- share :
AIに文章を書かせても、資料を作らせても、返ってくるまでの時間はどんどん短くなっています。しかし、AIの仕事が早くなるぶん、私たちの手元にある「まだ確認していない成果物」は増え続けているのではないでしょうか。作る速度が上がった先で、詰まっているのは、たいてい人間の側です。
私は当サイト『DXportal®』の記事制作をするにあたって、「AI編集部」によって半自動化したシステムを運営しています。その現場で日々感じているのは、AIが速くなるほど、私の前にできる「確認待ちの行列」が長くなる、ということです。
この記事では、なぜこの行列は人間の側にできるのか、そしてこの行列を非効率と呼んでよいのかを、編集長の立場から考えます。読みながら、貴社でAIが速くした先に、同じ行列ができていないかを思い浮かべてみてください。
【本記事の要点】
- AIで速くなったのは「作る」工程だけで、「これを世に出してよいか」を引き受ける人間の工程は速くならない
- 速い工程だけを速くしても全体は速くならず、確認待ちの成果物が手前に積んでいく
- 確認を省けば速く出せるが、セキュリティや事実の誤りを見逃した記事は、メディアとしては信頼を失う
- この行列は一時的な渋滞ではなく、仕事の本体が移った場所である
AIは待たない。待っているのは、いつも人間のほうだ
まず、AI編集部の話に入る前に、多くの現場で起きていることを整理します。
生成AIは、指示を出せば数分で下書きや資料を返してきます。ところが、その成果物を人間が読み、事実を確かめ、表現を直し、社外に出してよいと判断するまでの時間は、以前とほとんど変わっていません。作る速度だけが跳ね上がり、確認し、判断し、責任を引き受ける「速度」は、人間が担当している以上は据え置きのままなのです。
その結果、AIの出力が人間の処理を待つ行列が生まれます。
- 会議資料の下書きは昼前にできているのに、部長のチェックが終わるのは翌週
- 契約書のたたき台は一瞬で出るのに、法務の確認待ちで止まる
- 広告のコピー案は何十パターンでも出せるのに、実際に世に出せるのは上長が目を通した数本だけ
DX(デジタルトランスフォーメーション)で「速くなった」と言うとき、その速さは工程の一部だけを指していることが少なくありません。
厄介なのは、この行列が一箇所にまとまって目に見えるわけではないことです。会議資料は部長のメール受信箱に、契約書は法務のチャットスレッドに、広告コピーは上長の確認待ちフォルダに、それぞれ別々に積み上がっていきます。行列はいつも分散していて、組織全体でどれだけの量が滞留しているのか、誰も把握できていないケースがほとんどではないでしょうか。
AI編集部を回して、見えたこと
次に、私自身の現場で起きていることを書きます。
DXportal®のAI編集部では、私が記事の企画を立て、必要な情報を集めます。そこから先は、夜間に動くルーティンが、1日3本分の記事を1週間分、順番に自動で書き上げていきます。朝には、書き上がった原稿が並んでいます。
私の仕事は、その原稿を1本ずつ確認することです。事実関係を確かめ、言い回しを直し、章を書き足し、必要なら修正の指示を出します。ここは自動化していません。そして、この作業は私の手が空いた分しか進みません。1日に自動で「作れる」本数と、私が1日に確認して「通せる」本数は、別の数字なのです。いきおい、作れる本数のほうが多ければ、確認していない原稿は日ごとに積みあがっていきます。
この確認には、思った以上に時間がかかります。1日に5、6本の原稿に目を通すだけで、数時間かかることも珍しくありません。私はこの作業だけに365日専念できるわけではなく、他の仕事を抱えている日もあります。それでも溜まった原稿はなくなりませんから、朝から晩までAIが書いた文章を読み、確かめ、直すという作業だけで1日が終わることも少なくないのです。
私がこの運用方法を選んでいるには、私自身が過去に起こした失敗が原体験にあります。
まだ私が一介のWEBライターで、AIを使い始めたばかりの頃、あるクライアントから頼まれた記事で、ネット上では裏付けの取れない話をそのままチェックせず納品してしまったことがあります。クライアントから情報の出どころを聞かれて初めて、AIが書いた内容をそのまま信じてしまっていたことに気づきました。
その時は素直に非を認めて謝りましたが、そのクライアントから次の依頼が来ることはありませんでした。AIが作る量がどれだけ増えても、その中身を精査する役割を人間が手放した瞬間に、こういうことは起こります。私が、DXportal®のAI編集部で確認を人間の仕事として残しているのは、この失敗が原点にあります。
工場の生産ラインでは、一番遅い工程が全体の処理量を決めるといわれます。その手前の工程だけをいくら速くしても、遅い工程の前に仕掛品がたまるだけです。私の編集部で起きているのは、まさにこれです。
なぜ人間はこの行列を、あえて引き受けるのか
では、なぜこの遅い工程はいつも人間の側にあるのでしょうか。
自動化できたのは「作る」工程です。
- 資料を集める
- 文章を組み立てる
- 記事の体裁を整える
こうした作業はAIに任せられます。一方で、「この内容を自社の名前で世に出してよいか」を判断し、その結果に責任を負う工程は、人間に残ります。
セキュリティ上の問題がないか、事実に誤りがないか、AIが自信ありげに書いた誤情報(ハルシネーション)が混じっていないか。ここを確かめる役割は、AIに丸ごと渡せるものではありません。
もちろん、私が運営しているAI編集部でも、この確認を省けば記事はもっと速く出せます。しかし、点検を飛ばして誤った情報やリスクのある記述を公開すれば、メディアとしての信頼を失うことになってしまうでしょう。速く出すことと、信頼して読んでもらえることを比べたとき、私が選ぶのは後者です。
こう書くと、それなら最初から自分で書いた方が早いのではないか、AIを使う意味はどこまであるのか、と思う方もいるかもしれません。それでも、AIが「作る」部分を確実に速くしてくれることで、私の時間は空きます。AIを使わなければ、DXportal®で1日3本の記事を私一人で投稿し続けることは、まず不可能でしょう。
何より大きいのは、空いた時間を、どんなテーマを取り上げるか、何を記事にするかという企画の部分に、以前よりも割けるようになったことです。だから私は、あえて自分の前に確認の行列ができる状態を選んでいます。入り口の企画と出口の確認だけを人間が押さえ、間の「作る」部分をAIに任せる。そこに、AIを使う意味があると思っています。
人間の側にできるこの行列は、作業の邪魔をしているのではありません。AIを使って効率的に、しかし正しい仕事を続けていくために、甘んじて受け入れるべき行列なのではないですしょうか。
なお、AI編集部の運用については、別の記事でさらに詳しく解説しています。よろしければあわせてご覧ください。
まとめ:行列は非効率ではなく、仕事が移った場所である
AI編集部を運営してたどり着いた見方は、この確認待ちの行列は「もっと賢いAIが出れば消える一時的な渋滞」ではない、というものです。生成が速く、安くなるほど、詰まる場所は下流の人間の判断へ移り、そこに居座り続けます。
だとすれば、この行列は恨む相手でも、迂回する対象でもありません。人と時間を割り当てる対象です。AIで作る速度を上げる投資をするなら、それが速くした先で、誰が、どれだけの量を確認するのかも、同じ計画の中で考えなければならないでしょう。行列ができている場所は、非効率の証ではなく、その仕事の価値が移った場所です。
貴社でも、AIが速くしてくれた工程の後ろに、人間の確認待ちの列ができていないでしょうか。そこに人を張れているか、一度見てみる価値はあると思います。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。


