きでいいから、すぐに持ってきてくれ」と指示するケースもあるといいます。
これは、資料作成の目的は「情報を伝えること」であり、「美しい資料を作ること」ではないという本質を突いています。中小企業においても、意思決定に必要な情報が的確に伝わるのであれば、過度に装飾された資料は不要です。本質を捉えたデータを迅速に共有する体制こそが、迅速な意思決定と業務効率化に寄与するのです。
資料を確認する時間が短縮され、より多くの案件について迅速な決断を下すことが可能になる環境を構築する。自社の利益を最優先して考えるのであれば、このやり方の方が、美しい資料を作ることよりも、結果的に有効ではないでしょうか。
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。