【新人DX担当の教科書⑮】兼務でも回る最小チームの決め方|役割・時間・不在時の扱い

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次の改善を動かそうとして、現場への確認、データの相談、決まったことの記録まで、気づけば全部自分でやっている。そんなことはないでしょうか。かといって、誰に何を頼めばよいのか、頼める時間があるのかも分からず、結局、1人で抱えてしまう場面です。

とはいえ、「チームで進めよう」と言われても、専任の人員を置ける会社ばかりではありません。人を集めるのが先なのか、役割を決めるのが先なのか、迷う人も多いはずです。改善を進めてよいかどうかを最終的に決める人が分かっていれば、次は、実際に誰と一緒に動くのかを決める段階です。

本記事では、DX(デジタルトランスフォーメーション)担当が兼務でも回る最小チームの決め方を解説します。

【本記事の要点】

  • 最小チームとは人数や肩書ではなく、今回の改善に必要な仕事に、担当者のいない仕事がない状態である
  • 人を集める前に必要な仕事を書き出し、不要な仕事は削り、一人が複数の仕事を兼ねてよい
  • 時間は「いつ・どの程度」で、休んだときは連絡先と進める・保留・止めるの扱いで、仮に決める
  • 表は決定ではなく、本人と上司に確認するための下書きであり、合意した内容と確認日をA4用紙1枚に残す

第14回までの流れは、新人DX担当の教科書のシリーズページからまとめて読めます。これまでの回を振り返りたいときにご活用ください。

兼務のDX担当は、人集めより先に必要な仕事を分ける

必要な仕事を5つに分けて最小チームを組む考え方を示す図

次の改善を動かすとき、最初に決めるのは「誰を集めるか」ではなく「どんな仕事が必要か」です。では、なぜ人集めを後にするのでしょうか。最小チームの意味と、これまでの回に出てきた相手との違いから整理します。

最小チームは人数ではなく、担当のいない仕事がない状態

中小企業では、DXを専任で担当する人を置けないことが珍しくありません。情報処理推進機構(IPA)の『DX動向2026』が2026年4月中旬から6月中旬に国内の1,799社を調べた結果では、DXに取り組む企業のうち、DXを進める人材が「やや不足」「大幅に不足」と答えた企業は、合わせて85.5%でした。

この調査結果を踏まえると、DXを進める人材が足りない会社は多く、専任の人数をそろえてから始めようとしても、チーム作りが先に進みにくいと考えられます。そこで本記事では、DX推進のための最小チームを「今回の改善に必要な仕事のうち、担当者のいない仕事がない状態」と定めます。このチームでは、人数や肩書は問いません。1人が複数の仕事を持ってもかまいません。

大切なのは組織図の形ではなく、やるべき仕事のそれぞれに、担当者が決まっていることなのです。

出典・参照:

味方、決める人、担い手は同じとは限らない

これまでの本シリーズでも、DX担当が会うべき相手が何度か出てきました。それぞれの意味を、チームの視点で並べ直します。

呼び方意味チームでの扱い
味方話を聞いて、困りごとや不安を教えてくれる社内の相手(第2回)協力してくれる人。全員をチームに入れる必要はない
決める人費用、データ、アカウント(ログインのための登録)、ツールのことや、試しに始める・やめる判断を引き受ける人(第14回)やってよいかどうかと、先にやる順番を判断する。実際の作業をする人とは限らない
担い手今回の改善に必要な仕事を、実際に作業して分け合う人仕事ごとに決める。一人が複数の仕事を兼ねてよい

たとえば、現場のベテランが味方になってくれても、通常業務で手一杯であれば、担い手にはなれません。社長が決める人であっても、毎週の作業まで担う時間はないかもしれません。だからこそ、この3つを分けて考えることでチームに入れる人を無理に増やさずに済むのです。

仕事から決める理由は、先に人の名前を挙げると会議に出る人が増えるだけで、誰が何をするのかが決まらないまま終わりやすいからです。次の章で、必要な仕事を先に書き出します。

今回の改善に必要な仕事を書き出す:5つの仕事の例と兼務の考え方

5つの仕事を複数の担当者が兼務し不要なら外す割り当て図

人の名前を挙げる前に、今回の改善を進めるために必要な仕事を、「〜する」という動きの言葉で書き出します。書き出した仕事のうち、本当に必要なものだけを残しましょう。

行動で名付けた5つの仕事の例

ここでは、架空の例で考えます。発注データの入力を、決まった入力用のひな型(テンプレート)にそろえる改善を、ほかの担当者にも使ってもらう場面です。ひな型には取引先名や金額が入るため、保存する場所と、見てよい人の範囲も決める必要があります。この改善を進めるための仕事を、次の5つに分けてみましょう。

仕事中身モデルケースでの例
進めてよいか判断する費用、データ、見てよい人の範囲(権限)などで迷ったとき、進めるか止めるかを判断するテンプレートの保存先を、見てよい人の範囲を広げてよいか判断する
段取りを進める日程、順番、連絡を管理して、次の作業を進める使ってもらう順番と日程を決め、関係者に連絡する
現場で試して返す実際の仕事で使い、困ったことを伝える営業事務の担当者が決めた期間使い、入力しにくい点を伝える
データやITの相談を受けるデータの置き場所、アカウント、ツールの使い方について相談を受ける取引先名や金額が入ったファイルの保存先と、見てよい人の範囲を確かめる
決まったことを残す話し合って決まったことと次の作業を、A4用紙1枚に書き足す役割と確認した日を表に書き足す

この5つは固定の役割一覧ではなく、考え方の例です。自分の改善に使うときは、改善が始まってから終わるまでの流れを順に思い浮かべ、その場面ごとに必要な仕事を、この表に照らして書き出します。表にない仕事が出てきたら、同じ「〜する」の形で書き足してかまいません。

たとえば、紙の申請書を電子化する改善なら、「現場で試して返す」は「申請する側の人が使ってみて、迷った点を伝える」に置き換わるでしょう。表の言葉をそのまま写すのではなく、自分の改善の場面に置き換えて書くのがコツです。

不要な仕事は削り、1人が複数の仕事を兼ねてよい

5つすべてを別の人に割り当てる必要はありません。ツールもデータも動かさない改善なら、「データやITの相談を受ける」は置かなくてかまいません。その改善に必要な仕事だけを残します。

先ほどのモデルケースなら、残した仕事の担当は、たとえば次のように決められます。DX担当は、段取りと記録の2つを兼ねています。

仕事担当する人(例)その人にする理由
進めてよいか判断する決める人費用やデータに関わる判断は、決める人の役目だから
段取りを進めるDX担当日程や連絡の全体を見ているから
決まったことを残すDX担当(段取りと兼ねる)打ち合わせに出ていて、その場で書き足すのが早いから
現場で試して返す使ってもらう先の担当者(営業事務の担当者)実際に使うのはその人だから
データやITの相談を受けるパソコンやアカウントの管理を普段から見ている人保存先や見てよい人の範囲の事情を知っているから

こうして、すべての仕事に担当者が決まった状態が最小チームです。ただし、1人に仕事が集まりすぎると、時間が足りなくなります。時間が足りるかどうかは、次の章で確かめましょう。

時間と不在時の扱いを仮に決める:いつ・どの程度、連絡先と進める・保留・止める

時間の仮置きと不在時の進める・保留・止める判断を示す図

仕事に人を当てても、その人の時間が空いているのか、休んだときに誰が動くのかは決まっていません。そこで、時間と、担当者が不在のときの扱いを決めます。どちらも担当者が1人で決めるものではなく、仮に決めてから確認します。

時間は「いつ・どの程度」で書く

「週○時間」と数字だけを書くと、繁忙期に守れなくなり、残業で穴埋めする原因になります。時間は、どのくらいの頻度で、何曜日に、いつまで、忙しいときはどうするかを書くと、本人も上司も実行できるかを確かめやすくなります。仮に決めた例は次のとおりです。

仕事いつ・どの程度(仮)
現場で試して返す試しに使う期間の間、毎週水曜の午後に仕事の合間で使う。忙しい週は保留する
段取りを進める毎週決まった曜日に、次の作業を確認する時間を取る
決まったことを残す打ち合わせの直後に、表へ書き足す

必要な時間は、改善の内容、忙しい時期とそうでない時期、職種によって変わります。普段の仕事とどちらを優先するかを判断するのは上司で、実際にできるかを答えるのは本人です。

不在時は代行ではなく、連絡先と進める・保留・止めるの扱いを決める

ここでの不在時の扱いとは、主担当が休みのときに、誰に連絡し、何を進め、何を止めるかです。主担当と同じ仕事をすべて代行できる人を育てることではありません。決めておくのは、次の4点です。

扱い決めておくこと
連絡する不在の間、連絡を受ける人
進めるすでに合意した範囲だけを進める。新しい判断は進めない
保留する決める人の判断を待つ。忙しいときも保留にする
止める・上げるデータやアカウントで問題が見つかったときに、作業を止める連絡を入れる相手と、報告する先

休みを理由に、IDやパスワードを人に教えて共有してはいけません。代わりに作業する人が必要になったときは、会社のルールに沿って、その人の分のアカウントを作り、見てよい範囲を決めるようにしましょう。

手順書づくりや、実際に主担当を外して試すテストは、シリーズの後の回で扱います。今回は、連絡先と、進める・保留・止めるの扱いを決めるところまでで十分です。

本人と上司に確認して、合意をA4用紙1枚に残す

本人、直属の上司、決める人の順に役割と時間を確認する図

表を書いただけでは、人の配置も時間も決まりません。誰にどの順で確認し、何を残すのかを整理します。

先に本人、次に上司と決める人へ確認する

表は、担当者が他の人の時間や担当を勝手に決めるものではなく、本人に確かめるための下書きです。確認は、次の順に進めます。

順番相手確認すること
1本人担う仕事の中身と、その時間を使えるか
2直属の上司普段の仕事との優先順位。その時間を仕事の時間として使ってよいか
3決める人費用、データ、アカウントに関わる範囲が、第14回で合意した内容と食い違わないか

先に本人へ聞くのは、上司から先に話が伝わって、本人が初めて知る状況を避けるためです。

時間の扱いには、一般的な原則があります。厚生労働省の『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』は、会社が指示した作業の時間は労働時間であり、会社はその時間を正しく把握して管理するよう求めています。労働時間には、「これをやって」と直接言われた作業だけでなく、やらないと仕事が進まず、実際には会社から求められている状態と変わらない作業も対象です。会社から頼まれて進めるDXの活動も同じです。

そのうえで、兼務の時間を、申告しない残業や自分の休みの時間で埋めないよう、担当する時間と普段の仕事との優先順位を、上司と事前に確認しておきましょう。残業代や就業規則(会社の働き方のルール)の扱いは、直属の上司や、人事・労務の担当者に確認します。必要なら、労働の専門家である社会保険労務士にも相談できます。

役割の分け方や申請の手順は、社内に、誰が何を担当するかを決めた規程(職務分掌)や、すでに使っているプロジェクトのルールがあればそちらに沿って考えるとよいでしょう。

出典・参照:

追記する項目と、決まらない行の扱い

合意した内容は、第13回で作り、第14回で追記した、改善の内容を書いたA4用紙1枚に足します。追記する項目は、役割、主に担う人、いつ・どの程度(仮)、不在時の扱い、確認した人、確認日の6つです。

モデルケースの記入例は次のとおりです。

役割主に担う人いつ・どの程度(仮)不在時の扱い確認した人確認日
現場で試して返す営業事務の担当者試行期間の間、毎週水曜の午後。繁忙週は保留DX担当へ連絡し、試行は保留する本人・直属の上司確認した日を記入
データやITの相談を受ける要確認要確認要確認未確認未確認

このとき、2行目のように、決まらない行は想像で埋めず、「要確認」と書いて残します。確認した人の欄は、確認が済むまで「未確認」のままです。

次に確認する相手は、表の外に書き添えます。たとえば2行目なら「確認先:決める人」と書き、誰がいつまでに答えるのかも一緒に書いておきます。そうすれば、次に何をすればよいかがひと目で分かります。合意できない時間を、担当者が自分の休みの時間やサービス残業で埋めてはいけません。

「決まったことを残す」仕事は、会議を仕切る役ではなく、決まった内容をA4用紙1枚に書き足す最低限の作業です。打ち合わせのたびに、表へ書き足しましょう。

始める前の確認:つまずき・チェックリスト・この1週間でやること

必要な仕事を書き出して確認結果を残す4段階の行動図

表を作ったあとに、何を確かめ、どこまで進めればよいのでしょうか。つまずき、確認項目、この1週間の行動の順にまとめます。

よくあるつまずき

つまずきは、主に2つあります。

1つ目は、表を書いただけで配置が決まったと思い込むことです。表は下書きにすぎず、本人と上司に確認して合意して初めて、兼務でも回る体制になります。

2つ目は、役割を増やしすぎることです。人を集めることが目的になると、改善に要らない仕事まで置いてしまいます。必要な仕事のすべてに担当者が決まっていれば、最小チームとして成立します。

チェックリスト

確認確認すること確認の目安
□今回の改善に必要な仕事を、人の名前より先に書き出したか「〜する」の形で、仕事が挙がっている
□不要な仕事を削り、一人が複数の仕事を兼ねる形にしたか仕事の全部を別の人に割り当てていない
□時間を「いつ・どの程度(仮)」で書いたか頻度、曜日、期間、忙しいときの扱いが書いてある
□不在時の連絡先と、進める・保留・止めるの扱いを書いたかIDやパスワードを共有する前提になっていない
□本人、直属の上司、決める人の順に確認したか表が決定事項の押しつけになっていない
□決まらない行を「要確認」のまま残したか想像や自分の休みの時間で埋めていない

この1週間でやること

やること具体的な内容
1. 必要な仕事を書き出すA4用紙1枚に書いた改善に必要な仕事を、「〜する」の形で書き出す
2. 人・時間・不在時を仮に決める仕事ごとに、主に担う人、いつ・どの程度、不在時の扱いを仮に決める
3. 確認の場を持つ本人、直属の上司、決める人の順に、実行できるかを確認する
4. 結果と日付を残す合意した内容、確認した人、確認日を、同じA4用紙1枚に追記する

実際に本人や上司と話すのは、手順3の段階です。話す時間がまだ取れないときは、手順1と2を進め、確認の依頼を出すところまでで十分です。まずは手順1の書き出しから始めましょう。

まとめ:最小チームは、担当のいない仕事がない状態として、本人と上司に確かめて残す

最小チームとは、今回の改善に必要な仕事のすべてに、担当者が決まっている状態です。人数や肩書ではなく、必要な仕事を先に書き出し、すべての仕事に担当者を決めることが、兼務でも回る体制の出発点になります。

時間は「いつ・どの程度」で、休んだときは連絡先と進める・保留・止めるの扱いで、仮に決めます。そして、本人と上司に確かめて合意を残して初めて、表が実際の体制になります。確認が取れない行は「要確認」のまま残せば、次に誰へ聞けばよいかが分かります。

まずは、今回の改善に必要な仕事を書き出し、その中から1つだけ選びましょう。そして、その仕事を担ってほしい人に、引き受けられそうかを聞いてみてはいかがでしょうか。

次回の第16回は、改善案件を1つの台帳で比べる回です。

続きの回や、関連する過去の回は、新人DX担当の教科書のシリーズページから探せます。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。