飲食店の2店舗目は「1店舗目のコピー」ではない|法人化とDXは同じ課題への打ち手になる

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個人営業の飲食店経営者が、大きな分岐点を実感するのは、2店舗目の出店を考えるときではないでしょうか。

1店舗目は、なんとか自分の目が届く範囲でやってきた。仕込みも発注もシフトも、頭のなかで全部つながっていたし、何か違和感があればその場で気付けた。だからこそ、いよいよ2店舗目を出すという段階になって、ふと不安になることもあるものです。

  • 自分が「いない」店が生まれる
  • 経理もシフトも原価管理も、もう「自分の頭のなか」だけでは追いきれなくなる

店舗展開という大きな夢とは相反する、会社経営の問題とも言える漠然とした不安を解決する可能性は、DX(デジタルトランスフォーメーション)にあります。自分が目の届かない部分をフォローするために、デジタル活用を考えるという選択肢です。

また、このタイミングは、個人経営から法人化へのステップアップを検討する経営者が増えるタイミングでもあります。つまり、2店舗目の出店を考えるタイミングは、DX推進と法人化を同時に考える良い機会でもあるのです。ただし、その分、不安も2倍になってしまうかもしれないのは、飲食店経営者にとって頭の痛い問題でもあるでしょう。

厄介なのは、この不安に対する相談先がバラバラなことです。「法人化すべきか」は税理士に相談する話、「POSやシステム導入など、DXの進め方」はITベンダーに相談する話として、別々の文脈で語られがちです。

そのため、2店舗目を控えた経営者は、どちらから手をつければよいのかわからないまま、不安は脇において出店準備だけが先に進んでしまうことが少なくないのです。

この記事では、飲食店にとって2店舗目がなぜ経営の分岐点になるのかを整理したうえで、実際にその壁を越えた2社の事例と共に、読者が自店の状態を点検できる具体的な基準を紹介します。

【本記事の要点】

  • 飲食店では2店舗目の出店が経営上の分岐点になりやすく、人手不足を背景にオーナー不在のときの品質のばらつきや固定費の急増が起きやすい
  • 2店舗目は「1店舗目のコピー」ではなく、経営の管理単位がオーナー個人の経験・勘から仕組み・システムへ移る転換点である
  • 法人化(組織的な意思決定・権限委譲)とDX(データによる一元管理)は、別々の検討事項ではなく「属人化からの脱却」という同じ課題への表裏の打ち手である
  • GREENING(GARDEN HOUSE)・TOMOSANKAKUの実例と、自社を点検できる基準を通じて、何から着手すべきかを確認できる

なぜ多くの飲食店にとって「2店舗目」が経営の分岐点になるのか

飲食店が2店舗体制へ移る際、人手不足、固定費、品質のばらつきが経営課題になる構造

飲食業界では長らく人手不足が課題として語られてきましたが、その水準は今も高いままです。帝国データバンクの調査によれば、飲食店における非正社員の人手不足感は58.6%(2026年1月時点)と、人材派遣・紹介業に次いで高い水準にあります。ただし、DXやスポットワークの普及を背景に3年連続で改善傾向にあるとされており、必ずしも「悪化の一途を辿っている」というわけではないようです。

こうした人手不足の状況が、2店舗目の出店を「鬼門」にしやすい背景の1つになっています。POS・モバイルオーダー関連の情報を発信するdiniiの記事では、2店舗目の出店を考える際に問題となるポイントとして、次の点を指摘しています。

  • オーナー不在のときに接客や料理の品質にばらつきが出やすい
  • 人手不足のなかで1店舗目の運営が手薄になりやすい
  • 家賃・人件費・光熱費といった固定費が単純計算で2倍近くに膨らむ

2店舗目は単純に「店が増える」だけの話ではありません。1店舗目でオーナー自身がこなしてきた役割の一部を、誰かに、あるいは何かに委ねなければ回らなくなる局面が、出店と同時にやってくるということなのです。

出典・参照:

2店舗目は「1店舗目のコピー」ではない

オーナー個人の記憶と判断に頼る経営から、法人化とDXによる仕組み・システムへ移る流れ

1店舗目がうまく回ってきたのは、オーナー自身の経験と勘、そして目の届く範囲での管理があったからです。自身が管理する店が1店舗であるうちは、仕入れの量も、シフトの穴も、原価の揺れも、日々の肌感覚で調整できていたでしょう。多くの経営者は、2店舗目もその延長線上、つまり「1店舗目のやり方をもう1軒に広げるだけ」だと考えがちです。

しかし2店舗目を出すということは、必ず「自分がいない店舗」が生まれるということです。そこでは、これまでオーナーの頭のなかだけにあった判断基準や管理のやり方を、誰かが代わって担当しなければなりません。

つまり2店舗目は、1店舗目の運営方法をそのままコピーする試みをするタイミングではなく、経営の管理単位を「オーナー個人」から「仕組み・システム」へ移す転換点である、ということです。

この転換点で問われるのが、法人化とDXという、一見別々の検討事項に見える2つのテーマです。

  • 法人化:組織としての意思決定の仕組みや、オーナー以外への権限委譲の仕組みを作ること
  • DX:経理・シフト・原価・在庫といったデータを、個人の記憶や紙・Excelではなくシステムで一元管理する仕組みを作ること

この2つの「仕組み化」が、管理店舗が2つに増えるタイミングで求められます。法人化とDX推進は、税理士とITベンダーという別々の相談先で語られがちなためバラバラの検討事項に見えますが、実際には「属人化からの脱却」という同じ課題に対する表裏の打ち手です。この視点を持てるかどうかが、2店舗目以降の経営の分かれ目になります。

もっとも、この指摘だけでは抽象的な話で終わってしまいかねません。そこで次章では、個人商店型の運営のまま2店舗目を出した場合に、具体的にどこで「詰まる」のかを見ていきましょう。

個人商店型の運営のまま2店舗目を出すと、どこで詰まるか

2店舗の経理、シフト、原価、在庫が分断され、オーナー個人の管理が限界を迎える様子
  • 経理
  • シフト
  • 原価
  • 在庫

こうした管理案件が、依然としてオーナー1人の頭のなかに集約されたまま2店舗目を出すと、何が起きるのでしょうか。

まず起きやすいのが、経理・数字管理の二重化です。1店舗のときはレジを締めて帳簿をつければ済んでいた作業が、店舗ごとにバラバラに発生するようになります。オーナーが両方の店舗の数字を都度突き合わせようとすると、確認作業だけで時間を取られ、肝心の店舗運営や接客に手が回らなくなってしまうかもしれません。

次に起きやすいのが、判断の属人化です。原価の相場感やシフトの組み方といった判断が、依然としてオーナーの経験と勘に依存していると、オーナーが不在の店舗では同じ判断ができず、品質や利益率にばらつきが生じます。さらに、店舗間でデータがつながっていないと、どちらの店舗の数字がよいのか、どこに課題があるのかを比較すること自体が難しくなりかねません。

こうした状況は、決して特殊なケースではありません。店舗数が増えるにつれて、それまでマンパワーでこなしてきた店舗運営が管理の限界を迎え、その課題に翻弄される店舗も少なくないのです。

次章からは、こうした店舗展開の壁に直面して、それを超えてきた企業の実例を2つ紹介しながら、2社がどのようにしてこの課題に向き合ったのかを具体的に見ていきます。

事例1.GREENING(GARDEN HOUSE):経理の「マンパワー限界」を仕組みで解消する

店舗ごとの手作業による経理処理をデータ連携へ変え、全店舗を比較できるようにする流れ

株式会社GREENING(屋号GARDEN HOUSE)は、2026年1月時点で7店舗を展開する飲食企業です。同社では、店舗が増えるにつれて、それまで人手で対応してきた経理業務が管理の限界を迎え、複数店舗を同時期に開業したことで、店舗間の連携にも課題を抱えていました。

この課題に対して、同社はPOSシステム「POS+」を導入し、経理部署との連携をシステム上で完結できる形に整えました。これにより、経理業務が特定の担当者のマンパワーに依存する状態から抜け出し、全店舗のデータをリアルタイムで把握・比較できる体制へと移行できたのです。

ここで注目したいのは、GREENINGの7店舗という規模そのものではなく、「経理業務が個人の手に負えなくなる」という課題が、店舗数が少ない段階から芽を出し始めているという点です。

1店舗目から2店舗目へ移る段階で、経理やデータ管理を仕組みとして整える発想を持てるかどうかが、あとの店舗展開のしやすさに関わってきます。経理業務をどう仕組み化するかという視点は、2店舗目を控える経営者にとって参考になるのではないでしょうか。

出典・参照:

事例2.TOMOSANKAKU:原価管理の属人化を数字で解消する

店舗ごとの原価を手作業で管理する状態から、自動算出で原価を見える化する流れ

もう1つの実例として、6店舗を展開する株式会社TOMOSANKAKUの取り組みを紹介します。同社は、原価管理の作業量が膨大になり、原材料価格の把握が困難になっているという課題を抱えていました。しかし、メニュー・原価管理システム「メニューPlus」を導入したことで原価を自動算出できるようになり、月間の人件費の約4万円削減に成功したのです。

GREENING事例が「経理・データ連携」という切り口だったのに対し、TOMOSANKAKUの事例は「原価管理」という別の切り口です。ただし、どちらにも共通しているのは、特定の担当者の勘や手作業に依存していた領域を、システムによる自動算出・一元管理へ置き換えることで、負担と属人性の両方を減らしているという点です。

ここで重要なのは、原価管理を特定の担当者の勘に依存させたままにしないという発想を、店舗数が少ない段階からどれだけ早く持てるかという点にあります。

出典・参照:

法人化とDXの2つの課題で自社を点検する基準

組織・体制とデータ管理の両面から、情報共有、引き継ぎ、権限委譲、法人化・DXを点検する図解

ここまでの2つの事例は、いずれもDXによって属人化を解消した例です。一方で、経営の管理単位を仕組みへ移すためのもう1つの打ち手が法人化です。ここでは、法人化を考えるときの数字の目安と負担を整理したうえで、法人化とDXの両面から自店の状態を点検する基準を示します。

法人化を判断する数字の目安と実務上の負担

個人事業主の飲食店が法人化を検討するタイミングは、一般的に次の基準が目安として示されています。

  • 年間売上1,000万円超
  • 所得600万円超

なお、筆者が飲食店を経営していた頃の所感としては、これに加えてやはり複数店舗の展開を検討しはじめた段階、というのが一番適切なタイミングだと感じられます。

また、資本金1,000万円未満の新設法人は、原則として設立から最大2年間、消費税が免税になる制度もあります。さらに、多店舗展開を見据えた早期の法人化は、決算書が整備され組織的な管理がおこなわれている点で、金融機関の融資審査上有利に働きやすいともされています。

あわせて、法人化には社会保険への加入義務や税務・労務手続きの増加といった負担も伴うため、メリットだけでなく実務上の負担も踏まえて検討する必要があります。ただし、これらの数値や制度は年度によって変動しうるため、あくまで一般的な目安としてとらえ、断定的な判断材料にしないことが重要です。

出典・参照:

自店の運用実態を点検するチェックリスト

数字の目安だけでなく、自社の運用実態そのものを点検することも欠かせません。そこで、次のような観点で、自店の状態を振り返ってみてください。

チェック項目はいいいえ
各店舗の売上・原価・シフトなどの数字を、オーナーが毎回手作業で集計しなくても確認できる
店舗ごとのデータが、同じ形式・同じ基準で管理されている
経理・シフト・原価・在庫について、特定の1人しか知らない情報がない
担当者が休んでも、別の人が同じ手順・基準で業務を引き継げる
発注やシフト調整などの判断基準が、口頭ではなく共有できる形になっている
オーナーがすべての判断をしなくても、店舗や担当者ごとに一定の判断ができる
法人化について、節税や社会保険だけでなく組織運営の変化まで検討している
法人化後に「誰が何を決めるのか」「どこまで任せるのか」を整理している

このチェックリストで「いいえ」が多い場合は、店舗数を増やしたり法人化したりする前に、まず情報共有と意思決定の仕組みを整える必要があると考えられます。

法人化とDXで避けたいパターン

法人化とDXの検討にあたっては、いくつか避けたいパターンがあります。

  • 大企業向けの理想的な体制をそのまま目標にしてしまう
  • フランチャイズ展開のような規模拡大そのものを目的化してしまう
  • 法人化の手続きだけを番号順に解説するような表面的な理解で終わらせてしまう

法人化もDXも、手続きやツール導入そのものが目的ではありません。どちらも、経営者の知見に依存した「属人化」の状況から抜け出すための手段であり、店舗展開を現実のものとする有効かつ現実的な課題解決手段となるのです。

まとめ:法人化とDXは、店舗数ではなく「経営の管理単位」を変えるための打ち手

個人営業の飲食店経営者が、2店舗目の出店にあたって本当に問われているのは、店舗数がいくつに増えるかではありません。経営の管理単位をオーナー個人から仕組みへ移せるかどうかです。

1店舗目を支えてきたオーナー自身の経験と勘は、決して否定されるべきものではありません。しかし、その経験と勘だけに頼り続けたまま2店舗目を出すと、経理の二重化、判断の属人化、店舗間比較の難しさといった形で、必ずどこかで無理が生じてしまうことも考えられるのです。

法人化は組織としての意思決定・権限委譲の仕組みを作る打ち手であり、DXはデータによる一元管理の仕組みを作る打ち手です。この2つは別々の文脈で語られがちですが、GREENINGやTOMOSANKAKUの例が示すように、根っこにあるのは同じ「属人化からの脱却」という課題です。

つまり、どちらか一方だけを検討するのではなく、両方が同じ課題への表裏の打ち手であることを踏まえて、自店に必要な順番で手をつけていくことが求められます。

まずは、自店の経理・シフト・原価管理のうち、今も自身の頭のなかにしかない情報は何があるかを、1つだけでも書き出してみてください。それが、2店舗目という転換点を乗り越えるための、最初の一歩になります。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。