効率化の街のど真ん中に、なぜ彫刻が並ぶのか|丸の内で見つけた「急がせない」DX【街で見つけたDX】

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DXの話になると、「何を速くできるか」「どこを効率化できるか」という発想から抜け出せない、と感じることはないでしょうか。

効率を上げる策を講じるほど、その先に何を実現したいのかが見えにくくなってしまう。そんなもやもやを抱える方も、少なくないと思います。

私も、DXportal®の運営を考える中、どうやって編集部を効率よく回せるか。そんなことをいつも考えては、時折迷路にはまっていました。

そんな時、とある取材の立ち会いで、丸の内を訪れる機会がありました。クールなビジネス街のイメージがある丸の内ですが、そこは存外遊び心にあふれた街だったのです。

石畳の通り沿いには彫刻が並び、街行く人が思わず「立ち止まりたくなる」街。それが丸の内の知られざる姿でした。

ここで、1つの疑問が浮かびます。それは、日本を代表するビジネス街が、なぜ最短で通り抜けやすい街とは逆の方向に長く投資してきたのか、です。そこに、効率化を考えるヒントがあるのではないか? これが、この記事の発端です。

この記事では、丸の内で見つけた石畳、テラス、彫刻の背景と、その空間を支えるデータ活用をたどりながら、「効率化を追求し、『速くした先』にどんな時間が増えるのか」を考える視点をお伝えします。

【本記事の要点】

  • 丸の内の彫刻は飾りではなく、1972年から続く「丸の内ストリートギャラリー」の展示だった
  • 丸の内は、石畳やテラスなど立ち止まれる余白に、長期的に投資してきた街だった
  • AIによる人流計測などのデータは、その余白の質を確かめるために使われている

丸の内仲通りの第一印象:ビジネス街に広がる石畳・テラス・彫刻

白い台座の上に、二つの黒い抽象彫刻が並ぶ。左は赤茶色のれんが台に載り、背景に店舗と走行中の車両が見える。
編集部撮影の写真:白い台座の上に、黒い抽象的な塊が2つ並んだ彫刻(写真1)

丸の内は、日本を代表するビジネス街です。大企業の本社ビルが並び、いかにも「効率」を体現したような一等地とも言えるでしょう。かくいう私も、そんなクールなオフィス街だと思っていました。

ところが実際に歩いてみると、予想以上におしゃれで、まるでどこかヨーロッパの街並みを歩いているような雰囲気があったのです。

足元を見ると、通り自体が石畳のようになっています。その脇にはレストランやカフェのテラス席があります。それ以外にも、キッチンカーがテーブルセットを並べて、そのどれもにランチを楽しむ人たちが座っているといった、昼どきの賑わいがありました。

それよりも印象的だったのが、街のそこかしこに、彫刻がいっぱいあったことです。

東京駅をバックに記念撮影をしている人たちは多く見かけましたが、記念撮影程度であれスマートフォンでも十分なはず。だというのに、なぜか通りには一眼レフの立派なカメラを抱えた人がたくさんいる。観光地でもないこの街に一見不似合いなこの光景に、私は不思議な想いを抱いていたのですが、これで謎が解けました。

あの人たちは、この街なかに点在した彫刻たちの写真を撮って回っていたのです。

これほど効率が重視されるはずのビジネス街のど真ん中に、わざわざ立ち止まらせる仕掛けが用意されているのか。この違和感が、今回の企画の出発点です。

石畳とテラスが作る「立ち止まる」通り

丸の内仲通りの石畳の交差点。扇状の模様を描く石畳が道路一面に敷かれ、奥にビルと歩行者が見える。
編集部撮影の写真:丸の内仲通りの石畳の交差点。通り自体が石畳のようになっている(写真2)

この通りで最初に目に入ったのは、石畳の道と、テラス席やキッチンカーが並ぶ光景でした。まずは、それぞれがどのような経緯でできたのかを、順に見ていきましょう。

2002年、丸ビル開業とともに生まれた石畳の道

通り全体を覆う石畳。アスファルトの車道とは明らかに違う質感で、この通りの作りが、どこか日本的ではない空気を感じされます。

調べてみると、この石畳の道は2002年の丸ビル開業に合わせて整備されたものでした。

かつては、6メートル・9メートル・6メートルだった歩道・車道・歩道の幅員を、7メートルずつの均等な構成に見直し、共通の石材舗装で一体化したらしいのです。つまり、単に歩行者の領域を広げるのではなく、通りの見え方そのものを作り直した取り組みだったのでしょう。

出典・参照:

テラス席とキッチンカーが賑わう仲通り

石畳の道沿いには、カフェやレストランのテラス席、キッチンカーと簡易テーブルが並び、平日の昼どきからにぎわっていました。

これは「丸の内仲通りアーバンテラス」という取り組みで、大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ大丸有)が2014年にモデル事業として始め、2017年4月に本格稼働させたもので、就業者や来街者が憩い、交流できる場をつくることを目的としています。つまりこの通りは、街ぐるみでオフィス街の隙間を、通り抜けるだけの空間から、人が座って過ごせる空間へと作り替えてきたのです。

出典・参照:

点在する彫刻の正体は、1972年から続く展示だった

白い台座の上に立ち、片腕を横へ伸ばす銀色で流動的な人型の彫刻。背後にキッチンカーと石畳の通りが見える。
編集部撮影の写真:通り沿いに立つ、銀色で流動的な人型の彫刻(写真3)

この日、私が一番驚いたのは、街なかに点在する色とりどりの彫刻でした。

  • 銀色の流動的な人型
  • 黒い抽象的な塊が2つ並んだ彫刻
  • 金色で鳥か炎のような形の彫刻

作風もモチーフもばらばらで、最初は「なんか変なモノが置いてあるな」くらいに思っていました。

これは行き当たりばったりの集積ではありません。「丸の内ストリートギャラリー」という、三菱地所と彫刻の森芸術文化財団が主催・監修する継続的な展示だったのです。1972年に始まり、数年ごとに作品を入れ替えながら現在まで続いていたのです。

今展示されているのは第44回、17作品(新作4点・入替3点・継続10点)にのぼります。半世紀以上にわたって、丸の内という街そのものを会場にしたキュレーションが続けられてきたわけです。私はそのうちの数点に気づき写真に収めただけですが、街で見かけたカメラマンたちはこれを狙っていたのでしょう。

ボールを抱えて低く構えるブロンズ製のラグビー選手像と、その隣に並ぶ木製ベンチ。ベンチのプレートには「リーチ マイケル」と記されている。
編集部撮影の写真:現地プレートに「リーチ マイケル」の名前が記されたブロンズ製のベンチアート(写真4)

彫刻の中には、ブロンズ製のラグビー選手のベンチアートもありました。現地のプレートには「リーチ マイケル」の名前が記されています。こちらはストリートギャラリーとは別の「丸の内15丁目PROJECT.」というプログラムで、2018年に始まったものです。同じ通りに、由来の異なる2つのアートプログラムが重なっている点も興味深いところでした。

黄・ピンク・水色に塗られた地面の上に、木の切り株が並び、それぞれの上にカラフルな像が立つ彫刻。背後にキッチンカーと石畳の通りが見える。
編集部撮影の写真:木の切り株群の上に、カラフルな複数の像が並ぶ彫刻(写真5)

木の切り株の上に、色鮮やかな複数の像が並ぶ彫刻もありました。銀色の人型やブロンズのベンチアートとはまったく違う、遊び心のある作風です。作品ごとにこれだけ表現の幅があること自体が、単発の設置物ではなく、企画意図を持って選ばれ続けているキュレーション展示だという印象を強めてくれました。

出典・参照:

なぜビジネス街のど真ん中が、この「余白」に投資するのか

石畳の通り沿いに立つ、鳥または炎を思わせる金色の抽象彫刻。背後に樹木とオフィスビルが見える。
編集部撮影の写真:石畳の通り沿いに立つ、金色で鳥か炎のような形の彫刻(写真6)

石畳、テラス、彫刻。いずれも、通りを最短距離で通り抜けたい人にとっては、なくても困らないものです。むしろ、立ち止まる人が増えれば、通行の効率としてはマイナスにすらなり得ます。それでも丸の内は、この「余白」に長く投資を続けてきました。本章では、それはなぜなのかを考えていきましょう。

通行量の増加と、街のつくり方から読み取れる狙い

丸の内エリア全体では、休日の歩行者通行量が2002年の約2万人から2018年には約6.3万人まで増えたという公表値があります。ただし、この変化はビルの建て替えや店舗の増加、交通環境の整備なども含めたエリア全体の変化であり、石畳や彫刻、キッチンカーといった個別の仕掛けだけの効果と切り分けて語れるものではありません。それでも、「効率的に通り抜けられる街」ではなく「立ち止まりたくなる街」を長期的に目指してきたことは、街のつくり方そのものから読み取れます。

ここで丸の内が投資してきたのは、「非効率」そのものではないはずです。最短ルートを歩くだけでは生まれない、滞在、発見、会話、そして働く人や訪れる人の街への愛着。そうした、短期の処理効率では測りにくい価値のために、通りの設計そのものを作り替えてきたのだと考えられます。

出典・参照:

余白を消さず育てるために使われるデータ

もう1つ意外だったのは、この「余白」自体が、デジタル技術によって今も検証され続けているという事実です。

丸の内仲通りでは「Marunouchi Street Park」という取り組みが2019年から続けられており、2026年夏で17回目を迎えました。この中で、AIによる人流計測や、快適性・温熱環境の検証が行われており、その結果を今後の人中心の空間づくりへ生かす取り組みが続いています。どこに人が集まりやすいか、どの時間帯にどれだけ快適に過ごせるかといったことを、感覚だけでなくデータで確かめているわけです。

ここでのデジタルの役割は、通行を速くすることではありません。むしろ逆で、人が立ち止まり、居心地よく過ごせる余白を、より安全に、より快適に保つために使われています。効率化のための技術というと、何かを削ったり速めたりする道具だと思われがちですが、丸の内で使われているデータ活用は、あえて残した「余白」の質を高めるためのものでした。

出典・参照:

まとめ:速くした先に、どんな時間を増やすか

丸の内を歩いて見つけたのは、効率とはかけ離れて見える石畳、テラス、そして半世紀続く彫刻の展示でした。しかしその背景には、通り抜けるだけでは生まれない滞在や発見の価値を、20年以上かけて育ててきた経緯がありました。そして今、その価値を確かめる人流計測や快適性・温熱環境の検証にも、デジタル技術が使われているのです。

DXやデジタル化というと、私たちはつい「何を速くできるか」「何を効率化できるか」から考えがちです。しかし丸の内の街づくりが教えてくれたのは、もう1つの問いでした。速くした先に、削った先に、いったいどんな時間を増やしたいのか。自社の業務や、顧客との関係に置き換えて考えてみると、効率化の先に何を残したいのかが、少し違って見えてくるかもしれません。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。