「DXPO東京’26【夏】」AI・DXを成果につなげる組織変革の現在地【イベント・レポート③】

公開日 : 

share :

DXPO東京’26【夏】

  • 開催日:2026年8月18日、19日、20日、21日
  • 開催場所:東京ビッグサイト 西1・2・3ホール
  • 主催者:ブティックス株式会社(DXPO事務局) 

業務効率化や売上アップ、システム開発、DX推進を支援する展示会「DXPO東京’26【夏】」が、8月18日から21日まで東京ビッグサイトで開催されました。4日間あわせて850社が出展。AIエージェントをはじめ、バックオフィス、営業・マーケティング、IT・情シス、製造、EC・通販、店舗など幅広い領域のソリューションを紹介しました。

本記事では、特別セミナーで語られた「小さく始めるAI活用」「AIと人の共創による組織変革」の考え方に加え、会場で注目を集めた3社の取り組みをレポートします。 

【本記事の要点】

  • 特別セミナーでは、AI活用を「10分で作れる規模」から小さく始め、管理職は安全な環境整備と社内調整に徹することが示された
  • バックオフィスは定型業務の効率化にとどまらず、AIと人が共創して価値を生む「シン・事務職」への進化が提唱された
  • 会場では、統合AIプラットフォーム、BPOと補助金申請支援、主体性を育む研修と、DXを支える多様なアプローチが紹介された

AI活用は大規模投資から始めない:「10分で作れるAI」から組織変革へ

株式会社クロス・オペレーショングループ代表取締役CEO兼CAIOの田中亮大氏
株式会社クロス・オペレーショングループ代表取締役CEO兼CAIOの田中亮大氏

「AIを活用したいけれど、何から手をつければいいのかわからない」

「情報が多すぎて選べず、自社での活用イメージが描けない」

AI活用を考えるなか、こうしたことで悩んでいる経営者や管理職は多いのではないでしょうか。

本章では、500社以上の支援実績を持ち、ベストセラー『あなただけのAI社員』(イースト・プレス)の著者でもある株式会社クロス・オペレーショングループ代表取締役CEO兼CAIOの田中亮大氏による特別セミナーの模様をレポートします。

大規模投資は不要!「10分でできる規模」から始める理由

AI導入では、多額の資金を投じて大規模なプロジェクトを立ち上げる企業も少なくありません。しかし田中氏は、「AIプロジェクトは高額な資金を投じても、PoC(概念実証)段階で3割、実運用段階で8割が失敗する」という厳しい現実を指摘し、最初から大がかりな開発を目指すのではなく、10分でできる規模から小さく始め、社内に浸透させることが成功への近道だと説きました。

具体的な第一歩として挙げたのが、ChatGPTなどのカスタムAI(GPTsなど)を作成し、社内に共有・配布することです。SNSなどで語られる「AIで社員を7~8割削減できる」といった話は現実的ではなく、目指すべきは「2~3割の既存業務をAIに置き換えること」であり、それだけでも組織の生産性は大きく向上するといいます。「高度なAIエージェントの開発は大手企業に任せ、私たちが今やるべきは自社独自AIの構築・活用です」と強調しました。

35歳以上の管理職に求められるのは「AIを使うこと」ではない

AI活用において、ユーザーの8割以上は35歳以下の若い世代です。若い世代がAIを日常的に使いこなす一方、35歳以上の管理職が自らプロンプトや最新ツールを必死に学ぶ必要はないと田中氏は指摘します。

重要なのは、AI活用に適性のある若い世代が力を発揮できる環境を整えること。そのために管理職が担うべき役割として、次の3点を挙げました。

  • 安全な利用環境の整備
  • 組織内調整(根回し)
  • 社内ナレッジの収集

なかでも、マニュアル化されていない暗黙知までAIに読み込ませることは重要です。管理職自身がAIを使いこなすことにとらわれず、若手が活躍できる環境づくりと社内調整に注力することこそ、AX(AIトランスフォーメーション)を成功させるポイントだと説きました。

まずは「FAQ作成・対応クローン」から身近な業務を置き換える

独自AI(カスタムAI)は、専門知識がなくても10分程度で無料作成でき、自社資料を読み込ませることで誤情報(ハルシネーション)を抑えられます。田中氏は、まず「既存業務の置き換え」、特に「FAQ作成・対応クローン」の構築から始めることを提案しました。

たとえば、FAQ作成で人間には負担の大きい「質問50個の抽出」といった作業もAIなら短時間で生成できます。また、職場に「FAQクローン」を配置することで、若手社員が上司への質問をためらうことによる業務の停滞やコミュニケーションエラーも防ぎやすくなります。

自社AIを作る際には、「自分ではなく、プロンプトの知識がない他の社員が使う」ことを前提に設計することが重要です。「会話のきっかけボタン」を配置するなど、利用者が迷わず直感的に使える環境を整えることがポイントとなります。

小さく試して組織へ浸透させる:安全性を確保しながらAI活用を進める

カスタムAIを組織内へ浸透させる際には、まず社長や部長などインパクトのある人物のクローンを利用シーン別に作成し、自ら試作。その後、信頼できる2~3人に渡して反応を見ながら、少人数のチームへ展開していきます。

さらに、セキュリティなどを理由に反対する人には、その人専用のAIクローンを作って渡すことで協力者になってもらう方法も紹介。プロジェクトとして方向性をぶらさないための導入設計書を作成することも重要だと語りました。

なお、セキュリティ面では、ChatGPTやGeminiを個人アカウントで使う場合、入力情報がAIの学習に使われないよう「モデルの改善(学習)」設定をオフにすることを推奨しています。また、最初は情報漏洩しても問題のないパンフレットなどのデータで試すことが安全だと強調しました。そのうえで、本格導入する法人向けAIツールについては、RAG(検索拡張生成)の有無や、月額料金・アカウント上限などのコスト構造を確認することが重要だとしています。

最後に田中氏は、「AI活用の第一歩は、大規模なシステム開発を行うことではなく、10分で作れる身近なAIクローンを1つ作ること」と呼び掛け、講演を締めくくりました。

AIに仕事を奪われないために:バックオフィスが目指す「シン・事務職」

あまねキャリア株式会社代表取締役の沢渡あまね氏
あまねキャリア株式会社代表取締役の沢渡あまね氏

AIによる業務代替やデジタル化が急速に進む中、これまでバックオフィスを支えてきた「定型業務を中心とする事務職」の需要低下、いわゆる「事務職余り」の懸念が高まっています。このような時代に、バックオフィスはどのような役割を果たし、いかにして自らの価値を高めていく必要があるでしょうか。

続いては、数々の組織変革を手掛けてきた、あまねキャリア株式会社代表取締役の沢渡あまね氏が、「AIと人間が共創し、新たな価値を創造する管理部門(シン・事務職)へ進化しよう」を主要メッセージに、具体的な変革のステップと目標とする将来像を解き明かした特別セミナーの模様をレポートします。

管理部門が陥る「残念な現状」と変革への第一歩

講演の冒頭、沢渡氏は管理部門が直面している「残念な現状」に問いを投げかけました。

  • 現状維持が目的化している
  • 事業貢献への意識が薄い
  • せっかくAIを導入しても、不要な確認業務や管理が増えてしまう

こうした課題は、多くの組織で根深く存在します。しかし、このまま変化を拒み続ければ、たしかに管理部門はAIに仕事を奪われ、組織にとって「不要な存在」になってしまうかもしれません。

一方、DXやAI活用に対する現場の本音は、決して前向きなものばかりではありません。

  • 経営陣やベンダーが儲かるだけ
  • 仕事が増えるだけで給料は上がらない
  • すぐにクビにはならないから現状維持でいい

現場には、これらの諦めも存在します。

沢渡氏は「こうした感情は人間として当然のもの」と寄り添いつつも、潮流を避けることはできず、安易な職種転換も容易ではないと指摘しました。だからこそ、今求められているのは単なる効率化ではなく、「AIと人の共創」と「新しいホワイトカラー(シン・事務職)の職種デザイン」なのだ、と続けます。

「ちくわ」と「研究部門」の事例に見る、現状維持からの脱却

現状維持を打破し、価値を生み出す組織へ変化するためのヒントとして、沢渡氏は2つの事例を挙げました。

1つ目は、愛知県の老舗「ヤマサちくわ」との共創事例です。同社は、福利厚生やコミュニケーション活性化を目的とした「オフィスちくわ」の提案や、未利用魚を活用した「カジキナゲット」の開発、他社(ヤマハ等)とちくわを食べながらダイバーシティを語り合う対話会など、バックオフィスの枠を超えた取り組みを展開。面白がって新しい仕掛けを行うことで、売り手側の意識が変わり、社内読書会など想定外の動きへ波及する成果を生み出しています。

2つ目は、ある大企業グループの研究部門の再生ストーリーです。同部門は社内説明資料の作成やグループ特有の雑務に追われ、本来の研究業務に時間を割けない、いわば「静かな退職」状態にありました。そこで部門長が目的を明確にし、「やめること」を決める対話を実施。資料の簡易化やオンライン化で「余白」を創出しました。その余白を新しい研究や社外連携に投資した結果、周囲から評価され、予算や「味方(ファン)」を獲得できる「成果を出す部署」へと進化したのです。

隙間を埋める「シン・事務職」2つの姿と7つの行動

続いて沢渡氏は、これからのバックオフィスが目指す姿として「組織の課題や隙間を埋め、共創を導く2つの職種」を提示しました。

  • 共創デザイン職(ファシリーダー):リーダーシップを持ったファシリテーターとして、課題・組織・人をつなぎ、共創による価値創造を牽引する存在
  • 業務デザイン職:指揮者のように業務全体を俯瞰・設計し、AIに任せる部分を見極めて「余白」を生み、人の行動や豊かな体験をデザインする存在

特に「ファシリーダー」の育成には、【観察/対話/期待役割/ビジョンニング/ストーリー設計/偶然設計/環境セットアップ】という「7つの行動」と、現場の喜怒哀楽に寄り添う「感性」が不可欠だと説きます。

論理や正論だけでは人は動きません。プロセスや定型処理をAIに任せられる時代だからこそ、人間ならではの暗黙知やEQ(心の知能指数)、他者の強みを「面白い」と受け止める「面白がり力」を磨くことが共創の根幹となります。

組織開発の数式「Y=F(X)」とバックオフィスの未来

講演の後半では、組織開発の本質が語られました。部門間や階層間の溝、本音の不一致といった「組織の隙間」は悪気なく発生します。この隙間に気づき、埋めていく永続的な営みこそが「組織開発」です。沢渡氏はこれを「Y=F(X)」という数式で説明しました。

Y(成果)=F(組織構造・文化・プロセス)✕X(インプット)

成果(Y)は、組織構造・文化・プロセス(F)と、多様な体験・能力・感性といったインプット(X)の掛け合わせで生み出されます。インプットである「X」を変えずに、成果である「Y」だけを高めることはできません。

普段とは異なる環境に身を置く「越境」を経験し、そこで感じる違和感を自らの組織改善に活かすこと。そして、未来の成果から逆算する「バックキャスティング」と、新しい体験から想定外の成果を実験的に探る「フォアキャスティング」を融合させることが重要という主張です。

最後に沢渡氏は、「AI導入自体を目的化させず、社内外にファンを作るブランドマネジメントと組織開発を両輪で回すこと」と、「時には第三者の力を借りて客観的な対話を深めること」の重要性を訴えました。そのうえで、「日本中のバックオフィスはまだまだ変われます。越境と共創のリズムで、新たな景色をともに作っていきましょう」と力強いエールで講演を締めくくりました。

DXportal®編集部

執筆者

DXportal®運営チーム

DXportal®編集部

DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。